かくも日常的な物語   作:満足な愚者

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始めまして、満足な愚か者と言います。

この作品はアイドルマスターの二次創作であり、オリジナル主人公、オリジナル展開となります。

こういったものが苦手な方は回れ右でお願いします。

また、本編はアニメ基準で進んで行きますが、ところところで改変があるかもしれないのでご了承ください。感想の方は厳しい意見を募集しておりますので、厳しい意見でも感想でも応援でも何か書いてくれると嬉しいです。


第一話

今から帰る。-----------------

 

バイト先から出たと同時にメールを打つ。絵文字も顔文字もない味気ないメールと言われそうだが、男のメールは総じてこういうものだ。

 

この動作が癖になって2回目の春を迎えた。

 

月夜にぼんやりと浮かぶ桜並木を見ながらそんなことを考える。

 

ブゥブゥブゥゥ

 

手元の携帯が震える。返事はすぐに返ってきた。

 

りょーかい(≧∇≦)b  待ってるよー(‐^▽^‐)

 

彼女らしい顔文字の入ったメールだった。

 

こういう風に女の子っぽくなったのは2年前ケータイを持ち始めてからの話だ。

 

それまでは彼女のお父さんが男の子っぽくなるように育てた影響か、それとも男の俺と5年も一緒にいたせいかは分からないが男の子っぽく育ってしまっていた。

 

小さいころからやっている空手の影響もあるだろうけど、それでも兄心? いや、俺の場合はもはや親心といってもいいかも知れない。

 

とにかく、彼女の成長を見守る身としてはもう少し、女の子っぽく育って欲しかったため嬉しい変化だった。

 

サーと一つ穏やかな風がふく。4月特有の始まりの色を含んだ風。

 

彼女にもう一つ願いがあるとすれば、もう少し早く寝て欲しいところか。

 

携帯の画面開く23:12。

 

今から帰ればどんなに早く家についたって23:30を回る。

 

 

高校2年生といえば俺だって夜更かしして寝るのは2ー3時が当たり前だったとはいえ、彼女の兄としてはもう少し早く寝て健康的な生活を送って欲しいものだ。

 

もう一度、今度は先ほどよりも強く春風が吹く。

 

桜並木がざわめく。街灯に照らされた並木から花びらが中に舞い上がる。

 

その光景は幻想的と言ってもいいものだった。

 

……うん。悪くない。

 

満開の桜が揺れる風景はなんだか郷愁感がある。

 

そんな、桜並木の下を家に向かってあるく。

 

彼女との5年目の春はこうして始まった。

 

 

 

 

 

バイト先からバスで20分のところにあるマンションが我が家だ。

 

立てられて大分たつため所々にボロがでてるが、駅までも歩いてすぐだし、バス停も近くにあるため気に入っている。

 

そんな6階だてのこじんまりしたマンションの4階の一番奥、角部屋が我が城だ。

 

ガチャリとドアの鍵を開ける。

 

するとドタドタと騒がしい足音とともに彼女が出迎えにきた。

 

「おかえり! 兄さん!」

 

黒がメインのジャージを上下に着た黒い髪のショートヘア。

 

それに特徴的なくせ毛がヒコヒコと揺れている。

 

美少女というより美少年といった方が似合うかもしれない。

 

まぁ、本人には言ったら最近まで習っていた空手で殴られるため言わないが……。

 

 

「あぁ。ただいま、真」

 

 

それが俺の妹、菊地 真だ。

 

尻尾がついてれば、ブンブンと元気に揺れていそうだ。

 

前に一度犬みたいだな、とボソっと言ったことがあったがその時は、「兄さんが帰ってくると嬉しいですから!」と元気良く言われて思わず頭を撫でてしまった。

 

いま、シスコンって言ったやつ今すぐ出て来い!

 

あの可愛さを知ってしまったらもうシスコンでもいいやと思えるからな!

