起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今月分です。


第百二十五話:0079/11/24 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―18―

「核!?条約違反だ!」

 

アプサラスへ撃ち込まれた砲弾が火球を生み出すのを目の当たりにし、ジオン軍の兵士達に浮かんだ感情は恐怖よりも怒りであった。

 

「約束を守ることすら出来なくなったか。アースノイド共め!」

 

だが解らなくは無いとも思う。彼らにとって空に浮かぶ味方のMAは、あらゆる手段を以てしても排除しなければならない厄災だ。しかも頼みの綱であった航空機が文字通り基地ごと吹き飛ばされれば、取れる手段も多くない。更に言えば、MAに気をやっている内に降下を許したMSも凶悪だ。何しろ全ての機体が色付き、幻獣の名を冠するジオンのエースパイロット部隊だ。

 

「おい、見ろよ!あのゲルググ、黒い三連星だぜ!」

 

「三連星?二機しか居ないぞ?」

 

「三機目は正直者にしか見えないって話だぜ?」

 

降り立った時の緊張感は薄れ、短距離通信で雑談が飛び交うほど部隊は弛緩する。無理もない。色とりどりのゲルググが縦横無尽に暴れ回り、敵の戦力を次々と食い散らかしているからだ。その様子は戦闘と言うにはあまりにも一方的に過ぎた。

 

「貴様ら!何を呆けているか!欧州の精鋭たる第26師団に泥を塗るつもりか!」

 

その言葉に、全員が戦場の空気を取り戻す。

 

「敵は攪乱幕のせいでビームが使えん。つまりあの厄介な歩兵も休業中だ、全機市街地へ突入、全兵装自由。幻獣に後れを取るな!」

 

その叫びと共にドムが次々と市街地へなだれ込む。ここに戦闘の趨勢は決定した。

 

 

 

 

「確かなのだな?」

 

EXAM共の制圧が何とか終わり、基地の被害状況を確認させていたら、ウラガンが大慌てで小さな紙を持って近づいてきた。何事かと確認したら、連邦軍が核をぶっ放してきたという。オイオイオイ、あのジジイ死んだわ。

 

「欧州方面軍本部でも画像解析を行いましたが、間違いありません。連中は核を使いました」

 

「馬鹿め…」

 

レビルの爺め、本気でジェリコのラッパを吹くつもりか?

 

「如何なさいますか?」

 

なさいますかって言われても困る。今までのあれこれはルール内でやってきたことだ。しかしこの件は条約違反という政治的判断になる。そんなこと一介の基地司令がするもんじゃない。

 

「他の敵部隊が運用しないとも限らん、各師団に最優先で警告を出せ。それから整備班にもノーマルスーツを着用するように指示を」

 

確認されているのは核砲弾だと思われるが、ワルシャワからここまでなら巡航ミサイルで十分届く距離だ。万一も有りうる。

 

(それにしても、皮肉なものだな)

 

正直に言えば、俺はどこかで連邦軍を甘く見ていた。いや、ある意味で信頼していたと言うべきか。だって、ここは連中の土地、連中の故郷だ。そんな場所を核で焼くなんて選択肢をそう簡単に取るとは思えなかったからだ。

 

(戦争をなめていたんだな、俺は)

 

思えば簡単なことだ。既にコロニーという人工の大地を生み出すことが出来て、宇宙線の中で容易に活動可能な安価な宇宙服もある。更にミノフスキー粒子を用いた技術で、地上、宇宙間の移動すら容易なこの世界だ。放射能汚染に対する忌避感が極めて薄くなっていても不思議では無かったのだ。無論、それは使う側の理屈であって、使われる土地に住む者の心情は考慮されていないのだが。

 

「そういえば、レビルは宇宙移民肯定派だったな」

 

つまり、恐らく彼自身は連邦という政体が維持できれば、住む場所にさしたるこだわりも執着もないのだろう。故に、躊躇無くこんな手段が執れる。

 

「少々、買いかぶりすぎたな。…人はそこまで大人になれていないよ、レビル」

 

もし、人が彼の思うとおりだったら、地球はここまで汚染されていなかっただろうし、ジオンが生まれる事も無かっただろう。そう言う意味で言えば、彼は人というものが見えていなかったのかもしれない。

 

「万一がある、歩兵師団は可能な限り下げさせろ、それから除染設備の準備を」

 

不幸なのか幸いなのか、MSが核で動く都合上、そうした設備も基地には準備されている。もっとも、事故なんてそうそう起こらないので大抵は埃をかぶっているのだが。

 

「しかし、そうなりますと防衛戦力が不足致します」

 

そう眉を寄せるウラガンに俺は笑って返した。

 

