魔砲使いになった理由   作:タニアホテル

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街中の黒玉・前

 

 なのははカッと目を見開くと布団を跳ね除け上体を起こした。めくれた布団の一点を気迫の籠った目で見つめている。全身に走る痛みの余韻。前回それは恐怖に変わった。しかし今回は違う。それは闘志……戦うための強い意志へと変わった。

 顔を上げ立ち上がるとカーテンと窓を開ける。

 心地よい微風が静かに部屋に流れ込んできた。青空のもと2羽のちっちゃな小鳥が追いつ追われつしながら飛んでいく。朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。頭の中が澄んでいく。

 両頬を叩いて気合いを入れると窓を閉めた。それと同時に目覚ましが鳴る。再び今日が始まった。

 

 

 

 

 今回も前回と同じでいいかな。問題は倒す方法だよ。いかにしてあいつを倒すか。魔法を使えば簡単に倒せると思っていたけど、やっぱりそんなに甘くないよね。でも魔法で倒せるはずなんだ。魔法がある世界の人……動物が言うんだからそれは間違いないだろう。倒すための武器は既に持っているということだ。多分、攻撃が全然効いていなかったのは魔法が悪いわけじゃない。私が使いこなせていないからだ。ゲームで言えば熟練度が足りないという感じかな。使いまくってれば化ける可能性もあるのかも。まぁ初めて使うのだから下手なのは仕方ないといえば仕方ないかな。でも普通ならあれで終わりなんだよね。私が特別なんだ。そして私の強みでもある……。いかに早く使いこなせるようになるか、状況に合わせて使えるかが重要だ。

 

「なのはちゃん、なんだか楽しそうだね。何かあったの?」

 

「え? えーっと……。低レベルでラスボスを攻略するにはどうすればいいかなって考えてたんだ」

 

 休み時間、いつの間にか近くにいたすずかが笑みを浮かべ顔を覗き込み尋ねてきた。突然のことにびっくりするがなんとか誤魔化す。

 すると今度は「さすが不屈の攻略者。相変わらず、なのははゲームが大好きよね」とアリサに笑われる。なのはは「ちょっと好きなだけだよ」と返すが「はいはい」と一蹴されてしまった。納得いかない。

 なのはは2人との会話がとても楽しかった。しかし、どうせ2人は覚えていないのだからもう気にする必要なんてないだろう、と心の何処かで思っている自分に気づき激しく自己嫌悪する。こんな自分は、友達でいることすら、一緒に話すことすら許されないのではないかと胸が苦しくなった。

 ……巨大樹をなんとかできた時、繰り返す必要が無くなった時、2人に謝ろう。

 休み時間が終わり授業が始まると再び夜のことを考え始める。

 それにしてもあの突進を受けても生きていたのは、今考えるとびっくり。あのネコ耳ローブで少なからず防御力が上がってたということかな。でも1回受けただけで動けなくなるなら意味ないんじゃ……。いや、鞭攻撃はおそらく突進よりも攻撃力はないはず。だったら鞭攻撃のダメージを大幅に軽減してくれるかも? それにバリアは突進を一瞬だけど防げていた。鞭攻撃を防げると考えて間違いないかな。よしよし。つまり、突進は回避して鞭は防御。硬直したところを攻撃。よしよし。それでいこう。

 なのはは無言で何度も頷く。隣の子が奇妙なものでも見るような視線を向けていたが、当然気づくことはなかった。

 

「いざ参る!」

 

 なのはは気合いを入れると前回と同じ時間に家を出た。

 動物病院の敷地に入り真っ直ぐフェレットのいる部屋の窓へ向かう。3回目になる説明を聞くとフェレットが魔法で鍵を開ける。なのはは前回のように驚くことはせず、それをじっと観察していた。

 これは相手の動きを封じる魔法? 使えたら便利かも。でもこんな鎖であいつ止められるわけないよね……いや、私が上手く使えれば止められるかもしれないか。一度使ってみるべきかな。

 窓を開けレイジングハートを受け取る。まだ呪文は完全に覚えていない。フェレットに続けて呪文を言おうとした時、ふと思い出す。あんな光を空に向けて放ったら他の人に気づかれるんじゃないかと。

 少し考えた結果、室内に手を突っ込んで呪文を唱えることにした。フェレットが不思議そうに頭を傾げるが気にしない。そして唱え終わると光が室内を桜色に染め上げる。それは部屋から溢れ外へ流れた。

