聖剣コンビ?がノルマクリアを目指す   作:せるん2

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ちょっとシリアスもどき。序盤でとりあえずのキャラ付けがしたかったんです。
できてるか微妙だけど。
原作はネギまだけ知ってて貰えば辛うじて分かるかなあみたいなニュアンスで書いています。
あと、前の話は、佐藤→朝倉→内藤の順番に視点移動しています。
今回は全編内藤目線です。
分かるように書いたつもりですが念のため。


1話 にゅうとせいばあ、そしてやまなか

あの1LDKでの自由会話は今でも鮮明に思い出せる。魂そのもの同士の交流だったせいだろうか?

 

 

『内藤君、もう敬語じゃなくていいよ。あ、普段から敬語だとか、初対面相手にタメ口で話すの苦手とかならそのままでいいけど』

 

『いや、そんなことはないよ。普通に話すね』

 

『そう? ちょっと馴れ馴れしかったかなって思ってたから安心したわ。それじゃあノルマについて話し合おうか?』

 

『そうだなー。まず、大ノルマと小ノルマだったっけ?』

 

『そうそう。大ノルマが人生単位でクリアしろってノルマで、小ノルマが原作期間とその前後に、山中から原作の進行に合わせて随時課されるノルマ』

 

『大ノルマは3つで、内容はもう知らされてる。2人それぞれが3つ全部クリアしなければならない』

 

『小ノルマは5つよりは多いけど、10個には届かない。それぞれのノルマは2人で協力してクリアしても、1人でクリアしても構わない。内容は転生後に追って知らせるって言ってたな』

 

『……どうやるんだろう? お告げ?』

 

『その辺はいいでしょ。どうせその時になりゃ分かるし。問題は小ノルマにはほぼぶっつけ本番で挑まなけりゃいけないってことと』

 

『大ノルマ、だね』

 

『……小ノルマについては、とにかくお互いに出来る限り力をつけるぐらいしか現状じゃ対策が思い浮かばないし、大ノルマについて軽く方針を決めておくか』

 

『……佐藤君。ぶっちゃけ、大ノルマクリアできそう?』

 

『①原作終了時まで生き延びること(これは最終話終了時点。魔法探偵夕映編までとする)

 ②魔法等の技術について理解のある職に就き、10年以上は働くこと(非合法なものは不可)

 

 ①は言うまでもない。とちれば小ノルマが達成できなくなるし、何より簡単に死ぬ気はない。

 ②だってそうだ。俺たちにまともな人生を送らせたいってのと、なるべく原作に関わらせたいってことだろうさ。

 つまるところ、小ノルマを達成させるための注意事項みたいなもんだよ、ここまでは。

 

 問題は、』

 

『③異性と愛を育み、結婚し、幸せな家庭を築くこと

 

 ……だね』

 

『……なんなんだ一体。山中は俺らのお母さんか何かか?』

 

『……佐藤君、恋愛経験とかある? 俺はこのダサい眼鏡見れば分かる通り、年齢イコールいない歴だけど』

 

『俺もだよ。後、内藤君の眼鏡はそこまでダサくないよ。勉強家って感じでインテリ臭がするぜ』

 

『インテリではないなー。量こなさなきゃ覚えられないから沢山勉強して視力落ちたタイプだし』

 

『努力家か……なんかかっこいいな。そういや俺も最近視力落ちてきたから眼鏡買おうと思ってたんだった。今となっちゃ意味ないけど』

 

『へえ、珍しいね。高校から目が悪くなった人ってコンタクト買いたがるのに。俺も金貯まったら買うつもりだったし』

 

『目に異物入れるとか怖いじゃないか。学校の保健室のポスターとかでもコンタクトの危険性を説いてるだろ』

 

『……意外だな。佐藤君ってもっと物怖じしないイメージだったけど』

 

『これでもいっぱいいっぱいだよ。……さて、話を戻そう。大ノルマ③についてだ』

 

