雪風は赤い砂と共に   作:火の丘

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タバサとキュルケ

 タバサたちが学院に帰って来てから、数日が過ぎた。

 サソリは学院に帰って来てからというもの、どこから持ってきたのか、木材で熱心になにか作っているようだ。

 そんな様子を見たタバサは、興味なさげにちらりと見ただけでサソリになにも言わなかった。

 

 教室で一人本を読んでいたタバサに、キュルケがお節介を焼く。

 

「最近、一人でいることが多いわね。タバサ」

「普通」

「もしかして、サソリと喧嘩でもした?」

 

 サソリが召喚される前、一人ぼっちで誰とも喋らず、本を読んでいた頃のタバサに戻ってしまったのでは、と心配しての問い掛けだった。

 キュルケの質問にタバサは首を横に振る。

 

「可愛いご主人さまをほったらかしにして、サソリは何をしているのかしら?」

「なにか作っている」

「なにを作っているの?」

「わからない」

 

 タバサがまたも首を横に振る。キュルケにはその時、タバサの表情が少し寂しそうにしているように見えた。

 タバサには一人寂しくいるより、誰かと共にいた方が良いとキュルケは常々考えていた。その共にいる相手が異性なら尚良いとも考えていた。

 そんな時、召喚の儀式でタバサが呼び出したのは、タバサと同い年ぐらいの美少年サソリだった。キュルケはその光景を見て、雷に打たれたような衝撃が体を走った。まさに、自分が願った通りの展開である。もうこれは、始祖ブリミルがタバサの為に遣わした、運命の相手としか思えなかった。多少、安全性に問題がありそうだったが――未だにキュルケはサソリから受けた殺気の所為で、サソリが少し苦手だった――そこは見なかったことにした。

 そして今、キュルケの目の前には、唯一無二の親友タバサが一人寂しく本を読んでいる。この状況をキュルケは納得できないし、するつもりもない。お節介と分かっていても、親友が寂しそうにしているのだ。こんな時に力になるのが親友というものだ、と自身の得意とする火魔法のように、メラメラと感情を燃え上がらせる。

 

「行くわよ!」

「……どこに?」

「サソリの所よ!」

 

 タバサの腕を掴むと、キュルケは走り出す。腕を掴まれた状態のタバサは呪文を唱え、体を空中に浮かせ、キュルケに引っ張られながらも器用に本を読み続けていた。すごい読書への執着である。

 廊下を百メイルほど猛然と走ったところでキュルケが、急に立ち止まった。そして、思い出したようにタバサに尋ねる。

 

「そういえば、サソリはどこにいるの?」

 

 タバサの口から大きなため息がこぼれた。

 

 

 

 サソリはヴェストリ広場の隅っこで、傀儡人形を造っていた。

 傀儡人形といっても、色々な種類がある。戦闘用、捕獲用、防御用などその用途によって形状も、性能も変わってくる。そして今、サソリが造っているのは、空中戦に特化した傀儡人形だった。その見た目は、一言でいうと、竜。木でできた竜がそこにはあった。

 ハルケギニアでの戦闘は空中戦も視野に入れないといけないと、サソリは考えていた。忍術と違い、魔法は空を簡単に飛ぶことができてしまう。おのずと、戦いは空へも及ぶ事となる。自身の力だけでは空を飛ぶことのできないサソリが、空中戦用の傀儡人形を造ることとなるのは必然とも言えた。

 サソリは、自身の造った傀儡人形に目を向ける。

 先日、任務に赴いた際に乗った竜籠の竜をモデルに造った傀儡人形。その大きさは十メイルを超え、本物の竜と見紛うばかりの威風堂々とした佇まいをしていた。

 やっと完成だ、とサソリが自身の作品を満足そうに眺めていると、そこに訪問者が現れる。

 

「おお! サソリ君! なんですかその木でできた竜は?」

 

 目を輝かせて近づいてきたのは、コルベールだった。

 

「オレが造った傀儡人形だ」

 

 自慢するようにサソリが答え、傀儡にチャクラ糸を繋げ操ってみせる。カタカタと音を鳴らし、竜の傀儡が翼を羽ばたかせると、コルベールから感嘆の声が漏れる。

 

「おお! すごい! これはすごい! ガーゴイルに似てはいるが? サソリ君、よければこれが何なのか私に教えてくれないか?」

「いいだろう」

 

