「どうだ? 俺のいる位置がわかるか?」
『練』をしながらダイの周囲をゆっくりと歩く。
空裂斬は見えないものを斬る剣。その習得には相手の闘気を感じる必要がある。ならばその練習相手は闘気を操ることができないマァムよりも俺の方が適任だろう。
巨大なオーラを纏えば戦士じゃなくてもその気配に気づくことができる。今は常人では気づくかどうかの微妙な強さでオーラを纏っている。
これに慣れたら徐々にオーラを少なくしていけば格段に上達するだろう。
現に今はこの状態での俺を目隠ししながらも正確に追って来ている。
「ーーうん、感じるよ。トーヤの闘気。大きくて静かで力強い気だ」
「よし、なら今度はこの耳栓をして1分たったら俺にタッチしてみろ。音で場所探るなよ?」
・・・。
「ここだ!」
「ーーきゃっ!? ダ、ダイ・・・私よっ」
勢い良くマァムの胸を掴むダイ。目隠しを外して盛大に平謝りしている。
ダイがわざとそんなことをする筈もないからマァムもまるで怒っていない。・・・羨ましい。
そんなこんなで俺達は空裂斬を覚えるべく特訓を続けた。
「ホイミの効果が殆どなかったって?」
マトリフから話を聞いた俺はダイ達やアポロ達も交えて作戦を考えるべく話し合っていた。
「ええ、それどころか力も5分の1程度に落ちてしまうとフレイザードが言っていたわ」
マァムは悔しそうにしながら拳を握る。
「よくそんな状態で逃げ出せたな。フレイザードも必死で追ってくるだろうに」
「これをヤツにぶつけたのよ」
俺の問にマァムは腰のホルスターから魔弾銃を取り出した。
「これは魔弾銃といって、あらかじめこの弾に込めておいた呪文を撃ちだすことができるの。銃自体は結界内じゃ使えなかったけど、呪文の込められた弾をフレイザードの呪文にぶつけて誘爆させたのよ。その隙に逃げ出すことができたわ」
「・・・なるほどね」
あたかも今知りましたという感じで頷いてみる。いきなり事情通だったら可怪しいからね。これで俺も作戦を思いついた体で動くことができる。
「みんなの話を聞いて気づいたことがある。ーーどうやら結界の中では呪文が使えないんじゃなくて、弱くなるだけみたいだな」
「どういうこと?」
ダイが首を傾げて俺をみる。
「もし呪文が使えないんだったら効果が弱いなりにもホイミが発動するはずがない。魔弾丸もトリガーを引いても発動しなかったのに相手の呪文で誘爆するなんて可怪しいじゃないか。あの結界内では呪文が使えないんじゃない、弱くなってるだけなんだ」
「それって同じことなんじゃねえのかよ? 結局呪文は使えないんだから」
特訓から戻ってきたポップがマァムにベホイミをかけてもらいながら聞いてくる。
「いや、使えるのなら話は変わってくる。発動さえするのならあとは魔法力を上げればなんとか形にはなるだろう」
「でもよぉ、そんな半端な呪文じゃフレイザードには太刀打ち出来ないだろぉ」
「ああ、そうだろうな。でも俺の考えは別にある。ーーレオナ姫の生命力は明日の日没までとか言ってたよな?」
ダイは俺の問いかけに無言で頷いて答えた。
「ヤツの言っていることが正確かどうか分からない。だからもしもの時を考えて俺は回復呪文を使える誰かと一緒に先に塔へ乗り込もうと思う。回復呪文で少しでもレオナ姫の生命力を回復しておかないとな」
「ま、待って。塔にはフレイザードがいるのよっ。危険すぎるわ」
無謀とも言える俺の考えをマァムが止めようとする。
「かもな。でも俺はあくまでお前たちが結界を破るまでの時間稼ぎだ。それなりに腕には自信がある。引きつけておくだけならまず大丈夫だろう」
「だけどーー」
「なあに、心配いらないって。俺一人で乗り込もうってんならともかく、もう一人仲間を連れてくって言ってるだろ? なら勝算のないことは絶対しないっての」
何より俺自身死にたくないからね。当然考えあっての行動だ。
それより俺がこの世界にいることによって物語にどんな変化が起きるのか予想ができない。今のところ大した変化は無さそうだけど、安心することはできない。
原作ではフレイザードを倒した後、レオナは氷を自力で溶かすことができなかった。元々ギリギリだったんだから十分気をつけないと助けられないなんてこともありうる。
俺はダイ達をムリヤリ納得させると頭の中でこれからのことをシミュレートして準備をするのだった。
ダイ達4人とゴメちゃんはマトリフの力でバルジ島へと飛んだ。
今度はタイミングを図って俺と回復呪文を使えるマリンと『同行』で島へ向かうだけだ。ーー向かうだけなのだが。
「私も行く。回復呪文だったら私だって使えるぞ」
「私もよ。それにフレイザードの足止めなら少しでも戦力は多い方が良いと思うわ」
回復呪文を使える誰か一人と言ったのに選ばれなかった他二人が喧しい。ちなみにマリンは俺と一緒にいくと言って梃子でも動かない様子だったため二人は渋々認めざるを得なかったようだ。
「ダメ。フレイザードの足止めは近接戦闘が得意な俺一人でやるつもりだ。人数は少ない方が都合がいいんだよ。マリンには俺がフレイザードと戦っているところをすり抜けてレオナ姫の回復をしてもらう予定だ」
「・・・あなた一人で足止めできるの?」
「さっきも言ったけど、マリンも連れて行くんだ。仲間まで巻き込んで無謀なことはしないよ」
自信満々に答える俺をどう思ってか、アポロ達はようやく少し落ち着いた様子だ。
「っていうかお前たちには気球船の修理を頼みたいんだけど」
「何故だ?」
「きっと激しい戦いになるからポップも俺もみんなを連れて戻るだけの余裕が無いだろうし」
「・・・そういうことなら任された。君たちを見送ったら直ぐに修理に取り掛かろう」
見送りなんていいからさっさと取りかかれば? とは思ったけど言わない。早く着きすぎても困るからね。
というか舟でバルジ島へ飛んだダイ達だってポップ一人だけ行かせてルーラで戻ってきてもらえば全員で島へ行けたしね。
あくまでダイのレベルアップイベントということを忘れてはいけない。俺はまだサポートに徹するんだ。
出すぎたマネをしないよう自制しつつ、俺はマリンと共にバルジ島へと飛ぶのだった。
次回はようやくオリ主がちゃんと戦います。
思えばアポロ達ばっかり主人公かってくらい戦いすぎです。オリ主くんの実力がどの程度か次回にご期待ください。
本当に次回に戦いが始まれば良いですけど・・・。