『初恋の女子に告白して玉砕して以来、将来は独身貴族だろうと予想してた俺には厳しすぎる』

 

『内藤君、気を強く持て。俺なんて初恋もまだだ。』

 

『……それ、慰めになってないって。俺と佐藤君、両方が達成しないとクリアと見做されないんだからさ』

 

『まあ、向こうで運命の相手に出会うことを祈ろう。…………そんなことよりジョジョの何部が一番好きか話そうぜ! 俺4部な!』

 

『さすが佐藤君。見事な現実逃避だ。俺も付き合おう。…………なんだかんだでスティールボールラン大好きです!』

 

 

あの時の俺ら馬鹿じゃねーの? 話を流した佐藤君が悪いな、うん。嫌、乗った俺も悪かったけど。

 

にしてもTSした身の今となっては③が鬼畜すぎる。マジでどうしよう……?

 

さて、思い出に浸るのはここまでにして、いざ、転生者チャットといこうか。

 

 

 

 

 

 

転生者チャットとは、昨日の夜に突然俺たちのパソコンに生まれた新機能である。

一見ただのチャットだが、転生者以外の人間にはチャットではなく、適当にネットサーフィンしているようにしか見えないという、とてつもなく秘匿性の高い通信ツールなのだ。

 

そんなことを、チャット上で山中が言っていた。山中は、他にも俺たちの今の状況(元ネタありのキャラへの転生とか)についていくつか説明して、『また連絡する』と一言添えて退室していった。

 

山中は転生者という存在をかなり力を入れて隠そうとしている。

例えば、宮崎のどかの『いどのえにっき』みたいなアーティファクトや読心術でも転生についての情報は読めず、違和感のないように編集されるとのことだ。

 

この世界にしろ元いた世界にしろ、本格的に山中という神の箱庭なのだろうか……? まあ、どうでもいいが。スケールのでかい話を気にしても、それに対応する力がないのだから気にしたって時間の無駄だ。

箱庭の人形にも人形なりの幸せはあるもんだ。むしろ、俺と佐藤君には都合のいいシステムなわけだし。後は変に口滑らせなければいいだけだ。

 

で、チャットに話を戻すけど、山中はこれで俺たちに小ノルマを伝えるとのことだ。なのでできるだけ毎日参加するようにとのこと。

山中はノルマ伝えるとき以外は来ないらしいから、ほとんどは佐藤君とのぶっちゃけトーク用だな。外見に引きずられて最早無意識に行っていることだけど、俺は外じゃ猫被ってセイバーのロールプレイしてるし。

 

喫茶店での会合も続けるけど。仲がいいアピールは有事に一緒に行動する理由ができるからね。あそこの紅茶は美味しいし。イギリス人である今の生では美味しい紅茶が必須なのだ。

 

でも、このチャットは本当に有難い。便利なのもそうだが……これでようやく、今の佐藤君、ニューの内面が分かる。

 

 

 

 

今の彼、彼女は俺の知る佐藤君と差異が大きすぎるのだ。

いくら外見となったキャラに引っ張られたにしても、物静かに思う。もうちょっとはっちゃけたキャラでいて欲しいという俺の願望なだけかもしれないが。

俺と同じくロールプレイしてる部分も多少あるのかもしれないが、ロールプレイというにはちょっと原作と違う。原作の彼女はもっと機械的な感情表現が少ないキャラだ(一部のキャラ相手にはヤンデレだったり嫌悪感剥き出しだったりするが)。

 

これらだけだったら、俺だってこっちの世界で生きることで変わった部分もあるし、向こうもちょっと変わったんだろうで済ませたのだが……この世界で再会した時の会話が、俺に強烈な違和感を与えたのだ。

 

 

 

 

そう、アレはお互いに相手の存在を確認して、『おいおい、2人してTSかよ』とか心の中で笑いながらも、これから麻帆良で魔法関係で関わるのだからと、ちょっと強引ながらもイギリスで所属している組織の力を使って、久しぶりに初めて対面した時のことだ。

