ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:七夕0707

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69 決戦に向けて

 廊下から足音、そしてドアを開ける音が響く。

 

 「・・・そんな・・・ヒュンケル・・・どこへ?」

 

 空のベットを見てエイミは抱えていた花束を下ろし、残念そうに呟いた。

 

 「みんな出て行ってしまったよ。5日後、ダイ君たちははじめとする強者たちが集まり死の大地へ乗り込むことが決まったんだ」

 

 「それを伝えたらみんな修行をしたいって飛び出して行ってしまったわ。すごい敵が現れたって言ってたから、その対策でしょうね」

 

 ベッドの横にあるイスに座ったまま、アポロとマリンはエイミが出かけていた間の一連の流れを説明した。

 

 「・・・そう、なのね」

 

 「うふふ、お目当て人には逃げられちゃったわね」

 

 マリンがからかうように言うとエイミは顔を赤らめた。そしてすぐに暗い表情になると悲しそうに口を開く。

 

 「・・・どうしてそこまでして戦おうとするのかしら、あの人は。まだ傷も完治していないのに・・・まるで戦いに呪われているみたい」

 

 部屋の中を重い空気が流れる。なのでーー

 

 「それはここで寝ている俺に対する当てつけだよね。お前も早く修行しに行けってこと?」 

 

 ここまで黙っていた俺であったが、空気に耐えられずに思わず茶化すように言葉を発してしまった。

 

 「べ、別にそういうわけじゃないわよ。私はただ、ヒュンケルがムチャばかりするからーーはいこれっ、殺風景だから買ってきたわよ」

 

 てっきり元気になったのなら出て行けというのかと思ったら、意外にもエイミは優しい。いや、怪我人への対応としては普通か。

 

 エイミは花束を花瓶にさし、ベッドで寝ている俺の枕元へ飾る。

 

 「あなたもまた死にかけたんだからもっと休んでいた方がいいわよ」

 

 マリンは果物を剥きながら優しい口調で言う。っていうか”また”って・・・。

 

 「そうも言ってられないよ。午後には俺も5日後に向けて準備しないと」

 

 ”同行”も新しく作り直す必要があるしな。

 

 「でもーー」

 

 マリンが何か言いかけたところで部屋の入口の方からノックの音が聞こえた。

 

 みんなの視線が集中する。

 

 「お取り込み中に悪いが、少しいいか?」

 

 「ロ、ロン・ベルクさんっ!?」

 

 意外な人物の登場に驚いて声を荒らげてしまう。

 

 どうしてここに? 今はダイたちの武器の修理ーーは必要ないのか。原作と違いハドラーとの戦いで”ダイの剣”は傷ついてないからな。

 

 「トーヤ。あんたに折り入って頼みがあってきた」

 

 「な、なんです?」

 

 頼みがあると言いつつも顔が怖い。マジで嫌われてるな俺。

 

 「オリハルコン・・・いや、ハルモニウムと言ったか、あれを譲って欲しい」

 

 ああ、そういうことね。確かに鍛冶師ならオリハルコンは喉から手が出る程欲しいだろうな。それにこの人は確か自分の技に耐えられる剣を作るのが目的だったはず。

 

 本当なら二つ返事で渡したいのだが・・・・。

 

 「すみません、ハルモニウムはあの時渡したので全部なんです」

 

 「なにぃっ!? ーーお前さんは錬金術士なんだろう。なくなってもまた作れるんじゃないのか」

 

 半信半疑といった様子でロン・ベルクは怖い顔で詰め寄ってくる。

 

 「そ、素材があれば作れますが・・・”竜のつの”はこの間渡したハルモニウムを作るときに使い切ってしまいましたし」

 

 「・・・ドラゴン1頭から採れるツノはそんなに少ないのか?」

 

 「いえ、それなりの量はありますけど・・・あのハルモニウムは通常のハルモニウムよりも品質を高めるために精錬してあったんですよ」

 

 ハルモニウムを作る材料は”竜のつの”と”油”と”金属”の3つ。俺はハルモニウムを作るのにハルモニウムを素材とすることでその品質を向上させていたのだ。それを数回繰り返したため”竜のつの”は使いきってしまった。

 

 そのことを説明するとロン・ベルクはすごく残念そうな表情をした。何故か悪くないのに罪悪感が半端ない。

 

 「そ、そうだっ! ”プラティーン”なんてどうです? ハルモニウムよりはかなり劣りますが、それでもかなりの強度がありますよ」

 

 

 【 プラティーン 】

 ・高純度の白金の延べ棒。白金は高い硬度に加え、銀以上の退魔の力を備えている。

 

 

