聖剣コンビ?がノルマクリアを目指す   作:せるん2

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わりと難産でした。途中で半分以上書き直したり。
あと何話くらいで序盤を書き終われることやら。


3話 刹那と木乃香

 せいばあ:やりすぎじゃない?

 にゅう:何が?

 せいばあ:刹那の焚きつけ。俺も剣道部でアイツも剣道部だから知ってるんだけど、剣が殺気だって他の部員が怖がってる。

 せいばあ:今日なんて練習中にふと虚空を睨んだかと思ったら『あの女ぁ(ギリィ』とか呟いてんの。君、近いうちに殺されんじゃない?

 せいばあ:まあ、この前までの腑抜けた剣に比べれば余程いいけど。

 せいばあ:護衛の立場を奪われて消沈していたのが、その奪った相手である君に煽られたことで噴火したって感じかな。

 

どうも、元・内藤ことアルトリア・ペンドラゴンです。ニューに刹那を刺激してもらい始めてから約1週間、腑抜けてた刹那がやる気出すのを飛び越えて殺意の波動に目覚めたでござるの巻き。

 

 にゅう:まあ、ここ数日、近衛さんたちとは大分仲良くなったからなあ。

 にゅう:更には、2-A特有のノリと女子中学生のはっちゃけ具合を利用して結構なイチャつきを見せつけてやったし

 にゅう:昼飯をアーンして食べさせあったり、ことあるごとに軽く触れ合う程度のスキンシップにおふざけのハグ。  

 にゅう:その度に、桜咲だけに分かる程度に桜咲に向けて『ニヤリ(邪悪』ってやってるから、そりゃあストレスも貯まるわ

 せいばあ:これは酷い。まさに外道。

 

ノリノリだなあ、こういうところは佐藤君……いや、違う違う。彼女はもうニューだ。それに……

 

 せいばあ:いや、待て、よく見たら触れあいの内容もすっごいなオイ。今の君はそんなに積極的なタイプではなかったと思ったが

 

ニューは人付き合いが苦手なはず……そりゃ研究所でのモルモット暮らしでコミュ力が退化してしまっただろうし仕方がない。そんな彼女がこの短期間でそんなリア充階級の女子グループみたいな行為を進んで……?

 

 にゅう:積極的に受け入れてるわけないだろ。毎回軽く赤面だわ。この身体、感情が表情に出にくいはずなのに

 にゅう:私はどっちかっていうとそれらを受け入れる側なんだ。空気読んで、アーンされたらこっちもアーンし返したり、触れられたら触れ返したりもして

 

話聞いてるだけで、恥ずかしいの我慢して赤面しつつも『アーン』ってやってくれるニューを想像して身悶えするんですけど。

 

 にゅう:私がそうやって、照れながらもそれらを受け入れたり自分からも動いたりするのを、早乙女が面白がってね。そういうちょっと過剰な親愛表現がグループ内で流行っちゃったんだ。

 

そりゃ流行る。俺も流行らせる。早乙女とやらとはまだ顔も合わせたこともないが仲良くできそうだ。

 

 にゅう:私としては、それらの行為が桜咲を煽る材料になるから受け入れざるをえないし、こっちも動かざるをえないってだけだったんだけど……

 にゅう:なんかそれが変に誤解されて『人付き合い苦手だけど一生懸命頑張ってる子』みたいに好感度高い評価されちゃって

 にゅう:評価が上がった結果、スキンシップが増えるというデススパイラル。

 にゅう:どうにも、あのグループの中でイジリ対象、愛され系マスコットに認定されてるっぽい。

 せいばあ:やっぱり女の子の才能あったんだな君。

 

ニューの文章からは桜咲を煽るために仕方なくという嫌々感が伝わってくるが、『人付き合い苦手だけど一生懸命頑張ってる子』というのもあながち間違いじゃない。

刹那を刺激するという理由。新しい友達と仲良くするという理由。どちらにしろ、恥ずかしい行為を開き直ってやっているという点について違いはないからだ。

彼女は自分で気づいていないだろうが、まともに過ごせなかった時間を取り戻そうという想いから、コミュ力を回復しようと頑張っているようだ。

 

 にゅう:今日なんか近衛さんとポッキーゲームなんかやらされちゃったからな。もちろん途中で折れた。私はラグナのものだし当然だけど。

 にゅう:そんで例のごとく『ニヤリ(邪悪』ってやったら、すっごい殺気向けられちゃったよ。クラスの実力者勢が何事かと驚いてた。

 にゅう:いやあ、桜咲さ、今まで闘気や敵意は向けてきてたけど、殺気は今日が初めてだったからびびったよ。

 せいばあ:……やっぱやりすぎじゃない? 後々関係修復できんの?

