かくも日常的な物語   作:満足な愚者

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第二話 その2

人生というものは中々良くできていると思う。

 

南女子でライブをすると聞いた会議の帰り道。

 

俺はバイトのためにバイト先へと足を進めていた。ヒロトとSSKは明日のライブの機材などの準備のためにミズキに駆り出されたため、一人だ。

 

明日からGW。街中もいつもより活気があるように見える。空は相変わらず、青が広がり、どこまでも開放的だ。

 

 

 

ここまで、開放的だと何かしたくなるってやつが人間の心情なのかな。

 

目の前にはいわゆるナンパと言うものがおこなわれていた。

 

バイト先に向かうまでの繁華街。人は夕方に差し掛かっておることもあり、学生も買い物にきた主婦も多い。

 

そんな人ごみの中、二人の明らかにチャラそうな男が、一人の女の子をナンパしていた。

 

しかし、方法が強引すぎる。女の子は付き合う気はないようだけど、男達がどうにか気を引こうと目の前に立って通せんぼしていた。

 

女の子の髪は綺麗な金髪。その金が腰あたりまで伸びており、ところところウェーブを描いていた。

 

スタイルもとてもいいし、顔も小顔で整っている。

 

美人だな。街中ですれ違えば思わず二度見してしまいそうな美人さである。

 

女の子は本当に嫌そうにしており、先に進もうとするが、男の一人が前に立って進ませない。

 

周りの人はこんな光景を見て見ぬ振り。いや、もしかしたら本当に見えてないのかもしれない。

 

こんな光景は日常にありふれている。いちいち構っていたらキリがない……。

 

きっとヒロトみたいな正義感溢れるやつが助けるんだ。

 

バイト先に向かうか……。

 

そう思い足を進める。

 

少女の横を通り過ぎようとした時、足が止まる。

 

本当にこのままでいいのか?

 

友人の顔が思い浮かぶ。ヒロトなら……? ミズキなら……? どうするだろうか?

 

間違いない。あいつらなら何の躊躇いもなく、助けに行くだろうな……。

 

SSKもなんだかんだ言って自分が手を下さなくても少女を助ける手段をこうじるはずだ。

 

俺はあいつらじゃない。

 

あいつらみたいに、才能があるわけでも正義感が強いわけでも何でもない。

 

この繁華街にいる。才能もないただの人と同じだ……。

 

俺が助けなくても持ってるやつが助けるはず。

 

足を一歩踏み出そうとする。

 

真の顔が思い浮かぶ。真も間違いなく、躊躇なく助けに行くはずだ。

 

妹が助けに行くのに成長を見守る俺が助けなくてもどうする?

 

そんなので真に顔向けできるか……?

 

ここで見知らぬ顔しても真やミズキ達には分からない。でも、そういう問題じゃない。

 

きっと、そんなのは心の持ちようだ。

 

上をみる。青と太陽が見える。

 

まるで、俺に頑張れと励ましてくれているみたいだ。

 

よし!

 

気合を入れ直す。バイト先ではなく女の子の方に足を踏み出す。

 

 

「お、おい!」

 

少しどもったが、これくらいはご愛嬌だろ。

 

女の子と目が合う。気づかなかったが少し緑がかった、綺麗な色だった。

 

なんかチャラ男達がナンパするのもわかる気がする。

 

チャラ男達がこっちを見る。

 

すると女の子はその隙をついて、チャラ男の間を小走りで走り抜け、その勢いで俺の腕に抱きつく。

 

えええええええええ!

 

この子なにやってるの!?

 

いきなり女の子抱きつかれてみろ。テンパる。そりゃむちゃくちゃ。

 

そんなテンパりとは関係なく、彼女は口を開く。

 

「ハニー、遅いの! ミキ待ちくたびれちゃった! ささ、行こっ!」

 

そう言って俺の腕を引っ張る。

 

後にはポツンとただ漠然と棒立ちしているチャラ男二人が残った。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうなの!」

 

腕を掴まれてだいぶ引っ張られたあと、金髪の彼女は俺を言ってきた。

 

「あの二人組しつこくて困ってたの」

 

近頃の子供はお礼が言えないとかなんとか聞くけど、中々しっかりしてる子だ。

 

「だいぶしつこかったみたいだけど、何もされてない?」

 

「うん! 大丈夫。心配してくれてありがとう!」

 

