かくも日常的な物語   作:満足な愚者

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これにて第二章がおわりとなります。
第三章、第四章は作者の勝手ですが新しく別に投稿しようと思います。題名はまだ決めてませんがかくも日常的な物語 下か二巻が有力です。分ける理由は、タグの変更とシリアス度合いやオリジナル度合いが増えることが挙げられます。本当に作者のわがままで申し訳ないです。

出来上がり次第皆様にお伝えしようと思うのですが、どうの様な手段がいいでしょうか?
活動報告と閑話を一話書きその話あげる時に一緒に新しく方もあげる、新しく方が書き終わったらこの話を一回消してもう一度あげなおす。どれが一番いいですかね?

何はともあれこの作品が一応の区切りをつけられたのは応援してくださった皆様のおかげです。改めてお礼申し上げます。それではまた、会いましょう。


夏の終わりのエピローグ

八月ももう最後という日、少女は少し早い時間に目を覚ました。部屋のカーテンを開けると朝のまだ白い光が部屋の中に入る。綺麗に片付いた部屋は一昨日からは少しだけ物が増えて、シンプルな部屋を色付けていた。

うーん、と日差しを伸びを一つすると少女はリビングへと向かう。

リビングには誰もいなかった。昨日も遅くまでバイトに出ていた兄はまだ寝ている。いつもいつも夜遅くまでありがとうと兄の部屋を向き、お礼の言葉を一つ。少女はいつも自分のことよりも他人を優先する兄のことを尊敬していた。だけど、もう少女も高校生である自分をもう少し頼って欲しかった。他人は助けるが、自分自身では絶対に助けを求めない。それが少女の兄だった。

 

仕事も順調に増えてきている。今はまだ助けてもらっているがいつかは……。少女と同い歳の時にはすでに兄はアルバイトをして生活をやりくりしていたのだ。同じ歳になったからこそ、当時の兄の苦労が身に染みて分かってきた。

 

台所に立ち、フライパンに火をかける。常に綺麗清潔、整理整頓している台所はどこに何があるのか分かりやすく、今使っているフライパンも使い込まれた様子はあるが綺麗な状態を保っていた。材料や調理器具を綺麗にしていないと美味しい料理は作れないよ、とは少女の料理の師でもある兄の言葉だ。少女はその言葉通りに台所を整理し、材料を丁寧に使う様にしていた。

 

さて、今日は何を作ろうかな。

少女は一瞬考える。まだまだ気温も高いし、サッパリしたメニューがいいだろう。冷蔵庫を開けてみると材料は豊富にある。とりあえず目玉焼きとトースト、それにサラダでいいかな、と卵を二つ手に取り、油を引いたフライパンの上に片手で割って入れる。何回もやってきた動きだ。慣れたものがある。

 

簡単な朝食を食べ、机に行ってきます! サラダを作って冷蔵庫に入れてあるよ! と置き手紙を置くと少女は出かける準備をする。本当は兄の分の朝食も作っておきたかったが、まだ夏真っ盛りな猛暑だ。食べる時に食材が悪くなっている可能性も十分にある。だから、少女はサラダだけを作りお皿に盛るとラップをして冷蔵庫に入れた。

 

時計を見ると普段家を出る時間よりか少しばかり早かった。だが、今日はそれでいい。いつもはバスで事務所まで行く少女だが、昨日からは自転車で通勤している。兄から誕生日プレゼントでもらった、スカイブルーのフォルムの自転車。真はそれがあればどこまでも遠くへ、どこにでも行ける様な気がした。洗面所で髪のセットをして、自転車の鍵をとる。黒いキャップは忘れずに被る。最近は声を掛けられる機会も圧倒的に増えてきた。今では数か月前は想像もしていなかった帽子をかぶって変装するという行為が欠かせないものになりつつある。

 

