起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

140 / 181
ベルファスト攻略が読めると思ったかね?


第百三十九話:0079/12/30 マ・クベ(偽)とジャブローに散る

「支援要請!グリッド、C6!」

 

「支援要請了解、初弾発射、着弾まで9秒」

 

ここ数日繰り返されているやりとりを見ながら、デメジエール・ソンネン中佐は呆れと共に、その底なしにも見える物量に戦慄していた。

 

「また大佐に弾薬の追加を頼まにゃならんな」

 

現在デメジエールの指揮下には、2個中隊18両の自走砲型ヒルドルブがおり、その全てがジャブロー攻略に投入されていた。

 

「着弾確認、誤差修正0、-2、0、効力射求む」

 

「誤差修正了解、…射撃開始」

 

僅かに砲を動かすと、巨狼達は猛然と射撃を始めた。毎分8発という数字に違わぬ砲弾の雨が目標地点へ次々と殺到する。投入されてから9日が経過した現在、アマゾン川流域にはこうしてヒルドルブが耕した焼け野原が幾つも生まれていた。

 

「中々思うようには行かないな」

 

地球連邦軍本拠地ジャブロー、難攻不落と言うのは伊達では無いとデメジエールは改めて納得した。アマゾン全域に広がる防御陣地は、その外縁ですら並の軍事施設を凌駕する防衛設備が張り巡らされ、それに湿地と密林が彩りを添える。空爆による漸減は敵の手厚い防空網に阻まれ、切り札であったはずのアプサラスは、作戦参謀が偏執的とまで評した濃密なビーム攪乱幕の展開により頓挫した。結果、正攻法として外縁から目標までを砲兵で耕しながら進むという、一体いつの時代だと嘆きたくなるような戦いが繰り広げられている。

 

「こうもドロドログチャグチャじゃあ、あたし達の出番は当分先かねぇ?」

 

そう通信を入れてきたのは、同じくオデッサから派遣されているシーマ・ガラハウ中佐だった。

 

「折角新しいおべべに着替えたのにな。どうだい、新型の調子は?」

 

シーマ達が乗っているゲルググはマリーネと呼ばれる改良型だ。オデッサの戦いの後にロールアウトした文字通り最新の機体である。基本的な構造やコンセプトはゲルググを踏襲しているが、キャノンパックを運用する事を前提とした設計であるため、従来機より高出力なジェネレーターを採用しているほか、換装式であった脚部の推進器を熱核ジェット・ロケット方式としたことでOSのセッティングのみで地上、宇宙に対応可能となっているなど、より汎用性を向上させた機体になっている。

 

「性能は間違いなく上がってるんだけどねぇ。プロペラントの管理がシビアな分、新米や腕の悪い奴にゃちょっとばかし厳しいかもね」

 

シーマ中佐曰く、操作性も素直で扱いやすいが、耐G性能の向上で簡単にスラスターを吹かせる分、注意が必要だと言うことだ。ドロップタンクが追加されているが、戦場では切り離すことが前提であるため過信は出来ないということらしい。

 

「ライフルの方も新型なんだろう?」

 

この大一番に強気なことだと内心思いながら、デメジエールは会話を続ける。

 

「悪くないよ、威力も速射性もいい。けど、ここで使うにゃ最悪だね」

 

何でも新型のビームライフルはマシンガン式のものなのだそうだ。集弾率、単発火力、銃身の放熱とどれも良く纏まっているが、ことこのジャングルではデメリットが目立つ。一般的なライフルよりも延長されたバレルは取り回しを悪くし、連射機能は目標外への誤射の確率を高める。何よりアプサラス対策で撒かれたビーム攪乱幕のせいで、安定した火力の発揮が難しい。データ収集のため、シーマ中佐はまだ使っているが、他のパイロット達は早々に諦めてバズーカやマシンガンに持ち替えている。

 

「地下なら多少はマシになるだろう。まあ、それまでの辛抱だな」

 

「その間は精々そっちの護衛に励むとするさね」

 

カラカラと笑うシーマ中佐の声を聞きながらデメジエールはシートへ体を深く預けると、大きく息を吐き頭を切り替えた。まだ戦闘は終わりを見せていないのだ。

 

 

 

 

「流石としか言いようがないな」

 

戦術マップを確認しながら、ガルマ・ザビ大佐は思わず溜息を吐いた。攻撃を開始して数日が経つが、未だ連邦の防衛線は綻びを見せない。加えて対砲兵射撃も実施してくるので、こちらの砲兵部隊も少なくない被害が出ている。

 

「ですが、地上防衛施設の排除は順調です。このまま押し切れるのでは?」

 

データが更新され、新たに無力化された敵陣地が追加されるのを見て、副官のダロタ中尉がそう口を開く。それに対しガルマはむしろ咎めるように言葉を続けた。

 

「楽観は良くないぞ、ダロタ。これを見ろ」

 

そう言ってガルマがマップの横に開いたのは、戦闘開始から消費した弾薬の量だった。

 

「ビームが無力化されたのが大きかった。弾薬の消費が想定の1.5倍近い。このまま粘られればこちらの弾が先に底をつく」

 