 前回と同じイメージでバリアジャケットと杖を構築する。ちゃんと服が変わっているか確認すると次に杖を持ち上げた。

 これで殴った方がダメージ与えられたりして……。魔法を纏わせて魔法剣ならぬ魔法杖か。雷とか炎とか氷とか、段階が上がるごとにラとガがついていくんだよね。凄くかっこいいじゃないか。いずれ使いこなしてみせる。

 杖を両手で握り振ってみる。先端が薄い桜色を纏って軌跡を描く。重くはない。でもふらふらだ。なのははそれで満足なのか口元に笑みを浮かべ頷いている。それからレイジングハートを軽く撫でた。

 

「よろしく、レイジングハート」

 

 レイジングハートが何かを言うが相変わらず分からない。話の流れから挨拶だろうと予想する。

 そういえばフェレットさんの名前聞いてなかったな。今聞いておくべきだよね。……いや待って待って。今聞いちゃうと次の世界でまだ本人が名乗ってないのに名前呼んじゃうかもしれない。いや勿論死ぬつもりで挑むわけではないんだけどもっ。……あいつを倒したときでいっか。そんなことよりも魔法について聞こう。

 

「ねえ、強い魔法を使うときはどうすればいいのかな?」

 

「基本的な魔法は心に願うだけで使えるよ。より大きな魔法は呪文が必要になる。心を澄ませばあなただけの呪文が思い浮かぶはずです」

 

 なるほどとなのはは目を閉じて心を澄ませ集中する。

 ……リリカルマジカル? え……これが呪文? なんかこれ言うの恥ずかしくない? もっとこう「いざ天より来たれ」とか「我と汝の盟約において」とかそういうかっこいいのがよかったな……。まぁいいや。そろそろ来るころだよね。多分今の私じゃダメージ与えられないと思うけれど、とりあえず使ってみよっか。

 

「リリカル、マジカル……」

 

「え、い、今使うの!? ッ! 封印すべきは忌まわしき器ジュエルシード!」

 

「ジュエルシード封印」

 

 先端付近の柄から、桜色の羽根が上2枚、下1枚展開する。ちょうどやってきた黒い化け物に向かって何本かの光の帯が放たれる。それは目標に辿り着くと一瞬で絡み付き縛り上げた。黒い化け物は咆哮を上げると眉間に何やら赤い文字が浮かび上がった。

 

「リリカル、マジカル……ジュエルシード封印」

 

 これは……もしかしたらもしかするかも!?

 ここまで上手くいっているため、少し期待してしまう。もう一度、光の帯が敵を貫かんばかりに射出された。しかし、それとほぼ同時に、縛り上げていた帯は引きちぎられ眉間の文字も消える。射出された何本かは全く見当違いの所へ飛んでいき、残りは敵に接触。数秒の均衡の後、表面を浅く傷つけ消失した。

 黒い化け物は目は見開き体を膨張させると新たに触手を2本増やした。お怒りのようだ。レイジングハートの羽根が消え元に戻る。

 うん。分かってた。

 なのはは、いつものごとくフェレットを掴むと横に飛びのいた。相手の突進速度が幾分上がっているようだ。そして違和感に気が付く。今まで感じたことが無いような倦怠感。動くのが非常に億劫だった。これはまずいと内心で舌打ちする。立ち上がろうとするがそれすらもしんどい。

 

「君の魔法でなんとかできないの?」

 

「……ごめん。今の僕じゃ魔力が足りなくて。簡単なものしか使えないんだ」

 

 硬直中の黒い化け物に向かって魔法弾をポコンポコン当てながら「そっか」と一言返す。

 

「どうすれば魔法弾の威力が上がるのかな?」

 

 横に回避しそのまま重力に任せ地面に張り付く。風切り音と衝突音。立ち上がって再び撃つ。もう息が切れ始めている。

 

「ま、魔力を圧縮し効率よくエネルギーに変換しなきゃいけないっ。まずは自分の魔力の流れを感じっ……」

 

 辛うじて回避。もう相手の動きなど見ていない。完全に勘。相手と目があった瞬間に横に身を捻ってるだけ。次の突進は避けられないかもしれないと考えながら「なるほど」とフェレットに頷き返す。

 フェレットに言われた通り、魔法弾を撃ちながら、体の中心辺りから流れ出ていく魔力らしきものに意識を向ける。しかし、ぼんやりとしていてよく分からない。あと何十発くらいか撃てば分かるのだろうか。

