工事現場
「・・・いないな・・・」
「・・・いませんね。」
・・・うーむ、やはりどこかに出ているのか、それとも巣を変えたのか・・・とにかくここにはいないのか?
先ほどから2人で階を順々に見て見たが・・・狼の痕跡はあっても狼がいる様子はなかった・・・
・・・一度、感覚を研ぎ澄まして周囲を確認するか・・・
そう思った大尉は感覚を研ぎ澄まし、耳を澄ます。と、あることに気がついた。
・・・ん?少し上の階に誰かいるな・・・話し声は・・・3人だな・・・何かもめてるみたいだが・・・まあ、狼について何か知ってるかもしれないし話だけ聞いてみるか・・・
「・・・もう少し上がるぞ・・・上に誰かいるみたいだ、もしかしたら何か狼の事を知ってるかもしれない・・・」
「わ、わかりました」
そう言うと2人は階段を上がって行った・・・
その頃・・・
「おい!レキ!本当にこの道であってるんだな!」
「はい、足跡が工事現場のところにありました。」
人間カーナビことレキの案内は完璧だった。とても肉眼では見えない様なものを的確に見つけ出し、狼を追い詰めて行く。
「・・・ここか」
「・・・」コクッ
ひとまず狼の潜伏したらしい工事現場に到着し、辺りを見回す。トバルカインが見た限り、特に怪しい点はないが・・・
「足跡があります。足跡は工事現場の中へ続いています」
「うーむ、下手に入るのは相手の思う壺だな・・・大尉を呼ぶか。あの人、狼に詳しそうだし。」
そう言うと、トバルカインはポケットに入っている携帯を取り出すと大尉の番号をプッシュした。
階段を登るにつれて、何かがぶつかり合う音が聞こえ始めた。大尉はそれが剣戟による音だとわかるだろう。
・・・まさか、もう狼と交戦しているのか?・・・もしそうだとしたら・・・
「・・・この階か・・・」
ひとまず音のする階にたどり着くと、部屋の入り口から中の様子を探る・・・武偵の基礎の基礎だ。
「・・・」壁|∀・)チラッ
ガキンッ!!
「このおぉぉ!あかりは渡しません!あかりは私の友達です!」
「はんっ!あなたなどにあかりの友達など頭が高いわ!」
「ふ、2人とも落ち着いて!」
どうやら間宮を2人の女子が取り合って決闘している、と言う感じだった。
・・・どうなってんだこれは・・・わけがわからないよ・・・少なくとも俺には理解出来ない世界だな・・・まったく、決闘は内申点に響くって言うのに・・・
「・・・どうでしたか?」
「・・・あの調子じゃ何も知らないだろうな・・・戻ろう・・・どうも取り込み中らしいから物音を立てない様に・・・」
コツン ガランッ!ガンガララン!
「あっ!」
後ろに下がろうとした時、階段に置いてあった鉄パイプに宗宮が躓き、鉄パイプが階段を転げ落ちる。と・・・
「!誰かそこにいるの!?」
「け、決闘を見られた!」
当たり前と言うべきか、中で戦っていた奴らに気がつかれてしまった。
・・・くっ、バレたものはしょうがない・・・
「・・・宗宮はそこにいろ・・・」
「は、はい!」
と、宗宮を巻き込まない様に指示を出すと諦めて姿を彼女達の前に現す。
「・・・どうもこんにちは・・・」
「げげっ!遠山・・・先輩!」
「・・・げげっ、はないだろ・・・先輩に向かって・・・」
「ふん!先輩みたいな変態に見られたんだから当たり前です!」
そう言いながら大尉をジロッと睨んでくる。
・・・何故こうなる・・・と言うか、こいつにだけは変人って言われたくなかった・・・
「こ、この方があの遠山先輩ですか!?」
「あ、あの実習棟丸々一つ破壊した、ジャガーノート遠山・・・!」
そして先ほどまで決闘していた2人が大尉を見て目の色を変える。やはりと言うべきか、1年生からはよほど恐れられているらしい。と言うかなんだその二つ名、ダサすぎるにもほどがあるぞ・・・
「・・・俺にプロレスラーみたいな二つ名をつけるんじゃない・・・そして俺は実習棟も壊してない、ボロボロにしただけだ・・・」
「それって結果的に変わらないんじゃ・・・」
「・・・これが違うんだよ・・・責任とかお金とか大人の事情で色々と・・・」
「き、汚い!さすが先輩汚い!」
((あ、あんなにあかりちゃんと仲良く喋ってる・・・!))
