タロット使いの魔導師   作:祭永遠

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危なく王室行きに……

 

ある日の夜、寝ていたところをある男の絶叫により起こされた。俺がいるのは女子寮の管理人室、ここから聞こえる男の絶叫なんぞ一つしか心当たりがない。そしていつも俺以外は起きない。サイレントという魔法で音をシャットアウトしているらしい。俺はそんな魔法は使えないためもろにその絶叫を聞く事になる。俺の安眠のために早急になんとかせねばなるまい。俺は絶叫が上がった部屋へと向かう。

 

 

「ヴァリエール、平賀、いい加減にしろ。こちとらサイレント使えないだよ。他人の睡眠を邪魔すんなボケ」

 

 

部屋に戻ったら何やら鞭で叩く音が聞こえるが、声は聞こえなくなった。この程度であれば問題なく眠れる。俺はそのまま朝まで布団の中でゆっくりと幸せな時間を過ごした。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

ミッドチルダのとある場所、そこでは未だに見つからない相模智春の行方を心配する人物たちが集まっていた。

 

 

高町なのは

フェイト・T・ハラオウン

八神はやて

ヴォルケンリッターの四人

クロノ・ハラオウン

スバル・ナカジマ

ティアナ・ランスター

エリオ・モンディアル

キャロ・ル・ルシエ

 

 

そして無限書庫の仕事により外には出てこれないがユーノ・スクライアの姿もウィンドウから見える。

 

これだけ見ればそうそうたる顔ぶれだ。しかし他にも心配する声は多く寄せられている。

 

彼ら、彼女らは決して暇ではない。むしろ忙しいと言える。それでも時間の合間を見つけては、こうして集まって情報交換の機会を設けることをしている。

 

 

「それにしても音沙汰無しかー……智春君も薄情やなー」

 

 

「そんなことはないだろう。恐らくだが何かしらのトラブルがあり、連絡が取れなくなったという方が考えやすい」

 

 

「でもなあ……早くしないと嫁さんや居候が直に捜しに行ってまうで?[我らに任せればすぐに終わるわ!!]とかなんとか言って」

 

 

「[管理局なんてやっぱり当てにならないねっ]って言って飛び出して行きそう……」

 

 

「それを聞いて[初めから私たちが行けば良かったのです]なんて言いながら立ち上がる姿が目に浮かぶよー……」

 

 

相模智春が行方不明になってから、およそ二週間が経過している。それぞれで捜索活動はしているものの、いかんせん個人の力では限界がある。組織として行方を追ってくれていたのは最初の二、三日だけであった。

 

 

「もしかしたら……管理外世界でも文明の低いところにいるのかもしれない。魔法があっても文明が低いと私たちみたいな魔導師はデバイスが治せない。だから通信も出来ないのかも」

 

 

フェイトがそう言うとそのまま納得したように周りも頷く。そうなると今後の捜索は艦で海に出られるクロノ、フェイト、ティアナの三人に託されることとなる。それがわかると他はすでに出来ることはなくなってくる。

 

 

「それじゃあ捜索は三人に任せるな。うちらは嫁さんと居候の方をなんとかせんとな……フェイトちゃん……は無理やから……なのはちゃん、シグナム、行くで」

 

 

見た目はなのは、フェイト、はやてとそっくりな人物たちを止めるために三人が動き出す。なぜこんなことになってしまったのか。それは誰にもわからない。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

翌朝、俺は目が覚めるとよくわからない寒気に襲われた。悪い予感がひしひしと感じられたが、それが理由で動かないのはどう考えても無しなので重い体を起こし食堂へ向かう。

 

食堂での仕事が終わり、賄いを食べさせてもらい教室へと進む。二、三日前から授業を後ろから見学させてもらっているのだ。それぞれどの教師も自分の属性が一番だと主張しており、各分野の最強を集めて会談をさせたら面白そうだなと思った。話し合いは平行線で、最終的にはバトルな展開になりそうなのが見えてくる。今日の教師はギトーという人でこの間のフーケの件を、誰かに押し付けようとしていた人である。あと俺の言った言葉に過剰に反応もしていた気がする。

