「じゃあ任せたわね」
そう言ってエイミはアポロを連れて私とトーヤを置いて行ってしまった。
机に突っ伏したまま動かないトーヤを何とか起こし、肩を貸して歩いた。
城の至るところは襲撃でダメになっていたけれど、幸い私の部屋は無事だった
だからこれは不可抗力。こんな状態の彼を森の奥にある家まで運ぶことはできないので、仕方なく私の部屋へ運ぶことにした。
そして部屋へ彼を連れてきた私は、彼をベッドへ寝かせようとして動きを止めた。
彼の服を見て考える。
泥は乾いていたため叩いて大部分は落とすことができたが、それでも汚れていることに変わりはない。
「着替えさせたほうが良いわよね」
城には兵士たちや街の人達用の簡易的な服が備蓄品として蓄えられている。
一時的に彼を椅子に座らせると、私は着替えを取りに行った。
しかし問題はこの後だった。
彼は酔いつぶれたまま動けない。なんとか着替えてもらおうと声をかけるも、小さく返事をするだけ。
私が着替えさせるしかない。人に見られたら誤解されそうなので部屋の鍵を掛けてカーテンを閉める。
そして着替えさせやすいようにベッドへと寝かせた。・・・なんだか悪いことをしている気分だわ。
私はなるべく身体を見ないようにして、手早く着替えさせることにした。
・・・・・・。
・・・。
「よ、ようやく終わったわ」
他にも色々思うところはあったけど、なんとかやり終えた。
こんなこと本人に知られたら恥ずかしくて死んでしまう。
彼が目を覚ましたら自分で着替えていたと白を切ろう。
赤いであろう顔を隠しながら、私は彼の着ていた服を洗濯するために部屋を後にした。
洗濯した服を干してから部屋へ戻ると彼がベッドに腰かけて座っていた。
「あら、目を覚ましたのね」
「あ・・ああ。ヒュン・・ケルは?」
まだ酔っているのだろうか。焦点があまり定まっていないような気がする。
「さっきマァムから聞いたんだけど、クロコダインと一緒に魔王軍の偵察へ行ったそうよ」
「・・・そう・か。やっぱり行ったのか」
やっぱりということは、トーヤは彼らが出て行くことを分かっていたんだろうか。
まだ知り合ってほとんど時間も経っていないはずなのに、トーヤは彼らのことを随分理解しているみたいね。
「あなたも一緒に行きたかった?」
私はトーヤの横に腰を下ろして彼をみる。
「あなたって怖いもの知らずなのかしら、普通は軍団長なんて聞いたら少しは怖がるものだと思うけど。いつの間にかそんなに仲良くなってるなんて」
アポロもそうだけど、男って結構単純なのかもしれない。殴り合いの友情なんてものも、物語の中では良く聞くし。
「あいつは、そ、そんなに悪いやつじゃない。俺の方が・・・ずっと」
何もない空間を見つめながらトーヤは話す。
やはり酔っているのだろう。話に脈絡がない気がする。なので私は子供をあやすようにして会話を続けることにした。
「あなたの方がって、なにが?」
「俺のせいで、たくさんの人が、消えていった」
私には彼の言っている意味が分からない。しかし、これは本当に酔っているだけなのだろうか。
「なあ、マリ・ン。死んで、行った人間は・・何処へ行くと思う?」
さっきの話と関係があるのだろうか。よく分からないけど、少し真剣に考えてみる。
「そうね、死後は天国とか地獄へ行くと信じている人もいるし、生まれ変わると信じている人もいるわね」
「・・・そうだな、よ・・・良く聞く話だ」
「それがどうかしたの?」
「じゃあ、死ななかった人間はどうなるの、かな」
「死なない人間はいないわ。あなたも、私も。いずれはその時が来るのよ」
「ち、違う、死なないじゃない、そう、えっと。生まれなかった人間だよ」
意外にも会話はしっかりと成立していた。ということはこれまでの会話は彼の本心?
「流行、病で・・フェニクス薬剤を渡した時、のことを覚えているか?」
「え、ええ、勿論覚えているわ。あの薬のお陰で病はすぐに収まって、みんな助かったのよ」
「あの時は、気付か・・なかった。でも、今になって思うんだ、俺が余計なことをしたせいで、その人達の運命は大きく変わ、た。助かる・・はずのな、い人間が助かってしまったんだ」
そう言って彼は助けたことを後悔するように悲しい目をしていた。
「・・・あなたのお陰で助かったのよ。助かる見込みの無い人が、あなたのお陰で生き続けることができたのよ。ーーあなたは立派なことをしたわ」
「本来あるはずだった運命を、生まれるは・・ずの命を変えてしまったとした、ら? 死んだ人間が天国へ行くなら、生まれな、かった人間はどうなる? 生まれなかった人間には何もないんだ、何も・・・」
「運命なんてないわ。もしあったとしても、それは私達にどうこうできる問題じゃないんじゃないかしら」
「う、運命は、あるよ。・・・運命は、俺が変えてしまったんだ、俺が」
消え入りそうな声で話すと、トーヤは再び眠たそうに鎌首をもたげだした。
彼に掛ける言葉を探すがうまい言葉が見つからない。
今語ったのは彼の本心なのだろうか。もしかしたら彼はずっと今のようなことを考えて生きてきたのだろうか。
事情は分からないけど、彼は彼にしか分からない苦しみを抱えている。けれど、私にはどうして良いか分からなかった。
私は彼の頭を抱えるようにだきしめて、ベッドに横になった。
「もう寝ましょう。きっと、疲れてるのよ」
そんな気休めを言って、私は彼と一緒に眠りに落ちた。
今回もストーリーに進展なし。
次はちゃんと進ませるのでご容赦を。
自分で書いててなんですが、酒に酔ってこんな意味分かんないこと言い出す奴がいたら面倒くさすぎる。