 なのはは杖を構えバリアを張る。空気の破裂する音と共に触手がバリアを4連打する。ガラスを踏みつけたかのような音がしたかと思うとバリアに罅がはいった。

 

「攻撃に当たっちゃったら……私のことはいいからすぐに……逃げてね」

 

 ここまでは何が来るか分かっていたためなんとか凌げていた。しかしここからは未知の領域。突進か鞭か。それとも新たな攻撃か。どちらにせよ、もうまともな回避はできない。スタミナ切れ。息が苦しい。飛び込んだり伏せたり起き上がったり。たかが数回。されど数回。なのはにとっては大変きついのだ。最初の封印魔法を使わなければもうちょっと頑張れたかもしれないが……今更だろう。

 意を決して横に飛び込む。その時黒い化け物が触手を振るのがちらと見えた。

 あ、ミスっちゃった。

 時間の流れが緩やかになった。迫りくる触手。座り込んだなのはは、金縛りにでもあっているかのように、それを見つめたまま動けない。

 当たる。そう思った時レイジングハートが光り、触手がバリアに阻まれた。時間の流れが元に戻った。

 なのははフェレットを離し立ち上がるとレイジングハートにお礼を言った。

 た、助かった……。やっぱり勘じゃ辛いな。ちゃんと相手の動きから予測しないと。

 一挙一動見逃すまいと黒い化け物を見据える。すぐに避けられるように足を開き、すぐにバリアを張れるよう杖を構えた。吹き抜ける夜風がローブをやわらかく揺らした。

 黒い化け物が地面を蹴ろうとする挙動を見て取った。それから一瞬遅れて体が動く。

 ダメだっ。間に合わない!

 右腕に直撃した。千切れ飛んでしまったと錯覚するほどの衝撃に思わず倒れ込んでしまう。咄嗟に立ち上がろうと腕を動かす。

 ッッ!!

 右腕全体に走った激痛に声にならない悲鳴を上げ身を縮こめる。涙目になりながら腕に視線を向けるがバリアジャケットは破れていないし血も出ていない。しかし腕は動かない。いや、動かそうとすると気絶しそうな程の苦痛が襲い掛かり動かせない。肩から指の先まで、骨が粉砕されていた。バリアジャケットがなければ本当に千切れ飛んでいただろう。

 痛いっ! なんで片腕だけなのにこんなに痛いの!? 前回も痛かったけど今回も同じくらい痛いよっ! ……いや、こんなの全然痛くなんかないっ!

 レイジングハートが点滅しながら何かを言っている。おそらく心配してくれているのだろう。額に脂汗を浮かべながら「大丈夫だよ。この程度どうってことない」とレイジングハートに、そして自分に言い聞かせる。

 ぎりっと奥歯を噛みしめて、なるべく右手に振動を与えないように起き上がった。重力が加わっただけで泣き叫びたくなる。駆け寄ってきたフェレットに一切視線を向けることなく「早く逃げて」と一言だけいった。

 顔に苦悶の色を浮かべながら、どうするかを考える。触手以外の攻撃が来ると打つ手がない。完全に詰んでいる。ならばどうするか。ふと、そういえばフェレットが鎖の魔法を使っていたなと思い出す。どうせ打つ手がないのならば使ってみるのも悪くないと杖を構え念じる。

 桜色の魔法陣から出現した4本の鎖が、黒い化け物を拘束すべく放たれる。

 あ、これダメっぽい。

 鎖なんてお構いなくそのまま突進してきた。鎖はまるで、迫りくる黒い化け物に恐れをなし慌てて距離をとるかのように弾かれてしまった。

 無防備な今、直撃すれば痛みを感じる間もなく朝に戻るだろう。

 当たる直前、レイジングハートが光った。黒い化け物はバリアに阻まれた。

 ……レイジングハート。気持ちはすっごく嬉しいんだけどね。私……。

 見る見るうちに罅が入り割れた。なのはの軽い体は盛大に吹き飛ばされた。

 

「うっ、うぐ、ぐっうぅっ」

 

 体中から沸き起こる苦痛に呻く。特に右腕がわけが分からない程痛い。体中が脂汗でびっしょりだ。杖は離すことなく握っていた。なんとか起き上がろうと試みるがあまりの痛さに動けない。そして無意識に右手を庇おうとする自分に気が付き、本当に起き上がるつもりがあるのかと腹が立った。