 

ニューが桜咲に妙に入れ込んでいるのはなんとなく感じていたが、それにしたって行動が大胆だ。

 

 にゅう:後のことは後のことだ。第1段階の時点でアイツの心を乱しておいた方が、それ以降の段階が効果的になる。

 にゅう:それに、第2段階はアルトリアに嫌な役目を任せることになるし、私もできる限りのことをやっておきたい。

 

俺に気を使ってるのか。でも……

 

 せいばあ:まだ1つ目のノルマだぞ? こんな早くから主要な人物である彼女と軋轢を深めてどうする。

 にゅう:それは大丈夫。なんだかんだでアイツはいい子だし、私たちが成功しさえすれば、最終的には笑い話になる。

 

まあ、そうなるように努力はするし、刹那の人柄から考えても、関係が酷い方向に悪化するとは考えにくいが……

 

 にゅう:あなたはまだ1つ目のノルマというが、1つでも失敗すれば、そこでこのチャレンジは終わりだ。

 にゅう:残りの人生を、ノルマを達成できなかった後悔を長々と抱えて生きていくことになる。そんなのはごめんだ。

 にゅう:それに、山中はチュートリアルだと言っていたが、こういう人間としての力を試されるノルマこそ、私たちの鬼門だと考えている。

 にゅう:むしろ、戦闘系ノルマの方が気持ちに余裕を持って臨めただろうさ。

 にゅう:だから、私は今日まで全力を尽くした。そして、明日はあなたのターンだよ。

 にゅう:アルトリアとしてのあなたなら何の問題もないはず。成功を確信している。

 

ふ、ふふふ、はははは。そうか、そうだよな。やっぱり君は凄い。ちょっと前までは相当弱っていたのに。溜まっていたものを吐き出させたのが良かったのかな?

 

『佐藤君』としての強さはなくなっても、既に『ニュー』として、こんなにも強くなっているなんて……そうだよ、俺が君の心配をするだなんて、筋違いもいいとこだった。

 

 せいばあ:まったく、心配してたはずなのに、励まされちゃったよ。

 せいばあ:明日、俺は、俺自身嫌いだと思っているタイプの人間になってくる。せっかく部活で少しは仲良くなった刹那と、少しギクシャクするかもしれない。

 せいばあ:でも、やらなきゃな。喧嘩したとしても、仲直りすればいいんだし。

 せいばあ:俺たちだって刹那を煽って仲直りさせるんだ。自分たちはそんな勇気ありませんなんて、言えないよな。

 

うし、腹括った。

 

 せいばあ:あ、最後に確認とるけど、刹那にとって近衛さんが大切な存在だっていうのをニューは聞かされてるんだよな?

 にゅう:うん。詳細は聞いてないけど、その辺り配慮してくれって。学園長なりの優しさだね。

 せいばあ:OK。なら問題ない。

 

明日の剣道部の活動後、近衛木乃香×桜咲刹那作戦の第2段階を仕掛ける!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

剣道部の練習が終わり、更衣室で着替えを済ませた途端にため息がでた。

 

ふと気付くと、随分時間をかけてしまっていたようで、更衣室に残っているのは私1人のようだった。

そんなことにも気が回らないほどに心が鈍っているとは……

 

「はあー……」

 

さっきよりも深いため息が漏れてしまった。

 

こんな情けない真似、道場ではできない。

いや、道場でも醜態は見せてしまっていたか。私の本来やっている剣術ならともかく、精神修行の場でもある剣道で殺気混じりの剣を振るってしまうとは……。

 

そんな殺気混じりの剣でも、嬉しそうに見てくれる人がいたが。

まあ、その人には今まで腑抜けたまま振るう剣しか見せていなかったから、私がやる気を出したように見える姿が好意的に映ったのだろう。

 

考えていて情けなすぎて悲しくなってくる。最近の私は情緒不安定にも程がある……原因は分かっているが。

 

 

私、桜咲刹那は関西呪術協会から関東魔法協会に出向している神鳴流の剣士だ。

その任務は、関西呪術協会の長、近衛詠春様の1人娘である近衛木乃香お嬢様を陰ながらお守りすること。

 

……『陰ながら』のところは自分で勝手に追加したものだが、間違いではあるまい。私のようなものがお嬢様に関わるのは百害あって一利なしだ。

 