 

そんなことを考えて教室の扉を開けると、そこには鞭で才人を叩くルイズの姿があった。

 

 

「……………おはよう、ヴァリエール、平賀……そういうプレイは自分の部屋でやってくれ、みんな困ってるぞ」

 

 

挨拶もそこそこに二人に忠告をする。

するとすぐにキュルケが教室に入ってきて才人に駆け寄りいつも通りのやり取りが交わされる。最早恒例となりつつあるこの躾は教室にギトーが入ってくるまで続けられた。

ギトーは教壇に立ち開口一番にこう言った。

 

 

「では授業を始める。知ってのとおり、私の二つ名は疾風。疾風のギトーだ」

 

 

その言葉に教室が静まりかえる。何を勘違いしているのかギトーは満足気に頷いている。周りはお前の二つ名とか興味ねえし、とか知らねえよという雰囲気なのに。その後最強の系統の話をキュルケに振りさらに煽る。それに乗ったキュルケが火の玉を作り、それをどんどん大きくしていく。それが大体直径で一メートル程になった頃だろうか、キュルケは火の玉をギトーに向けて放つ。

ギトーはそれを見て、自分の腰に差してある杖を抜いてそれを振るう。一瞬にして烈風が舞い上がり火の玉は掻き消え風はキュルケを襲おうとした。俺はそれを見てキュルケの前に立つと右手を前に出し障壁を展開させた。するとキュルケを襲うはずであった烈風は、障壁にぶつかり勢いを無くしそのままそよ風となり消えた。

 

 

「ギトーさん……いやここ風に言うとミスタ・ギトーか。自分の強さを誇示したいのであれば自由にすればいいです。ですがそのために生徒に危害を加えるのは教師のする事ではありません。これが実戦形式の試合であれば文句はないのですけどね」

 

 

「ミスタ・サガミ。余計な事はしないでいただきたいですな。今回は風の最強たる所以を説明するためのものであるのだ」

 

 

そう言い放つとギトーは講義を続ける。

 

 

「あ……ありがとう」

 

 

キュルケとは思えないほど小さな声のお礼が聞こえた。余計なことをしてしまったのかもしれない。

そして何かの呪文の詠唱を始めた。そこで教室の扉が、音を立てて開く。

開いた扉の先にいたのはびっくりするほど可笑しな格好をしたコルベールである。それを見た瞬間吹き出しそうになるが、一応授業中なので堪える。

 

 

「その格好はどうしたのですか?それよりも今は授業ですが」

 

 

「今日の授業は全て中止であります!!」

 

 

それを聞いた途端、教室中から歓声があがる。俺としては授業が無くなるのは喜ばしくない。なぜならばこの世界の魔法の仕組みを知る時間が減ってしまうからだ。するとコルベールがのけぞった拍子に、頭に乗せていたカツラらしきものが滑り落ちて床へとダイブした。さすがに俺は堪えきれずに「ぶふぉっ!?」と変な声を出して吹き出してしまった。教室中の視線が俺に集まるが、誰もが同じような表情をしていたので全員が吹き出す寸前なのであろう。そこで止めを刺すようにタバサがコルベールの頭を指差し一言。

 

 

「滑りやすい」

 

 

教室中は爆笑に包まれた。それは俺も例外ではなく、笑うのをやめられない。

 

 

「黙りなさい!!大口を開けて笑うとは貴族にあるまじき行い!!貴族はおかしいときには下を向いてこっそりと笑うものですぞ!!これでは王室に教育の成果が疑われる!!」

 

 

教室はシンーと静まりかえる。ただ俺を除いて。

 

 

「あははははは!!教育の成果て!!盗賊退治を生徒に行かせる時点で教育もクソもないじゃないですか!!あははははは!!」

 

