起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ただいま。


第百三十八話:0079/12/30 マ・クベ(偽)とベルファスト

ジャブロー攻略が開始されて既に10日が経過した。前線では弾薬が湯水のごとく消費されているが、戦況は芳しくない。

 

「ガウを止められたのが痛いようだな」

 

1回目の空爆でいきなり本拠地上空を狙ったのは失敗だった。おかげでこちらがジャブローの位置を掴んでいる事を知られてしまい、防空システムが全力稼動してしまっている。2回目の空爆に参加したガウは実に半数が未帰還だそうだ。20機近いガウの喪失とか正直ゲボ吐きたくなる損害の報告書を読みながら、追加の弾薬とギャロップの派遣にサインをした。おかげでオデッサの砲兵部隊は文字通り空っぽである。

 

「大佐、欧州方面軍司令部より報告書が届いております」

 

「有り難う、大尉」

 

内容はまったく有り難く無いんだけどね。

 

「ユーリ少将はオデッサを魔法のポケットか何かと勘違いしているんじゃないか?」

 

俺は溜息を吐きながらガデム少佐を呼び出す。通信機が数回コールした後、画面いっぱいに汗だくの爺様が映し出された。正直目の保養にはならんな。

 

「どうした大佐?わしは今忙しいぞ?」

 

「知っているよ。そして残念な知らせだ、少佐。今からもっと忙しくなる。守備隊で動かせるMS部隊はあるかね?」

 

「どの程度必要だ?」

 

「空挺経験があって最低でも1個中隊だ。機種は問わん」

 

まあ、このリクエストに合致しているのは連中だけなんだけどね。爺様もその辺りは心得たもので凄く嫌そうな顔をしてくれる。

 

「解ってて言っとるだろう?そんなのここじゃマルコシアスしかおらんわ」

 

シーマ中佐が居れば良かったんだけどねぇ。彼女達は今ジャブローへ遠足中だ。一昨日連絡が来て全員無事で元気にやっているらしい。出発の少し前にゲルググに乗り換えたから心配だったが、流石海兵隊である。ちなみに砲兵が足りないからダブデ送ってくれとか言われた。無茶言うな。

 

「なら彼らに訓練の中止と出撃準備に入るよう言ってくれ。欧州方面軍司令部からの要請でな、ベルファストを孤立させるために後方の基地を強襲して欲しいそうだ」

 

自分達で何とかして欲しいものだが、残念な事に彼らの手持ちの特殊部隊は全てジャブローへ送られている。それにオデッサ基地に与えられた任務は欧州方面軍の支援なので、要請されたら余程のことでない限り断れない。おのれ鳥の巣頭め。

 

「新入りの方は使えんから1個中隊だ、後はウルフ・ガーくらいか?」

 

「ああ、後は義勇兵が使える筈だ。…自分で言っておいて何だが、凄い取り合わせだな」

 

普通に聞いただけならとてもではないが一つの部隊として動けるとは思えん。

 

「まあ、連中なら問題あるまい。義勇兵はトラヴィス特務少佐の小隊だろう?あいつらならどの部隊とも上手くやるさ」

 

「少佐がそう言ってくれるなら大丈夫だな、では彼らにも出撃の準備をさせてくれ」

 

「構わんがガウが足りんぞ?ファットアンクルを使うのか?」

 

何せジャブロー攻略で整備中だった機体以外全部持ってかれたからな。残っているガウは2機、爆弾倉とドップの運用能力を排して搭載能力を向上させたタイプだが、それでも積めるのは6機だ。ファットアンクルも悪い機体ではないが、敵地へ空挺降下を行うには性能が足りていない。

 

「なに、もっと便利な物があるさ。今回はそちらを使う」

 

しかし訳ありの部隊に員数外の装備とか、末期感半端ないな。

 

「ガルマ様を批難するわけではないが、早くジャブローを落として貰いたい物だな」

 

そして俺を書類の山から解放して下さい。割とマジに。

 

 

 

 

「まさかこっちに来てまでコイツの世話になるとはなぁ…。エドワード伍長、いけるか?」

 

「レイアウトが少し古いですがOSのバージョンは最新ですし、整備はしっかり出来てます。問題ありませんよ!」

 

インカムから聞こえてくる伍長の返事に満足しながら、トラヴィス・カークランド特務少佐は目の前の機体を見上げた。スカイグレーに塗られたミデア輸送機の翼と機首横にはジオン軍のエンブレムがしっかりとマーキングされており、その所属を宣言している。聞いたところによると、マ・クベ大佐がその利便性に着目しオデッサ作戦で放棄された連邦の機体を鹵獲、再生したらしい。

 

「小回りの利く空挺用の機体として申し分ない」

 

ジオンの使用しているファットアンクルも性能的には同程度だが、あちらは旧型のガウと同様に機体前面のハッチから降下するため、降下時に機体速度を制限する必要があった。また、揚力を大型のローターに依存しているため被弾に弱く、お世辞にも空挺降下に向いた機体とは言いがたかった。一方でMSを直立状態で搭載出来る立体的な格納庫は運搬時の自由度が高く、オデッサでは専ら救難用や緊急展開可能なMSのメンテナンスベースとして小改造が施されて運用されている。