むしろ私のような『忌み嫌われた系譜』のものが、幼少の折に遊び相手を務めさせていただいたという程度の理由でこんな大役を任されていいのだろうか、とすら考えていたぐらいだ。

 

そんな、『自分がお嬢様の近くにいてはいけないのでは?』という趣旨の考えすら持っていた私だが、そのお嬢様との関係の変化に、大きく心を乱している。

 

最初の変化は、昨年度の3学期の終わりのことだ。

その日、学園長に呼び出された私は『近衛木乃香お嬢様の護衛に補助が就くこと』を聞かされた。

 

ショックだった。私にとって、それは事実上の解任宣告だった。

学園長は『政府傘下の機関からの出向なので無碍にはできなかった』『追加の人員はあくまで補助である。主な仕事は君のアシストだ』といったことを話してくれていたような気がする。

 

だが、とても信じられるような話ではない。

 

つまり、その補助とやらは、要は私の後任なのだ。

護衛対象を陰ながら守ると言えば聞こえはいいが、実際は護衛対象に近づくことが許されない穢れた者である私に代わる人材なのだ。

 

それは当然だ。身体の半分に魔に連なる一族の血が流れ、更にはその一族の中でも禁忌の存在だった私が今までこの立場にいたことが、そもそもの間違いだったのだから。

 

補助の人間の実力も学園長に尋ねてみたが、先方がやけに自信を持って勧めてきているということぐらいしか分からないそうだった。

政府に連なる機関の肝入りだ。弱いわけはないだろう。

 

その補助とやらがもう少し実績を積めば、私はお払い箱になり西に返される。そんな未来が見えた。

 

私はもう昔のようにお嬢様の傍に控えることはできない。でも、陰から見守ることはできると思っていた。……甘い考えだった。

私のような魔の者が近くにいると、お嬢様が平穏な生活から遠ざかってしまう。そんなのは当たり前のことだったのに……。

 

自分の人生における最大の希望を奪われ、今年度に入ってからの私は酷い有様だった。あの守銭奴のルームメイトがあんみつを奢って励ましてくれる程度には憔悴していた。

……お嬢様も、そんな状態の私に声をかけてくれた。天にも昇る歓喜に包まれたが、そこは我慢して、いつものようにつれない態度で遠ざけたが。

そうする度にお嬢様が辛そうな顔をするのには堪えたが、お嬢様に平穏な毎日を送っていただくためであるし、心を鬼にする。

ここ最近だと昨日も話しかけられたが、冷たくあしらった。今回は薄らと目に涙が浮かんでいたようにさえ見えた。……心を鬼神にするんだ、桜咲刹那。

 

この頃に出会った凄まじい剣士には、随分と酷い姿を見せてしまっていたな……。

 

そのまま失意の底に腐り落ちていくのを待つ身だった私の前に、新たな悩みの種が現れた。

 

ニュー・絡繰。お嬢様の護衛補助担当官。おそらくは私の立場を奪う女。実力はパっと身の印象では……かなりのやり手だ。

私とどちらが強いかは直接戦わない限りは分からないが、政府に選ばれた実力者だ。私より出自ははっきりしているだろう。

 

そして手の早いことに、あの女は巧みにお嬢様に取り入り、既に一定の信頼を得て友人という立場にいる。

その時の手際など、ただの不器用な少女が勇気を振り絞っているようにしか見えず、最初は不覚にも私すら騙されたほどだ。

 

だが、あの女はお嬢様に近づくことに成功した直後に、私に向かって悪意のある笑みを浮かべたのだ!

 

あの笑みを見て確信した。ニューのヤツはお嬢様に友情など感じていない。ただ、お嬢様を自らの出世の足がかりとしか見ていないのだと!

そのために遊び半分で仲良しごっこに興じているだけなのだ!

ヤツは政府機関直属の人間。上昇志向もあるだろう。それになにより、あんなにもムカつく、いや、悪意に満ちた表情をする女だ。もう石油コンビナートぐらいの腹黒に違いない。

そうでなければ、あんなにもことあるごとに私を挑発するものか! 

 

あの笑みの下で、

 

『あ、桜咲さん、まだいたんですか? さっさと地元に帰ったらどうです?』

 

とか

 

『桜咲さん。近衛さんと最近ハグしましたか? 私はハグしてもらったんですけど、柔らかくて最高でしたよ♪』

 

とか!

 

『桜咲さん、もう近衛さんとキスしました? まだですよね? 初めては刹那ではない、このニューだ! なんちゃって』

 

とか!!

 

『桜咲さん、木乃香と寝ました? え、まだ? 私は寝たんですけど、木乃香、すっごく『いい』ですよ。今度貸してあげましょうか?』

 

とか!!! 

