まだまだ先は長そうですが最後までお付き合い下さい。
キルバーンの引き連れた超竜軍団のドラゴンたちを俺達は見事撃退した。
ヒドラとダイの戦いを見ていた占い師ナバラにより、自らの正体が竜の騎士だと告げられたダイ。
その真実を確かめるべく、ナバラの導きにより俺たちは竜の騎士の伝説が眠る地テランへやってきた。
今はちょうど湖の祠でメルルから竜の騎士の伝説と湖の底にある神殿の話を聞いたところだ。
それは良いんだけど、さっきから空気が重い。なんかダイが妙に大人しいのだ。・・・まあ、仕方ないけど。
ベンガーナのやつらめ。うちの可愛いダイがせっかくヒドラを倒してやったというのに怖いとかぬかしやがって。
こいつはメチャゆるさんよなあ。
しかし今更そんなことを言っても意味が無い。今はダイの心のケアをすることにしよう。
「本当に一人で行くのか?」
神殿へは一人で行きたいと言うダイへ俺は声をかける。
「うん。俺、一人で行って確かめたいんだ。自分が何者なのか、紋章の力が何なのか」
その表情からは何も読み取ることができない。悲しんているのだろうか、それとも・・・。
「お前、俺たちがお前の正体を知ったら、お前を怖がるんじゃないかって考えてるんじゃないだろうな」
「ーートーヤ、前に話してくれただろ? 街でモンスター退治して怖がられたってやつ」
「あ・・ああ。そういえば、そんなこともあったな」
「さっき街でみんなに怖がられた時、本当に怖かったんだ。街のみんなが俺のことをバケモノを見るような目で見ていたから」
ポップとレオナは何かを言おうと口を開いたが、やはり何も言わずにダイの続く言葉に耳を傾けていた。
「・・・だけどさ、トーヤの話を思い出したんだ。トーヤがそんなのは普通のことなんだって、怪我がなくてよかったって言ってたから。だから俺もそうなりたいなって、そう思った」
言葉とは裏腹にダイは辛そうに拳を握りしめる。
「ーーそう、できたら良かったんだけど。まだ、まだほんの少し・・・ほんの少しだけど、そうじゃない気持ちがあるんだ。だから神殿へは一人で行くよ。自分で自分の正体を確かめて、それで・・・それで自分の口から話すよ、俺が何者なのか。そうしたいんだ、俺が」
「くだらねぇこと気にしやがって! ならちゃっちゃと行って、正体でもなんでも調べてくりゃいいだろ! そんでもって、ちゃんと説明してくれよな・・・待ってるからよ」
「ーーポップ」
「どうせなら王族の血を引いてるとか勇者の末裔なんてありきたりなもんじゃなくて、魔王の息子とか実は神様だとか盛大なのを頼むぜっ。あんまりショボかったら笑っちまうからな」
「悪かったわね、ありきたりでショボい王族の人間で」
「いや、姫さんのことじゃなくてだなーー」
あえて明るく努めようとしているのだろう。あーでもない、こーでもないと言い合いを始めるポップとレオナ。
この場にそぐわない二人の声に、さっきまでの張り詰めていた空気が嘘のように軽くなった気がする。
「ぷっ、あはははっは」
そんな二人の様子をしばらく眺めていたダイは、緊張の糸が切れたようにいつもの調子で笑いだした。
その表情はとても穏やかで、何処にでもいるような無邪気な少年の笑顔だった。
・・・・・・。
・・・。
「トーヤさん、とおっしゃいましたか」
「ん?」
ダイが湖へ潜ってしばらく経った頃、おもむろにメルルが俺に話しかけてきた。
「そうだけど、どうかした?」
「えっと、その・・・」
自分から話しかけてきておいてどうしたんだ? もしかしてカッコつけて大岩に座っていたのが気に障ったのだろうか。
確かにちょっとキザだったかもしれないけど、そう思っても黙っておくのがマナーと言うものだろうに。
恥ずかしくなったので俺はすっと立ち上がり居住まいを正す。
「ーーあなたは、その・・不思議な感じがします」
「不思議な感じ? それは・・・どういう・・・」
もしかしてナンパか? 口説いてるのか? いやいやダメだダメだ。俺にはもうーー。
「気を悪くしないどくれ。メルルには占い師としての特別な能力があるんだよ。きっとあんたに何かを感じたんだろう」
「あー、なるほどね。それで、俺の未来でも視えた?」
「あの、視えたというよりも何となく感じただけなんですが・・・」
言い辛いことなのかメルルは口ごもる。自分から話しかけておいてそれは無いと思うよ。
「気にしないからズバっと言ってくれ」
「は、はい。あの、あなたは他の人にはない運命に縛られているように感じます。・・・何か心当たりはありませんか?」
「全然ない。・・・でも、俺ってこれでも占いの類は結構信じる方なんだ。もしよければもっと具体的に教えてくれないか」
転生のことはさすがに分からないだろうけど、ここまで的確に言われたら気になる。
「すみません、本当に少しだけそう感じただけなんです。でも、それでもあえて例えるならーー」
「例えるなら?」
「あなたは運命に縛られているように感じますが、それはきっとーーきゃっ!?」
「っ!?」
突然湖に大渦ができたかと思うと辺りを地響きに似た衝撃が襲った。
それだけじゃない。近くに強力なオーラを感じた。恐らく・・・いや間違いなくヤツだろう。
戦闘に巻き込まれないようにナバラとメルルを近くの森の奥まで遠ざけた後、湖へと戻る。
そこには地面に倒れるダイとそれを介抱するレオナ、そして竜騎将バランと対峙するポップの姿があった。
彼らから少し遠いところで、俺は拳を握り心を落ち着ける。
老バーンとならほぼ互角にやりあえるであろうバラン。そんな相手とどこまで渡り合えるか。
今までの成果を確かめる最大のチャンスだ。せいぜい本番前の試金石となってもらうとしよう。
ダイ達が目と鼻の先でやられていく中、俺は戦いに備えてオーラを研ぎ澄ませるのだった。