 コルベールのはしゃぎように気分をよくしたサソリは、傀儡人形の説明をする。

 

 

 

「これが空を飛ぶのか! はぁ! 素晴らしい! 早速飛ばしてみてくれないか? もう好奇心で手の震えが止まらないんだ」

 

 傀儡人形の説明を聞いたコルベールは、興奮した様子で目を血走らせ、息を荒くしサソリに詰め寄る。傍から見たらただの変質者である。

 常人では近寄りがたい雰囲気を醸し出すコルベールを見てもサソリは動じない。さすが暁の一員、変人など見慣れている、と言わんばかりだ。

 

「オレの傀儡が素晴らしいのは当然だ。しかし、そこまで言うなら仕方ない。特別に操ってやろう」

 

 サソリも自身の作品を久々に褒められ、ますます気分がよくなっていた。

 そんな時、脳裏にかつての相棒デイダラの言葉がよぎる。

 

『オイラの芸術は爆発そのものだ。旦那のびっくり人形喜劇とはワケが違うぜ! うん』 

 

 フン、とサソリは鼻で笑う。芸術観が真逆と言っていい二人はしばしば衝突していた。どちらの掲げる芸術が優れているか? と。

 そして今、サソリの傀儡を見て子供のようにはしゃぐコルベールをその瞳に映し、オレの芸術こそが人々を魅了する、とサソリは満足そうに頷いた。

 

 優越感に浸りつつ、傀儡人形を操ろうとしたその時、その場にさらなる訪問者が現れる。

 

「ああ! やっと見つけた!」

 

 息を切らせながら、こちらに向かって来る人物たち、キュルケと、そのキュルケに腕を掴まれたまま、空中に浮いた状態で本を読んでいるタバサだった。

 キュルケはサソリの目の前まで来て荒げた息を整えたと思ったら、いきなりサソリを叱りつける。

 

「サソリ! かわいいご主人さまをほったらかしにして何してるのよ! もしタバサの身に何かあったらどうするのよ! 使い魔なんだから主人の傍にいないとダメじゃない! 朝起きてから寝るまでそれはもうベッドの中まで一緒にいないとダメでしょ!」

 

 キュルケは相当頭に血が上っているようで、一気に捲し立ててくる。

 サソリはその様子に何事かと、タバサの方に目を向ける。

 タバサは本に目を向けたまま、小さく口を開く。

 

「……気にしなくていい」

 

 熱の下がらないキュルケをよそに、タバサが本から顔を上げ、傀儡人形を指差す。

 

「これは何?」

「これはオレが造った傀儡人形だ」

 

 コルベールの時と同じように自慢するようにサソリが答える。

 タバサがじっと傀儡人形を見つめている。その姿を見たサソリが提案する。

 

「お前も興味があるのか? ククク……仕方ない奴だ。どうしても、というなら特別に乗せてやってもいいぜ」

「興味ない」

「なっ!?」

 

 タバサは傀儡人形からプイッと顔を逸らし、また本を読みだす。その言葉にショックを受けたのはサソリだった。信じられない言葉を聞いたというように、頭を振り、後ずさる。

 

「サソリ君! ミス・タバサが乗らないのなら私が! この私を代わりに乗らせてくれないか?」

「ちょっと、サソリ! あたしの話ちゃんと聞いてるの!」

 

 コルベールがハイ、ハイと手を上げ自己主張し、未だに説教をしているキュルケ、本を読み我関せずのタバサ、そして、タバサの言葉から立ち直れないサソリ。ヴェストリ広場には今、混沌が広がっていた。

 

 混沌から十数分後……。

 サソリとタバサは竜の傀儡に乗り、大空を舞っていた。

 あの混沌とした空気を収めたのはタバサだった。

 

「……乗りたい」

 

 サソリの落ち込みように、同情したタバサが口にした言葉である。その言葉を聞いてショックから立ち直ったサソリは、タバサと共に空を舞い踊っていた。

 サソリの操る傀儡が空を自由自在に翔る。

 

「すごい!」

 

 タバサの口から思わず、驚きの声が上がる。

 サソリが指を動かす度に、傀儡は風を切り、空を舞う。その姿は空の王者、竜そのものだった。

 風が頬を叩き、タバサの髪を揺らす。魔法では出せない速度で、空を翔る爽快さは筆舌に尽くしがたい解放感をもたらす。今、この時だけは暗い過去や嫌な気持ちをタバサから忘れさせた。

 