 

思っているに違いない!!!!

 

 

     ド     ン     ッ

 

 

………………………………気持ちが高ぶりすぎてロッカーを殴りつけてしまった。なんだ今の。思考が飛躍しすぎた。

 

こんなのはただの八つ当たりで、『願望』だ。

ニューのヤツが実はとてつもない悪党で、お嬢様に悪意を抱いていて、そしてそれを私が助けて、あわよくば元の私1人の護衛体制に戻ればいいという『願望』。

情けなすぎて涙が出る。ニューのアレの真意は、せいぜいが腑抜けたように見える私を舐めてかかっての嫌がらせ程度のことだろう。

 

ニューがお嬢様を利用する気だとしても、お嬢様を守ることに違いはないのだ。

それに、最近のニューはお嬢様に本当の友情を感じ始めているようにも見える。それも当然だ。お嬢様の優しさに触れてお嬢様を好きにならないはずがない。

そう、今の私はお嬢様を心配してニューに怒りを感じているのではなく、着々と『私の代わりに』お嬢様の隣に立とうとしているニューに嫉妬しているだけなのだ。

 

ふふ。情けないを通り越して笑えてくる。血も穢れていれば心も穢れるものなのか? あれほどお嬢様のためにも私は傍にいない方がいいと考えていた私が、いざ離れるとなるとこのざまだ。

 

……寂しい。木乃香お嬢様と離れたくない。でも私は傍にいちゃいけなくて、代わりはもう傍にいる。でもやっぱり傍にいたい。

 

「このちゃん……うち、どうすればええんやろ?」

 

涙が出てくる。ここにきて、まだお嬢様にすがるというのか? 死んでしまえ私。

 

……決めた。もう諦めよう。これから少なくとも半年から1年は解任されないだろうし、それまでお嬢様のお姿を精一杯目に焼きつけて、後の人生はその思い出を胸に抱えて生きていこう。

欲を言えばお嬢様の近況報告くらいは聞きたいものだ。その辺り、ニューに頼んでみるぐらいはいいかもしれない。

 

そう、私みたいな化け物にはそんな生き方がお似合いで、お嬢様との思い出があるだけ上等すぎるのだ。

 

諦めてしまえば、楽なもので、気持ちも落ち着いた。そうと決まれば明日からはニューと少しだけ仲良くしよう。

これからお嬢様のことを頼むのだし、仲良くなれば本当にお嬢様の近況報告ぐらいはしてくれるかもしれない。

 

さあ、帰ろう。

 

そんな後ろ向きに前向きなことを考えながら更衣室の扉を開けると、

 

「遅かったですね、刹那」

 

意外な人物が道場に残っていた。

 

アルトリア・ペンドラゴン。イギリスからの留学生で、剣道部に入部してから一ヶ月足らずで、その強さとカリスマで部の中心人物となりつつある凄腕の剣士。

 

単純な技量では完全に負けている。神鳴流は最強の流派だという確信はあるが、私自身が彼女にまるで及ばない。

しかもどうにも魔法関係の人物の用で、そちらも凄腕とのこと。あの龍宮でさえ『彼女をターゲットとする依頼をされたとしても絶対に断る。例えどんな高額報酬であろうとも。』と言っていたほどだ。

 

そんな彼女だが、どうにも日本が世界に誇る退魔剣術である神鳴流に興味があったとのことで、入部当初はよく私との手合わせを頼んできた。

しかし先ほども語ったが、その時の私は絶賛腑抜け街道邁進中だったために、瞬殺された。もうそれは見事なまでにいいとこなしだった。

 

彼女は口にこそ出さなかったが『ちょっと期待はずれかも』といった感じの表情をしていた。本気でごめんなさい。本当の神鳴流はあんなもんじゃないんです。

 

「……最近は気力が充実しているように見えていたのですが、また下がっているようですね。まあ、全ては私の友人に原因があるのでしょうけれど」

 

……そういえば、この人はニューとの仲が良いとクラスの人たちが話していたな。それにしても、話を振ってきたということは、ニューの関係で何か話があるのか?

 

「あのクソアマ、いえ、ニュー……さん、のことで何か話でも?」

 

うん。落ち着け私。これはセーフかアウトなら完全にアウトだ。

 

「ええ、その通りです。これから私が話すことは、友人であるニューのためにお節介を焼くのみに留まらず、あなたの事情に無暗に踏み込んでしまう話です」

 

スルーしてくれた!? いや、それよりもなんだ、私の事情に踏み込む……?

