タロット使いの魔導師   作:祭永遠

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いざ、出発

 

 

 

翌日明朝、まだ生徒の誰もが寝ているような早い時間にも関わらず、外で動く影が幾つか見える。俺もそのうちの一つであるのだが、如何せん早起きの影響で眠い。才人に鞍付けを頼んで自分は必死に眠気と格闘している。アンリエッタ直々のお忍びの任務であるため馬車は使えず、道中馬の上で眠るわけにもいかない。どうしたものかと悩んでいると、いつの間にか奇妙な生物が三人の近くにいた。

 

ちなみに三人とはルイズ、才人、ギーシュである。その奇妙な生物に頬擦りしているギーシュを、二人はややひきつった表情で見ていた。ギーシュは使い魔らしき生物をこの旅に同行させたいらしく、ルイズと才人に懇願していた。

 

 

「私たちはこれからアルビオンに行くのよ?地面を掘って進んでいく生き物はどうやったって連れて行けないでしょ」

 

 

ルイズの一言でバッサリ却下されたギーシュは膝をついて悔しそうにしていた。そのときである。ギーシュの使い魔(名をヴェルダンデと言うらしい)が鼻をひくつかせてルイズへ擦り寄った。ルイズはそのままヴェルダンデに押し倒されてしまった。なんとか抜け出そうと暴れるのだが、あまりにも色々なものが違い過ぎるため、服が乱れていくだけで結局は意味がない。するとヴェルダンデはアンリエッタからルイズが貰った指輪に反応する。ギーシュが言うには、土メイジからするとけっこう有難いらしい。宝石大好きな動物というのは可愛いげがない気もするが、結局はルイズに興味があったのではなく対象は宝石のようだった。

 

 

「そりゃそうだよな…前だか後ろだかわからないような発育不良娘に動物とはいえ興味が出るわけないよな……」

 

 

「ちょっとアンタ!!聞こえてるわよ!!」

 

 

「そりゃすまんな。なに安心しろよ。お前に発情するような特殊性癖保持者なんて腐るほどいるさ」

 

 

なんですってー!?と言いながら意味もなく暴れ続けるルイズ。そこに一陣の風が吹いた。魔法が発動する気配は感じたものの、こちらに危害を加える気配は感じなかったので放置していたが、どうやらルイズを助けるための魔法のようだった。

 

 

「誰だッ!!」

 

 

ギーシュは自分の使い魔を吹き飛ばされ激昂したのかそう叫ぶ。すると一人の貴族が姿を見せた。口の回りに髭をはやした長髪の男で羽帽子をかぶっていた。俺の第一印象は老け顔だな、髭を剃ればもっと男らしくなるのに勿体ない、である。

 

ギーシュがその男に攻撃をしようと薔薇の杖を掲げた。しかし相手が一瞬早く杖を引き抜きギーシュのそれを吹き飛ばす。今の動作を見て、この男はけっこうな実力者であると判断できた。もちろんこの世界では、という条件付きではある。ギーシュは文句を言いたいのか口を開こうする。俺はそれを遮るために口を開く。

 

 

「やめとけグラモン。お前じゃ無理だ。舌戦でも実戦でも勝てる相手じゃない。大人しくしとけ」

 

 

ギーシュは納得していないながらも渋々引き下がる。そしてそんな俺たちのやり取りを見て、羽帽子の男はこちらを興味深そうに一瞥し本題へと移った。

 

 

「僕は敵じゃない。君たちに同行することを姫殿下に命じられてね。僕は女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」

 

 

帽子を取りながら一礼する。

ギーシュ、というか全貴族は魔法衛士隊に憧れがあるのだ。しかも隊長ともなれば実力は申し分ないだろう。たかが魔法学院の一生徒を捻るくらい造作もない。項垂れるギーシュを見てワルドは申し訳なさそうに言った。

 

 

「すまない。婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてね」

 

 

ああ、こいつは特殊性癖保持者なんだな、と思った。鏡見とけよ子爵さん。下手したら親子くらいに見られても可笑しくない。ニコニコしながらルイズを抱えあげるのを見てしまうと、もう何も言えなかった。才人は呆然としている。だらしなく口を開いて目も点だ。

 

 

「ルイズ、彼らを紹介してくれたまえ」

 