「やっと、オレの芸術の凄さが理解できたようだな」

「理解した。これはすごい」

 

 タバサが傀儡を褒めたことで、サソリの機嫌は元に戻っていた。いや、むしろ上機嫌だった。

 

「よし! しっかり捕まっておけ、タバサ! さらに速度を上げるからな」

 

 タバサは頷くと、サソリの服にぎゅっとしがみ付く。それから二人はしばらく空の遊泳を楽しんでいた。

 

 地上から二人の様子を見ていたキュルケの瞳は、優しく、慈愛に満ちていた。親友の今まで見た事のない、はしゃぐ姿を眺めながら、キュルケの心にも温かい気持ちが溢れてくる。

 

 あの二人なら、これからも大丈夫そうね。

 

 キュルケの口元から自然と笑みがこぼれた。

 キュルケの隣では、傀儡に乗らして貰えなかったコルベールが羨ましそうに、空を舞う傀儡を眺めていた。

 

 

 

 数日後……。

 今日はハルケギニアの休日、虚無の曜日と呼ばれる日である。

 タバサは虚無の曜日が好きだった。なぜなら、自分の世界に好きなだけ浸っていられるからだ。今もベッドに寝転がり、目をキラキラと海のように輝かせて本の世界に没頭していた。

 タバサが寝転がるベッドから少し離れた床の上では、サソリがこちらも真剣な目をして、傀儡造りに没頭していた。

 二人とも自分の世界にどっぷりと浸かり、周りを気にせず趣味を満喫している。まさに似たもの主従だった。

 だが、そんな二人の平穏を邪魔する闖入者が現れる。

 いきなり部屋のドアがどんどんと乱暴に叩かれたが、タバサとサソリは趣味に集中していたいので、その音を無視する。しかしドアを叩く音は、次第に激しさを増していく。

 タバサはめんどくさそうに寝転がったまま杖を振り、魔法で音を消す。そして、何事もなかったように本に目を向ける。

 次の瞬間、ドアが勢いよく開かれ闖入者が入ってきた。入って来たのはキュルケだった。しかし、タバサとサソリは自分の趣味から目を離さず、キュルケをほったらかしにする。

 キュルケは大げさに何か騒いでいたが、魔法の効果で声がかき消されていた。その事に気付いたキュルケは、タバサの読んでいる本を取り上げ、タバサの肩を掴んで自分に振り向かせる。タバサの顔はいつもの無表情だったが、キュルケには少し怒っているように見えた。

 キュルケがタバサをじっと見つめていると、根負けしたのかタバサが魔法を解く。すると、スイッチを入れたオルゴールのように、キュルケの口から言葉が飛び出す。

 

「タバサ。今から出かけるわよ! 早く支度して頂戴!」

「虚無の曜日」

 

 それで十分と言わんばかりに、タバサはキュルケから本を取り返そうとする。

 

「わかってる。あなたにとって虚無の曜日がどんな日だか、あたしは痛いほどよく知っているわよ。でも、今はね、そんなこと言っていられないの。恋なのよ! 恋!」

 

 本を取られまいと、本を高く掲げ、キュルケは自分の感情を口にする。しかし、タバサは首を横に振り、必死に手を伸ばし、キュルケから本を取り返そうとしている。

 

「あたしね、恋をしたの! でね? その人が今日、あのにっくいヴァリエールと出かけたの! あたしはそれを追って、二人がどこに行くのか突き止めなくちゃいけないの! わかった?」

 

 タバサが首を横に振る。どうしてそれを自分に頼むのか、理由がわからなかった。

 

「出かけたのよ! 馬に乗って! あなたの使い魔に頼まないと追いつけないのよ! 助けて!」

「なら、サソリに頼めばいい」

 

 タバサが視線をサソリに向ける。二人の会話をよそに、サソリは傀儡造りに勤しんでいた。

 

「だめよ! 彼はあなたの言うことしか聞かないでしょ!」

「そんなことない」

「あるわよ! タバサが気付いてないだけよ」

 

 タバサはサソリを召喚してから今までのことを思い返す。そういえば、学院でサソリが喋ったことのある相手は、自分以外ではキュルケとコルベールだけだと気付いた。

 この使い魔は本当に自分に似ている、とタバサはサソリの横顔を一瞥する。

 キュルケの目に、タバサの言うことしか聞かないという風に映るのも納得できた。

 

「わかってくれた?」

 