 

 

『どうも。初めまして、アルトリア・ペンドラゴンです』

 

『……初めまして。ニュー・絡繰です。日本語、上手いね』

 

お互いにどの口がって感じだったが、向こうが早めにタメ口を使ってくれたことで、彼女は佐藤君だと確信できた。

 

『いいえ、それほどでも。

 

……貴方に会えるのを楽しみにしていましたよ。かの有名な日本の三種の神器『天叢雲剣』の担い手、日本政府の隠し玉、ニュー。今年から同じ学園に転入すると聞いて、いてもたってもいられなくなり無理矢理会いに来てしまいました』

 

『……それは光栄だね。私も、失われていたはずの聖剣『エクスカリバー』に選ばれたアーサー王の再来、イギリス魔法協会の切り札、アルトリア・ペンドラゴンには興味があった』

 

この会話でお互いに佐藤内藤の確認をとりつつ、俺たちが会いたがった無理のない理由をお互いの組織の人間に説明づけることができた。これは上手くやれたなあと今でも自画自賛できる。

有名と褒め合ったが、ニューの存在は俺と違って、裏の世界の一部で有名という程度だったんだが、その存在をウチの組織で掴めたのとか、会うコネクションがあったのとかは山中の加護か何かだろうか?

 

この後も、調べれば分かる程度の表面上の薄い会話を続けた。お互いの経歴とか近況とか。

 

ニュー・絡繰。別の次元に存在している『天叢雲剣』を現実に精錬することができる窯、日本の裏世界の技術の結晶、ムラクモと呼ばれるユニットの適合者。

と、いうのが表向きの話で、俺もニューに対してそういう認識でいるように振る舞っている。

 

後々、学園に来てからちょこっと聞いたが、本当はもっとヘビーな境遇で、造られた存在らしい。その辺は元ネタ通りか。

 

お互いに元ネタありキャラに転生してはいるものの、メインは山中がティッシュくじで当てた能力、『エクスカリバー』と『天叢雲剣』だ。

山中が昨日のチャットで言ってたが、俺たちのこの肉体はあくまで『能力』に最適な肉体に産み落としたというだけで、肉体の元ネタに関するストーリーを忠実に再現しているわけではないと。

あくまでかなり似た別物であると。

 

それはそうだろう。『エクスカリバー』や『天叢雲剣』も、この世界風にアレンジされているわけだし。ニューのムラクモなんて結構無理矢理な気がするけど。

 

確かに、俺も設定に忠実にセイバーとなっていたら、古い時代に生まれ選定の剣を抜き本物のアーサー王になり、色々あったあと、この時代に霊体が具現化した存在として現れていただろう。

だが、実際は似た容姿、似た能力で生まれたってだけだ。

ただ、この世界風にちょっとは元ネタっぽい境遇になっていて、イギリスにはなんか円卓っぽい友人たちがいたりする。あくまで『っぽい』だが。

 

だが佐藤君、ニューには、わりと元ネタに近い何かがあったのではないかと考えている。かなり重い設定のキャラクターだし、それならこの時の会話での衝撃発言にも説明がつくかもしれないからだ。

 

それは当たり障りない薄っぺらな話題で会話をするために、何気なくした質問だった。

 

『そう言えば、その眼帯。どうしたのですか?』

 

今思えばKY発言だ。この時、公的には初対面である。

 

『……聞きたい?』

 

おもっくそ怪訝な表情された。いや、これは酷いミスだった。だが、本当に酷いのはこれからだ。

 

『あ、いえ、失言でした。ただの興味本位です。聞き流してくれて構いません』

 

『……たんだ』

 

『え?』

 

この後の発言が耳にこびりついている。

 

 

『……前についてた眼を、自分で抉りとったんだ。今は新しい眼をいれて貰ったけど、慣れてないからね。……だから、眼帯で保護してる』

 