「その分は欧州方面軍にもう少し骨を折ってもらおう。確か司令部付きの師団が1つ2つは残っていたはずだ。こちらから持って行った分は働いて貰わんとな?」

 

「ですが、ヨーロッパ方面の防衛もありますから、そう簡単にいくでしょうか?」

 

「行くとも。そろそろ頃合いだろうからね。増援については私からユーリ少将に直接要請しよう」

 

そう言って俺は再び通信室へと向かう。どうせだから核についてもある程度すりあわせをしておこう。

 

 

「ああ、こちらでも確認した。間違いなく核だな。まったく直す側の事も少しは考えろと言いたいな」

 

「コロニーを落とした我々が言えた義理ではないですが、その意見には同感ですな。これで補償費が跳ね上がります。最悪本国への疎開もお願いすることになるでしょう」

 

「いっそそのまま永住してくれれば有り難いが」

 

「難しいでしょう。現在受け入れを行っているコロニーは間に合わせの修理品ばかりです。永住させるならば最低でも完全な整備が、欲を言えば新規製造したコロニーが欲しいところです」

 

大体、下手すればニコイチしたコロニーとかまであるんだ、そんなのにずっと住めとか絶対不満が出るぞ。そしたら今度はスペースノイド同士で格差による戦争が起きても不思議じゃない。というか絶対起こる。

 

「そのあたりは、本国の政治家共に任せよう。それで、戦力を回せとのことだったな?」

 

「はい、核攻撃のリスクがある以上、歩兵での防衛計画は破綻したと考えます。申し訳ありませんがMSを送って頂きたい」

 

そう切り出せば、口角を上げながらユーリ少将は口を開く。

 

「核攻撃の前後で旧フランス領に侵攻していた敵部隊が進撃を停止、どころか戦線を下げている。おかげで戦力に余裕が出来たが、一体どう言うつもりなんだろうな?」

 

「一枚岩ではないと言うことでしょう。核使用はデリケートな案件だ、忌避感から任務を放棄する部隊が居てもおかしくはありません」

 

探りを入れるような言葉に、俺はそう惚けてみせる。

 

「ほほう、随分上の人間が任務を放棄したものだ。そういえば核についても意見があると言っていたな?」

 

「はい、今回の件については箝口令を敷き、判断を総司令部に一任すべきかと」

 

「陰謀屋のお前さんが珍しいじゃないか。ここぞとばかりに追及して尻の毛までむしり取るかと思ったが?」

 

俺の事なんだと思ってるんですかね?

 

「問題はジオンと連邦だけに留まりません。これ以上民衆が熱狂すれば、それこそ我々は地球が死の星になるまで止まれない。それはあまりにも不毛に過ぎる」

 

「確かにな」

 

「加えて言うなら落としどころも問題です。勝利のために相手を追い詰める必要はありますが、追い詰めすぎればどうなるか解りません。それこそ手段を選ばないなら、我々は相手を全滅させられるだけの手段がある。使えばこの後がどうなるか、正直想像したくありませんな」

 

今、ジオンは戦局を極めて優位に進めている。そして恐らくここでレビルも討ち取れるだろう。だが、それでもまだ連邦軍には十分な戦力が残っているのだ。そして、我々が容赦の無い殺戮者として彼らの目に映ったとき、間違いなくジオン本国への核攻撃が実施されるだろう。何せ向こうは核装備をしたパブリクの数機でもたどり着くだけでいいのだから、やりようは幾らでもある。

 

「戦いに勝ってみたら、どちらの国も焼け野原。だけならまだしも、国民が一人残らず死んでいましたでは話にならんからな。まあ、本国で椅子を磨いている連中にたまには苦労させるのも一興だ。了解した、援軍は直ぐ送る。その他のことは総司令部に丸投げだ」

 

「出来ればガルマ様に知らせるのも後が宜しいでしょうな。あの方は民思いですから」

 

知ったら、ジャブローに突撃を掛けかねん。俺の言葉に大凡同じ結論に達したのだろう、ユーリ少将は笑いながらそちらも快く受け入れてくれた。これで言い残しは無いかと、マグカップを傾けながら少し思考していると、インターフォンが鳴り、慌てた様子のウラガンが映った。

 

「失礼します、大佐。緊急です」

 

どうしたのか聞く前に目の前のモニターに映っていたユーリ少将の下にもなにやら慌てた様子の秘書さんがメモを持って来ていた。

 

「大佐、たった今、前線から連絡が入った。レビルが乗艦していたと思われる陸上戦艦を撃沈したそうだ。どうやら俺たちの勝ちのようだな」

 

長い夜が、もうすぐ明ける。




レビル君、アウトー。

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