設定が色々と迷走しているので後々齟齬が生じるかもしれません。
激しい戦闘が続いた死の大地の一角。焦土と化した黒い大地と硝煙のような臭いが、死の大地を更なる不毛の土地へと変化させていた。
そんな中、俺は自分を包囲するオリハルコンの軍団を一瞥してから口を開く。
「オレはね、レベルを最高まで上げてからボスキャラに戦いを挑むんだ」
呟くような独白。彼らの表情はあまりにも無機質で、俺の言葉は馬耳東風とばかりに流れていく。
言葉は届いていてもその意図も意志も届くことはないのだろう。
そんな彼らの代弁をするように、彼らの司令塔であるマキシマムは困惑の表情を浮かべた。
「キサマ……何の話をしている?」
その問には答えずに、俺は続く言葉を吐き出す。
「敵のHPは10000くらいかな…。オレは全然ダメージを受けない。しかしオレの攻撃も敵の防御力が高くて100くらいずつしかHPを減らせないんだ。妙な快感を覚える反面ひどく虚しくなる。今、丁度そんな気分だ」
「HP……10000? ……気でも触れたか」
マキシマムは話にならないとばかりに苛立ちも露わにして片手を上げると、兵士たちを俺へと出撃させようとする。
合図と同時に身構える兵士たち。そしてマキシマムの両目が怪しく光り輝いた。
「キングスキャン!! ……ダメージを受けないとはどういう意味かね?」
俺のステータスを覗き見たマキシマムが不審そうな顔をする。
あーそうですね。すいませんね、適当な事言って。
「ちょっと言ってみたかっただけだ。戯言だから忘れてくれ」
よいしょっと。ーーさて、どうするかな。
俺は気持ちを切り替えてマキシマムを正面から見据える。
霊丸は残り2発だけ。この後バーンと戦うことを考えるなら絶対に温存しなければならない。
もうひとつのとっておきも1発しか使えない……となると通常攻撃で乗り切るしかねえな。
オリハルコン相手に? マジでHP100も減らせるか自信ねえー。
はは、何でだろう面白くもないのに笑えてくるよ。
「ん? テメェは……」
そんな自嘲ともつかないことを考えていると、マキシマムの背後に小さな影を見つけた。
「よくもキルバーンを殺したなっ。絶対にゆるさないぞ!」
ピロロとか言う魔族のクソガキだ。
あの野郎、テメェがキルバーン本体のくせに白々しい。
おそらく俺の存在をマキシマムに伝えたのもこいつの仕業。
ついさっきまで何処にも姿が見えなかったクセして……。隙を見てキルバーンの頭部を取り返す腹積もりだろうな。
となれば俺が取る手段はひとつ。
「キルバーン? この下衆ヤロウのことかい? なんなら火葬でもしてやろうか」
キルバーンの生首を掴みあげて意地の悪く口の端をあげる。
マキシマムは鼻で笑うが、後ろに控えるピロロは目に見えて慌て出す。
「それには及ばんよ。我輩がその生首諸共キサマを灰にしてくれよう。ガッハッハッハ」
「っ!? ーーま、待って」
おいおい、俺よりも後ろのやつの方が驚いてるぜ。
なんて、俺も余裕かましてられないんだよな。そろそろ本腰入れるか。
キルバーンの頭部にオーラを流してから背後に転がしておく。ピロロの視線がそれを追うように移動するが、それは無視する。
オーラを纏わせた。これでちょっとやそっとの攻撃じゃ誘爆することはないだろう。元々人形に埋め込んだまま戦わせてたんだ、簡単に爆発するようならさっきの戦いでとっくに爆発していることだろう。
ーーってことで! 行くかっ!
「待たせたなデカブツ。こっちは準備オーケーだぜ」
「うわわっ」
ピロロは俺達の張り詰めた空気を感じて、小賢しく岩の陰へと身を潜める。
「何を戯けたことを。状況を理解するだけの知能もないとは、愚かなものよなーーっ!!」
開戦の幕を開けたのはマキシマムだった。
右手の指をパチンと鳴らすと沈黙を守っていた兵士たちは示し合わせたように動き出す。
3体のポーンが俺に向かって駆け出し、その影に隠れるようにしてナイトが付いているのが見える。
あっという間に距離を詰めてきたポーン。繰り出される3つの拳を両腕でガードし、吹き飛ばされないように踏ん張りをきかせる。
「ーーおっとっ!?」
ポーンの背後に隠れていたナイトは、俺がガードするのと同じタイミングでポーン背後から飛び上がると頭上から槍と突きおろす。瞬時に足の力を抜いてポーンの拳の威力で後ろへと体勢をずらす。
空中で空振りをしたナイトは未だ宙に浮いたまま。この隙を逃す手はない。
右足にオーラを集中させると、体を回転させて全身のバネを使い渾身の後ろ回し蹴りを放つ。
響く鈍い打撃音。オリハルコンの塊を蹴り飛ばした衝撃に僅かな痺れを無視して足を引き戻す。
足が地面についたと同時に駆け出し、壁のように迫る3体のポーンを押し退ける。
こいつらはただの駒だ。操っている本体を倒すさなければ死ぬまで向かってくる。
「ふふ、甘いわっ」
真っ直ぐに向かう俺を迎撃するため、マキシマムは周囲の兵を集中させる。
残りの4体のポーンは壁のように行く手を阻み、その間にビショップとルークが迫る。
マキシマムさんよぉ、さっきと定跡が一緒だぜ!
俺は両手にオーラを掻き集め塊を作る。
「甘いのはそっちだ! 喰らえやあぁぁ!!!」
放たれたオーラの奔流に壁となっていたポーンは吹き飛び、後ろのルーク達を巻き込んで倒れこんだ。
「なっ!?」
見たか! 普通にオーラを飛ばすことだって出来るんだぜ。
しかし霊丸と違って誓約と制約無しでは威力は中級呪文程度といったところだろう。オリハルコンの兵士を砕くことはできない。
だけどそれで十分。起き上がろうともがく兵士を置き去りにしてマキシマムへ疾走る。
腰にさした木刀を抜き放ち、間髪入れずに振りかぶる。
「ま、待てーー」
マキシマムは咄嗟に最速の兵士ナイトを呼び戻そうとするが間に合わない。
「終わりだっ」
振りかぶった木刀に渾身の力を込め、思い切り投擲する。
顔面を覆うように防御するマキシマムだが。その軌道はマキシマムとは大きく逸れ、あらぬ方向へと消えていった。
身構えていただけに呆然とするマキシマムだが、すぐに余裕の表情を取り戻した。
「ハ…ハハ。ハッハッハッハ、愚か者めっ。せっかくの機会を棒に振りおって。ーーこれでチェックメイトだぁ!!」
再び兵たちに合図を送り、俺を包囲する。
「王手だったら俺のが先だぜ。この勝負、俺の勝ちだ」
「お、王手だと? 何だそれは、キサマは何をーーっ!?」
俺は不敵な笑みを浮かべてマキシマムの後ろを指す。つられて視線を送るマキシマムはその視線の先にあるものを見て困惑の表情を浮かべる。
その視線の先にあったのは木刀に貫かれ絶命するピロロの姿だった。