 

ボソボソと、彼女はそんなことを言った。口元が三日月に歪んだ、狂気を孕んだ笑顔のような表情を浮かべていた。でも、すぐハっとして、

 

『……冗談だよ』

 

と、無表情でのたまった。

 

『あ、ああ、そうですよね。でも、貴方は冗談が下手だ』

 

『……そうかも』

 

その場はそうやって流した。明らかに本気のトーンだったけど。

 

 

自分で眼球を抉り出すってなんだよ、意味分かんねえよ。

更には、俺は、『佐藤君』との会話を覚えている。

 

『目に異物入れるとか怖いじゃないか。学校の保健室のポスターとかでもコンタクトの危険性を説いてるだろ』

 

魂同士での会話だから感じたことだが、この彼の発言には隠しきれない『目を傷つけること』への恐怖心がのっていた。

だからこそ、彼女が『あの時の佐藤君』のままなら、そんな行動が取れるはずがない。

 

佐藤君はこの世界で大きく変わってしまう何かがあったのだろう。かなりきっつい何かが。

 

なら、そのことについて話し、俺と共有して欲しい。いくら変わったとしても、俺たちはパートナーなのだから。

辛いことがあったのならケアをしたい。それが結果的に俺の利益にもなるのだから。

 

 

 

チャット画面を開いて、そんな長い思索に耽っていたが、向こうもようやく入室したようだ。

 

 

 

 

 にゅう:ごめん。遅れた。

 にゅう:あれ、アルトリア? まだいないの?

 

 

アルトリア、か……。内藤君とは呼ばないのな。

 

 

 せいばあ:いるよー。ちょっと待ったけどそうでもないよ。

 にゅう:ほんとごめん。クラスメイトに話しかけられちゃって。私もすぐに切り上げられれば良かったんだけど。

 

 

『私』……俺たち2人しかいないチャットでもその一人称か。

 

 

 せいばあ:だからいいって。それよか、ようやく人の目を気にせず話せるわけだから今までの人生を詳細付きで語りあおーぜ。

 にゅう:そうだねー。とは言ってもそっちのことは前に話したので大体全部でしょ。

 にゅう:むしろ、こっちの話を詳しく聞きたいって言うのが本音だろ。

 

 

うっわ。ばれてる。そりゃそうだけど。でも、こういうってことはぶっ込んだ方がいいかな。

 

 

 せいばあ:そうだな。色々気になるよ。出生・経歴・前の抉り出し発言について。

 にゅう:悪かったよ。心配させたみたいで。長くなるけど、アルトリア、いや、内藤君には聞いて欲しい

 せいばあ:聞くよ。遠慮されたり気を使われる方が嫌だよ。魂で会話した仲だぜ、俺ら。

 にゅう:それもそうだ。

 

 

そして聞かされた話は、元ネタ知ってる身としては予想範囲だったが、やっぱりそこそこに酷いもんだった。

 

今、彼女が所属している政府の機関と、彼女を造った機関は別物。造った機関は今は潰れたものの、大分非人道的な施設だったようだ。

てっきり今の機関で造られたのかと思ってた。そんでそんな機関と繋がりのある葉加瀬聡美って実は結構外道? とか思ってた。ごめんね葉加瀬さん。

 

そんでニューはある女の子のクローンとして生まれ、その後調整・精錬された人外の存在。クローン元は1体目を作るときには既に故人だったらしいが。

彼女は十三体目のクローン。前の十二体は出来上がることすらできなかったそうだ。

うん、この時点で色々と元ネタと差異があるが、別物だしな。ついでに、彼女を作ったのは変態仮面な人形愛好者ではなかったそうだ。やはり、そこまで元ネタを踏襲しているわけではないらしい。

いたらこの世界がヤバいレベルだし助かったが。山中がどの程度混ぜるかとか調整してんのかな……それとも最初に俺らのキャラデータ入れた後は流れなのか……どうでもいいか。

