「ーーっ!? こ、これは・・・爆弾岩・・・数が多すぎるわ」
バルジの塔への入口を塞ぐモンスターの大群にマリンは息を呑む。
その数は軽く100を超えるだろう。もしもこれらすべての爆弾岩が一気に爆発したら俺達は骨も残らず吹き飛ぶだろう。
「本陣だからな。敵さんもここを薄くはしないだろう」
少し離れた森の中。俺たちは遠目で塔の様子を確認していた。
見た感じ他の軍団長やモンスターは出払っているようだ。きっと塔の中にはフレイザードしかいないだろう。
「じゃ、時間もないし行くか」
「ちょ、ちょっとっ。ど、どうするつもり? 危ないわよっ」
「いや、大丈夫だって。結界の中じゃメガンテ唱えられないだろ」
「あっ。そ、そういえばそうよね」
俺の服の袖を引きながらマリンが後ろをついて歩く。・・・お化け屋敷じゃないんだから。
ギョロギョロと俺達の動きを目で追う爆弾岩の間を通り抜けて歩く。
呪文が使えないと分かっていても恐いのか、マリンはさっきよりも少し強めに俺の袖を引いた。
そんな不安を払拭させるために早足で歩く。あと少しで塔の入口だ。塔へ入ったらどうやってフレイザードを惹きつけようかな。マリンが姫を回復させる時間をヤツが与えるとは思えないし。
「きゃっ!?」
そんなときだった。マリンの小さな悲鳴を聞いた俺は、すぐさま振り返った。
そこには足を掴まれて動けずにいるマリンと、地中から腕を伸ばし這い出てくるフレイザードの姿があった。
「クハハハハッハハッハッ!!! 雑魚だけノコノコやって来るとはなッ。ーーそぉら! これで一人殺したぁ!!」
地中から出たフレイザードはマリンの足を掴むと宙吊りにして地面に叩きつけようと振り回した。その先にはいつの間にかできていた氷柱があった。
「せいッ!」
投げのスピードが乗る前に俺はフレイザードに近づくと右足でフレイザードの腕を蹴り砕き、落ちるマリンをお姫様だっこでキャッチした。
「ぐあっ・・・・て、てめぇ」
砕かれた腕を抑えて呻き声を上げるフレイザード。しかしあの程度ならば直ぐに再生して襲い掛かってくることだろう。
「マリン。コイツが出てきたならちょうど良い。俺が相手をするからお前はレオナ姫のところへ」
俺が促すとマリンは頷き入口へと駆ける。それを黙ってみているわけもなく、フレイザードは追おうとするがーー。
「おっと。話し聞いてなかったのか? お前の相手は俺だっての」
俺は行く手を阻むようにフレイザードの前に立つ。するとフレイザードはあっさりとマリンを追うのを止めて俺へと向き直った。
「・・・まぁいい。あの女を行かせたところで氷を溶かすことはできねぇ。・・・それよりもテメェ、この結界内でオレの腕を砕くとはやるじゃねぇか」
どうやら俺を完全に敵と認めたようだ。砕かれた右腕を再生させながら隙を伺っているようだ。
「ダイがオレの結界を破ってここまで辿り着けるとは思えねえが、万が一ということもある。そうなったときテメェと徒党を組まれたら面倒だ。先に片付けてやるぜッ!」
凄まじい殺気を放ち、フレイザードは俺との距離を詰めてくる。
薙ぎ払うかのように豪腕を振るい攻撃を繰り出すフレイザード。俺はそれを後退、あるいは前進して一定の間合いを維持する。
躱しては距離をとり、フレイザードが距離を詰めては交錯するようにして躱す。まるで鬼ごっこだ。
「クッーーちょろちょろと鬱陶しいッ・・・カァッ!!」
近接では埒が明かないと思ったのか、フレイザードは口から燃え盛る火炎は吐き出した。
「ーー危ねっ」
火炎を跳躍して躱し爆弾岩の上に着地する。俺が元いた場所を見ると別の爆弾岩が炎に熱せられて仄かに赤くなっていた。