明るい返事が帰ってきた。

しかし、それにしても綺麗な子だな。顔も美人だし。スタイルもいい。それに服もブランドとかファッションとか全く詳しくない俺でもわかるくらいセンスがあるものだった。

 

もしかしたらどっかの雑誌のモデルかもしれない。

 

「あっ。お兄さん、この店しらない?」

 

彼女は肩かけのグリーンのカバンから一枚のプリントを出す。

 

見ると、インターネットでダウンロードした地図が乗っていた。

 

この店は……。

 

都内でも有名なおにぎり専門店だった。俺は食べたことないが、SSKやヒロトなどは食べたことがあるらしく、美味しい美味しいと言っていた覚えがある。

 

それに中々人が並んでて買うに時間がかかるらしい。

 

「ミキね。ここに行きたかったんだけど、迷子になっちゃって……。そこであの変なのに絡まれたの」

 

なるほど。

確かにこの店は分かりづらい位置にある。

 

バイトまでは少し時間はあるし。

 

「うん。分かるよ。送って行くよ」

 

またチャラ男達に絡まれる心配もあるし、俺なんかでもいないよりましだろう。

 

「いいの? ミキ、嬉しいな!」

 

「うん。まぁ少し時間もあるしね」

 

パァっと笑顔になる。

 

うん。いい笑顔だ。女の子は笑顔でいるべきだ。

 

彼女は、たんたんと軽い足取りで二三歩進むとくるっと振り向く。

 

「あ、ミキの名前は、星井美希。よろしくなの!」

 

金髪の彼女の名前は星井美希ちゃんと言うらしい。

 

空は少し赤みがかっていた。

 

「よろしく。星井さん。俺の名前は……」

 

 

 

 

「お兄さん! ありがとうなの!」

 

おにぎり専門店はそこから歩いて5分の位置にあった。5分間とはいえ美人と並んで歩けたのは嬉しい。

 

美希ちゃんはおにぎりが楽しみだったのかずっとワクワクしながら歩いていた。

 

何でもおにぎりが大好きらしい。笑顔でそう言っていた。

 

「お兄さんも一緒にたべよっ!」

 

美希ちゃんは笑顔で店を指差す。ちょうど時間帯がよかったのか、並んでいる人はまばらで2、3人んほどだ。

 

これならすぐに買えそうだ。

 

携帯を見る。あと30分くらいは余裕がある。

 

それにこんな笑顔で言われると断れない。

 

このおにぎりって冷めてもいけるのかな?

 

真にお土産として買ってあげたいけどな……。

 

やっぱり出来たての方がおにぎりは美味しいに決まってる。

 

真とは今度一緒に行けばいいか……。

 

それにドリンクも一本あったはず。

 

「そうだね。少し時間があるし、一緒に食べようか!」

 

「さすが、お兄さんなの!」

 

美希ちゃんと一緒に列に並ぶ。

 

「お兄さんって大学生?」

 

「うん、そうだよ」

 

「へぇー。大人なの。ミキも早く大人になりたいの!」

 

壁に寄りかかりながらミキちゃんが言う。

 

「でも、美希ちゃんも高校生だろ? 大人なんてもうすぐだよ!」

 

自己紹介が終わったと美希ちゃんは名前で呼んでほしいなと俺に言ったために名前で呼ぶことになった。

 

「高校生に見られるなんて嬉しいなー。でも、ミキは14歳なの」

 

「えええええ!? うそでしょ?」

 

このスタイルで中学生はないだろ。高校生でも危ういくらいなのに……。

 

「本当だよ。お兄さん」

 

彼女はいたずらっぽく微笑む。

 

最近の中学生はすごいんだな。

 

「えーとじゃ、これとこれとこれをお願いなの!」

 

「じゃあ、俺はこれを」

 

順番が回ってきた。心なしか美希ちゃんの声も嬉しそうだ。

 

「お兄さん、一個でいいの?」

 

美希ちゃんが顔をのぞかせる。

 

少しドキッとする。なんせ美人だし。

 

「うん。大丈夫だよ。ご飯食べたばっかりだし」

 

「お待たせいたしました」

 

商品はすぐに出てきた。それと同時に美希ちゃんが財布をだす。

 

「いいよ、美希ちゃん。ここは俺が出すよ」

 

ポケットから財布を取り出し、お金を払う。

 

「え、いいよお兄さん! 自分の分くらい払うの」

 

「気にしないでいいって。中学生にお金出させるわけにはいかないし、それに……」

 

それに、あの時美希ちゃんを見捨てて先に進もうとしたことへの少しの罪滅ぼしだ。

 

「ミキもこう見えて働いてるの! まだ給料は安いけど」

 

美希ちゃんのような可愛い子だ。もしかしたら、モデルとか何かやっててもおかしくない。

 

でも、それでも中学生にお金をださせるのはどうだろうか?