 

話を戻すが、十三体目の彼女は恐らく、佐藤君の魂が入ったために完成したのだろう。

10歳ぐらいの身体で生まれ、3年ほど調整した後に兵器として精錬されたのだとか。それが1年とちょっと前。

それ以降は人間ではなくなったため身体が成長していないらしい。こっちも聖剣手に入れてからは成長してないな、そういえば。

 

というか、まだこっちにきて4年程度なのか。俺と転生までの時間に10年ほどズレがあるな。もうそのぐらいでは驚かないけど。

 

やっぱクローンだし、教育とか戦闘用の調整とかを受けたらしい。境界の向こうにある次元との繋がりを強めるための改造とか、他にもある人物とライフリンクで繋いだりとか。

 

ある人物というのが彼女のオリジナルの兄。ラグナという男。元ネタの主人公である。

ライフリンクとは、それで繋がったどちらかが生きている限り致命傷を負おうと回復し、2人同時に死なない限りは不死であるというシステムだ。中々強い。まあ俺もアヴァロンあるけど。

 

なんで繋ぐ人物にそいつを選んだのかは……後の話聞けばなんとなく予想はつく。

後、その兄さんは繋がってるのに気づいてないとのこと。どうやって繋げたんだよ一体。

で、その兄さんと、機関での教育が色々と問題だった。

 

クローンである彼女はオリジナルの記憶や感情もある程度受け継いでいたようで、その会ったこともない兄にとんでもない好感を抱いた。

それを利用して彼女を造った機関は、その兄をダシに彼女を制御するために、その好感情を引き上げ、刷り込みのような教育を行った。

 

それはほんとにまっさらなクローンに行っていたら効果覿面な洗脳だったろうが、そこは転生者。元ネタのことも知ってるし効くはずもない……と言いたかったが、かなり効いた。

 

1LDKではそんなそぶりなかったが、『佐藤君』はこっちに転生して興奮状態が覚めた後、一度死んだことがショックで酷い鬱状態になっていたらしい。

……転生先が非合法な研究機関で、さらには毎日のように研究対象(おもちゃ)にされればそりゃあなあ……。

俺もTSのショックはでかかったが、頼れる新しい家族とかがいた分まだマシだったようだ。

 

そんなこんなで、彼女はオリジナルから受け継いだ記憶と機関の教育によって生まれた歪んだ愛情をあえて受け入れることで心の支えとし、そして……ちょいと恥ずかしいが、俺との再会とか……も拠り所に、なんとか狂わずに精錬されるまでの3年間を生き抜いた。

うん。その点は流石佐藤君だな。ちょっと自分でも佐藤君への信頼が強すぎて引くなあ。向こうも似たようなもんらしいが。

 

あと、ここまでの話はお互いに元ネタの用語とか色んな雑談を入れながら話していたものを、元ネタを分からない人向けに流れぐらいは分かるように翻訳しています。

もし俺の思考がSSになっていたとしても、これで一安心だ。

よし、現実逃避終了。現実逃避で思考が脱線するのが趣味みたいになってる。気をつけねば。話を戻そう。

 

問題は精錬された後にやってきた。

精錬されてから戦闘訓練と調整の毎日を過ごしていた頃、彼女のいた施設が襲撃された。

 

その襲撃した相手がオリジナルの兄、ラグナ。

死んだ妹を元に非合法な研究をされていると知り、その研究を行っている機関の施設を片っ端からテロる毎日を送っていたようで、その研究の唯一の成功体がいるという情報を聞きつけ、彼女のいる施設をテロりにきたそうだ。

それで、クローン生成するのに必要な資材やデータ、その他色々重要なものを壊しまくり研究員たちもぶちのめしまくった果てで、彼と彼女は出会った。

 

その出会いは運命だったと彼女は言う。

 

 