 

「まず1つ。ニューは彼女にとって一番大切な者を守るために、政府と契約を結んで今回の任務を受けています」

 

「はあ……?」

 

そういうこともあるのではないだろうか? だが、それでお嬢様の護衛の手を抜くわけではあるまい。

これから全てを任せる気である私が、『手を抜くな』と思うのも酷い話だが。

 

「では2つ目。そういうふうに政府と契約を結んでいるので、近衛木乃香を護衛する際には政府の意向が入ることもあります。まあ、ニューは近衛木乃香のことを気にいっているようなので、悪いようにはしないでしょう」

 

「ふむ……」

 

雇い主の意向が介入するのも当然と言えば当然。私だって西の長の意向通り、お嬢様には裏の世界の情報はシャットアウトしていた。

それは私としてもありがたいことだったし。

 

「3つ目。ニューの任務は近衛木乃香の高校卒業までです。それ以降は更に高貴な血筋の方々関係の職務に就きます。今回の任務はキャリアアップの試練という側面もありますね」

 

え、それじゃあ?

 

「大学以降はどうなるんですか?」

 

「さあ、時間もあるし、学園長がどうにかするのでは?」

 

返答が妙に冷たい。だが、そうか、任期が短いのか……。

 

「4つ目。ニューがあなたに繰り返した挑発は、あの子なりの激励だったようですよ。どうにも、正規の護衛担当者が護衛対象と接することがないのを見て、喧嘩でもしたのかと思ったらしくて。なので『どうだ、新入りの私の方が護衛対象と上手くやっているぞ』と見せつけることで、仲直りを促そうとしたらしいです」

 

「うわあ……」

 

私が言う資格はないが、人付き合い下手すぎるだろうアイツ。というか、陰からこっそり守るのは日本の忍びとかの伝統芸能だ。

だが、最初に感じた印象通り、そう悪いヤツではなかったんだな……。

 

ここまで聞く限りだと、後のことをニューに任せるのは、そこまで悪くないのではないかと思えた。

アルトリアさんが言うのなら、実際ニューは好人物なのだろう。

 

だが、

 

「そして最後に。ニューは、刹那、あなたから近衛木乃香の護衛という立場を完全に奪い取るつもりです」

 

ガツンと、頭を殴られたような感覚がした。さっきからそのつもりで、更にその決意を固めていたところだったにも関わらず。

 

「なぜ……」

 

「昨日、あなたが近衛木乃香に話しかけられたにも関わらず冷たくあしらい、泣かせてしまった現場を見てしまったらしくて……『あんなヤツに近衛さんを任せておけるか』と、それはもう怒り心頭で」

 

「あの時か……!」

 

よりにもよって……なんてタイミングの悪さだ。

 

「こうも言っていました。『学園長に言われていたから、桜咲が本当は近衛木乃香を大切に思っているのだと思い込んでいた……でも違った』と」

 

「そんなことない!! 私は……!!!」

 

お嬢様のことを思って! だって、私の傍にいるとお嬢様が……

 

「……あなた方がどのような喧嘩をしたのかは知りませんが、刹那、あなたは近衛木乃香と仲直りすることを怖がっているのですね」

 

真実を知らない者の、的外れなはずの発言。だが、なぜか心に刺さった。

 

「あなたと近衛木乃香の友好関係がどの程度のものだったのかは知りませんが……彼女が傷つくことよりも、自分が傷つくことの方を恐れているくらいなら、護衛なんてやめてしまいなさい。

ただ、もしそうでないのなら、しっかりニューに言ってやればいい。『余計な真似はするな』とね」

 

違う! そういう問題ではないんです!! そう言いたいのに、言葉がでない。何故だ……心のどこかで認めているのか?

私が、お嬢様のためと思っている行為が、実は自分の身かわいさにやっていたことだとでも、認めているというのか!?

 

「……申し訳ありません。私の友人は思い込んだら一直線なので、当事者であるあなたには話した方がいいと思いまして。その結果、あなたと近衛木乃香の関係について首を突っ込むことになってしまいました。重ねて謝罪します」

 

そう言って、アルトリアさんは頭を下げた。……この人に頭を下げられると、何か恐縮してしまう。

 

でも、私は何の言葉も発することができなかった。これからどうすればいいのか、指針がまるでなくなってしまったからだ。

ついさっきまでは何もかも諦めたつもりなのに、ほんの数分足らずの会話で揺らいでいる。

 

「いろいろ言いましたが、どうするのかを選ぶのはあなたの自由です。最初、私はニューが暴走しているだけだと思っていましたが……あなたの反応を見る限り、どうやら訳有りのようだ。私の方からニューに深入りしないように注意しましょうか?」

