しばらくしたら並べ替えようと思います。
テランの城門前。ダイ、ポップ、レオナ、クロコダインの四人はバランを迎え撃つため待ち構えていた。
紋章を自在に操れるようになったダイだが、しかしその表情は優れない。
本気を出したバランの力は未知数。そして占い師ナバラの水晶には竜騎衆と呼ばれる精鋭たちが映しだされたのだ。
バランのみでも危うい状況であるはずなのに、これではどうしようもない。
「ったく、こんな時にトーヤはどこ行っちまったんだよぉ」
「よもや逃げ出してしまうとは・・・」
「彼を責めることはできないわ・・・。先の戦いで手も足も出なかったんですもの、逃げても・・・おかしくないわ」
ポップとクロコダインは苦言を呈し、レオナもまたトーヤのいない事実に歯噛みする。
ダイはそんな皆を無言で見つめるのみ。
トーヤのことだ、きっと何か考えがあるんだ。そう思う自分と、逃げ出したのならそれでも構わないと思う自分がいた。
これが信頼なのか、あるいは諦観なのかはダイ自身にもわからないことだった。
テランの静かな空を仰ぎ、ダイはバランを待つ。
* * *
「待てよ、てめえら。ここから先は通さねえぜっ」
バラン+竜騎衆の前に立ちふさがり、叫ぶように俺は言う。
「ケッ、誰が来たのかと思えば見るからに貧弱そうな野郎一人っ!! クワーックワックワッ!!」
竜騎衆の内の一人のトリが俺を嘲笑し、高笑い?をする。
このクソニワトリ野郎が、テメーだけなら瞬殺だっての。
「ガルダンディー、あなどるな。そいつは見かけによらず出来る。私が相手をしよう」
ドラゴンから飛び降り、バランが近づいてくる。それを諌めるようにラーハルトが間に立った。
「バラン様、この場は我々におまかせを。ルーラで一刻も早くディーノ様の元へお向かい下さい。我々もすぐに向かいます」
「・・・わかった、だが舐めてかかってはならんぞ。先も言ったがその男はかなり出来るーー”ルーラ”」
ルーラで空の彼方へ飛んで行くバランを見送ると、ラーハルトはゆっくりと俺の方を見た。
「意外だな、黙って行かせるとは。おまえはバラン様を止めに来たのではないのか?」
「俺が止めに来たのはお前たちだよ。感動の親子対面には邪魔なんでね」
やおら木刀の鋒を向け、オーラを練る。
「身の程をわきまえぬ愚か者がッ。この竜騎衆を貴様ごときが止められると思うかッ!!」
怒声と共に投げつけられた錨を弾き、距離をとる。あっさりと弾かれてトドみたいなやつは悔し気に声を漏らす。
「ボラホーン、先ほどのバラン様のお言葉を忘れたのか。油断してはならん」
「・・・そうだったな。ならば我ら全員でかかるとしよう」
「クククッ、我ら誇り高き竜騎衆を相手にどれだけ持つかな」
三者三様に武器を構える。
3対1か、ラーハルトが厄介だな。なんて考えていると、突如竜騎衆のドラゴンたちが悲鳴をあげて倒れていった。
「な、なんだっ!?」
剣の血糊を振り払い、見知った男が悠然と表れる。
「寄ってたかって誇り高いとは笑わせる。その体たらくでは竜騎衆とやらも底が知れるというものだ」
おおっ、意外に来るの早かったな。そもそもちゃんと来るかも不安だったのだが・・・。
「ヒュンケルっ! ナイスタイミングだ。その槍のやつは任せた。残りの雑魚は俺がやる」
有無を言わせず勢いで告げ、ボラホーンとガルダンディーをぶん殴り離れた場所へと引きずっていく。
上手くいったぜ、これぞ予定調和だ。
チラリと後方をみると、呆気にとられたヒュンケルとラーハルトの姿。
・・・ちょっと露骨だったかな?
