起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第十一話:0079/05/09 マ・クベ(偽)の目にも涙

「始めに言わせて欲しい。諸君、有り難う」

 

部屋に入り、スクリーンの前に立った後、俺はそう言って頭を下げた。事の発端は2時間ほど前。キシリア様からの素敵な無茶振りに頭を抱えていたら、ドップⅡ(仮)開発チームのチーフであるデニスさんが、心配したのか悩みがあるのか、なんて聞いてきた。丁度いいやと思って、アッザムのことを話してみたら、真剣な顔になって定時後に時間が取れるかと言われた。幸い予定は特になかったので承知したら、会議室を押さえて欲しいとかウラガンに言ってる。あれ、もしかしなくても大事になってる?

んで、定時過ぎて会議室に行ってみたら、おいちゃん驚いたね。ドップⅡ開発チームの全員にツィマッドの技術員、ヒルドルブ関係で出向してきていたMIPの技術スタッフと、オデッサに居る技術系スタッフのほぼ大半が会議室に集まっていたのだ。おいちゃん思わず目頭が熱くなっちゃったよ。

 

「忙しい所、済まないが知恵を貸して欲しい。聞いているかもしれないが、改めて説明させてもらう」

 

そう言って俺は、みんなの前で改めてアッザムについて説明する。ツィマッドの技術者さん達はまだ来たばかりだから今一解らない顔だったが、MIPから来ているドップⅡ組とヒルドルブ組は険しい表情だ。まあ、このチームには前線から返ってきた戦闘ログを全部開示しているから、アッザムが如何に使い道が無いか理解できるのだろう。一通り説明した後、さて、知恵を借りようと口を開こうとしたら、ドップⅡ組のジョーイ君が手を挙げて発言許可を求めてきた。

 

「何か質問だろうか、ジョーイ技師」

 

「はい、大佐。あの、これは何を意図して設計された機体なのでしょう?」

 

良い質問だね。

 

「技術部の出してきた資料によれば、敵陣地…ああ、トーチカ破壊用だそうだ」

 

その言葉に首をかしげるジョーイ君。

 

「破壊用…これが移動トーチカでなくて、攻撃に使うのですか?」

 

「と、資料には書かれている」

 

んな、馬鹿な。なんて呟いてジョーイ君は座ってしまう。だよね、全幅50m以上、全高20mを超えるデカブツがふよふよ浮いていて見つからない筈が無い。おまけに最高速度は16キロ、ミサイルどころか対空砲を避けられるかすら怪しい。加えて連続飛行時間が50分。いや、時間あたり15キロも動けない兵器を前線でどう使えと言うのか。

 

「これを見ると、装甲もあまり信用出来ませんね」

 

端末に配布された資料を見ながら唸ったのは、ヒルドルブ組のアサーヴ・バンダリ技術大尉だ。アサーヴさんはヒルドルブの装甲関係担当の技術者さんで、とにかく何でも重装甲化したがる愉快な人だが、その知識と知見は本物だ。

 

「この程度の装甲では、CIWSならともかく100ミリ以上の対空砲には全くの無力です。おまけにこの低い運動性では歩兵のAMSすら脅威だ」

 

「機体の形状も良いとは言えないな。元がルナタンクだから、極力弄らない事で設計時間や新規部品の追加を減らしたかったんだろうが…」

 

そう言って端末を小突くデニスさん、ここの所航空機だけで無く旧ロシア軍装備のデザインを熱心に研究しているから、コンセプトに合致していないデザインが不満なんだろう。

 

「移動能力からして、単独で陣地を突破する事は想定していないでしょう。なのに全周に砲塔を配置するのはナンセンスだ。しかも対地と対空が何で同じ砲なんだ?」

 

だよねぇ。主砲の性能を見てみると、弾速と連射力は悪くないし、威力は280ミリバズーカ並と、敵陣地への攻撃としては有力な火力なのだが、航空機に対しては威力が過大だ。加えて機体上側に装備された砲は射角が狭く機体の90度をそれぞれが担当するような形であるため、戦闘状態になれば全部の砲を常にドライブ状態にしておかないと防空に死角が出来てしまう。

 

「それよりこのアッザムリーダーというのは何なのでしょう。陣地攻撃には範囲が限定的過ぎると思うのですが」

 

理解できない、という顔で資料を見ているのはヒルドルブの火器担当技術者をしているタカミ・アリサワ技術中尉だ。狂気を感じる程度の火力主義者で、既に数回ヒルドルブの火力増強プランを提出してきている。艦砲クラスのメガ粒子砲なんかほいほい手に入らないからね?