 

「どうせなら機体も乗り慣れた奴を使わせてくれりゃ良いのによ」

 

そうぼやいたのは転換に苦労しているマーヴィン少尉だった。元々重装甲な分、運動性の低いガンキャノンに搭乗していた彼は、一転して高速機動を主眼とするゲルググの運動性を扱いきれず苦慮しているのだ。

 

「俺は逆に安心できたがね」

 

ミデアへ積み込むリストを確認しながらトラヴィスはマーヴィン少尉の愚痴に応える。

 

「どう言うことだ?」

 

訝しげに首をひねるマーヴィン少尉に、苦笑いを浮かべながらトラヴィスは持論を披露した。

 

「ジオン製のMSを回すって事は、少なくとも生きて帰ってきたときにしっかりと補給も整備もしてくれる気があるってことさ」

 

そもそもMSと一括りに呼称しているが、連邦とジオンでは機体の駆動方式がまったく違う。このため装甲ならばともかく、機体の内部まで損傷した場合、トラヴィス達が亡命の際に持ち込んだ連邦製MSはほぼ修理が出来なくなる。各種データの収集を終えているから、これらの機体には既に技術的価値はなく、戦場で失われてもまったく問題ない。ならばこれらの機体で出撃させられた場合、文字通り使い潰れるまで戦うことになるだろう。

 

「ぞっとしない話だぜ、整備も補給も満足に受けられていない機体で出撃するなんざな」

 

「同感だ、その意味じゃあの大佐は良い上官だな。少なくとも俺が十全に戦えるよう準備をしてくれるわけだからな」

 

「フレッド軍曹、調整は終わったのか?」

 

割り当てられた格納庫から出てくるフレッド軍曹にそう聞き返す。部隊の中で最も連邦への執着が薄かった事もあり、オデッサへ最初に馴染んだのはこのフレッド・リーバー軍曹だった。MSの慣熟についても同様で、ゲルググを既に乗りこなしている。

 

「ああ、ピクシー程じゃないが中々ご機嫌な機体だよ」

 

フレッド軍曹へ与えられている機体は接近戦を重視した構成だ。腕部に90ミリマシンガンを内蔵し、高機動用のバックパックを追加、更にヒートソード用のラックが増設されている。これは、ビームサーベルと異なり、エネルギー伝達が不能になっても戦えるようにと軍曹自身がリクエストした結果だ。

 

「要望には直ぐ応えてくれるし、俺の好みも尊重してくれる。口ばかり出すだけで役にも立たん無能よりはよっぽど良いな」

 

様々な理由で集められた元グレイヴの私兵部隊はその大半が所謂冤罪だったが、スレイヴ・レイス隊のドリス・ブラント曹長とフレッド・リーバー軍曹は間違いなく罪を犯した側である。特に軍曹は上官殺しという極刑に値する罪を犯しているが、その事についてトラヴィスは彼の言動から、やむを得ぬ理由があったのだろうと推察している。フレッド軍曹の経歴や、問題となった上官殺しの件についてドリス曹長が調べているようだが、今のところそれについて聞く気も無いし、その必要もないと思っている。

 

「こう言っちゃなんだが、よくまあお強請りなんか出来るよな」

 

若干引いた口調でマーヴィン少尉がそう言うと、不思議そうな顔でフレッド軍曹が返す。

 

「必要な物は遠慮無く言えと言ったのは向こうだろう?なら最大限有効に使ってなにが悪い?」

 

「いや…、悪いとかじゃなくてな?」

 

2人のやりとりを見ていたトラヴィスは思わず苦笑しながら口を開いた。

 

「あの大佐の事だ、利口な飼い犬をしている内はエサもちゃんとくれるだろうさ、…用済みになったときはどうなるか解らんが。まあ、その時はその時で上手くやろう」

 

連邦時代からある程度資金や物資を蓄えているし、今もドリス曹長が上手く増やしている。もしもの時のセーフハウスも複数あるし、少なくともトラヴィス以外は逃げおおせることが出来るだろう。個人情報が戦乱で混乱している今ならば、他人になるのだって難しくない。

 

(俺には、出来んがな)

 

視線を移せば、滑走路脇でガウへゲルググの積み込みが行われていて、その近くには幾人かの若いパイロットが楽しげに談笑している。その中に目的の人物を見つけ、自然とトラヴィスの表情は引き締まった。

 

(もうすぐだ、もうすぐこの戦争も終わる。それまで死ぬな…。いや、俺が死なせない)

 

決意する彼らが機上の人となり、オデッサの地から離れるのはそれから12時間後の事だった。




ご心配おかけして申し訳ありません。ちょっと国内で東から西に移動したので手間取りました。全部コロナって奴が悪いんだ。

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