ロモス城の一室。俺はそこでダイ達へ”絶”を実演して見せる。
もっとも、俺の場合は指輪で強制的に”堅”になるので”隠”だけどね。
「す、すごいわ。目の前にいるのに、まるで気配を感じないっ」
「すっげぇ。ねぇねぇ、それどうやるのっ!?」
目を輝かせて教えを乞うダイ。
「まあ待て、教えるのは全部終わってからだ」
興奮するダイを抑えて、続けて”纒”と”練”を見せる。
しかし気のせいか”絶”よりも感動は薄く感じた。理由を聞いたら”纒”と”練”は達人であればある程度は可能だからだとマァムは言う。
驚く姿を期待していただけに少しがっかりだ。
「でも、こんなに綺麗で穏やかな闘気を操る人は他にいないわよ」
そんな俺に気を使ってフォローする心優しいマァム。・・・俺って顔に出るタイプなんだな。
「さて、残りの基本は”発”だけど・・・。これは別に良いよな? アバンストラッシュとかと原理は一緒だし」
まさか水見式を見せる訳にはいかないため、適当にはぐらかす。
「なら次は応用技っていうのみせてっ」
「はいはい」
続けざまに”周” ”凝” ”堅” ”円” ”流”を見せる。例によって”硬”は俺の能力によりできないのでスルーだ。
「すげぇのな、あんたって。こんなのどこで覚えたんだ?」
すべての技を見せ終えるとポップは感心したように言う。
「むかし住んでた所にそういうのが詳しく書いてある本があったんだよ。俺はそれをマネただけだ」
「ふぅん、本ねぇ。でもそれだって一朝一夕で出来るもんでもないんだろ?」
「ああ、もちろんだ。ここまでになるのにメチャクチャ苦労したぜ。なにしろ20年近く特訓しているからな」
「ふふ、あなたって見かけによらず努力家なのね」
そりゃあ命がかかってますからね!
俺は口を噤んで微笑むマァムを見るに留める。
「でも、なんだか不思議だね。”練”とか”周”とか、”発”ってやつも知らないうちに使ってたなんて」
何だか感慨に耽るダイだが、俺はそれに構わず予てからの作戦を実行に移すことにした。
わざわざ口頭で済む話を実演までして見せたのはこの作戦を遂行するためである。
「よし! じゃあ今度はダイもやってみようぜ。外で特訓だっ。新しい剣にもなれないとな」
「うん、わかったっ! よーし、頑張るぞっ」
「「「おーっ!!」」」
気合を入れると、ダイは四大行の特訓に励むべく剣を掲げて町外れへと駆けていくのであった。
剣はしまえ、剣は。
闘気と念は似て非なる能力だ。
どちらも生命エネルギーを源としているという点は共通しているが、そのあり方が違うのだ。
念のオーラは使用者の思念に作用する。その効果は多種多様。物や人を破壊する場合や、癒やす場合もある。あるい存在するだけで無害なものさえある。ゼパイルさんの贋作の壺に込められたやつとかな。
具現化や変化、操作なんてのはそれがより顕著だ。汎用性が高くあらゆる方面への応用が可能な能力、それが念だ。
そして”オーラ”は意識、無意識に関わらず使用者の思念によってその力の方向性が決まる。
それに比べると闘気は指向性が高く、用途は限定されている。
闘気の力の源は”攻撃的生命エネルギー”。この”攻撃的”というのが闘気の特徴である。
同じ生命エネルギーではあるが、その性質は他を害するもの。それは時に使用者さえも蝕むことになる。
竜闘気に耐えられずに武器が砕けたのはその性質によるところが大きい。仮に念で同じことをやったとしても武器が砕けることはないだろう。
もっとも、闘気と比べて威力も相応に落ちるだろうが・・・。
実際俺のオーラ量はかなり多い。それこそ紋章を使ったダイに匹敵するほどに。
しかし攻撃力では敵わない。単純な戦闘では闘気の方が性能が上なのは認めざるを得ない。
まあ、それでも俺はあらゆる面で対応可能な念の方が上だと思っているけどなっ!
などとロモスの外れの地面にあぐらをかきながら考える。
少し離れたところではダイとマァムが四大行の練習に励んでいる。ポップはそんな二人の近くで闘気ではなく魔法力で試しているみたいだ。
「まだかなぁ。はやくあの剣ぶち折りたいなぁ」
ヒソカの様にオーラでドクロやハートを作りながら皆を見守るのであった。
「トーヤァ! 見てよっ、結構様になってるでしょっ!」
日が傾き始め、辺りがオレンジ色に染まる頃。ダイは手をぶんぶんと振り回して大声をだして俺を呼んだ。
近づいて見てみると、ダイは竜闘気を右手から左手、左足から右足へと移動させていた。
どうやら”流”の練習をしていたらしい。また難しいやつに挑戦したもんだ。
「おおっ! 凄いぞダイ、たった数時間でこんなに形になるなんて驚いたぞ」
かなり雑なオーラの動きをしているけど、闘気であるということと初めてだということを考えれば十分凄い。
マァムとポップは”纒”と”練”をやっているようだ。しかしこの辺りは普通に普段からやっていることなので目新しさは感じないな。
さて、そろそろ皆の気も済んだことだろう。ここらで作戦を実行に移そうと思う。
「なあ、せっかくだから少し試してみないか?」
木刀にオーラを込めて構える。
「”凝”と”周”を上手く使えば、この木刀を斬れるだろうな」
「へへっ、トーヤ。あとで文句言わないでよっ」
「ずいぶん自信があるみたいだな。これでも真魔剛竜剣と打ち合えたんだ、全力で来なくちゃ折れないぜっ」
ダイは紋章を出すと竜闘気を全開にした。ポップとマァムは小走りで遠くに避難する。
「よし、まずは様子見だっ。”凝”で打ち込んでこい!」
二人が十分に離れたことを確認してから、俺はダイに声を掛けた。
「うんっ。ーーはあぁぁぁ、大地斬っ!」
放出しているすべての竜闘気を剣へ集中するダイ。ーちょ、ちょっと!?
「ーーうおりやぁ!!」
ただ受けるのではヤバイと瞬間的に判断し、こちらもとっさに攻撃に移る。
ーーパキイィィンーー
甲高い金属音。少し遅れて宙に舞った刀身が落ちる。
「う・・うそおぉぉ・・・お・折れちゃった・・・」
剣を振りぬいた姿勢のまま固まるダイと遠巻きに目を丸くして驚くポップとマァム。
っしゃおらあぁあっ!!! 思い通り思い通り思い通り!
少し予想とは違ったがなんとか”覇者の剣(偽)”を折ることに成功したぞ。
そんな心情をおくびにも出さず、俺は何食わぬ顔で驚いた表情でその場に佇む。
それにしてもダイめ、いきなり大地斬でくるとは恐ろしいやつ。死ぬかと思ったわ。
未だ衝撃にしびれる両手を擦りながら俺は冷や汗を流すのだった。
最近一番恐ろしいのが感想欄でのネタバレ予想です(-_-;)
予想される私が悪いのですが、これが実はかなりの恐怖だったりします。
しかし同時に感想を頂いて新しいストーリーを考えつくこともあるので、感謝の気持ちの方が大きかったりと複雑な気分です。