 にゅう:顔を合わせた時にはさ、色々とこみ上げる物があったよ。なんだかんだ勝手ながらも心の支えにしてきた人だからね。元ネタ知ってたが故のミーハーな感動もあったし

 にゅう:でも、このままじゃ不味いよな、とも思ったんだよ。なんてったって妹のクローンでしかも生体兵器。ちょっと調べたところ、私を造った機関に自分の右目と右腕も潰されてる。潰されたとこは魔導書で代用品を造ってたけど。

 にゅう:恨み骨髄ってなもんだよ。向こうはライフリンクも知らないし殺しにかかるに決まってる。元ネタでそうだったように。

 にゅう:ライフリンクで死にはしないだろうけど、その施設には私だけを封印できるような設備もあったし、ここでやられれば内藤君がノルマ達成できないって思ったから、心から湧きあがるとてつもない昂揚感を押さえつけて身構えたんだよ

 にゅう:そう、その時まではおかしくなってはいたかもしれないけど、最後の一線は守って、ギリギリまともだったんだよ。

 

 

おお、とうとう俺の聞きたかったことが……!

 

 

 にゅう:私が身構えると、ラグナはこっちを複雑そうな眼で見てきた。愛おしいような憎んでいるような悲しんでいるような、そんな感情が伝わってきた。この世界だとライフリンクってそんな効果もあるのかな。

 にゅう:ラグナは剣を構えて……そのまま暫く動かなくなった。そしてちょっとずつ構えた剣の切っ先が震えてきたかと思ったら、剣を下げて泣きそうな顔しながら舌打ちして走り去って行ったんだ。

 

 

ふむふむ。妹の顔したヤツは殺せなかったか。元ネタと違うが、元ネタの彼とこの世界の彼は、そりゃあ別物なのだろう。

ニューの出生からそこまでのエピソードは、俺もそうだったが、元ネタを軽く捉えながらも、この世界風にアレンジされて結構な差異があるな。元ネタはあくまで元ネタってことか。

 

 

 にゅう:その後ろ姿を見えなくなるまで見送った後

 

 

ん、変なとこで切ったな。この先を書くのに悩んでるのだろうか? 最初に気を使わなくてもいいと言ったのに。

それからたっぷり5分待って、ようやく続きが書き込まれた。まったくお茶入れちゃったぜ、とか思いながらカップを傾ける。

 

 

 にゅう:胸がキュンとしたんだ

 

 

     ブーッ!!!

 

 

探偵物語か仮面ライダーWばりに紅茶噴いたわ! ディスプレイ拭かないと……!

 

 

 にゅう:いや、なんだかんだ元ネタの人とかと混同してて、書き割りみたいに見てた部分があったけど、実は独自の意思で生きてて、その人間らしさが素敵で

 にゅう:この身体にある記憶や機関での教育のおかげで、好感持てる人柄だってのも分かってるし、ライフリンクで繋がってるのも実感できるし

 にゅう:わりと限界だったものが、ラグナの眼と最後の泣きそうな顔と切ない背中見たら、最後のスイッチが押された感じで。それまで辛いばっかりだった時にちょっと優しさっぽいもの向けられてコロリというかチョろいというか

 にゅう:もう完全に洗脳されたりで出来上がってたものを抑えるものがなくなって、頭の仲がラグナ塗れになって

 にゅう:もう自分でもこれどうなんだってくらい意味不明にテンション上がって

 にゅう:そういや私って元ネタだと右目眼帯だったよなって思って、ラグナも右目は代用品だって思ったら、気が付いたら自分の右目を抉り取ってた

 にゅう:痛いとかそれ以前にお揃いで嬉しいみたいな感情が湧いてきてもう完全に狂っててでもその狂気を受け入れるのがなんか心地よくて

 

 

ディスプレイ拭いてる間にとんでもないことになっとる!! 当時を思い出して暴走してる! てか右目の理由と違和感の正体はこれか!

確かに、今日までの彼女は余裕がなかった。1LDKの頃の佐藤君と違って。

『彼』には、あの時の困惑した俺を救ってくれた、無根拠ながらもこちらを気遣う心の余裕が、確かにあったのに!