 このくらい大したことないと頭で繰り返す。僅かに持ち上がった上体を支えようと態と右手を地面に付いた。瞬間、神経を焼かれるような激痛と共に再び地面に崩れ落ちてしまった。なのははそのまま脱力すると夜空を見上げる。

 本当に情けないなぁ。…………目が霞んで星が見えないや。

 なのはは目を閉じると、砂金を撒き散らしたかのような星空を脳裏に思い浮かべる。

 そのまま意識は暗転した。

 

 

 

 

 目を開くと自室の天井だった。先程の余韻に浸りながら思う。

 私、すでに心が折れそうだよ……。

 しばらくの間、死人のように虚ろな瞳でぼんやり天井を見つめる。

 ……でも大丈夫。絶対投げ出さないから。挫折しそうになるのは縛りプレイではいつものこと……。

 ベッドから抜けだすと机の引き出しからノートを取り出した。そして妙に使い込まれたそれを懐かしむようにペラペラと流し読む。

 それは努力の結晶。ゲームで登場するモンスターの詳細データ……攻撃パターンが、所狭しと書き込まれていた。

 そっと閉じると引き出しに戻す。目覚ましが鳴り出したが無視して窓を開け放った。起き抜けの髪を心地良い風がそっと撫でつけた。

 ……だけど私はいつだってそれを乗り越えてきた。どんなに過酷な条件でも私は諦めなかった。絶対に攻略できないならまだしも、必ず魔法で攻略できると分かってる。しかもまだ始まったばかりだ。ゲームで言えば最初の町から外に踏み出したところじゃないか。諦めるにしてはあまりに早すぎる。こんなところで躓いていられないんだ。…………全てを攻略してハッピーエンディングを迎えるんだ。

 それは今よりもずっと小さな頃から現在に至るまで、一度として攻略を諦めたことが無いなのはの意地だった。

 相変わらず虚ろな目を細めて澄み渡った空を見る。なのはから滲み出る雰囲気は歴戦の攻略者のそれだった。

 

「なのは、おはよう。起き……どうしたの?」

 

 扉を開け部屋を覗いた美由希は、外に向かって仁王立ちしているなのはから、よく分からない雰囲気を感じ首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 まずやらなければならないことは、相手の攻撃を最小限の動きで確実に避けられるようになることか。そうじゃないと私の体力じゃすぐに動けなくなってしまう。正直、運動が苦手な私にできる気がしないけど……私はお父さんの娘でありお兄ちゃんとお姉ちゃんの妹だ。必ずできるようになるはず。……無理やりにでも自分を信じるんだ。

 ふと、いつかのアリサとすずかの会話を思い出して胸が暖かくなった。ひどく懐かしく感じた。一瞬なのはの表情は哀愁を帯びるが、すぐに真剣な表情に戻った。

 それと魔力の流れを掴んで制御、圧縮を上手くできるようになることか。これができないとダメージが与えられられないもんね。あとは痛みに慣れること……かな。これが一番重要だね……。そして一番困難かな……。

 当面の目標を立て、黒い化け物の攻略を本格的に始めだした。

 突進してくる時の挙動。触手を振る前触れ。空へ飛びあがる時の条件。それぞれの攻撃範囲。避けるタイミング。無防備になるのはいつか。それはどの程度の長さか。

 挑み、観察し、情報を集め、、考察し、試行し、失敗し、レイジングハートがバリアを展開し、突進をくらって痛い思いをし、朝に戻り、反省し、再び挑む。

 一つずつ確実に攻略して体に覚え込ませる。まさに苦行。特にバリアからの突進がきつい。流石に途中から耐え切れなくなり「突進が直撃しそうな時はバリア張らないで」と戦う前にレイジングハートへ言うようになった。

 

 

 

 

 数回目の授業中のこと。今日も今日とて、攻撃を避けるための考察とイメージトレーニングをしていた。時々体が無意識に動いているようで、隣の子や後ろの子から「どうかしたの?」と聞かれることがままあった。しかし気にしている暇などない。そして魔力制御のことに考えがシフトする。

