起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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レビル擁護コメが増えて嬉しかったので投稿。


第百十六話:0079/11/24 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―9―

日が傾き始め、リヴィウへ第28師団が合流すると戦況はジオン側に傾く。ヒルドルブの乱入で前線指揮官であったパウル少将が戦死していたことも大きく、代理で指揮を執っていたアーレイバーク大佐がMSとの交戦経験が浅かったことも災いし、連邦軍の先鋒は文字通り壊滅的な被害を被っていた。しかし、この間に浸透した爆撃機によって後方の主要幹線道路が寸断されただけでなく、幾つかの補給部隊が捕捉され壊滅、両者は予断の許さぬまま大規模衝突一日目の夜を迎える。

 

「ちっ、やるもんだね連邦も。だけど後方破壊を狙ってんのはこっちも同じさ」

 

欧州方面軍航空部隊の献身的な戦いにより、敵の戦闘機はワルシャワに張り付いている。更に夜になって視認性の低下した今こそ、最高の襲撃タイミングとシーマは考えた。

 

「本当ならワルシャワを落としてやりたいけどねぇ。欲のかきすぎは良くないからね」

 

口にしたものの、それが現実的でない事は、シーマ自身が十分に自覚していた。何しろこちらの手勢はMS2個中隊に巡洋艦が2隻、複数の師団が待ち構えている場所を襲撃するには些か手が足りない。

 

「中佐、目標地点まで残り30分です」

 

真面目が服を着たような艦長の言葉にシーマは頷く。

 

「解った、ではここから先は手はず通りにな。艦の方は貴様に任せる、上手く使え」

 

「承知しました。はい、オデッサまでしっかり送り届けさせて頂きます」

 

その返事に笑顔で頼む、と返し、シーマはブリッジを出て更衣室へ向かう。慣れた手つきでパイロットスーツに着替えていると、それが新品である事に気がついた。

 

「ああ、そういや、少し前に大量発注したんだっけね?」

 

それは10月に入るかどうか、といった頃の話だったように思う。唐突に大佐が言いだしたのだ。

 

「そろそろ寒くなるな」

 

言うや歩兵用の寒冷地装備を一式届けさせた大佐はそれを自分で着込み、しばし腕を組んだ後、唐突に総司令部に連絡を取った。

 

「兵を殺す気ですかな?」

 

その時シーマも初めて知ったのだが、ユーラシア大陸の内陸部…所謂旧ロシア領の冬は非常に厳しく、場所によっては-50度の低温になる場所もあるという。軍の用意していた冬期装備は当然ながらそんな気温は想定されておらず、顔に至ってはむき出しという状態だった。因みにそんな状況で歩哨などすれば1時間も経たずに凍傷になること間違い無しだ。問題は解ったものの、対応した装備を準備する時間はあまりにも少なく、連絡を受けた兵站部が頭を悩ませていると、何の問題も無いとばかりに大佐が解決案を提示した。

 

「ノーマルスーツなら保温機能もありますし頭部の保護も出来ます。とりあえず代用するには十分では?パイロット用のものなら戦闘も問題なく行えるでしょう」

 

そんなわけで各基地に保管されていたパイロットスーツが急遽集められ、防寒具として寒冷地に送られることになったのだった。

 

「一体あの人は何処でそんな知識を仕入れてくるのかねぇ?」

 

機会があれば是非聞いてみよう。自分が生きてオデッサに帰ることに何の疑問も持たず、シーマはそう考えながらハンガーへと向かった。

 

 

 

 

日が落ちてもグディニャの港湾施設は煌々と明かりが灯され、多数の艦艇から続々と物資が荷揚げされていた。北欧に集積された物資は膨大であり、欧州の窓口となったグディニャは文字通り休む暇も無く送られる物資を受け入れ、前線へと送り出していた。

 

「追加のトレーラーはまだなのか?こっちはミデアまでかり出して運んでるんだぞ?」

 

VTOL機能やその大きなペイロードでごまかされがちであるが、ミデアの輸送能力は決して良好とは言いがたい。何しろ運べる量がそれなりであっても、数は少ないし、何より移動のための手続きが煩雑なのだ。積み込み物資の確認と行き先さえ指定すれば後はある程度裁量の利く陸路と異なり、フライトプランの提出やら、搭載物資の複数回にわたる確認立ち会いと、実に面倒極まりない。これはひとえにミデアの管轄が複数の部署にまたがって居ることが原因なのだが、今のところ改善の兆候は見られない。

 

「聞いたか?なんだか前線の方で手ひどくやられたらしいぞ?」

 

「ここまでが順調すぎたんだろ。おかげでこっちは徹夜続きだよ、ジオンの連中も少しは気合いを見せてみたんだろうさ。ま、最後の悪あがきかもしれんがね」

 

「違いない、あれだけの大部隊だし、今度はこっちにもMSがあるんだろう?土俵が同じならスペースノイドなんかに負けやしない…」

 

タブレットを確認しながらそんな話をしていた二人が違和感を覚える。先ほどから妙な音がするのだ、地なりのような、その音はだんだんと大きくなり、はっきりと耳に捉えられるようになる。

 

「お、おい。この音は何だ?」

 

「解らん、陸上戦艦か?受け入れの話なんてきてない―」

 

そう言って外を見た男が固まる、つられて窓から外を見たもう一人は、その事実に気付き悲鳴を上げた。

 

「て、敵だぁ!!」

 

部屋に備えられていた緊急警報用のスイッチを押し、未だに固まっている友人を思いきり揺さぶる。

 