 

ワルドはルイズを地面に下ろしながら言うと、ルイズはギーシュ、才人、俺の順番に指を差して紹介していく。

 

 

「同級生のギーシュ・ド・グラモン、使い魔のサイト、女子寮の管理人のトモハルよ」

 

 

才人はワルドにジェラシーを抱えているのか、いつもより口数が少ない。それでも気にすることなくワルドは話を進めていく。

 

そして突然ワルドが口笛を吹いた。遠くから何かが飛んでくるのが見える。その姿は鷲の頭と上半身、獅子の下半身をした幻獣グリフォンであった。ワルドはグリフォンに跨がりルイズを呼ぶ。しかしなかなか動かずにいたが、最終的にはグリフォンに跨がることになった。

 

 

「ちょっと待ってください、子爵さんたちはもしかしてグリフォンで行くつもりなんですか?」

 

 

「もちろんだ。君たちには辛いかもしれないが頑張ってついて来てくれたまえ」

 

 

それはちょっと酷いと思う。向こうはグリフォンでこちらは馬とか、どう考えても絶対に差がつく。もういっそのこと飛んでいってしまおうか、どうせ隠しきれるものでもないしすでに使ってるし………と考えてみるがそうすると実力的に危ない二人を放置してしまうことになる。さすがにそれはまずいと考え直して仕方なく馬に跨がる。

 

 

「それでは諸君、出撃だ!!」

 

 

高らかに言い放ちワルドとルイズを乗せたグリフォンは翼をはためかせ飛び立つ。それに遅れないように馬を叩き追随する。正直に話せば俺に乗馬の経験なんぞあるわけがない。二人に遅れを取りながらもえっちらおっちら馬の手綱を引いて操る。みるみる二人に離されていく。どうやらグリフォンに合わせて進ませているようであっという間に姿が見えなくなってしまった。

 

諦めのついた俺は馬を走らせるのをやめて、ゆっくりと歩かせる。この辺りには人が集まる場所がないのか、パカパカと馬の蹄が地面を叩く音と少量の風の吹く音だけが聞こえる。この世界は建造物が少ない。地球やミッドチルダにあるようなビル郡はなく、自然に溢れていた。川の近くに行けば水の流れる音とそこを泳ぐ魚が見える。しばらくそういう物を目にしていないからか、やけに新鮮に写りそれは俺に癒しを与えてくれた。

 

どれくらい進んだのだろうか、方角は恐らく合っているはずだが案内がないので不安だ。突然そこに上空に見覚えのある巨大な影を見つけた。風韻竜のイルククゥ――もといシルフィードである。

影はどんどんこちらに近づき、しまいには俺の目の前に降り立った。その後ろから二人の生徒が出てくる。一人はタバサ、この風韻竜―――シルフィードの主人である。そしてもう一人はその友人であるキュルケ。

 

 

「シルフィードにタバサにツェルプストーか。こんな所で何をしてる?」

 

 

「朝早くにあなたたちが馬に乗って出かけたのを見たのよ。だから急いでタバサを叩き起こして後をつけたの。そういう貴方こそ何をしてらっしゃるの?」

 

 

「タバサや……だからお前は寝巻き姿なのか……ちなみに俺はな……馬を走らせた瞬間に乗馬の経験がないことに気づいてな。途中で二人に離されたからゆっくり進んでた」

 

 

正直不憫でならない。タバサは表情で何か問題でも?と語っているようだった。キュルケは俺の理由を聞くと肩を震わせて笑っていた。確かに走らせる前に気づけよって話だ。俺でも爆笑すると思うので責められない。

 

 

「乗ってく?」

 

 

「お言葉に甘えます」

 

 

馬から荷物を外してタバサ、キュルケに続いて俺もイルククゥの背中に乗らせてもらう。

 

 

『よろしくな、イルククゥ』

 

 

『お任せなのね!!ひとっ飛びで連れていってあげるわ!!』

 

 

念話で挨拶をすませると、シルフィードは空へと舞い上がり馬とは比べ物にならないスピードで進んでいく。話を聞くとどうやら俺はすぐに見つかったらしい。俺が才人たちと一緒にいないことを疑問に思ったのだが、最初はスルーしてさっさと才人たちに追い付こうとしたようだった。しかしそれを聞いていたシルフィードが反抗してタバサに抗議。それを聞き入れたタバサは俺の元へ降りることにしたそうだ。その結果、今はこうして三人でシルフィードの背中に乗り、才人たちを追いかける形となった。

