ザザッ・・・ザザッ・・・
「・・・着いた」
「思ったより早く着いたな。」
金色の砂浜に乗り上げた潜水艇・・・その中から2人の男女が降りる。言わずもがな、トバルカインと由美江の2人である。
「・・・あと30分ちょいしか時間がないよ」
「30分?それだけあればお釣りがくるぜ。大尉がまだ来てないのは気になるが我々だけでも十分すぎる。」
由美江が手に持った砂時計を見て愚痴るが、トバルカインは特に気にしていない。
2人はノシノシと砂浜に足跡を作りながら、気配のするピラミッドへと歩いて行く。砂浜は砂金、ピラミッドも頂点以外は砂金で出来ていて、パトラの魔力で作られたであろうピラミッドは光を反射してテカテカと光っている・・・それなりに知識があればこれだけでもパトラの力の凄さがわかってしまうだろう。
「これ全部砂金か?ハンパな量じゃないなぁ」
「・・・聞いた話じゃ世界最強の魔女の一角らしい。粉雪の説明だと、"砲弾の尽きない戦車"だって」
「グッドグッド、大尉が来るまでせいぜい楽しませてもらいましょう。」
2人はピラミッドに作られた入り口へと入って階段を上がって行く。
階段の壁面には一面エジプトの古代遺跡に描かれているような絵・・・多分、アヌビスとかトトとかのエジプトの神々だろう。
そして少し階段を上がると大きな扉のある部屋の前に来た。ここまで何の妨害が無いのは気掛かりだか、正面突破出来る実力を持つ二人には特に気にすることでもなかった。
「・・・ここがあの女の部屋ね」
「よし、開けるからちょっとどけ」
そう言うとトバルカインは扉にペタペタと持っていたトランプを貼り出した。
「・・・何してるの?」
「ノックするのさ」
そして扉に一通り貼り終えると由美江に扉から少し離れる様指示して、自分も離れる。
「ぶっ飛べ!」
ボンッ!!
トバルカインが言った瞬間、扉に貼りついていたトランプが爆発し扉を粉微塵にする。
「コンコンっと」
吹き飛んだ扉を潜り部屋へと入って行く。中はかなり広い・・・どうやらホールか何かの様だ。
「・・・まったく、極東の者達は本当に礼儀を知らんようぢゃな。扉もまともに開けれんとはな。」
そして真正面・・・2人がいる位置から正反対の位置にパトラがけだるそうに待っていた。トバルカインはトランプを、由美江は刀に手をかけて臨戦態勢に入る。
「何故貴様ら極東の愚民を王の間に入れてやったかわかるか?ケチを付けられたくないからぢゃ。妾はイ・ウーの連中に妬まれておってのう、ブラドを呪い倒したのにも関わらず妾の力を認めなかったのぢゃ。」
「・・・それは直接倒した奴を信じるでしょ」
「ふん、ぢゃから今回はアリアとそれを取り巻く貴様らを倒して妾が最強だと言う事を証明するのぢゃ!そう!次のイ・ウーの王はアリアなどではない!妾なのぢゃ!」
パトラは怒りに顔を赤くし、持っていた水晶を叩き割る。
「・・・ん?」
(今こいつ何つった?神崎がイ・ウーの王?どう言う事だ?いや、今はどうでもいいか・・・)
一瞬、パトラの言葉に違和感を感じたトバルカインであったが、パトラの話に耳を傾けていたせいでその疑問は頭の隅へと追いやられてしまう。
「妾は常に先を見て動く。今回の件もイ・ウーの女王になってからの事を考えて動いておる。」
「・・・へぇ」
「妾は男が嫌いぢゃ、変な気分になる。ぢゃから側近は女で固めたい、ぢゃから後で使う予定の女は殺さず呪いを使って封じ込めたのぢゃ。力量次第では戦士にしてやっても良いぞ?」
「プッ・・・!」
「プフッ、ふははははっ!」
「・・・何ぢゃ、何を笑っておる。」
パトラが2人を睨むが2人は少しの間笑い転げ、落ち着いて来たところでトバルカインから口を開いた。
「笑わせるなよ、男に腰振って生き延びた王家が何言ってやがる」
「・・・異教徒になる気は無い、とりあえず死ね」
2人の口から出た言葉はパトラを侮辱する言葉であった。
「ふん、馬鹿な女ぢゃ、覇王を怒らせた罪がどれだけ重いかわからせてやるわ。」
チャキッ、と近くに立てかけてあった刀をパトラが手に取る。どうやら前に星伽の神社から盗まれた業物らしい。だがそれでいい、気が引けて本気を出しにくいからな・・・
「先に行く、援護頼む」「任せろ」
アイコンタクトで会話すると、トバルカインが手に持っていたトランプを構えるとパトラに向かって投げつける。
ヒュババババッ!!