「おい!避難だ!シェルターへ逃げるぞ!」

 

「お、おお!?」

 

慌てて飛び出すふたりの眼前に敵はその姿を浮かび上がらせていた。

 

 

 

 

「はん、今更気付いたのかい?遅いね!野郎共準備はいいかい!」

 

「何時でも!」

 

「何処でも!」

 

威勢良く返ってくる部下達の声に、高揚を隠すことなくシーマは続けてブリッジに通信を送った。

 

「よし、艦長!MS隊出るよ!投下後は洋上に退避しつつ任意に攻撃!特に船は一つも残すな!」

 

「了解しました。ご武運を、中佐」

 

「あいよ!」

 

カタパルトへ続く隔壁ではなく、艦底にあるハッチ――本来帰還用に設けられたものだ――が開きそこから次々とMSが飛び出していく。空中に出るや、シーマはこちらを慌てて照らしているサーチライトへ向けて次々と砲弾をたたき込んだ。

 

「そんなに狙って欲しいのかい!?お望み通りくれてやるよ!」

 

低空での降下であったので、直ぐに地面へ降り立つと、背中のキャノンを手近な倉庫へ撃ち込んだ。MS-09-D改、ビームキャノンを搭載した改良型のドムをシーマは愛機としていた。ゲルググも良い機体だが、シーマはこの機体が気に入っている。ドム自体が十分にブラッシュアップが行われて安定した機体である事に加え、搭載されたビームキャノンはエネルギーCAP方式のものと違い弾数の制限が非常に緩い。加えてジェネレーター出力の向上によりトルクも増しているから、予備の武装や増加装甲を付けても運動性の低下が少なくて済む。その分操作性はやや悪化しているが、それも許容の範囲内だ。実際、海兵隊出身者は自機にこのD改を選ぶ者が大半で、残りはバックウェポン式のノーマルのD型を選んでいる。ちなみに一部の馬鹿が、シーマがドムを選んでいるのは大佐とおそろいだからと寝ぼけたことを言っていたので、しっかりと教育しておいた。世の中には言わなくて良いことも存在するのだ。

 

「張り合いがないねぇ…おっと」

 

適当に辺りを破壊していると、漸く守備隊が準備を整えたのか、ジムが数機こちらへ射撃をしながら近づいてくる。やっと出てきた遊び甲斐のある相手に、シーマは自然と口角を上げた。

 

「こういう時はなんて言うんだったか。…ああ、一手指南してやる、だったかねぇ?」

 

言うやシーマは機体を加速させ距離を詰める。本来搭乗しているドムは砲戦で威力を発揮する機体であるが、状況が悪かった。他の隊員はそれぞれ戦闘を行っているし、ミノフスキー粒子濃度が高すぎて短距離通信も難しい。連邦軍のように専門の中継車両があれば別だが、生憎と基地の強襲にそんな贅沢品は持ち込んでいなかった。故に火力的劣勢を埋めるべく、シーマは機体を前へと進める。

 

「格闘は苦手なんだけどねぇ!贅沢言ってらんないね!」

 

手持ちのマシンガンをサイドスカートに装備されたヒートソードに持ち替えつつ肉薄すると、相手は慌てて散開しながら後退を始める。その動きから数を活かして包囲してこちらを仕留めるという相手の策を即座に看破し、シーマは自機の進行方向を唐突に変える。片足を敢えて接地させ、急激に機体を旋回させたのだ。オデッサのホバー乗りならば全員普通に使う技術だが、敵は十分に驚いたようで突然狙われた最初の一機は足を止めて慌ててビームサーベルを引き抜いた。だがシーマは格闘に付き合う気など毛頭無く、動きの固まった一機に容赦なくビームキャノンをたたき込む。

 

「両手が塞がってりゃ撃たれないとでも思ったのかい?甘いんだよ!」

 

更にその横に居た機体にスラスターを併用し急接近すると、シーマは鋭くヒートソードをコックピットへ突き立てた。瞬く間に2機を失い、動揺したのか逆サイドに展開していた3機が慌てて射撃を行ってくるが、これは突き刺した敵機を盾にして防ぎ、射撃が弱まった隙を突いて射撃姿勢のまま固まっている二機を再びビームキャノンで撃ち抜いた。それを見て残りの一機は慌てて回避行動を取る。

 

「笑えないね、あのカイって坊やの方がずっと強かったよ!」

 

盾にした敵機をそのままに、再び最初の一機に接近する。相手は躊躇していたが、覚悟を決めたように後退しつつ応射してくる。せめて残りの一機と挟み撃ちにしたいのだろう。だがその連携はあまりにも稚拙だった。

 

「覚えときな、射撃の時は敵と味方を同軸に置かないようにするもんだ」

 

後方からのロックアラートが鳴り響いた瞬間、横の倉庫へ抱えていた敵機を思い切りぶつける。必然その反動でシーマの機体はその場で1機分横に逸れた。元いた場所を通り過ぎる光条を、シーマは他人事のようにカメラ越しに見送った。

 

「悪かったねぇ、楽に勝たせて貰ってさ」

 

味方を誤射したことで呆然と立ち竦んでいる最後の機体にビームを撃ち込むと、シーマはそう笑った。そうして振り向き、誤射によって擱座した機体にもビームを放ち、辺りを紅に染め上げる。接敵から僅か2分で6機を屠ったこの戦果は、グディニャの悪魔として連邦で語られることとなる。




だが内容はシーマ無双である。

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