 キュルケの問いに、タバサは頷く。

 

「ありがとう! じゃあ、サソリに頼んでくれるのね!」

 

 タバサは再び頷いた。キュルケは友人だ。友人に頼まれたのだ、面倒だが受けるまでである。

 

「サソリ。お願い」

「……わかった」

 

 サソリは手を止め立ち上がる。どうやら二人の会話の内容は聞いていたようである。

 

「とりあえず、外に移動するぞ」

 

 三人は部屋の窓から外に飛び出す。タバサの部屋は寮の五階だったが、タバサとキュルケは魔法で、サソリは抜群の運動能力で地上に無事降り立った。

 サソリは懐から巻物を取り出すと、それを広げる。ボンッという音と共に煙が辺りに立ち込め、煙が晴れるとそこには、竜の傀儡人形が鎮座していた。

 その光景にキュルケが目をむく。

 

「ちょっと、サソリ! そのガーゴイルどこから出したの?」

「これは、口寄せの術だ」

「……クチヨセノジュツ?」

 

 タバサがわからないと顔を傾げた。

 サソリが手に持つ巻物を二人に見せる。

 

「この巻物に契約を施し、武器などを使いたい時に呼び出す術だ」

「す、すごいわね!」

「それもニンジュツ?」

「ああ、そうだ」

 

 サソリが頷くと、懐から新しい巻物を取り出し、タバサに渡す。

 

「これは?」

「もし、オレと離ればなれになることがあれば、その巻物を開け」

「開くとどうなるの?」

「どこに居てもオレを呼び出すことができる」

 

 タバサが少し驚いた表情を作り、まじまじと巻物を見つめる。

 

「ありがとう」

 

 タバサがサソリにお礼を言う。それを見ていたキュルケがサソリに物欲しそうに問い掛ける。

 

「あたしの分はないの?」

「ない」

 

 眉ひとつ動かさず、サソリは即答する。

 

「……ケチ」

 

 キュルケが唇を尖らせて、不満を漏らす。

 

 そして、話も一段落ついた三人はサソリの操る傀儡に乗り込み、空に舞い上がった。

 

「それで、どこに行けばいいんだ?」

 

 サソリに尋ねられ、キュルケが、あ、と声にならない声を上げる。

 

「わからない……。慌ててたから」

 

 三人の間に気まずい空気が流れる。

 さて、どうするべきか? とサソリが考えていると、

 

「あっち」

 

 タバサが草原の方を指差す。

 

「この方向にいけばいいのか?」

 

 タバサがこくりと頷く。

 

「どうして、わかったの?」

「遠見の魔法」

「ああ、その手があったわね!」

 

 キュルケが納得したという風に手を叩く。そして、サソリの操る傀儡は目的の人物の追跡を開始した。

 

 

 サソリたちが追跡していた相手がある建物から出てきた。

 あの後、サソリたちはキュルケの想い人の後を追い、トリステインの城下町まで来ていた。追跡の相手はルイズとその使い魔サイトだった。そして、キュルケの恋をした相手とは、サイトのことだったようだ。

 ルイズとサイト、二人が城下町まで来た理由は、二人が出てきた建物を見ればわかった。二人は武器屋から出て来た。そして、サイトの背中には大きな剣が背負われていた。それを見れば、サイトの武器を買いに来たのだろうと簡単に推測できた。

 キュルケは、路地の陰から二人を見つめると、唇をギリギリと噛みしめる。

 

「ヴァリエールたら……、剣なんか買って気を引こうとしちゃって……。あたしが狙ってるってわかったら、早速プレゼント攻撃? なんなのよ~!」

 

 キュルケは地団駄を踏んだ。タバサは興味がないのかいつものように本を読んでいる。サソリは街並みを眺めていた。

 キュルケは、二人が見えなくなったあと、武器屋の戸をくぐる。サソリたちもその後に続く。

 店に入ると、店主がキュルケたちを見て目を丸くした。

 

「おや! 今日はどうかしている! また貴族だ!」

 

 驚きの声を上げる店主にキュルケが話しかける。それを尻目に、サソリは店の中を見渡す。

 店の中は、昼間だというのに薄暗く、ランプの明かりが灯っていた。壁や棚に所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑も飾られていた。

 サソリは並べられた武器を品定めするように眺める。そんなサソリにタバサが本から顔を上げ、声をかける。

 

「興味あるの?」

「……まあな」

 