『彼女』に優しさも気遣いもないとは思わないが、あの時の微弱ながらも感じた変な強さは、もうないんだ…………今感じるのは別の種類の強さだ。多分愛とかから生まれる感じの。

 

これが俺の感じた『変化』か……。『佐藤君』、君はもう『ニュー』なんだな。

佐藤君が消えてなくなったわけじゃないのだろうけど、もう、この世界でニューとして生きてるんだな……。

 

少し、取り残された気分だ。自己防衛の果てに壊れてしまった結果とはいえ、この世界の存在にここまで執着している『彼女』は、もうこの世界の住民だ。

 

『彼女』を気遣わなくちゃいけないのだろうけど、それ以上に寂しい。

 

こんな寂しさを感じるということは……俺の魂はまだこの世界に馴染んでいないのだろうか。

 

 

 にゅう:それで、この様だよ

 

 

俺が寂しがってる間に、続きが書き込まれた。落ち着いたらしい。俺も落ち着いた。大丈夫、普通に対応できる。

 

 

 せいばあ:さすがニューだね。もう大ノルマ③の目途がついてるとは。

 にゅう:いろいろな意味で、気持ち悪くないか? 正直私は自分で自分が気持ち悪い。元男のTS転生者の私が、精神的BLに加えてヤンデレもどきまで併発するなんて……

 せいばあ:ドンビキしてるけど、凄いとも思ってる。こっちはまだそういうのなくて、まるでどうしていいか分かってないのが現状だから。

 にゅう:ありがとう。気を使ってくれて。1LDKからずっと、助けられてばかりだ

 せいばあ:こっちだって、あそこでは助けられたし、こっちでも君は心の支えだったよ。

 

 

そう、だからこそ、これからは俺があの時の佐藤君以上に、前向きに、強くなって、彼女を支えよう。彼女もまた、あの時とは違う強さで俺を支えてくれるだろう。

お互い、いくら変わってしまったとしても、1番キツい時に支えあって強がりあった相棒同士だということは変わらない真実だ。

 

 

 せいばあ:それで、その後に日本政府直属の機関に引き取られたんだっけ? 魔法使う相手とかから要人守るための特別な機関に。

 にゅう:そう。そこでニュー・絡繰の名前を貰った。それでまあ、三種の神器の1つの使い手の私は、最終的に、この国の、あれよ、すっごい人関係のサムシング担当になる予定っていうか

 せいばあ:……(言葉にならない)

 にゅう:言葉にしてるじゃないか。いや、あくまで予定で。実際に任せるかどうかの試験でこの麻帆良にいるわけだし

 せいばあ:ああ、それは聞いた。近衛木乃香の護衛だっけ、それで図書館探検部に入るんだっけ。でもなあ、桜咲刹那がいるのになあ。

 にゅう:正確には護衛補助。彼女を護衛に付けた西の長の顔を立ててるんだろうけど。

 にゅう:私が就く理由は、東と西の長が認めてても、やっぱり大部分はハーフを信用してないっていうこと。それに、下手すりゃ戦略兵器級の爆弾になる人がド素人で、その護衛はなんか護衛対象とわだかまりがあるっていうのは政府から見ると不安なんじゃない?

 せいばあ:ニューは信用されてるってこと?