 「プラティーン? 白金のことか・・・確かにそれなら鎧の魔剣や魔槍を作った金属と遜色ないが・・・」

 

 「迷ってるなら一応持ってきましょうか? 今日は一度家に帰るつもりなのでついでに持ってきますけど」

 

 「そうだな、では頼もうか。・・・ところでお前さんの木刀を少し見せてくれないか」

 

 「え? え、ええ。良いですけど」

 

 困惑しながらもベッドの横に立て掛けてある木刀をロン・ベルクへ手渡す。

 

 「この模様はなんだ?」

 

 まじまじと木刀を眺め、片手で素振りなどをしたかと思うとロン・ベルクはそんなことを聞いてきた。

 

 「それはオーラを流しやすくする細工みたいなものです。それのお陰で通常よりも強いオーラを纏わせる事ができるんですよ」

 

 「やってみせてくれ」

 

 言われるがままに木刀にオーラを流す。すると”旧文字”は微かに輝き、木刀を強いオーラが包み込んだ。

 

 この後、何度も木刀の材質やら模様の意味とか質問攻めに合い、ようやく開放されたと思ったら昼過ぎになっていた。

 

 全然休息にならなかった。

 

 

 

 

 

 洞窟へ戻りプラティーンをロン・ベルクへ渡した後、俺は再び洞窟へ戻ってきていた。

 

 ダイとヒュンケルは二人で剣の修行。ポップはマトリフから呪文の伝授。クロコダインはチウと必殺技の特訓。マァムは川辺で体を鍛えていた。

 

 みんなの様子を見てきたが原作との違いはほぼない。

 

 原作と違い俺がハドラーたちと戦ったために不安があったが、遭難した俺を捜索中にハドラー親衛騎団のヒムと出会ったと聞いて一安心だ。

 

 キメラのつばさを錬金釜へ放り込み、鼻歌まじりにかき混ぜる。

 

 「へぇ、そうやってアイテムを作っていたのね」

 

 マリンが横で釜を覗きこんで興味深そうに言う。

 

 パプニカから帰る際、怪我人なんだからといってついてきたのだ。怪我自体は回復呪文で治っているので何も問題がないのだけど・・・。

 

 しかし能力やアイテムのことを話してしまっている今となってはついてこられても困ることはない。特に断る理由もなかったので一緒に洞窟へ戻ってきた次第である。

 

 「ああ。簡単そうに見えるけど結構大変なんだよね」

 

 「錬金術・・・だったかしら、いつの間にそんなこと出来るようになっていたの?」

 

 「物心ついた時からだよ、そういう家系なんだ。一応秘術だから詳しいことは話せないけど」

 

 こう言っておけば大体なんとかなる。

 

 案の定マリンはそれ以上錬金術のことについては聞いてこなかった。

 

 ・・・・・・。

 

 ・・・。

 

 

 

 どれくらい時間が経っただろう。外は見えないが恐らくもう深夜に近い時間だろう。

 

 その辺にあるもので適当に夕飯を済ませ調合を続ける。

 

 調合しながら適当に世間話をできるのでいつもより退屈せずに作業ができた。しかし、マリンは帰らなくていいのだろうか。

 

 恐らく外は真っ暗だ。もしかして泊まっていくつもりなのか? ベッドはひとつしかないんだが。

 

 頭の片隅でそんなこと考えていると、お茶を飲んで座っているマリンが思い出したかのように言った。

 

 「あなたって改めて考えると凄いわよね」

 

 「んー、何が?」

 

 「魔王軍が攻めてくる前から色々とパプニカで事件を解決してたじゃない。今だってダイ君たちと一緒に最前線で戦っているし」

 

 「経歴だけならそうかもしれないね。でもマリンだって三賢者だなんて言われてるし、フレイザードの時だっていい線いってたらしいじゃん。十分すごいよ」

 

 取り留めのない会話をしながら釜をかき混ぜる。

 

 「ありがとう。私じゃもう今の敵に太刀打ち出来ないけど、後ろでみんなを支えるわ」

 

 「ああ、俺もダイ達をちゃんと支えてみせるよ」

 

 そう答えるとマリンはそのまま口を閉ざし、若干の間が生じた。

 

 「・・・あなたはダイ君たちを守るために一緒に行動している」

 

 「ん? ああ、まあそうだけど」

 

 「だから5日後に向けて必要な準備をしている」

 

 「そうだよ」

 

 「そしてダイ君たちをうまくサポートしたいと思っている」

 

 「もちろんそう思ってるよ」

 

 「でも大魔王を倒せるとは思っていない」

 

 「もちろんーーえ?」

 

 思いもよらないマリンの言葉に、俺は釜をかき混ぜる手をとめて、ゆっくり後ろを振り返った。

 


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