「どうした、逃げるだけかッ!? もっとも人間のテメェにはオレを殺すことはできねぇだろうがなッ!! カハハハハ」
防戦一方。俺とフレイザードの戦いを傍から見た場合そう表現するのが正しいだろう。
しかし俺の目的は時間稼ぎだ。マリンがレオナ姫の体力を回復する間、適当にフレイザードの相手をしていればいい。無理に攻勢に出る必要はない。
・・・とはいえこのまま躱し続けるのは普通に戦うより遥かに危険だ。それにあんまり露骨だとフレイザードがマリンの方へ行くかもしれないし。
フレイザードの体力を削っておく意味でもしっかりと戦っておくか。そうすればダイの戦闘も少しは楽になるだろう。
そうと決まればーー。
ダイ達は結界陣を破壊する前に戦いを挑むのは無謀だと口を揃えて言っていたが、俺から言わせればそんなことは断じてない。
事前情報とある程度の技術があれば打開策の一つや二つは容易に思いつく。
この世界の呪文にいわゆる概念系の能力は存在しない。魔力や闘気なんてものは存在するがそれも物理法則に準拠したものばかりだ。
この結界陣もそれは変わらない。呪文を封じるから呪文が使えない訳じゃない。魔力を体外に出すことが困難だから呪文が使えないのだ。
マリン達から聞いた話じゃホイミは効果は薄いだけで発動していたようだったからな。
要はこの場で呪文を使いたければ通常よりも多い魔力を時間をかけて溜めてから唱えれば良いということだ。
俺は魔力をコントロールして周囲にメラを放った。それを見たフレイザードは驚いた様に目を見開く。
「ど、どうして結界の中で呪文をーー!?」
そんなフレイザードは無視して立て続けにメラを周囲に放ち続ける。10発を放ち終える頃には周囲は炎に包まれていた。
「テメェ・・・パプニカ三賢者とかいうヤツの最後の一人か。さっきの女も前に戦った時に奇妙なことをしやがったからなぁ。確実にここで殺しておくぜ」
結界に余程自身があったのだろう。それが効いていないと分かるとフレイザードは神妙な面持ちで俺を睨む。
「俺が賢者にみえるってのか? 残念だけど違うぜ。俺はーー別にどうでもいいか。お前はくたばるんだからな」
答えるのも面倒なので俺は口を閉ざした。
「ーーっ呪文が使えるくらいで調子に乗りやがって!! テメェの狙いは読めてんだ。どうせ前にあの女どもがやったみたいに俺に炎を吸収させて自滅させようって魂胆だろう。同じ手を使おうなんざバカなヤツだッ!! クカカカカカ」
「忠告ありがとう、だけど見当違いだぜ。ほらっ、周りをよく見てみろよ」
俺に促されるように周囲を見回すフレイザード。どうやら俺の狙いに気づいたようだ。
「ま・・まさか・・・テメェ・・・イカれてやがんのかッ!?」
俺の狙いは爆弾岩。その全てを炎で包むことだった。
「賭けをしようぜフレイザード。ダイ達が炎魔塔と氷魔塔を壊して結界が解けたら爆弾岩が『ボンッ』だ。お前は魔王軍が守りきる方に賭けろよ。俺はダイ達が結界をぶち壊す方に賭けるから。賭けるのは当然互いの『命』だ。ーーまさか、逃げねぇよな?」
「・・・面白えッーー乗ってやろうじゃねぇかッ!! 向こうの決着がつく前にテメェが死なねぇ様に気をつけなッ!!!」
炎に焼かれ、結界が破られれば即座に爆発する爆弾岩の恐怖に震えるデスマッチ。余程お気に召したのかフレイザードは狂笑する。
いくらフレイザードが禁呪法で生み出されたバケモノだとしても100を超える爆弾岩の爆発をまともに喰らえば死を免れない。
こうして俺とフレイザードの文字通り命を賭けた戦いが始まった。
ようやくまともに敵と戦うオリ主。
やや怖がりの性格のはずのオリ主は何故こんなに危険な戦い方をするのか。それは私にもわかりません。