* * *
「ふ、不死身かおまえはっ!? ギガブレイクを2発もうけて生きている奴など今まで誰もいなかった・・・!!」
「フフフッ、オレごときがこんな攻撃をくらい続けていたら確実に死ぬさ。オレの命とお前の力の交換なら悪い条件じゃない」
「お、おまえ・・・さては勝つことが目的ではないな! 天下の獣王クロコダインが私を消耗させるためだけの捨て石になろうというのか!」
よろけるクロコダイン。そんなクロコダインを支え、レオナはベホマをかける。
「やっぱりムチャだよ、クロコダイン。皆で戦えばきっとーー」
「ダイ、いくらお前が紋章の力を使えると言っても、正攻法で戦えばオレ達に勝機はない。これしかないのだ」
「お、おっさん・・・」
止めようとするダイとポップだが、クロコダインは頑として譲ろうとしない
「それに・・・勝たなければならんのだ。でなければ自らを犠牲にしたトーヤに顔向けできん」
再び闘気を高め、クロコダインはバランの前に立つ。しかし決死の覚悟のクロコダインと反対に、バランは静かに佇むのみ。
「クロコダインよ。おまえの覚悟はよくわかった。ーーしかし目論見が分かっていて敢えて乗ってやるほど、私は甘くはないッ!」
バランから竜闘気が噴き出し、周囲を暴風が襲う。
「ディーノが戦えなければその作戦も水泡となろうッ。我が息子を傷つけるのは本意ではないが、やむを得んッーー」
バランの額の紋章が一際強い輝きを見せる。
”紋章閃”。竜の紋章から放たれる一閃は脅威の威力をもってダイの肩口へ向かっていく。
バランと戦うことができるのは同じ竜の騎士であるダイのみ。であれば先にダイを戦闘不能にしておけば良い。
不意を突かれ、無防備に佇むダイ。凶悪な閃光がまさにダイを貫こうと迫る。しかしーー
「うわっ! ーーえ?」
小さな衝撃に尻もちをつく。顔をあげるとそこには信じられない光景が広がっていた。
「ーーポ、ポップ・・・?」
誰よりも早く動いたポップはダイを突き飛ばし、光に貫かれた。
胸からは血が噴き出し、ゆっくりと倒れこむ。
ダイたちは驚いた表情で固まったまま動かない。
「愚かな。バカな真似さえしなければ、命までは取らずにおいたものを・・・」
その言葉を理解するのに時間はかからなかった。
そう、ポップは死んだのだ。あまりにも呆気なく、あまりにも無慈悲に。
クロコダインの咆哮とダイの慟哭が響く。
二人はその叫びですべてを消し飛ばすようにしてバランへと飛びかかる。
策はなく、勝算などない。しかし恐怖や畏怖もなかった。
あるのはただ、友を失った悲しみと怒りのみ。
* * *
信じられないことに竜騎将バランは押されていた。それも竜魔人になったにもかかわらずだ。
侮っていた、それは認めよう。たかが10歳程度の少年に負けるはずがないのだと、確かにそう思っていた。
しかし原因はそれだけではない。ダイ達の心の力、それがバランの計算を大きく狂わせる結果となった。
何度やられても立ち向かってくる不屈の精神。何が彼らを突き動かすのか、バランには分からない。否、分かろうとしなかった。
ギガブレイク2発、ドルオーラ2発。そして竜闘気を使い続けている。体力の限界は近い。
満身創痍とはいえダイ達の闘志は未だに衰えを見せない。
ポップを失った彼らは死ぬまで戦い続けるだろう。
クロコダインと加勢に現れたヒュンケルは死に物狂いでバランへしがみつき、羽交い締めにした。
「ダ、ダイぃ!!! 今だッ、俺達ごとやれえぇ!!」
最後の力を振り絞り両腕を抑えるクロコダインとヒュンケル、さしものバランでさえも身動ぎひとつ出来ない。
その機を逃すまいと、ダイはヒュンケルの魔剣を手にアバンストラッシュの構えをとる。
「ライデインッ! うおおおぉぉ」
目前へと迫るダイ。しかし黙ってそれを受けるほどバランは甘い相手ではない。
「ええいッ! 鬱陶しいわッ」
自らに雷を落とすバラン。迸る電撃にクロコダインとヒュンケルの力が一瞬緩む。
その僅かな隙にバランは二人を弾き飛ばし、再び雷を落とし真魔剛竜剣を振りかぶった。
鎧の魔剣では真魔剛竜剣には押し負ける。
一瞬の逡巡、しかしダイは止まらない。最後の一撃を繰り出すべく残されたすべての力で込める。
「これで最後だッ、ギガブレイクで散れッ!!! ーー何ッ!?」
ギガブレイクとライデインストラッシュが交錯する刹那。ダイを横切りバランへ呪文が炸裂する。
「バ、バカなッ!? 死人が呪文をおおぉ」
「アバンッストラァッシュ!!!」
たじろぐバランに間断なくダイの必殺の一撃が繰り出される。
爆発音が轟、まばゆい光が照らす。
ここに、地上最強の戦いが幕を閉じた。