いってきまーす、と少し小さな声で出発を告げ、玄関を開ける。

夏の日光に思わず目を細める。8月も終わるというのにその力は衰えを知らない様だった。夏が大好きな彼女はその日光が大好きだった。日の光の下、自転車を漕ぐ。新品の自転車は白い光を照り返し風を切る。どこまでも早く、というスピードを出したい気持ちを抑えて安全運転を心がける。バスでいくよりも15分ほど時間をかけて事務所に到着する。腕時計で確認すればだいたい丁度良い時間になっていた。すでに誰か来ているのか、二階の事務所からは笑い声と話し声が聞こえてきた。自転車を駐輪場に止め、事務所の階段を一段飛ばしでスキップする様に登る。体は羽が生えたかの様に軽かった。

 

「おっはようございまーす!」

 

元気よく扉をあける。

 

「あら、おはよう。真」

 

「おはようございます。真ちゃん」

 

「あぁ、おはよう。真、今日も元気いいな!」

 

事務所で事務仕事をしていたのか、デスクに座っていたプロデューサーである律子 、事務員の小鳥、そして律子と同じくプロデューサーである赤羽根がそれぞれ少女に返事を返す。事務所は夏の初めと違い涼しかった。冷房はもう壊れていない。

 

「誰かもう来てる人いるの?」

 

「えぇ、雪歩ちゃんと春香ちゃん、それに千早ちゃんは来ていますよ。確か、今日は真ちゃんもその三人も仕事ですね」

 

真の言葉に笑顔で応える小鳥。八月の初めよりも確実に増えたホワイトボードを確認すると春香、雪歩、千早の欄には仕事の予定が書いてある。もちろん少女の名前の欄にも。

 

「へぇー、今日は雪歩と春香は雑誌の撮影で千早はローカルの音楽番組かー」

 

「あぁ、みんな確実に仕事が増えてきているからな。これから忙しくなるぞ。真は今日はラジオ番組のゲスト出演だ。竜宮小町を早く追い抜かないとな」

 

パソコンの画面と書類を見比べながら赤羽根は言う。どうやら朝から仕事が立て込んでいるらしい。最近は急に仕事が増えたこともあり、仕事に追われることもボチボチと出てきた。765プロのいい意味での変化だった。竜宮小町とは同じ765プロダクションのアイドルで構成されているアイドルユニットだ。メンバーは3人。その竜宮小町が765プロで一番有名なアイドルであり、765プロで一番早くCDデビューしたグループだ。CDの売れ行きはとても順調で先週のオリコンでは3位に入っていた。

 

「うん、精一杯頑張るよっ!」

 

真はそういってみんなが溜まっているであろう応接室へと足を進める。同じプロダクションの仲間だからといって負けるつもりはさらさらない。何よりも先日、憧れの師匠から頂点はとれなくても全力で頑張れと金言をもらったばかりだ。少女のやる気はいつにもまして高かった。

 

「ちょっと、真。待ってくれ!」

 

そんな少女を呼び止めたのはプロデューサーである赤羽根であった。

何かあったんですか? と振り向く彼女に赤羽根は続ける。

 

「ちょっと、今日の帰りに話があるから会議室に来てくれ」

 

「わかりました、プロデューサー」

 

そう彼女は元気良く言うと今度こそ応接室へ向かった。

応接室も夏の初めと比べると涼しかった。扉を開けたその先には見知った三人の顔。765プロで真が一番仲の良い三人だ。

 

「おはよう、みんな!」

 

そう挨拶をすれば、それぞれ笑顔であいさつが帰ってくる。少女は空いていた雪歩の隣に腰を下ろす。

 

「真、今日は仕事?」

 

「うん、ラジオ番組のゲスト。雪歩と春香は雑誌の撮影だっけ?」

 

「うん、そうだよ。真ちゃん。そして千早ちゃんはローカルテレビの音楽番組」

 

「私たち仕事増えたわね。本当に……」

 

千早が昔を懐かしむようにシミジミと言う。その言葉にそれぞれが頷く。

 

「そう言えば、今日の撮影って真ちゃんのお兄さんが付き添いだよね」

 

