塔から地上を見下ろすと、地中から這い出てくるフレイザードが見えた。
「お、生きてた」
恐らく大丈夫だろうと思っていたけど、一応フレイザードが生きていたことに安堵する。
狙い通り爆弾岩の爆発を穴に飛び込むことで回避したようだ。
気づいてくれたようで何よりだ。そのために態々あんな深い穴空けてやったんだからな。
俺はといえば、爆発の直前に全力でジャンプ。塔の4階へ飛び込み難を逃れたのだった。
なんとなく眺めていると、ダイ達がやってきた。これでフレイザードが塔へ入ってくることもないだろう。
フレイザードはダイ達に任せることにして、俺はマリンの様子でも見に行くか。
・・・・・・。
・・・。
「どう? レオナ姫の様子は」
レオナの氷の彫刻が置いてある階まで登り、マリンへ声をかける。
「ト、トーヤ・・・ぶ、無事だったのね。下ですごい爆発音が聞こえたから心配してたのよ」
「わるいわるい。でもそういう作戦だって言ってあっただろ?」
俺はこの島へ入ってすぐにマリンへと言付けてあった。フレイザードをなるべく派手に惹きつける。だから何があっても俺には構うな、と。
「そ、それはそうだけど。でもあんな爆発は想定外よっ」
「そう言うなって。それでレオナ姫は?」
話が進まないので強引に話題転換し、姫の容態を聞く。
するとマリンは若干表情を曇らせた。
「どうした? もしかしてかなり悪いのか?」
「い、いえ。そうじゃないんだけどーー」
マリンはレオナの氷へ近づくと回復呪文をかけた。
呪文の光が輝きレオナを癒やし・・・てるのか?
「こういうわけなのよ」
「な、なるほど」
つまり回復できてるのかできてないのか判断がつかないってことか。
禁呪法とか訳の分からん呪文でできた氷だ。普段は衣服の上からでも問題なくても、この氷のせいで回復呪文を受け付けない可能性は大いにある。
「ど、どうしましょう・・・このままでは姫が」
そんな縋るような表情で俺を見ないでくれ。
「お、落ち着けって。もしかしたら回復できてるかもしれないだろ。・・・それにフレイザードはもって日没までと言ってたし、まだ時間はある」
問題は原作だと自力で氷を溶かせなかったことにあるわけだが。最悪レオナ死ぬし。
元々それを回避するために先に乗り込んだんだから、このまま何もしないのは憚られる。
しかしどうするか。マリンにはああ言ったものの、回復呪文が効いてるとはとても思えない。
俺の錬金アイテムの中には状態異常や呪いを解くものもあるにはあるが、直接本人に飲ませたり振り掛けたりできないのでは効果が無い。
ダイ達がフレイザードを倒して禁呪法が溶けるのを大人しく待つしかないのか・・・。
「本当にフレイザードを倒せば術は解けるのかしら」
俺が考えを巡らせているとマリンが呟いた。
「それは大丈夫だって。この手の呪文は術者が死ぬと解けるように出来てーーあっ」
自分で言ってて気がついた。
「もしかしたらフレイザードを倒さなくても氷を溶かせるかもしれない」
俺はマリンに塔の屋上で待機するようにお願いをして、レオナの氷とともに『同行』である場所へと向かった。
「あ、そうだ。あと指輪しばらく貸してくれ」
『同行』って便利だな、とつくづく思う。
ほとんど一瞬で好きな場所へ飛んだり、または洞窟の外へ離脱したり。
でもたまに不思議に思うんだ。もしも『同行』で登録されている場所が太陽系の外だったら、『同行』は発動するのだろうかって。
太陽系の外が問題ないとして、じゃあ別の銀河は? 銀河団は? 銀河群は?
どれだけ距離が離れていても一様に効果を発揮するとは思えない。何故なら、距離が開けば開くほどタイムラグは発生するし、必要なエネルギーが変わってくるからだ。
携帯電話やTVだってそうだろう? 離れすぎていると音声は聞き取りづらくなるし、時間差が発生する。それと同じだ。
『念』も『呪文』も変わらない。有効範囲というものはあらゆる技術に於いて必ず存在するのだ。
ならばこそ、フレイザードの掛けた禁呪法も必ず有効範囲というものが存在する。
元々術者が死んだら解けるってのは魔力が途絶えるから解けるっていうことだ。ということはフレイザードの魔力から遮断してやればいい。
この星全体を覆うくらいの有効範囲だとしたら逃げ場はないが、俺はそれが届かなそうな場所に心当たりがある。
それがここ「破邪の洞窟」だ。
この洞窟はここに棲むモンスターの放つ邪気によりリレミトが使えない。つまり魔力の波長を乱す効果があるようなのだ。
ここならばフレイザードから送られているであろう魔力を妨害できるかもしれない。単純に距離も離れてるしな。
そして極めつけはこれだ。マリンから貸してもらった『法力の指輪』。
この指輪は周囲に漂う魔力を吸収し蓄える特性がある。これがあるだけで大気中の魔力はこの指輪へと向かう。
距離と洞窟&指輪による魔力妨害。これだけ邪魔が入れば禁呪法を破れるかもしれない。
「んしょっと」
レオナ姫の氷を担ぎ洞窟へ入るとすぐに氷に変化がおきた。
「おいおい、天才かよ」
凄まじい勢いで溶けていく。それはいいんだけど水半端ねえな。服ビショビショじゃねぇかよ。
担いだレオナを下ろそうにも氷はどんどん小さくなっていくため落とさないようにするので精一杯だ。まるで鰻のよう。
「あ、あ・・ああ・・・あーあ」
同じくレオナがびしょ濡れ状態のせいで手が滑り、地面に落としてしまった。
大丈夫。脚で何とか頭部は守ったから打ちどころは悪くない。だから心配いらないんだけど・・・。
どうしよう。レオナが泥だらけだ。
ようやくフレイザード編終了ですね。
これからはスピーディーに事を進めていきたいです。