 

一人で笑う。笑い続ける。

コルベールは俺の言葉に何も反論出来ないのか、顔を赤くしたまま俯くだけであった。俯いた先にある拳が震えるほど握りしめられているのは、気のせいではないはずだ。そして本来ならば名誉に傷をつけたとかなんとか言うのだろうが、こればかりは事実なので何もなかった。あったとしても論破出来る自信はある。なぜならば守るべき立ち位置にいる人間が、誰も動かなかったのだから。

 

 

「あはは……あはっ……ああー、笑った笑った。大変失礼しました。では続きをどうぞ」

 

 

こんな空気の中で続きを促すとは俺も大概であるが、それほど重要な案件であるのかコルベールはすぐに続けた。

話によるとこの国の王女がゲルマニアという国へ行った帰りに魔法学院に寄るらしく、それのお出迎えのために授業を全て中止にして準備を進めるらしかった。というか何しに来るんだよ。勉強させろ勉強。俺の願いは届くことはなかった。というより俺すらも正門前に並ばされた。

 

しばらくその状態で待っていると、王女を乗せた馬車が入ってきた。それに気づくと整列した生徒たちは一斉に杖を掲げた。正門をくぐり抜けた先に本塔の玄関があり、そこで馬車が止まる。召し使いたちが駆け寄り、馬車の扉までじゅうたんを敷き詰め、兵士が緊張した声で王女の登場を告げる。

 

 

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりーっ!!」

 

 

扉から出てきたのは鳥の骨のように痩せこけた男だった。ここの王女は男なのかと思っていると、その後ろから一人の女の子が出てきた。その姿を見た途端周りの生徒たちから大歓声があがる。

それを聞いてこっちが本物ねなどと下らないことを考えつつ立ち尽くす。こういう時に姿を消せるカードが欲しいと思った。退屈なだけでなんも面白くない。俺は教師枠として並ばされているので、コソコソと逃げ出せるはずもなく式典が終わるまでどう暇を潰そうかと考えながら過ごした。

 

 

その日の夜、この学院に来て初めて女子寮に忍び込む気配を察知した。

 

 

「ミクシム、映像だ」

 

 

《こちらです、主》

 

 

ミクシムの出したウィンドウを見るとローブに包まれた人影がコソコソとしていた。誰かに見つかったらまずいのだろう、その足取りは遅い。目的地がどの部屋かはわからないがこの分ならば二階に到達したところで捕らえられると判断。何かあってからではまずいので、先にセットアップしてから足音を立てないように侵入者の到達予測地点まで急ぐ。

 

先についてしまった俺は二階の踊り場で隠れて侵入者を待つことにした。すると侵入者が相も変わらずトロトロとした足取りで現れた。後ろから気づかれないように近づき、いつか町にいった時に買っておいた短剣を侵入者の首筋に当てる。動かれては危険なので、動かないように短剣を持ってない腕で体を抑え、自分の方へ引き寄せ、耳元で呟くように言った。

 

 

「よう、侵入者さん?俺のいる女子寮に何のようだ。このまま引き返すなら見逃してやってもいいが、どこかの部屋へ入るつもりならば今すぐ死ぬ寸前まで追い詰めてやんぞ」

 

 

侵入者はビクッと体を震わせると何やらぶつぶつ呟いていた。恐怖をしているというより、この震えからは緊張が感じられた。不思議に思いローブを剥ぎ取る。

 

 

「うん?お前女か?まあ賊に男も女もないか、俺の質問に答えなければ、死なない程度に痛め付けて王室に送ってやるぞ。今の俺はここの管理人だからな。ここの住人に害なす者は許さない」

 

 

すると侵入者は慌てたように小さめの声を出した。

 

 

「わ……!!私です!!アンリエッタです!!」

 

 

―――――うん?アンリエッタ……どこかで聞いたような……ってここの王女様か!!