トバルカインが投げつけたトランプは床や階段を破壊しながらパトラへと向かって飛んで行き、彼女の座っていた椅子ごと彼女を粉砕する。が・・・
「チッ、やっぱり砂の人形だ!」
トバルカインのトランプが命中したパトラは砂の塊になって大量の砂を空中に撒き散らしてしまい、まるで煙幕を使ったかのように視界が悪くなる。
「しゃらくさい真似を!」
「・・・トバルカイン!後ろだ!」
「遅いわ!」
砂煙りに気を取られていたトバルカインに、周りを警戒していた由美江が呼びかける。その瞬間、トバルカインの背後にあった砂山からパトラが斬りかかる。
「なあァあァァァめぇええェェるゥゥうなあぁァッ!」
ガキンッ!!
「なっ!防いだぢゃと!?」
何とかギリギリで反応出来たトバルカインがトランプでパトラの持つ刀を受け止める。勢いよく振り下ろされた刀だったが、トランプの半分程まで食い込むとそこで止まってしまった。
「もらったあぁぁぁッ!!」
動きの止まったパトラに向けて由美江が刀を振り下ろす。
「しまった!」
バリバリバリバリンッッ!!
完璧な踏み込みから繰り出された強力無比な一撃がパトラの出した砂の盾を皿の様に叩き切る。
「ア、アメンホテプの昊盾を4枚も!?なんと言う力ぢゃ・・・!」
「そのままぶっ死ねぇぇッ!!」ガンガンガン!!
そして、パトラが防御に徹したのを2人は見逃さなかった。一気にケリを付けるため攻勢に出る。パトラは両手に盾を出して必死に防御する。が、2人の連続攻撃が次々とパトラが出す盾を粉々にしていく。
「なっ!?あぐっ!うぎゃ!ぐあっ!こ、殺す気か!貴様ら武偵ぢゃろうが!殺したら憲章違反に・・・」
「ここは公海上なんだぜぇ!バラバラにして魚のエサにしてやる!そうすればバレん!そうしようっ!!」ドガガガガッ!!
「ひっ!な、なら!アリアは!今この場でアリアに掛けられた呪いを解けるのは我だけじゃ!ほれ、もうあと数分程しか・・・」
「呪い解いて死ぬ!?解かずに死ぬ!?それとも死ぬ!?」ガンガンガンガンガン!!!
「こ、この気狂い共め・・・!」
・・・2人の攻撃は、お世辞にも息が合っているとは言えなかった。だが、無限魔力のパトラを精神的に追い込み、戦況は2人に有利な運び始めていた。
(だ、ダメぢゃ、このままでは魔力があっても盾にする砂が足りん!)
彼女の盾を作り出す魔法は手の届く範囲に砂が無ければ作れない・・・それを2人が次々と破壊していくせいで砂の補給が出来ていないのだ。
「どうしたぁ!?まさかこの程度でお終いか!?」
「他愛ないな・・・!」
そして、由美江の強力な一撃とトバルカインの連続攻撃が大皿の様に巨大な盾を破り、彼女を窮地に追い詰めて行く。そして・・・
バリンッッ!!
・・・最後の一枚が、破られた。もう彼女を守る物は何もないし砂の人形でもない。本物だ。
「ひぁっ・・・!」
「トドメだあぁぁっ!!」
「ハイクを詠め。カイシャクしてやる」
そのスキを逃さずトバルカインがトランプを振りかぶった。パトラにトドメを刺す気なのだろう。
「一撃で決めてやる、苦しまないようにな」
その時パトラは悟った。自分はこの男に殺されるのだと。そして、彼女がそれを理解した瞬間思い浮かべたのは・・・
「キンイチ・・・」
自分の想い人であった・・・
パパパパパパッ!!バギンッ!
「!?」
トバルカインのトランプがパトラに当たると思った瞬間、彼女の目の前で粉々に弾け飛ぶ。
「よくやったわパトラ。後は私に任せて。」
「・・・お前は!」
「キ、キンイチ!?」
先程トバルカインが破壊した扉・・・そこに立っていたのは大尉の兄、遠山金一・・・いや、カナだったのだ。東京武偵高の制服を着て手には煙を上げたコルトピースメーカーを握って。
「ごめんなさいねパトラ、思ってたよりオルクスの速度が出なかったの。大変だったわね。」
「お、遅いぞバカ者!覇王を待たせるとは何事ぢゃ!」
・・・そう言う彼女は恥ずかしいのか嬉しいのか頬を赤く染めていた。
「・・・来ないならこっちからやられて貰うぜ!手加減しないぞ!」
ヒュババババッ!
先手必勝。カナの実力を大尉から聞いた事があるトバルカインは先攻を取って優位を取ろうとトランプを何枚も投げ攻撃を仕掛ける。が・・・
ギンギンギンギンッ!!