 

 

すでに時刻は真夜中に差し掛かろうとしていた。未だに才人たちには追い付けていない。すると突然崖の上から地上に向かい火が飛んでいくのが見えた。シルフィードがきゅいきゅいと鳴く。

 

 

「見つけたみたい」

 

 

タバサはシルフィードの鳴き声を聞いてそう言った。しかし俺の目には何も見えない。タバサは何かを呟くとシルフィードはきゅいと一声鳴いて、崖の方へ向かって飛ぶ。崖の上には人が何人もいた。こちらに気がつくと面白いように悲鳴をあげる。

 

 

「私が防御、あなたが攻撃」

 

 

簡潔に言った。タバサはこちらに飛んでくる弓矢の攻撃を魔法で逸らす。“あなた”で俺を見ていたので、攻撃はこちらに任せるということなのだろう。自分でやった方が早くないか、と思いつつもシルフィードに乗せて貰ったので一回くらい役に立とうと思った。

 

 

「ミクシム、セットアップ」

 

 

《了解、セットアップ》

 

 

男の変身シーンなどあっても意味がないので割愛する。タバサの妙に鋭い視線が気になるが、そんなことを言ってたらいつまでもこのままなので行動する。

まずは小さい魔力弾を生成。牽制のつもりで崖の上に向かって放つ。なぜか呆気なくそれを喰らって何人かが崖の上から落ちていった。それでもまだこちらに攻撃はいくつか届くので、今度は避けられると思い追尾弾の生成、それを放つ。先程のが頭にあるので逃げ惑うのだが、その球が自分たちの後を追いかけてくるのがわかるとパニックに陥ってしまった。それをシルフィードの上から見て、無力化できたのを確認すると、タバサもそれがわかったようでシルフィードに命じて炎が見える位置に降り立った。

 

そこには才人たちがいた。シルフィードの背中からキュルケが降り、俺が降りる。

 

 

「ちょっとアンタ!!何やってるのよ!!これはお忍びなのよ?なんでツェルプストーたちと一緒にいるのよ!!」

 

 

「いやー、俺ってば乗馬ができないことを忘れててさ、みんなにおいてかれたところを偶然通りかかったシルフィードに乗せてもらったんだよ」

 

 

それ以上の言葉は必要ない。なんやかんや騒ぎ出す周りを他人事のように見る。ギーシュは崖の上から落ちた奴等に尋問をしていた。結果、ただの物取りのようでワルドの決定により放置することとなった。

 

 

「今日はラ・ロシェールに一泊して、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」

 

 

そう言うとワルドはグリフォンに跨がりルイズを抱き上げた。キュルケは才人の馬の後ろに乗って騒ぎ出し、ギーシュもワルドの指示に従い馬に跨がった。俺はシルフィードの上のタバサに声をかける。

 

 

「乗ってもいい?」

 

 

「大丈夫」

 

 

いつも通りの簡潔な返事を聞いてからシルフィードの背中を借りる。ここから見える街灯りがラ・ロシェールらしい。シルフィードは翼を広げて飛ぶ。タバサは相変わらず本を読んでいる。不意にタバサが読んでいた本を閉じてこちらを見る。どうしたのかと思い口を開こうとすると、それより早くタバサが話しかけてきた。

 

 

「あなたの魔法について詳しく聞きたい。あとで話す時間がほしい」

 

 

「別にいいけど……なんで?」

 

 

了承が取れたら俺の質問に答えることなく本に目を落とす。俺の魔法は理屈や演算がわかれば使える。しかし科学的な概念が発達していないこの世界、教えても使えることはないだろう。なぜなら科学には計算が付き物であり、科学が発展していないということは計算もそれほど発展していないことがわかるからだ。

 