「うん、そうそう。何か兄さんが初めて雑誌の撮影に行った時に向こうのお偉いさんから気に入られたらしくて、向こうからオファーが来るみたいだよ」

 

その初めての撮影で少女の兄はただのカメラマンと思っていたのだが、実を言うとそのカメラマンこそが色々なところに顔の聞く芸能界の大物であったことを少女の兄はまだ知らなかった。

 

「凄いねー。さすが、お兄さん。この前の演奏も凄くかっこよかったし」

 

「えへへ、自慢の兄さんだよ!」

 

少女も大好きな兄が褒められて悪い気はしないのか笑顔で応える。

それから先も多くのアイドルが入れ替わり立ち替わり応接室に入ってきて談笑を続ける。応接室で談笑が途絶えることはしばらくの間なかった。アイドルの少女たちの数少ない休息のひと時をゆっくりとリフレッシュに当てるのだった。

 

仕事が終わり、夕方事務所に帰る。

おかえりなさい、と挨拶をする小鳥に少女はただいま! と元気に言うと、今日の仕事の成果を報告する。今日のラジオ番組は少女の中でも良く出来た方だと思う。向こうのディレクターさんにも気に入ってもらえたようで今度は765プロさんの番組を作るよ、と冗談なのかそうではないのかよく分からない言葉も貰えた。その事を小鳥に伝える。

 

「さすが真ちゃんですね」

 

小鳥は笑顔でそう言い続ける。

 

「会議室に皆さん集まっているから行ってみてください。とっても驚くような話がありますよ!」

 

どうやら呼ばれたのは少女だけじゃないようだ。それに驚くような話ってなんだろう、と少女は疑問に思う。まぁ、行ってみればいい、そう思い応接室の扉を開ける。

 

「あっ、真来た来た!」

 

「あれ、皆いる」

 

会議室を開けると765プロダクションのアイドル全員が集合していた。少女に一番最初に気づいた春香が声をかける。空いていた春香の隣に座る。

 

「ねぇ、春香。これって何の集合?」

 

「うーん、私にも分からないなー」

 

春香は少し困ったように首を捻る。

 

「多分、悪い話じゃないと思うけど……」

 

「そっか……」

 

「あっ、そう言えば真。お兄さんが今日は夕飯は俺が作るからゆっくり帰って来ていいぞって伝えといてって」

 

「ありがとう。春香」

 

そう言えば、兄が一人で夕飯を作るなんて久しぶりだ。たまに一緒に作る機会はあるが、普段はいつも少女が作っている。忙しい兄の代わりに少女が出来る精一杯の恩返しだった。

 

「お兄さんの料理羨ましいなぁ」

 

春香のその言葉は本心で言っている様だった。

 

しばらく春香と話をしていた時だった。ドアが開きプロデューサーである赤羽根が急いで入ってきた。息を切らし肩で呼吸をしている。

 

「すまない、皆。少し遅くなった」

 

その言葉に雑談や談笑をしていたアイドルたちは話をやめる。

何回か深く呼吸をした後、赤羽根は続けた。

 

「実は皆に集まってもらったのには重大なお知らせがある。聞いてくれ……」

 

そこで赤羽根は言葉を止め、ゆっくりと深く息を吸い込むと先ほどよりも大きな声で言う。

 

「お前たち全員が出演する全国ネットのレギュラーの生放送番組が決まった!名前は『生っすか!? サンデー』だ!」

 

そこまで言い切ると赤羽根は一枚のポスターを広げる。そこには765プロダクションのアイドル全員が写った写真と『765プロダクションのアイドル達がお送りする、毎週日曜午後の新発見タイム! ブーブーエスTVにて、毎週日曜ひる3:00から生放送中!!』の文字が書かれていた。

 

「「「「えぇぇぇぇええええええ!?」」」」

 

数秒の間が空いた後、765プロに驚きの声が響き渡った。765プロダクションの快進撃はここから始まる。

少女達の八月はこうして終わっていった。

 

 

 

 

ーーto be continued?


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