かくも日常的な物語   作:満足な愚者

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昨日の投稿後、感想にて意見をくださった皆様ありがとうございます。皆様の意見通りこのままアイドルマスターの二次創作として投稿させていただこうと思います。
意見をくださった皆様にはこの場で感謝を申し上げます。






閑話 赤と雨とカタツムリと

雨が降っていた。空は分厚い雲に覆われていた。

 

6月に入り梅雨入りと共に雨の日が多くなった。5月の晴れ続きが嘘のようである。この時期だけは北海道が羨ましいと思う。寒いのは苦手だが、梅雨がないのは魅力的だ。この暑さとこの雨でむあっとした梅雨独特の空気が辺りを覆っている。ボタボタと大粒の雨粒は少しだけ風情がない。俺が風情云々を分かるのかと聞かれたら困るけど。

 

そんな雨の中、大学一階のエントランスにて雨止みを待っていた。学舎横の花壇には赤や紫の紫陽花が雨に打たれて、屋根の水を流すための強化プラスチック製の樋には一匹の大きなカタツムリ。何とも梅雨らしい光景だ。

 

寝坊して天気予報を見てこなかったのには失敗したという感覚を隠せない。真は起きた時にはすでに家におらず、食卓には焼いたトーストが一枚とジャム、マーガリンがおいてあった、どうやら俺のために焼いてくれていたみたいだ。何とも俺には持ったないない優しい妹だ。

 

時間的に遅刻ギリギリだったために何も塗らずにトーストだけをかじって大学に向かったのはいいが、授業の途中に大雨が降ってきたのは予想外だった。朝は雲が少し見える程度だったのに。今年の秋雨前線は働きすぎではないか……。この国のワーキングプア精神でも伝染したのではないか。そう思ってしまうほどの連日の雨模様だ。是非とも水害に発展する前には秋雨前線さんには自重して欲しいところだ。

 

授業が終わって半時程度、すでにほとんどの学生は帰ってしまったのかこの一階に人は見えない。もともとこの学舎はそこまで使われない学舎でもあるしな。

 

流石にこのザザ降りの雨の中を傘もささずに歩く趣味はない。今日のバイトまで時間が結構あることだけは幸運だ。

 

真はもう家に帰っているだろうか。最近、仕事が少しだけ、本当に少しだけだが増えたようで事務所にいる時間も増えた。まだまだ雑誌の小さな写真でしか見ないけど、兄貴としては嬉しい。

 

さて、この雨。止みそうにない。

 

空を仰ぐと薄暗い雲があたりを覆っている。私立に比べるとボロボロと言っていい学舎は天気も合間って肝試しでも使えそうだ。夏場当たりになると深夜に地元の高校生達が肝試しをやっているとか云々を前に誰かから聞いた記憶がある。

 

チンと後ろでエレベーターが到着したことを伝える音がする。

 

「ん? こんなところで何やっているんだ?」

 

聞き慣れたハスキーな声。それと同時に見慣れた赤い髪が横に見える。

 

「雨宿りだよ。見ての通り大雨でさ。傘を忘れたもんだからここで雨が止むのを待ってる」

 

彼女は上を一瞥すると視線を戻す。

 

「確かに止みそうにないな」

 

ポタポタと水滴が水溜りに落ちていく。

 

「ミズキはどうしたんだ?」

 

「さっきの授業の後に少し教授に用があってな……」

 

「そうか……」

 

会話はピタリと止む。ただただ、ザーッいう雨の音だけがあたりを包む。悪い静寂じゃない。中途半端に仲が良いと沈黙は居心地が悪いものだが、気がおける相手だとそれはなくなる。変に話題を探さなくてもいい分楽だ。

 

こうしてみると、昔と比べ雨も嫌いではなくなった。高校時代までは、雨の日はジメジメして気持ち悪いし、外に出かけるのも億劫になるしで嫌いだったのだが、今では雨の日もそこまで悪くはないと言えるようになった。

 

「なぁ……」

 

ガラス張りの扉に体重を預けながら横に立つ彼女が口を開く。

 

「ん、どうかした?」

 

「いや……やっぱりなんでもないよ」

 

再び沈黙が訪れる。ザーッ。ザーッ。大粒の雨は相変わらずだ。彼女と俺と一匹のカタツムリ。この空間にいるのはこれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