 

それに俺の場合、兄妹というより親子と言った方が心情的には合ってるような気がするので、親バカと言った方がいいかもしれない。

 

「兄さん! ご飯できてるから一緒に食べよう!」

 

真と暮らし始めて5年。最近はもっぱら夜ご飯を作るのは彼女の役目となっていた。

 

高校に入るまでは、俺が全て作っていたのだが彼女が高校入学と同時に何か俺の力になりたいと言い出し、俺もバイトの関係で夜も遅くなるために料理を教えた。

 

料理にも運動神経が関係があるのかないのかは分からないけど、彼女の料理の腕はどんどん上がって行った。

 

今では5年間自炊をしてきた俺と変わらなくなってきてる。

 

まぁ、まだ俺の方が上手いと思いたいけど……。

 

「いつもありがとうな。助かるよ」

 

「いいよ、いいよ。気にしなくて! 兄さんもバイト頑張ってるんだから!」

 

なんていい子だろ。

 

おじさん少し涙が出てきたよ。

 

高校に入ってから彼女は変わった。

 

それまでも良く俺を手伝ってくれたり、家事もよくやってくれたけど、高校に入ってからは更に積極的にやってるれるようになった。

 

それに携帯を持ち始めてからは、女の子っぽいメールを打つようになったりして嬉しい変化となった。

 

服装だけは男の服、主に俺のお古なのだが……。

 

いくらウチが貧乏だからって服くらいは買えるが何故か真は「ボクは、この服が気に入っいるから気にしなくていいよ!」と言って買おうとしない。

 

小遣いでも、服を買ったとこを見たことないため本気で服は男物が好きなのかと思い、勝手とは思いつつ男物の服をプレゼントしたら、無言で殴られたため服に関しては干渉しないようにいている。

 

ちなみに殴られた時は本気で泣きかけたということを記しておこう。痛いってものじゃなくて呼吸が一瞬、止まった。

 

「いやいや。真も頑張ってるじゃないか。高校に家事、そしてアイドルまでこなしてるんだから」

 

そうそう彼女の変化といえばこれを欠かすことは出来ない。

 

ある日の夕飯時、彼女から打ち明けられた。

 

アイドルになりたいと……。

 

なんでも高校の帰り、友達と帰ってる時にスカウトされたとか。

 

スカウトね……。あやしい。あやしすぎる。

 

とりあえず、そのスカウトを連れてきてきくれ、そう言ってその場は終わった。

 

そして次の日さっそく真は、プロデューサーを連れてきた。

 

赤羽根さんいう20代前半の若いプロデューサーだった。

 

メガネとスーツで真面目そうな彼は始め、死を決意したような顔で話し始めたので何事かと思ったら、どうやら真の保護者ということでむちゃくちゃ強そうな人だと思ったとか。

 

確かに真は、空手を10年近くやってその辺の男よりかは遥かに強いが俺はその辺の一般人である。

 

比べられても困るってものだ。

 

話始めると年が近いこともありすぐに打ち解けることが出来た。

 

真が所属するプロダクションは765(ナムコ)プロダクションという新生のプロダクションらしい。

 

所属アイドルは真を含め13人。

駆け出しのアイドルプロダクションだそうだ。

 

赤羽根さんの話は時間がたつごとに熱を帯びていった。

 

うん。いい人そうだ。

 

そうと分かれば、アイドルをやりたいという彼女の意思を邪魔することは出来ない。

 

すぐに契約書にサインする。

 

赤羽根さんなら真を悪いようにはしないだろう。

 

それにアイドルになれば真も少しは女の子っぽい格好をするだろう。

 

そんな打算もあったのだが……。

 

そんなことがあったのが、今年の2月。

 

たまに雑誌の隅の方に写真がのっている程度だけど身内心としては嬉しいものがある。

 

見本として真がもらってきた雑誌を保存したりしちゃっている。

 

完璧にシスコン、親バカである。

 

給料の方は真の方で管理してもらってる。自分でお金を稼ぐことの大切さも理解してもらいたいし、真が自分の労働の対価に得た賃金だ。自分で管理、消費するのが妥当ってものだろう。

 

まぁ、今の給料はまだ高校生の小遣いレベルなので、小遣い変わりにっていう面も強かったりするのだが……。

 

流石に桁が高校生が持つべき金額を超えたら考えるが、今のままならその金額に給料が達するにはまだまだ時間がかかりそうなので当面の間は傍観してもいいだろう。

 

真がプロダクションに所属して早、2ヶ月と少し、最近ではプロダクションの友達も出来たのか、よく我が家にも遊びにアイドルたちが来てくれる。

 