シルフィードを近場の森林に置き去りにしてラ・ロシェールに入る。お忍びのくせに一番高い宿に泊まるらしく、そこの一階の酒場でくつろいでいた。才人とギーシュは一日中馬に乗っていたのでくたびれていただけであった。それを見ると途中でシルフィードに拾ってもらえたのはラッキーだったかもしれない。そこに桟橋とやらに乗船交渉に行っていたワルドとルイズが帰ってきた。船は明後日にならないと出ないらしく、それを聞いた才人たちはホッとしていた。

 

 

「さて、それでは今日は休もう。部屋を取った」

 

 

それを聞くとタバサは机の上に置いた鍵を一つ取り、俺の手を引いた。

 

 

「ルイズとキュルケ、ギーシュとサイト、私とあなた、ワルドは一人」

 

 

異論は認めない、とでも言いたげに他のメンバーを見渡し颯爽と部屋に向かっていく。もちろん俺は手を引かれたままなのでついていく他ない。呆然とした眼差しを受けながら俺とタバサは一階の酒場をあとにした。

 

 

 

 

部屋はそこそこ良い造りをしていた。二人部屋の割には広いし、きちんとシャワールームもついている。さすが高いだけはある。それでも俺からすればビジネスホテルとなんら変わらないのだが。タバサは部屋の鍵を閉め、ベッドに腰をかけると俺にもベッドに座るように促した。俺は隣のベッドでタバサと向かい合うようにして座る。

 

 

「あなたの魔法について話してほしい」

 

 

そう言われて納得がいった。タバサは俺から話を聞くために同室になりたかったらしい。それならばと俺の使う魔法について話す。秘匿義務はあるものの今更なので知ったこっちゃない。管理局が俺の首を切りやすいようにランクもAで止まらせておいたし自由にさせてもらう。

 

ある程度話終えたあとタバサから質問が飛ぶ。

 

 

「あなたは治療魔法はできる?」

 

 

「出来ないことはないが得意ではない。体のどこが悪いとかならミクシムを使えばすぐにわかるが……」

 

 

「ならば私があなたと同じような魔法は使える?」

 

 

「それは無理だ。さっきも説明したようにリンカーコアと呼ばれる魔力生成機関……こちら風に言うと精神力を貯める為の機関が体の内に必要となる。これは先天的なもので後からつけることは出来ない。そしてタバサにはそれがない。だから使えない」

 

 

そう言うと少し俯く。そして顔を上げて俺に言った。

 

 

「あなたに頼みたいことがある。報酬はあなたの希望するだけ払う」

 

 

その目は今までのタバサの目とは違った。最後の藁を見つけたような、無理だと思っている、だけどすがらずにはいられない、そんな目だった。俺はそれを了承した。もちろんこの仕事が終わってからという条件付きだが、タバサもそれはわかっているらしくそれでもいいと言った。

 

 

「それじゃあ早く寝なさい。いつまでも起きてると成長しないからな」

 

 

そう言ってタバサをベッドに寝かせる。本当に睡眠に入ってるのかはわからないが、俺も眠たかったのでそのまま隣のベッドで眠った。

 

 

 

 

次の日の朝、誰かがドアを叩く音がする。めんどくさいのでスルーしていたのだがしばらくすると不意に音が聞こえなくなる。隣を見ると寝惚け眼のタバサが呪文を唱え杖を振るっていた。これがサイレントの呪文らしい。効果の程は素晴らしいと唸るべきものである。これで落ち着いて眠れると思ったのも束の間、思いきり布団を引き剥がされた。隣を見てみるとタバサも同じ目に合っていたので二人してこの行為の犯人をジト目で睨み付ける。その犯人―――キュルケは悪びれもしないで何事かを捲し立てるように話していた。サイレントがかかっているので何を言っているのかわからないため、タバサにお願いしてサイレントを解除してもらう。すると予想以上の大きい声で捲し立てていたキュルケは、着替えていない俺とタバサの手を掴むと走り出した。

 

 

「ダーリンとダンディーなお髭の彼が決闘するらしいの!!ちょっと見に行きましょう!!」

 

 

見に行きましょうも何もすでに連行されてるのだが、どうにも彼女には通じないらしい。タバサは慣れっこなのかいつの間にか本を読んでいた。あの短い間で本を持ち出すとはなかなか素早い。キュルケに手を引かれるまま中庭にあるという練兵場へと足を運んだ。

 