 

「確かに、対人用としては有用だと思うが」

 

ただ、歩兵制圧なら焼夷弾でもばらまいた方が遙かにリーズナブルだと思う。ヒートロッドといい、技術部は電気信仰でも始めたんだろうか。

 

「この機体が少々残念なのは諸君の意見で良く解った。では、どうしたらいいだろう?忌憚の無い意見が聞きたい」

 

俺の言葉に会議室が静まった。ですよねー。

 

「…まず、形状の見直しからでしょう。飛行性能を上げるために、せめてリフティングボディにしたい」

 

そうデニスさんが言い出すと、次々に意見が出始める。

 

「対地用火器ですが、現在の出力ならば連装、出来れば単装のメガ粒子砲1基にするべきです。門数を減らす分威力の向上も必要ですから、長砲身化し収束率を上げましょう」

 

「装甲配置ですが、全周を均等に覆うより、より被弾の可能性が高い底面部を厚く、上部は航空機の攻撃に耐える程度に変更した方が効率的でしょう」

 

「推進器なのですが、我が社が製造しているガウ用熱核ジェットのサブエンジンを流用すれば、ペイロードをあまり圧迫せず運動性を強化できるかと」

 

「高速化するのであれば現状の降着装置は邪魔です。コムサイあたりのランディングギアを転用した方が良いかと考えます」

 

うん、全部聞いていくとこれって。

 

「つまり、ミノフスキークラフト以外はほぼ新造になるのかな?」

 

「「そーですね」」

 

これ、現地改修で通るかなぁ。

 

 

あれから3日ほど過ぎた。結局、会議の結果。ジョーイ君をチームリーダーに時間を見つけて再設計する事が決まった。幸いMS用の高性能CADが空いていたので、早速データを突っ込んで計算させているとのこと、フットワーク軽いっていいね。出来上がった図面については大体の部分はヒルドルブチームのラボで製造して貰えることになった。ただフレームそのものは造れないとのことで、どーしたもんかと思っていたら、デニスさんがキャリフォルニアのMIP製造部に問い合わせてくれて、そこで試作しているMAと並行で調達してくれる事になった。デニスさんには今度贈り物(壺)をせねば。

メガ粒子砲の方もタカミ女史が取り外したものを切ったりくっつけたりして絶賛改造中。どうも却下してた火力増強計画のフラストレーションをここで晴らしているらしい。ちょっと覗いてみたら、これで倍率ドン!更に倍!とか高笑いを上げながら砲身を弄っていたので、そっと扉を閉じて見なかったことにした。一緒にやってた作業員の皆さんが泣きそうだったが、彼らには強く生きて欲しいと思う。…PXの嗜好品を多めに陳情しておこう。

そうそう、この3日でグフ飛行試験型の開発チームさんもオデッサに目出度く合流しました。早速ツィマッドの人達に足回り分解されて涙目になってたのが印象深い。その後、熱烈な歓迎会やったらまた涙ぐんでた。話しかけたらキャリフォルニアより飯が美味い、天国かここは、とか言い出す始末。残念地獄の最前線(ちょっと後ろ)です。

後、一緒に送ってもらったMS搭載型のド・ダイで試験的に補給を行なったら、すげえ量の感謝状やらメールが届いた。んで、そのせいでちょっと問題が。

 

「専用機の生産許可書?なんだこれは」

 

ここ最近何故だか熱い視線を時折向けてくる副官が、興奮した面持ち(見慣れていなければ気がつかない程度だが)で書類を渡してきた。

 