と、間宮とどうでもいい話をしをしていると・・・
とぅるるるるる、とぅるるるるる
「・・・ちょっと失礼・・・」
そう言って大尉は携帯の通話ボタンを押す。
ピッ
「・・・もしもし、遠山です・・・」
『大尉ですか!今どこにいますか?』
なぜか知らないが電話の向こうは切迫した状況のようだ、トバルカインの声も少し上ずっている。
「・・・武偵高新棟の建設現場だけど・・・」
『本当ですか!実は救護科棟に馬鹿でかい狼が現れて先生が負傷したんですよ!で、今追いかけてるその狼が工事現場に入ってったんですよ!』
と、耳を澄ますとバイクのエンジン音が聞こえる。どうやらトバルカイン達が狼を追いかけてここまで来たらしい。
「・・・負傷者だと・・・いや、そんな事はいい・・・今どこだ・・・」
『工事現場の真下です。今はレキと協力して追跡してて、2階ですかね。奴の尻尾まであと少しですよ。』
「・・・奴は何分前に入った・・・」
『1分くらい前ってとこですかね、今バイクで登っててちょうど3階を超えましたからすぐに追いつくと思います。』
・・・まずい・・・今俺が居るのが5階だから・・・だとすると・・・もうすぐにくるぞ・・・
もう耳を澄まさなくてもバイクのエンジン音が聞こえるところまで来ている。このままでは戦闘能力のない宗宮が危険だ・・・
「・・・おい、宗宮、こっちにこい・・・」
そう言って振り返った大尉が口をつぐんだ・・・いや、それを見て何も言えなくなったのだ。
そう、宗宮の後ろにいる、巨大な狼と目があってしまったからだ。殺気を大尉に向け、威嚇しているためか、唸り毛が逆立っている。
そしてそのまま、大尉と狼は動かなくなる。互いにどちらが先に動くかを見定めている様だ・・・
・・・今動けば宗宮が襲われるのは間違いない・・・戦闘能力のない宗宮ではあの巨体に物の数秒でボロ雑巾の様にされてしまうだろう・・・なら、奴が動く前に奴を倒せばいい・・・
その瞬間、1年生達の前から大尉の姿が一瞬にして消え失せ、狼の目の前まで移動する。
(!?)
狼は目の前で起こった事がわからず、状況不利と見て逃げようとするが、大尉が瞬く間に口を押さえ、全体重を上からかけて動けないように固める、まるで柔道の袈裟固めのようだ。が、流石狼、逃げようと必死に抵抗する。
・・・まだだ、あと一つ・・・
そして大尉がとどめとばかりに狼の耳元に口を近づけ、何かを囁いた。その瞬間、先程まで暴れていた狼がまるで飼い犬の様におとなしくなる。
「・・・え?へ?な、何が起こったんですか・・・?遠山先輩いつの間に・・・?」
突然の出来事に追いついて行けないのか宗宮があたふたしている。
「・・・わからん方がいいぞ・・・」
そう言って狼の拘束を解くと、狼の前に立つ。
「・・・よし、お手・・・」
パッ!
「・・・ご飯・・・」
パッ!
「・・・お座り・・・」
ペタッ!
「・・・よし、いい子だ・・・」
ナデナデ
そう言うと大尉は狼の顎を撫でる。狼の方も気持ち良さそうだ。と・・・
ブゥウウウウウウウンン!!
「着いた!狼はどこ・・・あれ?もう捕まえちゃったんですか?」
「・・・」
狼わ追跡していたレキとトバルカインの2人がバイクに乗りながら階段を登って来る。
「・・・ああ、何とかおとなしくなったよ・・・て、何でレキは下着姿なんだ?・・・しかもお前のコートなんか着て・・・」
「え、あーこれはですね、俺も服を着ろって言ったのにこいつが聞かなくてですね・・・」
・・・ふむ、つまりそう言う間柄か・・・よかったなトバルカイン、もうこれでお前から恋愛の愚痴話を聞くことはないだろう・・・まあ、とりあえずこの事を祝おう・・・
「・・・おめでとう・・・」
「「??」」
突然の祝いの言葉に首を傾げる2人であった。
ひとまず一年生を帰らせ、レキ、大尉、トバルカインの3人が残った。
「・・・で、こいつどうするんです?」
そう指差すのは先程大尉におすわりと言われて、ピクリとも動かないこの狼の事である。
「・・・俺の命令を聞く様にしたから無差別に人を襲う事はないと思う・・・まあ、依頼主に渡すかな・・・」
「それって命令した目標なら襲うって事ですよね?」
「私が飼います。」
「え?」
「私が飼います。」
「・・・いや、でも依頼主・・・」
「私が飼います。」
「・・・はい・・・」
ここに来て全く喋らなかったレキが喋ったと思ったら狼を飼いたいとゴリ押しして来た。
・・・まさかこいつが飼いたいなんてな・・・珍しく事もあるもんだ・・・
「・・・しょうがない、依頼主には俺から言っておくから・・・おい、こっち来い・・・」
そう言って狼を近くに呼ぶとまた狼の耳元で何かを囁く。
すると狼がレキの所まで走り、スキンシップをし始めた。レキもまんざらでは無いようで狼を撫でている。
「・・・意外だなぁ、レキが動物好きだなんて。」
「・・・いいんじゃないか?今の方がよっぽど人間らしい・・・狼も武偵犬とでも言っておけばそんなにとやかく言われないだろう・・・」
「ははは、全くですな。」
「・・・はー、疲れたな・・・帰ろう・・・」
「もうこんな事はこりごりですよ。」
そう言って新棟建設現場を後にした・・・まぶし夕日が3人を照らしあげていた・・・
『連絡
今回の保健室での身体測定の際に覗きが発生。主犯格は
2ーA組 伊達俊之
2ーA組 武藤剛毅
の両名。
これにより教務科から以下の両名に罰として紅鳴館の清掃を命じる。
東京武偵高校 教務科 』
どうだったでしょうか?少しグダグダしたかもしれません。
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