そこにはすでに才人、ワルド、ルイズの三名の姿があった。どうやらルイズは介添人としてワルドに呼ばれたようだ。才人に止めるように呼び掛けていたが、振り向きもしないので諦めて傍観に徹するようだ。

 

二人が構える。見なくても勝敗はわかるので興味がわかない。どちらかと言えばタバサの読んでいる本の方が気になるほどだ。キュルケが才人を応援しているが、それも虚しくあっという間に才人は杖を突きつけられ負けてしまった。ワルドが何やら才人に向かって言っている。それが終わると次はこちらに矛先が向いた。

 

 

「トモハル!!ちょうど良かった。次は君と闘ってみたいと思ってたんだよ。よかったらどうだい?」

 

 

「どっちが強いとか興味ないですし、めんどくさいんでやめときます」

 

 

「そんなこと言わずにやろうじゃないか。どうしてメイジでもない君がこの旅に同行しているのかが気になるのだよ。足手まといにならない程度の実力かどうか見たいんだ」

 

 

乗馬もできない、メイジでもない、さらに強さもわからない。それでは信用にかけると言いたいようだった。それならばとセットアップをしてからワルドと向かい合う。目の前で服装が変わり驚いているワルド。もういい加減その反応は飽きたので、今度から戦闘のときは服装がいきなり変わりますとでも言っておこうか真剣に考えるとしよう。

 

 

「それでは構えたまえ」

 

 

そう言われて気づいた。こんな場所だと身体強化系の能力しか使えない。レアスキルではない砲撃など使ってしまったらここが消えてなくなる。仕方がないので三枚のカードを選ぶ。皇帝、戦車、正義。のんびりと戦うつもりはない。すぐに勝負をつける。

 

 

「皇帝、戦車、正義。それぞれの第一詩篇を解放―――――こちらは大丈夫です。さあどうぞ。先手は譲りますよ」

 

 

あまりにも舐めた態度。名誉あるグリフォン隊隊長という自負があるワルドはイラつきながらも平静でいた。俺の手にいきなり現れた天秤と一振りの剣。これらを警戒しているようだった。しかしそれだけじゃ足りない、足りなさすぎる。

 

 

「いつまでもにらめっこじゃ楽しくないですよね?来ないならこちらから失礼します!!」

 

 

そう言ってワルドの前から消える。皇帝の詩篇を使い瞬間移動をしてワルドの背後を取る。まだ気付いていないワルドの肩をちょんちょんと叩く。驚きに染まった顔をしながら瞬時に後ろへ跳んだ。

 

 

「攻撃力を右の皿に、防御力を左の皿に」

 

 

すると天秤が右の方へ少し傾く。その状態で剣を振ってみた。軽く地面が割れ、ワルドの顔がさらに驚愕に染まった。そしてついに攻撃を仕掛けてきた。流れるような動きで、確かに才人では手も足も出ないような速さであった。――――しかし、アイツらに比べれば全然遅い。ワルドが剣を振るたびに何回攻撃を当てられるだろう。

攻撃をされているにも関わらずこんな事を考える余裕があるくらいには遅かった。

 

そして切り上げた瞬間に有り得ないほど大きく懐があいた。戦闘中にしては大きすぎる隙。そこへ肘打ちを当てる。すると予想以上にワルドは吹き飛んでしまった。天秤を見ると先程より攻撃側へ傾いていた。申し訳ないと思いながらも追撃として杖を奪って剣を首筋に当てる。

 

 

「これで俺の勝ちでいいですかね?」

 

 

「……ふふっ凄いな。完敗だよ。これなら安心して連れて行ける」

 

 

プライドの高い貴族らしくなかった。それともワルドくらいまでになるとこういう人材ばかりなのだろうか。そうなると魔法学院の生徒たちは全員出世できない方程式が出来上がるのだが。

試合が終わりタバサの方へ戻ると、どうやら俺の試合は見ていたらしくこう呟いた。

 

 

「やっぱり強い……」

 

 

「少なくともここのメイジには負けるほど弱くはないな」

 

 

俺はそう言ってタバサの頭を撫でた。嫌がる素振りを見せないのでしばらく撫でていたら、才人を慰めていたキュルケがこちらに視線を送ってきた。よく意味のわからない視線だったのでスルーしてあげた。

 

 


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