 

 

慌てて拘束していた腕を離しこちらに顔を向かせ顔を確認すると、月明かりで見え難いが確かに昼間見た王女の姿がそこにあった。

 

 

「王女様とは知らずに失礼したな。それにしても護衛も連れずに何をしてるんだ?こんな怪しまれる格好でいたんじゃ不審者丸出しだぞ」

 

 

俺の言葉に驚いたように目を見開くアンリエッタ。何をそんなに驚いているのだろう。

 

 

「どうした?そんな顔をして」

 

 

「いえ……私にそんな言葉を使う者がいないものですから」

 

 

「ああー、すまんな……どれだけ偉かろうが年下には敬語は使えないんだ」

 

 

言葉使いを改めた方がいいか聞くと、これも新鮮でいいと言ったのでそのままでいくことになった。どうしてあんな格好で女子寮に来たのかと理由を聞いたら、ルイズにお忍びで会いに来たそうだ。さすがにこれを放置するわけにもいかず、護衛ということで部屋まで連れて行くことにした。その道中ローブを被り直したアンリエッタはこんなことを聞いてきた。

 

 

「それにしてもミスタ・サガミはどうして私が来たことが分かったのですか?誰にも気づかれずに来たと思ったのですが……」

 

 

「姫様よー、ミスタはやめてくれよ。公式の場や公共の場ならともかく、ここには俺らしかいないんだし」

 

 

「それならば姫様もやめて下さいませんか?」

 

 

そう言って軽く笑うアンリエッタ。それは見るもの全てを虜にするような笑みであった。

 

 

「じゃあなんて呼べばいいんだよ……基本家名でしか呼ばないからさ……家名が国名ってのは困ったもんだ……」

 

 

俺は結婚した際にそう決めたのである。もともと名前では呼んでなかったのだが、自分の中での誓いという意味も込めてそうしている。姫様をやめてほしいと言われるとどうしようもなくなる。国名を連呼するとかバカらしくてできないし。日本、日本と総理に向かって言うようなもんである。

 

 

「それならばアンと呼んでくださいまし。今はほとんどの者が使っていませんし、小さい頃独特の呼び名なのでそれがいいかと」

 

 

「うーん……まあそれが妥協点か」

 

 

そう思い多少強引だが無理矢理に自分を納得させた。

 

 

「それより先程の質問なのですが……」

 

 

「ああ、それな。通路の天井の隅を見てみな?変な物があるだろう?」

 

 

「はい……ありますね、それがなにか?」

 

 

「あれで侵入者を察知できるんだ。どうやって察知してるのか構造はわからないがな。これが女子寮には至るところについている」

 

 

「へえ、世の中には面白い物もあるのですね」

 

 

ルイズの部屋の前についたので会話を中断する。俺は仕事が済んだので管理人室へ引き返そうとしたのだが、アンリエッタに引き留められてしまった。どうやら俺にも話しを聞いてほしいらしい。ルイズの部屋の扉を長く二回、短く三回、規則正しくノックをする。アンリエッタがこちらを見て言った。

 

 

「あの子と会うときの秘密の合図です」

 

 

なるほどと思った。そのノックのあと扉の内側からドタバタと音がしてから扉が開く。

 

 

「……あなたは?」

 

 

その部屋の主であるルイズが問う。

 

――――――おい!!合図の意味!!

 

 

 

そう突っ込む前にアンリエッタは俺を部屋へ入れてから自分も中に入り、口元に人指し指を当てて「しっ」と呟く。ローブの隙間から杖を取り出し軽く振ると同時に呪文を詠唱した。光の粉が部屋に舞い、消えた。

 

 

「どこに耳や目が光っているかわかりませんからね」

 

 

魔法でどこにもそういう心肺がないとわかるとアンリエッタはローブを取った。

その姿を見せるとルイズは慌てたように膝をつき、才人は訳もわからずボケーっとした顔で突っ立っていた。

 

 

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

 

 

アンリエッタは涼しい声でそう言った。

 

 

 


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