そもそも今の弾薬消費の数値ですらマ・クベ大佐からの進言により当初の5倍に相当する分量である。

 

「確かに…。如何なさるのですか?」

 

ダロタ中尉の不安は実に解りやすかった。何しろ攻勢限界を迎えた後に待っているのは敵の逆撃なのだから。しかも現在ジオンが叩けているのは敵の防衛施設であって、戦車や航空機と言った敵の戦力ではないのだ。だが、その言葉にガルマは意地の悪い笑顔で応える。

 

「楽観は出来んが、悲観するほどでもない。足りなければあるところから持ってくれば良いだけだからな。少々皆には骨を折って貰うがね」

 

段々とどこかの大佐に似てきた主を見て、ダロタ中尉はほんの少しだけ顔を引きつらせつつ、その真意を問う。

 

「そう申しましても、ガルマ様。各方面軍は今回の作戦に合わせて各地で連邦軍へ攻勢を仕掛けております。これ以上の物資の抽出は難しいのでは?」

 

「確かに地球方面軍の台所は実に寒い状態だ。こんな状況は1ヶ月と続けられんだろうな」

 

平然と言ってみせるガルマへ更に困惑の度合いを強めたダロタ中尉が、どう言うべきか思案顔を作る。それを見てガルマは悪戯の成功した子供のような表情を浮かべ口を開いた。

 

「難しい問題では無いだろう?これは我がジオン公国の独立戦争なのだぞ?」

 

 

 

 

「ガルマの奴、俺を顎で使うつもりだぞ!」

 

嬉しさを隠しきれない表情でそう笑う兄を見て、キシリアは思わず苦笑を浮かべた。常々ガルマへの期待を口にしていたドズルであったから、その心境は手に取るように理解できたのだ。

 

「兄上だけではありませんよ。私の所にも物資を送れと連絡が来ました。まったく、どこの誰に毒されたのやら」

 

以前のガルマであれば、自分達に頼ることを良しとしないどころか、その発想へたどり着いたかすら怪しい。自身で功績を立てることに拘っていた頃のガルマをよく知る2人からすれば、今回の申し出は中々に衝撃的な事柄だった。

 

「だが、悪くない判断だ。ガルマからの要請ならばこちらから大手を振って援軍も送れるし、何より兵達の面子も立つ」

 

「こちらとしてもガルマの存在は大きくなっていましたから有り難いですね。これでまだ私の制御下にあると考えてくれるでしょう」

 

戦争の終わりが見えてくるにしたがい、キシリアは難しい舵取りを迫られていた。ダイクン派の中でも比較的穏健、良識があるとされる連中は地球方面軍へ移動させていたから、彼女の下に残されているのは叛意を隠しきれないような能なしか、キシリア本人を神輿として自分達が主流派になろうとする野心の強い人間が大半だ。無論、側近はその限りでは無いが、突撃機動軍全体を俯瞰してみれば、あまり楽観は出来ないと言うのが忌憚の無い感想である。

 

(まあ、あの男が動かん限りは纏まりはすまい)

 

そう胸中でキシリアは吐露した。先日全軍から選抜される形で編成されたニュータイプ部隊。多分に政治的意味を含んだその部隊は、部隊長としてあの赤い彗星を迎え入れていた。戦場をよく知り、かつニュータイプの少女とも近しい関係であるだけでなく、その運用についても具体的な提案を出せるかの少佐は、ノウハウを積む上で得がたい指揮官である事は間違いない。ガルマとも良い友人関係であるという点からもドズルが推薦するのは自然な流れだった。彼の出自について知っているキシリアとギレンは気が気では無かったが。

 

「しかし連邦の奴らも粘るものだな」

 

「面子があるでしょうからね。流石に良い所無しに終われないなどと考えているのやもしれません。まあ、時間の問題でしょう」

 

マ・クベ大佐からもたらされた情報により攻撃目標を大幅に絞り込めた結果、弾薬の消費こそ想定を上回るものの、その他の物資に関して言えば予定の半分近くで済んでいる。それに加え今回の想定はあくまで地球方面軍の備蓄で実施する予定でスケジュールが組まれていた。宇宙攻撃軍と突撃機動軍から物資を提供するならば、弾薬の消費に関しても十分対応出来る範囲だろう。

 

「だろうな。それに加えて今回の物資輸送だ。連中腰を抜かすだろうよ」

 

「ついでに欧州や北米を思い出して降伏してくれると面倒が無くて良いのですが」

 

ガルマからのリクエストはコロンビアへのHLVによる物資の直接輸送だった。これは南米――少なくとも北部は――の制空圏をジオンが掌握していることの証明であり、本拠地近郊においてその意味は極めて大きい。特にキシリアが口にした通り、欧州や北米でHLVによる強襲を受けた兵士であれば、その心理的効果は言うまでもないだろう。

 

「弾薬が届き次第ガウの空爆も再開するとのことですから、これは随分強請られそうですな」

 

「それで一日でも早く戦争が終わるなら安いものだろう?」

 

そう笑うドズルにキシリアは微笑んで返した。

 

「違いありません。さっさと終わらせてまた皆で食事に行きましょう」




ジャブローに、散ってない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。