 

喧嘩とかそういった理由ではないということは理解してもらえたようだ。確かに、ニューの行動を止めてもらって、現状維持をするのは簡単かもしれない。でも。

 

「いえ、大丈夫です……私から、ニュー、さんに、ちゃんと言います」

 

そうだ、さっきも考えたはずだ。今まで私のようなお嬢様の不利益となる者が護衛を務めていた方がおかしいのだと。代わりとなる人材が来たのなら、いつまでも我が儘言わずに潔く身を引くのが正しいんだ。

 

「そうですか……それでは、先に失礼します」

 

……私がどういう対応をするのか聞かなかったな。

こんなお節介を焼くくらいだ。例えどういう事態になったとしても、彼女はニューのフォローをするのだろう。そしてそのニューが、これからはお嬢様を守っていくのだ。

アルトリアさんの話だと、お嬢様のために名目上は仕事の上司である私に対して怒りを向けてくるぐらいにはお嬢様を想ってくれているようだし、何の問題もない。

 

そう、何の問題もない……だから、これで、いいんだ。

 

アルトリアさんもいなくなり、私1人となった道場で、決意を固め直した。

 

……直したといったら直せたんだ。そのはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2段階終了。どうも、アルトリアです。

事情が掴めないながらもなんとなく察してお節介にも首をつっこむ。そんなKYを上手く表現できただろうか?

 

まあ、それはいい。第1段階ではあくまで刹那の想像上の出来事で嫉妬心や敵愾心を煽ることが目的だった。

だが、第2段階は『具体的な説明を入れることで、不安を現実のものだと認識させる』というものだ。

 

アルトリアとしての俺にはカリスマのようなものがある。割と失礼なことをしてても、しっかり相手の心に言葉を響かせることができるのだ。

なので、そんなカリスマ溢れる俺の言葉で刹那の不安を煽り、忠告気味な励ましの言葉も掛けた。

 

それによって、刹那は『なにくそ、あんなポっと出に負けてたまるか、お嬢様はうちのもんじゃボケ』となり、近衛木乃香に自分から接触していくようになる……というのが、ニューの作戦なのだが……大丈夫かこれ?

 

原作とか最近の刹那を見てても思うが、この時期の刹那にそこまでの根性があるのか? 修学旅行とかでも、ところどころいいところはあったものの、問題が解決するまでは相当後ろ向きで対応が後手後手だったぞ。

修学旅行、学園祭、魔法世界での体験を経れば、中々に強い女になるというのは知っているが……現時点の刹那だと、近衛木乃香から逃げる道を選ぶ気がする。さっきの顔はそういう弱者の顔だ。

 

いや、でも、逃げた先に『お嬢様』はいないわけで、魔法世界編での『お嬢様』が近くにいないことで取り乱していた場面を見る限りだと……その弱さがカギか。案外、ニューのいう通りになるかもな。

 

今回の件は、刹那と近衛木乃香の両方に接する機会が多く、さらには刹那に妙に共感していたニューに大部分を任せてしまった。

そして、実際に生の2人に触れたニューが提案した作戦だ。ならば、まだ原作のイメージの方が大きい程度の付き合いの俺が不安に思うのも刹那に失礼か……。

 

作戦の第3段階はない。あえていうなら、ニューが今まで通り刹那を煽るのがそれだ。ニューの考えでは、数日中に刹那がアクションを起こすはずとのこと。

 

『もし、何も動く気配がなかったら、おとなしく新しい作戦を考えよう』なんて言っていたが、随分と自信があるようだったし……今週中には、この小ノルマ①を達成してしまうかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。私はいつも通り、教室の自分の席で瞑想していた。

 

ニューに話に行くのは……放課後でいいだろう。うん。今日で見納めなのだし、しっかりと1日かけてお嬢様のお姿をこの目に焼き付けなければ。

 

「でさあ、やっぱり今日は地下3階の奥の方行ってみようよ。ニューさんもいるし大丈夫だって」

 

「そうですね……確かに、私たちだけだと少し躊躇しましたが、ニューさんがいれば万が一にも備えられますか」

 

「……うん。大丈夫」

 

ちらと見ると、そこには今日の探索の予定を話している図書館探検部のメンバーとニュー。随分と融け込んだな。

頼りにされて、それに自信を持って応えられるとは……どうにも羨ましい。

 

「えー。でも、少し危なくない? もうちょい2階ぐらいで慣らしてからでもええんちゃう? ケガしてから後悔するんも嫌やし」

 

流石お嬢様! なんという冷静で的確な判断力なんだ!

