起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百十三話:0079/11/23 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―6―

「確かなんだな?」

 

最優先で届けられた報告書を読みながら、俺は確認の言葉を口にした。

 

「はい、敵陸上戦艦2隻を含む2個師団がリヴィウへ向けて侵攻中です。また、同時に機械化歩兵師団と思われる戦力が後方へ浸透を行っております」

 

「機械化歩兵と思われるとはどう言うことか?それから数は?」

 

「はい、部隊の大半がホバー式のテクニカルで構成されているとのことです。数は5個師団が確認されております」

 

「リヴィウを包囲するつもりか?」

 

次々と表示される敵部隊の位置を睨み付けながら、隣で聞いていたガデム少佐がそう唸る。うん、それだったらどんなにマシだったかね。

 

「違うな、それならまともな機甲師団を使う。連中の狙いは浸透突破だろう」

 

目の前に解りやすく置かれたリヴィウ攻略部隊はこちらを釣り出すエサだ。リヴィウをおとせばオデッサ周辺の制空権を確保出来るから、大兵力で攻め立てればこちらも応じざるを得ない。その間に機動力のある部隊で、空き巣よろしくオデッサを突こうという魂胆だろう。

 

「ふん。あれだけ大仰に部隊をそろえておいて、中々狡っ辛い事をする」

 

「どうする?リヴィウの戦力であれは少々骨だぞ?」

 

駐留しているのは欧州方面軍のMS2個中隊か。陸上戦艦の事も考えれば増援を出すのが常識だが。

 

「…いや、基地の守備隊は浸透してきた敵師団の対応に回す。ここまで飲み込んでいるならもう隠す必要もあるまい。デメジエール中佐に連絡を、喰って良しだ。それから欧州方面軍に連絡を、最早忍従の必要は無い、存分に暴れてくれて結構と」

 

 

 

 

「やれやれ、やっと出番かよ」

 

興奮を隠しきれない弾んだ声が通信に響く。聞いた男達は皆苦笑しつつも、その言葉に同意した。

 

「このまま化石にでもなっちまうかと思ってましたよ」

 

「違えねぇ。まあ、敵さん陸上戦艦まで引っ張ってきたんだろう?体をほぐすにゃ丁度良い相手じゃねえか」

 

「ソンネン中佐、お気持ちは解りますがご注意下さい。こいつらは調子に乗りやすい、折角の機会にヘマなどしたら少将にも大佐にも顔向けできません」

 

そう言って苦笑するボーン大尉に、デメジエールはそのままの声で応じた。

 

「緊張するよりゃずっといいさ。良し、中隊各車ポイントA-01に移動、手はず通りにやるぞ」

 

そう言いつつ大佐から最初に告げられた任務をデメジエールは思い返す。

 

「敵主力正面を占位し火力発起点となる陸上戦艦群および正面敵部隊を撃破せよ、だと?正気じゃねえ、少なくともMSじゃあこんな任務死ねと言われているようなもんだ」

 

興奮で乾いた唇を舐めながら、そう呟いた。

MSは強い、あの汎用性は間違いなく強力な武器であるし、ホバータイプの機動力はMTではどう足掻いても獲得できない。だが一方で、彼らにはない強さをこのヒルドルブが持っていることも中佐は確信していた。

第一に火力、単純な単発火力だけならMSでも互角の兵器は積める。しかしそれが継続となると話は変わってくる。そもそも大口径砲を運用することを前提に設計されたMTと運用も出来るように設計されたMSではペイロードが違いすぎる。持続的な火力投射を考えればMTの方が圧倒的に有利だ。

第二に射程、遠距離に正確に砲弾を送り込みたければ、大質量、高初速であることが望ましい。だがそれを実現するためには大重量の砲が必要であり、また反動を抑えるために機体そのものにも相応の重量が求められる。無論ソフトウェア側で制御することで解決出来ないわけではないが、それよりも機体の重量を増やした方が手っ取り早いし確実だ。しかし、機動力を確保したいMSではその点で妥協が必要になる。重量増加は運動性の低下に直結するし、二本足などと言う履帯より遙かに狭い面積に自重がかかってしまうMSでは、当然各部にかかる負荷も増大してしまうからだ。

そして、第三に装甲。第二にあげた長射程の重砲を扱うに際し機体の重量を増やすという解決策は、同時に機体の装甲強化も容易にした。実際、YMTだった頃に比べこの正式採用モデルでは車重が30t近く増加している。あの基地司令が余計なもの呼ばわりした変型機構を取り外され、構造的には大幅に簡略化してむしろ軽くなっているにもかかわらずだ。鹵獲した兵器で試したところ、連邦の61式の主砲では500mまで詰めても装甲を貫徹出来なかったので、正面方向に関して言えば、それこそ陸上戦艦の主砲くらいしか脅威にならない。

 

「さて、アースノイドどもに戦車戦を再教育してやる」

 

敵はもう目の前に迫っていた。

 

 

 

 

ゆっくりとマグカップを傾けながら、パウルは腕時計へと視線を送る。

 

「時間だな。これよりリヴィウ攻略を開始する。アーレイバーク大佐にはこちらの突撃にタイミングを合わせるように連絡してくれ」

 