 

やっぱりなしだ。

 

「いいって。いいって。ここは出すよ」

 

「むうー。それじゃ、次はミキが払うの!」

 

美希ちゃんは少し納得できなみたいだ。

 

次はないと思うけどもし次があっても中学生に出させるわけにはいかない。

 

「わかった。もし次があればよろしくね!」

 

「分かったの!」

 

「それじゃあ食べようか」

 

おにぎりを受け取り、テーブルにつく。二人がけのテーブルに座る。

 

「ごめん。少しトイレにいってくる」

 

そう言ってカバンを持ちトイレに向かう。

 

 

 

 

「ミキもお兄さんがみたいな兄弟がほしかったなー」

 

おにぎりを頬張りながら美希ちゃんが言う。おにぎりの味は美希ちゃん曰く、グッドなの! らしい。

 

うん、確かに美味しい。

 

味も40種類近くあり豊富だし。真とも今度行きたい。

 

「美希ちゃんには兄妹いないの?」

 

「ううん。お姉ちゃんがいるの! でも、お兄さんもいた方がミキはいいの!」

 

へぇー。そうだったんだ。

 

美希ちゃんのお姉さんか……。

 

きっと美希ちゃんと同じように飛んでもなく美人なんだろうな……。

 

一度みてみたいな。

 

「お兄さんは優しいし、きっとこんな人が家族だったら、もっと人生面白くなると思うな!」

 

美人にそこまでいってもらえるとは何よりだ。

 

まぁどうせお世辞だろうけど。

 

言われて悪い気はしない。

 

「はははは。ありがとう、美希ちゃん」

 

「ミキね、今日はなんだか話したい気分なの!」

 

さすがは女の子、話したがりやみたいだ。俺も話すよりかは聞く専門の方が好きだ。

 

こんな美人と話すネタなんてない。

 

ここは聞く専門に徹するとしよう。

 

ブーブーブー。

 

それから20分ほど話してると携帯のバイブレーションがなった。

 

どうやら美希ちゃんのカバンから聞こえるみたいだ。

 

美希ちゃんがカバンから取り出す。緑の彼女らしい携帯だった。

 

メールみたいだ。

 

「あっ! もうこんな時間なの! ミキ行かなくちゃ!」

 

そう言って立ち上がる。

 

俺もそろそろバイトに向かわなくちゃいけないのでいい塩梅だ。

 

「そうだお兄さん! アドレス交換しよっ!」

 

ミキちゃんは微笑む。

 

「うん。いいけど……」

 

そして赤外線通信でアドレスを交換する。

 

こんな俺のアドレスをもらってどうするんだろうな。

 

俺の方は美少女のアドレスゲットできて嬉しいけど。

 

「はい。これで完了っと」

 

「お兄さん! 今日はありがとうなの! 帰ったらメールするね!」

 

そういうと今度こそ美希ちゃんは立ち去った。

 

 

西の空は赤く染められていた。

 

 

 

 

 

 

バイトが終わり、家に帰るとミキちゃんからメールが来ていた。彼女らしい可愛いメールだった。

 

普段メールしない俺に真が疑問を思ったのか誰からか聞いてきた。

 

街中で出会った女の子だと返すと何故か兄さんってナンパするような人だったんだ。と白い目で見られたのでしっかりとナンパから助けた方だと説明した。

 

さっすが、兄さん! 真の喜ぶ顔も見れたし、今日の俺の判断は間違えじゃなかったと再認識する。

 

真は明日は雪歩ちゃんたちと用事があるらしい。

 

仕事仲間とうまく行っているようで何よりだ。

 

俺も明日はライブ。それまでしっかりと疲れを癒しておかないとな……。

 

今日は早く寝るか。

 

そう思いながら真との雑談に興じるのであった。

 

窓の外はすっかり星空と三日月が覗いていた。

 

 

 


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