 

「近衛さんは、私が信じられない……?」

 

貴様なにを言ってるニュー・絡繰! 政府の犬で、命令されればお嬢様のことを見捨てるのも厭わない立場のヤツが何を生意気なことを……。

 

あれ、なんだこの考えは? 私は、昨日、アルトリアさんから聞かされた話を、何故こうも悪意を込めた形で捉えているんだ?

 

「いや、そういうわけじゃないんよ? でも……」

 

「守る」

 

「え?」

 

「近衛さんのことは……私がちゃんと守る。それじゃあ……駄目、かな?」

 

何言ってるんだお前ふざけるなよお前たしか自分の大切なもののためにお嬢様の護衛任務を踏み台にしてるだけのくせにどこまでいってもお嬢様が一番大切というわけでもない癖にその台詞を吐くのかこの…………。

 

落ち着け、また思考が悪意的に……。

 

「えー。どないしよ。そんなこと言われたら、任せたくなるやん」

 

「任せて」

 

「うーん……それじゃあ、お願いしようかな♪」

 

「……今回だけじゃなくて、これからもずっと、守ろうか?」

 

お 前 は 高 校 卒 業 ま で の 5 年 間 し か 任 務 に つ か な い ん だ ろ う が !

 

……落ち着け、私。ニューに護衛を引き継がせようと思っていたんだから、これはいい展開のはずじゃないか。

 

だから、この流れを受け入れ…………無理だ。

 

実際に見て、やっと気づいた。お嬢様を守るという使命を私以外の人間がやるなんてこと、私には絶対に許せない。だからこそ、こんなにもニューの粗探しみたいなことを考えてしまう。

 

私がお嬢様から離れるのがお嬢様のため? 何を馬鹿な。こんなにも嫉妬深い私が、そんな健気な理由でこの務めを放りだせるわけがない。

 

私は単に……いずれ私の正体がお嬢様にばれ、拒絶されることを恐れていただけだ。だからこそ今までお嬢様と距離を置いたし、今回のことでこれ幸いとお嬢様から逃げようとした!

 

それはそうだ。もし正体がばれて拒絶されれば、お嬢様の中での私は化け物としてしか記憶に残らない。だが、ばれなければ、これから疎遠になったとしても、幼少時代にそんな子と仲良くしてたな、とお嬢様の中でそれなりに綺麗な記憶になることができる。

 

私がお嬢様から離れようとした本当の理由はそれだ。だけど、やっぱり無理だ。私がお嬢様の傍にいなくて、別の人間がお嬢様を守っている。こんなの、寂しさと嫉妬で狂い死んでしまう。

 

でも、それでも、私がお嬢様の傍にいない方がいいというのも事実ではあって、でも、でも…………!!

 

「おーおー、ニューさん何? このかに告白?」

 

「(ニューさん、近親だけじゃなくて百合もいけるんだ……)」

 

「のどか、何か不穏なことを考えていませんか?」

 

私が悩んでいても話は進み……

 

「どう、かな?」

 

ニューが訊き……

 

「……末永くよろしくおねがいします? なーんちゃって♪」

 

 

お嬢様のその発言を聞いた瞬間……プツンと、頭のどこかで音がなった。

 

 

 

 

 

     ガ  タ  ッ  !

 

 

 

 

大きな音をたてて立ちあがった私にクラス中の視線が集まった気がしたが、そんなの知ったことか。

 

スタスタと足は図書館探検部の人たちがいる方に向かい、お嬢様に肉薄した。

 

「……せっちゃん?」

 

お嬢様が不安そうな顔で私を見つめてくる。それを無視して私はお嬢様の肩を掴んで自分の方に引き寄せ、そのまま自分の胸に抱き入れた。

 

「え?」

 

驚かれている。無理もない。だが、離すものか!

その流れについていけてない周囲を無視し、怪訝な目で私を見ていたニューに人指し指を突きつける。

 

 

「ニュー・絡繰! 貴様にお嬢様は渡さない! このちゃんを守るのは、うちや!!」

 

 

そう、宣言した。

 

 

「えっ、せっちゃん、え?」

 

「このちゃん、うち、昔このちゃんを守ることができなかった。最近は冷たくもしてきた。でも……それでも、うちはこのちゃんのことが……大好きなんや。だからこそ、このちゃんを守る役目は、誰にも渡したくない」

 

「せっちゃん……」

 

 

そう、これが私の本音だ。

 

お嬢様に迷惑がかかる? そんなもの、私の剣で断ち切ってしまえばいい。

 

正体がばれて拒絶されたら? それでも、拒絶されて私の心が痛むよりも、お嬢様を守れず、お嬢様が傷ついてしまう方が、もっと痛い。

 

『彼女が傷つくことよりも、自分が傷つくことの方を恐れているくらいなら、護衛なんてやめてしまいなさい』

 

アルトリアさん……言われたことの答えはでました。私は、自分の痛みよりも、お嬢様の痛みの方が我慢できない。護衛は続ける!

