ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:七夕0707

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71 出発

「じゃあ、行ってきます」

 

 短く別れのあいさつをすませると、ダイは笑顔で気球に乗り込んだ。

 

 遠足みたいだなと思いつつ軽く手を振って応えて、空高く飛んで行く気球を見送った。

 

 この4日前、俺はアバンと一緒にバーンを倒すため話し合った。

 

 見落としやうっかりは許されない。

 

 これでもかって程慎重に何度も何度も作戦を見直した。

 

 原作の内容だけでなく、これまでの戦いの中での相違点も事細かに検証した。

 

 その結果、俺は次に死の大地へ攻めこむまでは静観することになり、アバンは洞窟に残ることになった。

 

 この案を出したのは俺ではなくアバンだ。

 

 理由は2つ。

 

 1つ目は、まだバーンを倒すにはダイ達の力が不足しているということ。

 

 これに関してアバンの意見はとてもシビアだった。てっきりアバンも含めて総力戦で死の大地に乗り込むことになると思ってたので意外だった。

 

 アバンが言うには双竜紋のダイと覚醒したポップ。最低でもこの二人は必要だと言う。

 

 ハドラーかバランを味方にするという案も出したんだけど、アバンはそれを受け入れなかった。

 

 どちらも信念をもった男たちだ。バランはともかく、ハドラーは寿命が残り少ないとわかるや戦闘になる可能性があるからだそうだ。

 

 まあ、ハドラーが体内の黒のコアの存在を知った時点でバーンが誘爆させてきそうだしな。

 

 2つ目は、なんとこれまた意外なことに、俺のオーラが格段に強くなったのである。

 

 突然オーラの質が変わったので最初はひどく動揺したものだ。

 

 だけどそれは良いコトばかりではない。いきなりこんなに強くなったのでは格上相手に満足に戦うことはできない、らしい。

 

 ダイ達がバランを連れて死の大地に乗り込むのは明日だ。それまでの間に少しでもオーラの具合を身体を慣らさないと。

 

 以上の2つの理由から、俺とアバンは自らの力の練磨に時間を割くことにしたのである。

 

 

 

 なぜ唐突に急激なパワーアップを果たしたのか。

 

 心当たりはある。

 

 ”念”は心の動きが大きく作用し力を加減する。今までの俺は歴史の改変を恐れて力をセーブしていた。

 

 しかし4日前、俺はバーンを倒すーーいや、この世界の運命を狂わせても構わないと腹をくくった。

 

 迷いを払拭したことが俺の”念”を研ぎ澄ませる結果になったのだ。

 

 正直それらの思いを全て拭えたのかと問われれば自信はない。

 

 誰かに何か言われた程度で解決する悩みなんてたかがしれているし、その誰かの言葉が正しいなんて保証だってない。

 

 しかしそれでもこうして実際に力が増している以上、俺の中である程度の決着がついたということなんだろう。

 

 まあ、それは措いといて。時間もないし俺は俺でやるべきことをしないとな。

 

 スコップを地面に突き立て地面を掘り返す。

 

 オーラの流されたスコップは地面をプリンのように簡単に掘り進めることが出来る。

 

 この感覚も懐かしいな。指輪に任せて基本の修行なんて久しくやっていないからな。

 

 おっと。今俺が地面を掘っているのを修行だと思っているなら勘違いだぞ。

 

 基本に帰るのは確かに大切だが、それと今回地面を掘っているのは無関係だ。

 

 では何をしているのか。決まっているーー

 

 墓荒らしだよっ!!

 

 地中から現れた棺桶。目当ての物を見つけたというのに俺の気持ちは尚更ブルーになる。

 

 墓を荒らしているという罪悪感と、死体が腐乱していないことを祈りつつ、俺はゆっくりと棺の蓋をあけた。

 

 

 

 

 

 破邪の洞窟へ戻るとアバンは気配で気がついたのかすぐに俺の方へ振り返った。

 

「おや、思いのほか時間がかかったようですね。お願いしていたアイテムはどうなりましたか」

 

「はあぁ、一応完成しましたよ。効果の程も自分の身体で実証済みです」

 

 未だ腐った死体の嫌な感触と臭いが脳裏に焼き付いて離れない。

 

 アバンの天才的アイデア(怒)に嫌味のひとつでも言ってやりたいところではあるがそんな気力はない。

 

「グッドですねえ。私も手伝ってあげたかったのですが、迂闊に地上に出て敵に見つかってはいけませんからねえ」

 

「せめてもっと早く言って下さいよ。明日が決戦だってのに今朝言うなんて」

 

「いやぁ、寝て起きたら急にびびっときたんですよ。これはもう天啓とでも言うべきですか」

 

 この野郎、いけしゃあしゃあと。

 

 アバンに頼まれていたアイテムを全て袋にまとめて渡すと、中身を確認して満足そうに頷いていた。

 

 

 

 

 

 夜が明けた。

 

 身支度を整えるとアバンが口を開く。

 

「良いですか。打ち合わせ通りに行かなくともムリは禁物ですよ。そのために私は備えているんですから」

 

「ムリは百も承知ですよ。まあ死ぬつもりはないんで、それだけは安心して下さい」

 

 軽口で応えるとスペルカードを片手に出立しようとしてーーその動きを止めた。

 

「アバンさん。どうして総力戦ではなくコッチの作戦にしたんですか。これじゃあ神託の通りじゃないですか」

 

 アバンは運命に囚われるなと言っていた。しかしアバンはそれに反して原作通りに進めることを選んだ。その理由を聞いておきたかったんだ。

 

「結局、神託や運命なんてその程度のものですよ。それを知る責任とか使命とか、そんなものは関係ありません。笑って生きるために、ただ戦うだけです」

 

 その言葉に自然に笑みがこぼれてきた。

 

 気の利いたセリフでも返そうかと思ったが、何も思い浮かばなかった。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 短く一言それだけを告げて、笑顔で洞窟を後にした。

 






オリ主君パワーアップです。
オーラ量が増えたというよりはオーラの純度が上がったと考えて下さい。
理由はより攻撃的で手加減なしで戦うからです。

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