静寂が訪れてから一体どれほど時間がたっただろう。10分か20分か、それともまだ多くの時間がたったのか、辺りが薄暗くなった時、雨音が少し軽くなった。ザーザーと降っていた雨がサーサーと言った感じに。

 

「雨、止んできたな……」

 

体重をガラス張りの扉に預けながらぼんやりと空を見ていた彼女が呟く。

 

「あぁ、そうだね」

 

「止むといいな……」

 

「そうだな……」

 

しとしとした雨音を聞きながら、考える。この程度の雨なら濡れて帰ってもいいかもしれない。多分このまま待てば止むとは思うがいつかは分からないし、万が一また強くなっても困る。それにバイトまで時間もある。家で寝ておきたい。濡れ鼠のまま電車に乗るのは迷惑をかけるかもしれないが、どうせ大学から家までの路線はガラガラに空いている路線なため、端っこで立っていれば誰にも迷惑はかけないはず。

 

上を見る。相変わらずの鉛空だが、先ほどより厚みが減ったように感じる。雨も弱くなったし気のせいではないだろう。

 

俺がもう行くことを伝えようと声を出そうとした時、彼女が先に音を発した。

 

「なぁ、良かったらさ……」

 

そこで少し間をおく。

 

「良かったら一緒に帰らないか? 駅までだけど」

 

一緒に帰るのは良いのだけど彼女も濡れながら家に帰るつもりだろうか? てっきり止むまで待っているものかと思ったが。

 

「いいけど、俺は今から濡れて帰るつもりだよ。ミズキはそれでもいいのか?」

 

「いや、そうじゃなくてだな……」

 

彼女は壁から体重を戻すと、肩にかけていた革製の茶色のトートバッグに手を入れる。トートバッグから取り出したのはポリエステル素材の30cm程度の棒状のもの。

 

「なんだ、折りたたみ傘持っているんなら俺に構わずに先に帰ってくれて良かったのに」

 

ここでのんびりと時間を浪費するよりかは家に帰っていた方がよっぽど有意義な時間の使い方が出来るはずだ。

 

「いや、だからそうじゃねぇって」

 

彼女は折りたたみ傘の留め具を外し、柄を伸ばす。そして地面と垂直に右手で持つとこっち向かって腕を差し出す。

 

「仕方ないから駅まで傘に入れてやるよ」

 

空を見ながらこっちを見ずに言う。そして傘を開く。

 

「別にいいよ。こんくらいの雨なら、構わないし、俺が傘に入ったらミズキが濡れちゃうかもしれないだろ」

 

「俺は少しくらい濡れてもかまわぇよ」

 

「俺が構うんだ。それで、風邪でも引かれると困るしね」

 

「お前も風邪を引くかもしれないだろ。引いたら真にどやされるぞ」

 

「悲しいことに何とかは風邪を引かないと言うしね」

 

「そう言われればそうだが……」

 

そこでその反応は普通にショックだ。バカであることを否定できない俺も俺だけど。

 

「あぁあああ、もう、いじったい! お前の意見とかどうでもいいからさっさと行くぞ!」

 

いきなり大きな声を出した彼女は俺の袖をガシッと掴むと傘の下へと引っ張る。そしてそのまま歩き出そうとした時、雨が止んだ。

 

「あっ、雨やんだね」

 

「…………」

 

横の彼女は無言で傘を折りたたむ。はぁー、と大きく息を吐くと何で止むかなと小さく呟いた。

 

「雨も止んだし帰るか……」

 

「そうだな……」

 

何と無く元気がないように見える。二人で同時に歩き出す。その歩む後ろ姿を一匹カタツムリが見送った。

 

空を仰げば東の空に上限の月が雲の間から顔を覗かせていた。

 

梅雨が明ければ暑い暑い夏が始まる。




やっぱりというか書くのが遅いなと思います。作者自身が追い詰められないと何もしないタイプでして、受験勉強も三日前とかに始めた人です。コツコツ努力が出来ないんですよね。

なので皆様には悪いですが暇でお手数をお掛けしない範囲でよろしいので、感想または評価にてプレッシャーをかけてください。

少しは早くなると思います。このままじゃ週一どころか月一更新にでもなりそうなペースかも

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