そう、誰に何を言われたって……この我が儘は絶対に押し通す!!

 

「それでも、うちからこのちゃんを奪うってヤツはかかってこい! 学園長だろうと長だろうとぶった切ってやる!」

 

「せっちゃん……それ、うちのお爺ちゃんとお父様や」

 

「ニュー・絡繰! これが私の答えだ! それでも木乃香お嬢様を守るのは自分だというのなら、私の屍を越えて行け!!」

 

「せっちゃんなんか命懸けやっ!?」

 

さあ、来い! 例え貴様が私より強かったとしても、今の私は開き直って無敵っぽい感じだ!!

 

「……えー」

 

あれ、何か様子がおかしい……ニューのヤツ、どこか引いているような……。

 

「えっと、その、そういうつもりじゃなかったって言うか」

 

 

「……その、すいませんでした」

 

なんだ、臆したのか?

 

「あなたと近衛さんの関係を、勘違いして……」

 

アルトリアさんの言っていたことか? まあ、お嬢様のために怒ってくれていたのだし、それについては問題ない。

もうお嬢様の護衛という立場を奪おうとしないのなら文句は言わんさ。

 

「それに、あの、あなたたちが『そういう関係』だって知らずに、その、誤解させるようなことを」

 

雲行きが怪しい。

 

「桜咲さん、ごめんね。ニューさんのことを怒らないであげて。そりゃあ、恋人のこのかが別の人とイチャついてる風に見えて気が気じゃなかったかもしれないけどさ。最近のスキンシップ過剰な流れを作ったのは私だから、ニューさんは悪くないんだ」

 

早乙女さん……というか恋人……?

 

あれ、もしかして、私、なにかすっごい勘違いされてる……?

 

そして、そのことを考える前に、

 

「せっちゃん、うち、嬉しい……せっちゃん、うちのこと嫌いになったわけやなかったんやな」

 

「このちゃん……」

 

お嬢様が顔を赤らめて、泣きながら私の胸に嬉しそうにしがみついてきた。

 

心がポカポカする。嬉しすぎて言葉が出てこない。

 

 

「「「「「キャーーーーッッッ!!!」」」」」

 

 

ただ、この状況はどうしたことだ!?

 

 

「何? 2人は付き合ってたの?」

「いやいや、雰囲気的には桜咲さんがヘタレてたせいで別れたのが、今根性見せてヨリを戻したって感じ?」

「2人ともおめでとうー!」

「あらあら」

「うわー、なんか凄いね」

「どういうことだおい」

「桜咲さん、近衛さん! わたくしは2人の恋を応援いたしますわ!」

「このか、桜咲さんとそんな関係だったんだ……」

 

 

あー…………もしかして。

 

 

     トントン

 

 

肩を叩かれる。振り向くと、そこには朝倉さん。

 

「お話、聞かせてもらおうか?」

 

ははは、終わった。

 

いや、でもいいか、私は今、とても幸せなのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、ニュー・絡繰です。ことが上手く進みすぎて怖い。

 

でもまあ、順当と言えば順当である。桜咲は追い込まれた先で開き直ることができるヤツだ。

それは原作読んでも分かるし、最近の煽りに対して桜咲が向けてくる強い感情でも分かっていたことだ。

 

 

2人の関係はまだ問題はあるものの、それは原作入ってからでも充分解決できる。

今のところは、ノルマを達成しただけ良しとしよう。

 

 

「もー! 皆さん! だから違うんですってばーー!!」

 

「せっちゃん、やっぱり……うちのこと嫌いなん?」

 

「そんなわけない! うちはこのちゃんが大好きや!」

 

「えへへー♪」

 

「「「「「おおーー」」」」」

 

「あー! しまった!」

 

 

……お幸せに。2人とも。これからも仲良くね。

 

 

 

 

<続く>

 

 

 




ガールズラブではない、友情である(挨拶)。

原作改変系は初めてやったんで、これからどうするやら色々悩んでます。
ではまた次回。

そろそろ、ちょっとは戦闘シーンも書かなければ……。

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