 にゅう:私は餌を垂らされた犬だからね。近衛木乃香の高校卒業までに政府からのオーダー通りに護衛の補助ができれば、偉い人の護衛という地位とラグナのテロ行為の罪の免除っていう餌を垂らされてる犬。制御できる飼い犬は番犬として扱えるってことでしょ。

 せいばあ:ああ、やっぱりテロリスト扱いなんだ

 にゅう:非合法施設を潰した功労者とは言え、一部の偉い人も関わってたから国内の裏世界では賞金懸かってるよ。だから今は魔法世界に高跳びしてるみたい。罪が免除になれば帰ってくるかな……

 

 

なるほど、ニューは俺よりも大ノルマオールクリアまでのルートが見えてるんだな。

 

 

 せいばあ:んで、帰ってきたところに愛の告白をして、2人は幸せなキスをして終了、と。

 にゅう:無理無理無理。私って所詮は元佐藤だしそんな風に好きなのかさえ分かんないtぽさk

 せいばあ:落ち着け。そしてあんだけヤンデレやってて今更なに言ってやがるテメー。

 

 

本当に何言ってんだコイツ。眼球抉りぬいて『ペアルック♪』とかやった癖に。

 

 

 にゅう:いや、嫌いじゃないし好きなんだけどキスとかってなると恥ずかしいっていうか告白とかして変に思われて嫌われたりとかしたら二度目の死を迎えちゃいそうっていうか

 にゅう:それに生物学的に結ばれると不味いと思うし、でもそんなの愛の前では関係ないとも思うけど、いや、愛っていってもそのあのあれで

 

 

すっげーヘタレだが……かっわいいなオイ! 佐藤君、君は女でいた方が輝ける人材だったようだ。

でも、いい加減めんどうくさいな。

 

 

 せいばあ:それじゃあちょっと想像してみてくれ。例の彼が罪を免除されて帰国してきて、ニューはその彼の様子をこっそり見に行ったとする。

 せいばあ:そしてさあ大変! 例の彼は君ではない女の子と仲睦まじく手を繋いで歩いています。さらには君の見ている前でキスとかしちゃいます。さあ、ニューはどうする?

 にゅう:その女を殺す

 

 

     ブルッ!

 

 

チャットごしに殺気感じたんだけど、何これ怖い。

 

 

 にゅう:なんでなんでなんでなんでラグナはニューのものなのにニューはラグナのものなのに

 せいばあ:落ち着け。精神修行が必要なんじゃないか?

 

 

また5分待つ。

 

 

 にゅう:ごめん。本当にこの話題だと自分の精神が自分の制御から離れてしまう……いつか問題起こしそうだ

 せいばあ:俺が止めるよ。いや、それはいいとして、分かったろ。もうとにかく結ばれたほうがいいって。手伝うから。諸問題はくっついてから考えろ。

 にゅう:……うん。

 

 

よし、話、一区切り!! こっから新しい関係を築いて2人でノルマに立ち向かっていくぞ!

 

 やまなか:tesuto

 やまなか:ミス

 やまなか:いえーい。2人とも見てるー? 1個目の小ノルマの通達にきたぜー。

 

!!! いきなりかよ!!

いや、いいタイミングだとは思うが。心機一転して頑張るには絶好のタイミングだ。

 

 

 やまなか:原作まで後10か月あるから大分早いけど、チュートリアルみたいなもんだから緊張するなよ。

 やまなか:それじゃあ小ノルマを発表します。

 やまなか:①桜咲刹那と近衛木乃香を、原作開始時までに仲好く日常会話を交わす仲にすること。

 やまなか:ということで、頑張ってくれ。またなー。

 

 

おおう。これはまたどう反応すべきか微妙な……。

 

 

 にゅう:頑張ろうね、相棒

 

 

……そうだな、そうだよな。

 

 

 せいばあ:おう! やろうぜ相棒!

 

 

俺たちの戦いはこれからだ!!

 

 

 

<続く>

 

 

 

 




やだ、この話、全体的にホモ臭い……。タグは佐藤のためだったのに、佐藤よりも内藤が酷い。いや、こいつら恋愛とは別に仲がいいんですよ。ジョジョ五部のソルベとジェラートみたいなもんです。
TSでの恋愛ホモレズ議論は終わりが見えませんね。いや、どうでもいい話ですが。
その辺は好みによって違うというか……つまり、合わないと思ったらブラウザバックお願いします、という言い訳です。

次話からようやく話が少し動きます。それではまた。

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