 前回、魔法弾撃ってた時、魔力の流れが分かったような気がするんだよね。胸のあたりから何かが流れていく感じ……。

 その時の感覚を思い出しながら魔力と思わしきものに意識を向ける。集中力が無くなるとそれはすぐに見失ってしまう。そのまま掌を杖の先に見立てて、魔法弾を生成する瞬間の流れをイメージする。その時、掌に淡い桜色が小さく灯った。それを見た瞬間心臓がドキンと飛び跳ねた。慌てて机の下に手を隠すと、誰かに見られたのではないかと辺りを見渡す。

 だ、大丈夫。誰も見ていなっ……。

 目が合った。アリサとばっちり目が合った。とても可愛らしい笑顔だった。冷たい水が一滴、すっと背中を伝ったように感じた。

 それから少しすると紙の切れ端が隣の生徒から回って来た。

 

 休み時間聞かせてね アリサ

 

 やっぱり見られてたっ! ど、どうしよどうしよっ! 待って待って、こういう時こそ落ち着かねばならぬぞい。……ぞいってなにさっ! 落ち着け落ち着けヒッヒッフー。

 いつものことながら、内心は激しく動揺しまくりであるが、表面上はあくまでいつも通り。

 一度思考を止め、チラーンとアリサに視線を向ける。とても可愛らしい笑顔でこちらを見ていた。汗が止まらない。頬が引きつる。

 ああぁあん! なんて説明しようっ! 実は私、魔法が使えるんだよって正直に言う? そんなの信じてくれるわけないじゃ……ん? いや、そう言った方が案外誤魔化せるかもしれないっ! よしよし。案ずることはないぞい。

 

「で、さっきのは何だったのかね? なのはくん」

 

「え、えっと言っている意味がよく分からないんですけどアリサさん」

 

「とぼけても無駄ですぞ? さぁ正直に吐いて楽になったらどうかね?」

 

「2人とも何かのドラマの真似?」

 

 早速なのはの机の前にやってきたアリサとそれに付いてきたすずか。

 なんか普通に誤魔化せる気がしてきたよ? アリサちゃんの気のせいではないでしょうか、とでも言っておけば多分大丈夫かも。

 

「さっき、なのはが掌から桜色の光を出してたのよ。それでそれが何だったのか問い詰めてるわけ」

 

 なのはは内心で激しくガッツポーズをきめる。これは有耶無耶にできるチャンスだ。2人きりならともかくすずかがいる前で話したのは間違いだ。

 なのははアリサにチェックをかける。

 

「……アリサちゃん。そういうのなんていうか私聞いたことあるかも。何て言ったっけかな」

 

 眉を寄せ、こめかみを指でトントン叩き、思い出す素振りをしながら続ける。

 

「えーっと、たしか白昼夢っていうんだ。アリサちゃんの非現実的なことが起こってほしいっていう願いが幻となって現れたんじゃないかな? でもそれは珍しいことじゃないらしいよ」

 

 なのはは花咲くように可愛らしく微笑む。

 

「へぇ、そんなのあるんだ。なのはちゃんよく知ってるね。たしかに手から光は出ないかな……。アリサちゃんの見間違えなんじゃない?」

 

 すずかが聖母のように優しく微笑む。

 アリサは呆けた顔で2人を交互に見る。そして言われたことを理解すると瞬間湯沸かし器のように顔を熱くしていく。そのうち湯気でも出すのではないかと思われるほどだった。

 

「……そ、そうかもしれない。……だけど私は別に非現実的なこと望んでるわけじゃないんだからねっ」

 

 アリサは恥ずかさを誤魔化すかのように、なのはの両頬を摘まみ、むにむにと横に引っ張る。

 

「ひゃいひゃい。わかっひぇるっへ」

 

 休み時間が終わり、2人が戻っていく。なのははほっと胸を撫で下ろした。

 昼休みになるとすぐにトイレの個室へ駆け込んだ。そして便座に座ると魔力に意識を向け集中し始める。授業中の時のように、ライターの火程度の光が手に灯った。眉間に皺を寄せながら更に意識を集中する。ほんの僅かだが光が大きくなった。それ以上はどうやっても大きくならなかった。

 難しい……。魔力らしき存在は分かったんだけど自由に動かせないな。例えるなら、ある部分の筋肉だけを自由に動かしたいのに動かせないみたいな。もっと慣れるしかないのかな。

 なのはは昼食を取ることも忘れて、延々と光を出したり消したりを繰り返した。

 昼休みが終わって教室に戻った時、アリサにねちっこく絡まれたのは言うまでもない。

 

 

 


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