「帰れ」
短く一言、ロン・ベルクはそう告げた。
「お、お願いしますっ。俺たちが魔王軍と戦うにはどうしてもあなたの作る最強の剣が必要なんです」
「そんなことは知らん」
「なんだとっ、あんたは魔族だから魔王軍の味方ってわけか!」
ポップが責めるように言うと、ロン・ベルクは酒瓶をおいて睨むような視線を向ける。
「・・・武器屋に善も悪もない、強い武器を作るだけだ。ところがどうだ! 最近は碌な連中がいない・・・宝の持ち腐れだ。だから俺はアホらしくなって武器を作るのをやめたのさ」
そういってロン・ベルクは俺を睨む・・・さすがにここまで露骨に嫌われると傷つくな。
「そこのバカもだ。名刀も丸太も変わらん、その辺の棒きれで十分だろう」
皆にもそれは十分に伝わっているようで、説明を求めるかのようにメルルが小声で耳打ちしてきた。
「何かあったんですか?」
「3年くらい前に偶然山奥に住んでる魔族を見つけてね、話してみたら刀鍛冶だって言うからさ・・・俺に強い剣を作ってくれって言ったんだよ」
一応俺も小声で話す。しかし普通に筒抜けみたいだ。みんな静かに俺の声に耳を傾けているようだ。
「でさ、嫌だって言うから勝負で俺が勝ったら作ってくれってお願いしたんだけど・・・」
「だけど・・・なんです?」
「あれはそんな生ぬるいもんじゃない。本気で殺してやろうかと思ったくらいだ」
やはりというか、当然というか・・・会話を聞いていたロン・ベルクは俺の続く言葉を遮るように鼻を鳴らした。
「今思い出しても胸くそが悪くなるーー」
そして何故か3年前の出来事を憎々しげに語りだしたのだった。
3年前、偶然にもロン・ベルクに出会った俺は武器を作ってくれと懇願した。
土下座までして頼み込んだ俺であったが、にべもなく断られた。
しかしそう簡単に引き下がる俺ではなかった。ロン・ベルクの家の前で座り込みを開始した。首を縦に振るまでテコでも動かない所存だった。
座り込むこと一週間。ついにロン・ベルクが動きをみせた。
「ーーいい加減にしろよ小僧。でないと地獄をみることになる」
俺は心のなかで思ったね、”かかったぞ”と。
そして怒りに震えるロン・ベルクに俺は言った。
「なら、勝負をして下さい。剣の勝負で俺が勝ったら武器を作ると約束して下さい」
ロン・ベルクは魔界最高の鍛冶師の前に、一流の剣士である。今は飲んだくれてても、こんな若造が自分に剣で勝つつもりでいるなんて頭にくるだろう。
更には一週間もストーキングされて苛立っているところへ、そんな戯けたことを抜かす奴が現れたとなれば尚の事。
結果、ロン・ベルクは怒りが決壊したかのような勢いで勝負を承諾し、自前の剣を取り出すと襲いかかってきたのであった。
そして俺は負けた(笑)
「ーーというわけだ。だからコイツには武器は作らん」
昔のことを思い出していると、いつの間にかロン・ベルクの過去回想も終わったようだ。
話を聞き終えた皆は、それぞれ思い思いの反応をしている。・・・まあ、十中八九呆れてるんだろうけども。
すまんな、ダイ。俺がムダに嫌われてしまったばかりにロン・ベルクを必要以上に意固地にさせてしまったかもしれない。
「お、お願いします。どうしても俺には強い剣が必要なんです」
だからこれ以上このヒトを刺激しない様に、俺は部屋の隅に移動するのだった。
だけど安心してくれ。このヒト説得するのは至極簡単なはずだから。
「あなたの作った鎧の魔剣でさえも一撃で消滅してしまったんです。もっと強い剣がないと、真魔剛竜剣に勝つことができない」
「真魔剛竜剣だとおっ!!!」
ほらね。
その後、ダイはロン・ベルクにバランとの戦いを説明した。
「ふははは、面白いっ! できるぞボウズ。地上最強の剣がっ」
「本当ですかっ、お願いします! 今すぐにでもっ」
「あわてるな。真魔剛竜剣に勝つには同じオリハルコンを使わなければならない。そうでなければ結果は同じだ。・・・あいにく俺は錬金術士じゃないんでね、材料がなけりゃ剣は作れんよ」
「な、なんでぇ。ふりだしに戻っちまった」
ポップが嘆くようにつぶやくと、しんと静まり返ってしまった。
トントン拍子で話が進んでいただけに、そのショックも大きいようだ。
だからこそ俺の活躍も一潮というやつになるだろう。
最近全然活躍してなかったかしね。それでころかロン・ベルク説得という意味では足を引っ張ってすらいるんじゃなかろうか。
ここらで汚名返上の意味も込めて皆の役に立たないと。
「あ、あーっと。ゴホンっ」
「ん? どうかしたの、トーヤ」
「ああ、オリハルコンが必要なんだろ? 俺の家にあるぞ」
そう言って俺は”同行”を使って素早く家に帰り、オリハルコンのインゴットを持ってきた。
【 ハルモニウム 】
・伝説に語られる神々の金属、オリハルコンの塊。
剣の一本は余裕で作れるであろう大きさのそれを目にしてダイ達は大喜び。
ふふ、きっとロン・ベルクも大いに喜んでいるに違いない。そう思って視線を向けたのだが・・・。
しかし何故かロン・ベルクは射殺さんばかりの視線で俺を睨むのだった。
なんでさっ!