幾ら歩兵が主体と言えど、MSが居る以上ファンファンで正面から挑みかかるのはあまりにも愚かだ。リヴィウ攻略の指揮を任されているパウルは地図を眺めながら頭を悩ませる。北と西は開けているためこちらの戦力を十分に展開できるが、問題はその間に広がる森林と小規模な都市だ。リヴィウも含めて住民の避難は済んでいるようだが、そうであるなら今までと同様、あちこちにトラップが仕掛けられた悪辣なジオンのおもちゃ箱にされていることだろう。一瞬、41師団を西に迂回させ、二方向から攻撃する事も考えたが、増援が現れた場合、41単独では対処しきれないと判断し、その考えを打ち消した。何しろリヴィウに航空基地を設営できれば、欧州中央の敵制空圏に大きな穴を空けることが出来るのだ。敵もその事には気付いているだろうから、確実に増援が送られてくるだろう。無論こちらも後続が控えているとはいえ、徒に戦力を消耗させるのもおもしろくない。

 

「数的有利は確保している。ならば小細工を弄さず素直に攻めかかるべきだな」

 

「はい、機甲部隊の両翼に配置し、敵MSの側撃に備えるのが宜しいかと」

 

まるで古代のファランクスだな、そんな事を思いながらパウルは参謀の意見を採用する。そして、41師団から返事がきたことを確認すると、砲兵隊へ向けて指示を出した。

 

「良し、準備射撃の終了と同時に機甲師団を前進させる。陸上戦艦並びに本艦は位置を維持、支援要請に備えろ!」

 

パウルの声に応えるように、空を茜色に染め上げ、幾重にも重なったロケット弾の濃密な弾幕が大気を切り裂き突き進んでいく。その圧倒的な光景に、ある者は息を呑み、またある者は歓声を上げた。無理も無い、オデッサ攻略の号砲が今打ち鳴らされたのだから。

 

 

 

 

報告書を受け取ったユーリは思わず立ち上がり、副官へ向けて叫んだ。

 

「遊びは終いだ!第28師団に通達!可及的速やかにリヴィウを救援せよ!それからキエフの北部方面軍へ連絡、内容は良く耐えた、釣りを返してやれだ!」

 

矢継ぎ早に指示は出されるが、それに混乱する様子は司令部の誰からも見られない。むしろこの時を待っていたとばかりに目を炯々と輝かせ、指示を伝えるべく動き回っている。

 

「それからフランクフルトで待機しているシーマ中佐に伝えろ。出番だ、派手にやれとな!」

 

そう言うと獰猛な笑みを浮かべながら、ユーリは荒々しく椅子に座る。その視線の先は欧州全体を映した戦略用のモニターだ。ミノフスキー粒子のおかげで、幾らか情報に粗さはあるが、その情報の価値は高い。

 

「ランスで見失った連邦のMS部隊はどうなった?それからル・マンで捕捉している機甲師団の状況は?」

 

「MS部隊に関しては、残された形跡から幾つかに分かれて移動している模様です、投入する偵察部隊の数を増やし対応中ですが、捕捉できておりません。機甲師団には第22師団よりMS2個大隊を抽出、迎撃に当たらせております」

 

「西部方面はこのまま維持だ。無理はしなくて良い、どうにも敵さんやる気がないようだしな。ああ、MS隊の捕捉と例の突出した部隊の撃破だけは確実にな?」

 

「フランクフルトの26、27師団は如何なさいますか?」

 

副官の発したその問いに、ユーリは目を閉じ思考する。わずかな間を置いて、副官に対しはっきりとした声でユーリは告げた。

 

「まだだ、中佐にゃ悪いが、彼女たちにしっかり食いついたところで送る。大佐もその為にあんなものを用意させたのだろうしな」

 

その案を聞いたとき、ユーリはまた大佐がおかしな事を言いだしたと考えたが、そもそもその案はMSの飛行試験と並行して進められていたプランだったという。

 

 

「はあ?ド・ダイにMSを載せて運ぶ?」

 

モニターに映された大佐は、普段通りの顔で口を開いた。

 

「輸送用に用いているド・ダイⅡですが、アレならばドムを2機同時に運べますし、何よりMS側から操縦が可能です。速度もマッハ1は出ますから、まとめて運用すればそれなりの規模のMSを緊急展開可能です」

 

VTOL機であるド・ダイは滑走路も必要としない。成程大佐の言う通り移動速度が3倍になれば、取れる選択肢も大きく変わってくる。だが、幾つかの懸念から、ユーリは否定的な言葉を吐いた。

.

 

「MSから動かすと簡単に言うが、飛行機の操縦経験なぞ無い連中ばかりだぞ?まともに動かせるものか?それに敵戦闘機に襲われたらどうする?」

 

その質問に対し、想定内だとばかりに笑顔を作った大佐が答える。

 

「これまで行った物資輸送のフライトデータから機体操作の大半は自動で行えるようプログラムを作成済みです。敵機の対応はそれこそ輸送時の戦訓をそのまま適用出来ます。端的に申し上げれば、低空を高速で突っ切るだけですが。それに襲うと言いますが戦闘機側も容易ではありません。何せ、MSは2機搭載出来るのですから。片方が防空に徹すれば、そうそう簡単には墜とされません。この辺りはオデッサで検証済みです」

 

「お前の所で出来るから、欧州の兵士全員が出来ると言うのは無理があるが。…だが、選択肢として、そういうのがあるという事は覚えておく」

 

 

そして実際に試させると、何故今まで誰もやらなかったのかと頭を抱える位には有用である事が証明され、今回の首刈り戦術の鍵として大量にしかし極秘に集められたのだった。

ユーリは知らない。それが起こりえた数年後の戦争では常識として運用されたサブフライトシステムが、この世界で産声を上げた瞬間であったことを。




皆様絶対失念されていると思いますので、言い訳させて頂きますと、
本作の世界ではグフとド・ダイの連携運用が確立される前にホバー機の運用が開始されたため、ド・ダイでMSを運搬するという方法が取られていません。
以上今回の言い訳でした。

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