「はい、この所の功績を本国は高く評価しているそうです。その功労賞として専用機の建造を許可するとのことです」

 

ああ、つまり勲章代わりにMSやるよって事か。随分太っ腹だな…と思ったけどそうか、勲章だと退役後も年金つくし、今の給料も上げなきゃならない。でもMSなら備品として製造で多く金を使っても資産としては軍に残る。おまけに年金や給料に反映する必要も無い。ルウム以降専用機持ちが増えたのは戦意高揚もあるけど戦争の長期化が避けられなくなって勲章や階級が足りないと言うのもあるんだよなぁ。

 

「うん、それは有り難いが、専用機か」

 

正直もらっても困る。乗る気は無いし専用とか言えば余計なカスタムとかされちゃったりしているのだろう。そうなれば整備部隊への負担が増える、乗りもしない面倒なカスタムMSなんて倉庫にあるだけ邪魔だろう。

 

「嬉しいが…」

 

「いけません大佐」

 

不要を告げようとした言葉を喰い気味にウラガンが否定してきた。

 

「大佐がお考えの通りそのような事態は起こりえないでしょう。しかしこれは拒否出来ません」

 

「政治だな」

 

「はい」

 

ここの所俺はそれ相応の成果は出しているが、まあ心証は悪いだろう。しかしそこまで噛みついている俺でも成果を出せば報いるという度量を示すことでキシリア少将は軍内部で将器をアピールしたいんだろう。

しかしそうなると困るのは割と俺である。大体、先日大佐に昇格したんだしひっきりなしに報酬与えんでも良いじゃ無いか、と思ってしまう一方でこの位明確に飴をぶら下げないといけないほど各地の士気が下がっているんだろう事が容易に想像できて憂鬱になる。

ド・ダイで輸送テストしただけで感謝の連絡が来る程度にはそこかしこで物資が停滞してるからなぁ。どうも補給計画で予定していた主要道路が使えていない。勤勉な連邦の工兵さん達が律儀に橋という橋を片っ端から落とし、ついでに道路にIEDをしこたま埋めてったらしい。おかげで、折角組み上がったヒルドルブ2号車は即席の地雷処理ユニットをくっつけて各地の補給路を絶賛啓開中である。おかげでヒルドルブの配備要請がまた増えた。お叱りを覚悟してキシリア様に連絡したらあっさり増産許可が出た。おかしいと思ってちょっと資料見てみたら、理由は実に簡単。ヒルドルブは安かったのである。価格確認したら、マゼラアタック8輌分の値段でした。これ、下手したらザクより安いぞ?

それはともかく、専用機である。これぞ死亡フラグの筆頭じゃねえか!しかも拒否したら上官の顔に思いっきり泥塗るから、実質拒否権無いじゃない。どーしたもんか。

 

「ザクⅠなどでは、ダメだろうな」

 

「はい」

 

正直高級士官がMSなんて使う機会無いんだから、それこそドップでも良いくらいなんだけど、俺がそんなのを選べばちょっと問題になる。

例えば前線に良く出られるガルマ様や、どっかの闇オオカミとかいう部隊の隊長みたいに負傷が理由で乗れないとかなら、旧式機なんかを使ってもプラスのイメージになる。戦場に出ている実績があったり、そもそも乗れない体でもいざとなれば戦う気概がある、というアピールになるからだ。一方マさんと言えば、基地の安全な区画でのんびり壺眺めながら部下を顎で使う、と言うのが一般的な評価だ。こんな人間が専用機を適当に選べば、ああこいつは戦う気無いんだな、と思われる。俺なら思う。いや、まあ、戦いたくは無いんだけれど!

幸いなのはアッザムと違って欲しい機体を選んで良いということだ。いきなりグフとかそれこそギャンなんか受領指示来たら逃亡するところだった。ギャンまだ無いけど。

 

「…よし、解った。ウラガン、有り難く受領させて頂くと返信しておいてくれ」

 

「承知しました、機種は何と?」

 

「ああ、ここには今の私に最適の機体があるからな。それにする」




アッザム(アッザムでは無い)

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