仕事が云々ということよりも、こういう風に仲間ができて仲良くやっていけてる点でアイドルをやらせてみて良かったなと思う。

 

アイドルにせよ部活にせよ、同じ目標に向かう仲間、ライバルは一生涯の宝になるからな。

 

 

 

 

 

「それじゃあ。食べるか」

 

リビングのテーブルにはすでに理料が並んでいた。

 

ハンバーグにポテトフライ、サラダにほうれん草のおひたし。

 

そこに真がついできたご飯と味噌汁が並べられる。

 

なかなかに家庭的な光景だ。

 

「「いただきます!」」

 

まずはハンバーグを一口。

 

「うん。美味しい!」

 

「でしょ!? そのハンバーグは自信作なんだ!」

 

えへへ。

そう照れ臭そうに笑う真をみてつられて笑顔になる。

 

「しかし、真も料理上手くなったよな」

 

「そう? 兄さんに言われると嬉しいなぁ」

 

「でも、これだけの物を作るのは大変じゃないか?」

 

「全然、大丈夫だよ! 兄さんだって僕と同じ歳の時はバイトに学校に家事も色々やったじゃん」

 

確かに高校2年の時はバイトに学校、そして家事と色々やってきたけど……。

 

「でも、真もアイドルのレッスンとか大変じゃないか」

 

「大丈夫! 大丈夫! だってダンスレッスンぐらいじゃ僕はへばらないよ!」

 

「うーん。でも……」

 

「もう! 兄さんは心配症なんだから! ご飯冷めちゃうから食べようよ」

 

うーん。

心配症と言われとも彼女の成長を見守る身としてはやっぱり心配だけど……。

 

まぁ、ちゃんと学校に行ってるみたいだし気にすることでもないのかな。

 

味噌汁をすする。

 

コンブが効いてて俺好みの塩梅になってる。

 

うん。美味しい。

 

とりあえず今はこの料理に舌鼓を打つこととしよう。

 

 

 

 

 

「兄さん! 明日ってバイト休みだよね?」

 

しばらくして真が聞いてきた。

 

「うん。休みだよ」

 

「じゃあ、もし良かったら事務所の友達呼んでもいい?」

 

こんな風に事前の了解を取る時は誰かを泊めたいという合図だ。

 

「いいけど、泊まるならちゃんと向こうの親御さんに了承を取らなきゃだめだぞ」

 

いくら職場の友人の家とはいえ若い男がいる部屋に娘を泊めるのに反対の親御さんもいるはずだ。

 

「分かってるよ! じゃあ、いいんだね!?」

 

「あぁ。もちろん」

 

「へへっ、やっりぃ!」

 

毎回のやり取りなため、真も俺が断らないことを知ってるはずだが、とても嬉しそうな顔をする。

 

うん。悪くない……。

 

 

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「真。後片付けやっておくから先に風呂はいってきな」

 

作ってもらった身だ。後片付けくらいやるのが普通だ。

 

「うん。わかった。じゃあ、後はお願いするよ」

 

晩ご飯を作ってもらった方が後片付けをする。これが俺と真で決めたルールだった。

 

真が風呂場に入って行くのを確認して、ゆっくりと片付けることとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ。おやすみ。兄さん」

 

風呂を上がってリビングで取り留めのない話をしたあと真はそう言って自分の部屋に戻っていった。

 

時刻は1時を少し回った程度。

 

いくら真が体力があるとはいえ、この時間まで起きているのはどうだろうか。

 

アイドルになるために最近ではダンスレッスンやボーカルレッスンなどをやっていると聞く。

 

真が俺といる時間を大切にしているのは分かる。一緒に朝食、夕食をとっていることからも分かる。

 

でも、真は成長期だ。睡眠は大事だろう。

この時間に寝て、起きる時間は7:30。

 

 

6時間睡眠。大人の睡眠時間なら十分と言えるが、成長期の女の子。

 

せめて、8時間は寝て欲しい。

 

そのためには真に悪いけど、夕食は一人で食べてもらうか……。

 

でも、真は絶対に嫌と言うだろうし。

 

こういうのを親心とでも言うんだろうな…………。

 

少し、眠い。

 

少し寝るか。とりあえず、いい案が浮かぶまでは現状維持で行こうと思う。

 

部屋に戻りながらそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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