「なっ!?落とされただと!?」
クルッ、とカナがその場で長い三つ編みの髪を躍らせながら回転するとカナに向かって殺到していたトランプが粉々になって破片をあたりに撒き散らした。
「この桜吹雪・・・散らせるものなら散らしてみなさい?」
トバルカインは直感で理解した、こいつは自分が思っていた以上に強い。と・・・
「今度はこっちから行かせて貰うわよ?」
パパパパパパッ!パパパパパパッ!
常人では目視すら叶わない"不可視の弾丸"・・・腰に下げたホルスターに納められた二丁のピースメーカーから放たれた12発の弾丸がトバルカインに襲いかかる。
「このぉオカマ野郎があぁぁぁ!!なあぁぁめぇええるうぅぅなあぁぁッ!!」
ギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンッッッ!!!
それをトバルカインは自身の実力と経験をフルに使い防ぎきった。が・・・
(畜生、余裕こき過ぎて完全に不利になっちまった。それにトランプを落とした攻撃、何をしたのかまったくわからなかった!髪に何か仕込んでるのか?どっちにしろ接近戦は挑めん・・・なら)
「おい、由美江」
「・・・何」
「お前は神崎を確保しろ、あいつらの相手は俺がやる。」
「・・・応」
そう言うと由美江は踵を返して神崎のいる棺桶へと走って行く。
「させるか!下郎を柩に触れさせてなるものか!」
キンイチに2人が気を取られている隙に距離を開けたパトラが素早く呪文を詠唱する。が、由美江が棺に取り付くのが早かった。
「・・・よし!確保し・・・」
ズドオオオオォォォンッ!!!
棺に手が届くと思った次の瞬間、由美江が凄まじい力で横に吹っ飛ばされる。
ズザーーーーッ!ゴロゴロ・・・
「か、かはっ・・・!」
一瞬で、10メートル程飛んで地面に転がりながら着地する。口から吐血している・・・かなりのダメージのようだ。
「チッ!何してやがる、油断してんじゃねぇよ!」
「・・・あんなのもの動くと思わないでしょフツー、げ、ゲホッ・・・!」
由美江が指差した先にある物・・・パトラが座っていた椅子の後ろにあった巨大なスフィンクスの像が動いていたのだ。どうやら先程のパトラの唱えた呪文はこの像を動かすものだったらしい。
「ふふっ、白雪ちゃんは相変わらずお転婆さんね。それに君・・・伊達君だったかしら?私の不可視の弾丸を12発全て防いだのは驚いたわ、キンジが見込んだだけの事はあるわね。」
(大尉がいない今、下手に戦っても勝てん・・・時間があとどのくらい残っているのかはわからんが大尉が来るまで時間を稼ごう)
「・・・俺もあんたの話は聞いた、相当やり手の武偵だったそうじゃないか。それが何で神崎を誘拐して殺そうとしたんだ。」
「アリアが次のイ・ウーのリーダーに選ばれたからよ。」
その言葉を聞いた時、トバルカインは直ぐに理解出来なかった。アリアはイ・ウーに敵対している人物の筆頭だからだ。それがリーダーに?何故?
「・・・そもそもあいつがリーダーになると思えねぇがな。」
「いえ、教授を前にすれば必ずアリアは言う事を聞くわ。必ずね。」
・・・いやに断言した物言いだな。
トバルカインが感じた疑念を他所にカナは話を続ける。
「イ・ウーがまとまっていたのは教授の実力のおかげよ。彼のお陰でパトラの様に野心的な者たちも大人しくしていた・・・けど、もう近々教授が死ぬことが分かったの。老衰でね。」
「で、バラバラになる前に次のリーダーを、ってなって白羽の矢が立ったのが神崎か・・・なんだ、じゃああんたの目標はリーダーの座に就くことじゃあなくて・・・崩壊させる事なのか?」
「そう、だから私は2つの可能性を考えた。一つは教授が死ぬ前か死んで直ぐにアリアを殺す方法。二つ目は教授の暗殺よ。でも、ここでつまづいているようじゃ第二の可能性は無理と判断せざるを得ないわ。」
「無理だから殺す・・・それが、あんたの行き着いた正義か?」
「そうよ」
「・・・俺は殺す殺さねえとか別に気にしない。人何て毎日腐る程死んでる。その作戦もあんたが必死に考えた結果なんだろう。だか・・・」
「・・・何かしら?」
「俺たちに戦争吹っかけたんだ、それ相応の覚悟をしとけよ」
"それ"に気がついたトバルカインが不敵に笑う。そして、カナも遅れて"それ"に気がついた。
ヒュウウウウウウウゥゥゥッッッ!!
凄まじい風切り音がピラミッドの中に反響する。
「なんぢゃ、この音は?」
「主役は遅れて登場する、ってな。」
次の瞬間、アンベリール号を巨大を爆炎が包み込んだ。
やっぱり寒い日にはラーメンが一番ですね〜、特に作者は最近来来亭にはまっています。
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