 サソリが肯定する。その言葉に喰いついたのは、店主だった。

 

「へへへ……。旦那いかような武器をお求めで? 最近は盗賊が城下町を荒らしまわっているそうで、何かと物騒ですよ。今のうちに武器を整えて置くのが賢明でさあ」

「盗賊?」

「そうでさ。なんでも『土くれ』のフーケとかいう、メイジの盗賊が貴族の宝を散々盗みまくっているそうで、貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」

 

 サソリは盗賊の話題に興味を引かれなかったが、店主はそのことに気付いた様子もなく、揉み手をしながらサソリに再度尋ねる。

 

「それで、旦那。どのような武器にします? 今の流行はこのレイピアでさあ」

 

 店主は一メイルほどの長さの、細身の剣をサソリに見せる。サソリは剣を一瞥すると、店内をもう一度見回す。

 

「オレが欲しい武器は此処にはないな」

「旦那、うちはトリステインいちの武器屋ですぜ。うちにないんだったら何処探しても見つかりませんぜ」

 

 見つからないのは当然だ、とサソリは思った。逆にこんな場末の武器屋にサソリの求める武器が転がっていたら、そっちの方がおかしかっただろう。

 

「旦那はいったいどんな武器をお求めで?」

「鎌だ……人の首を刈れるぐらいの大鎌だ。刃が三枚付いていれば尚良い」

 

 店主はサソリの求める武器を聞いてハハハ、と笑い出す。

 

「確かに! 武器屋に麦刈りの道具は置いてませんや。旦那は冗談がお上手で!」

 

 サソリは真面目に答えたはずだが、なぜか店主のツボにはまってしまったのか、店主は腹を抱えて笑い出す。

 

 

「ねえ、ご主人。あたしも聞きたい事があるんですけど? よろしくて?」

 

 サソリと店主の話が一段落したのを見計らって、キュルケが再び店主と話し出す。

 サソリは店内を眺めながら、かつての仲間が使っていた武器を思い浮かべる。三刃の大鎌の他に、忍刀『大刀・鮫肌』と呼ばれる武器を仲間の一人が使っていた。大鎌の方はサソリでもなんとか作ることは可能だが、大刀の方はサソリでも絶対に再現不可能なので造るのは諦めるしかなかった。

 考え事をしながらぼんやりと並べられた武器を見ていると、ふと、そこでサソリはある物を見つける。それは棍棒だった。樽に数本無造作に入れられた、長さ一メイルほどの木でできた棍棒。

 サソリの脳裏に先の任務の事が思い出される。

 

『最強魔法。風棍棒』

 

 タバサが棍棒になにやら執着をみせていたな、と思い出したサソリは、タバサに教えてやる。

 

「おい、タバサ。棍棒があるぜ」

「……」

 

 サソリの声に反応して、本から顔を上げるが、棍棒を一瞬見ただけですぐに顔を本の方に戻してしまう。どうやらお気に召さなかったようだ。

 

 もう見る物がなくなったサソリが、キュルケと店主の方を見ると、キュルケが胸元をはだけ、剣を値切り始めていた。店主はキュルケの色香に惑わされているようで、どんどん値段を下げていく。

 

「へえ! 千で結構でさあ!」

「買ったわ!」

 

 キュルケの声が店に響き渡り、ドンと小切手をカウンターの上に叩きつけ、目当ての剣を奪うように掴むと、さっさと店から出て行った。サソリとタバサもその後に続く。 

 サソリたちが店を出た後に、店内から店主の後悔の悲鳴が聞こえてきたが、三人は気にした様子もなかった。

 

 目的を果たし、通りを三人が歩いていると、道端にいくつもの露店が軒を並べているのが目に入る。様々な品が並び、商人は声を張り上げ、通りの角では大道芸人がジャグリングを行い、道行く人々の目を楽しませている。屋台からは肉を焼いた食欲をそそる匂いや、焼き菓子の甘い香りがただよい、鼻腔を刺激する。すると、キュルケが良いことを思い付いたという風に手を合わせる。

 

「そうだ! せっかく町まで来たんだし、何か美味しいモノでも食べて行かない?」

「賛成」

 

 キュルケの提案に、即座に反応するタバサ。その様子を見たサソリの口からはため息がもれた。

 




話の流れ的に暁メンバーの傀儡を期待された方がおられましたら、すいません。物語の中では暁メンバーの傀儡は造っている最中という設定です。

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