数時間前。俺は破邪の洞窟でカードの異変に気がついた。
そのカードとは、ヒュンケルの名を登録してある『追跡』のカードだ。
方位磁石の様に対象者の向きを示し続けるその針が大きく動き、記されている彼我の距離数が数キロ単位で変動していたのだ。
これはダイとの戦いに決着がついたに違いないと確信し、アバンとの別れを手早く済ませ走ってやってきたのだ。
カードの示すままに進み、俺はようやくヒュンケルとついでにクロコダインを見つけたのであった。
なにやら話し込んでいる二人の会話に耳を傾けていれば、なんとダイを助けにバルジ島へ向かうというではないか。
ならちょうど良いので俺もこれを機に本格的にパーティーに参加しようかなと思ったりしたのである。
最初は突然現れた俺を凄く警戒していた二人だが、ダイの知り合いだということを懇切丁寧に説明することによってようやく打ち解けることが出来た。
今は自己紹介&作戦タイム&回復タイムである。
ヒュンケルは(ダイにやられて)ボロボロだし、クロコダインも(ヒュンケルにやられて)かなり弱っているようだ。
原作の彼らはよくこれでダイたちの加勢になんぞ行ったものだ。
常人なら死んでも可怪しくない怪我なので、俺は『エリキシル剤』を二人に与えて傷を癒してもらうことにした。
「ほう、これは凄い。体の底から力が湧いてくるようだ。以前よりも強くなったような気がするわい」
薬を飲んでクロコダインがそう言った。それは気のせいだよ。
上機嫌なクロコダインと対照的に、ヒュンケルは暗い表情のまま動かずにいた。
どうしたんだ一体。早く傷治してダイの加勢に行かなきゃいけないんだけど。
不思議に思っているとヒュンケルが俺を見て口を開いた。
「・・・お前は俺達の話を聞いていなかったのか。俺達は魔王軍だったんだぞ」
薬の小瓶を持つ手は、自身への怒りなのか微かに震えていた。
下らないこと言ってないで早く薬飲めよ。そうしないと飲んじゃったクロコダインの立場がないだろうが。
飲み会で乾杯前に飲み始めちゃった人みたいになってるじゃないか。
だというのにヒュンケルは俺の答えを待ったまま一向に薬を飲む様子がない。・・・仕方ないな。
「ーー元魔王軍ね。ちゃんと聞いてたよ」
「ならば何故こんなマネをする。恨みはないのか?」
「恨みって言ってもな・・・。魔王軍にいたなら魔王軍として人間と戦うのはおかしいことじゃないし。今は人間側にいるんだから、仲間に恨み事言うのはそれこそおかしいんじゃない?」
「・・・な・かま・・だと?」
「いや、仲間だろ? これからダイを助けに一緒に戦いに行くんだから」
「ワ~ハッハッハハハ!!! ヒュンケルよッ。これが人間という生き物だッ。これ以上ヒトの好意を無碍にするものではないぞ」
大声で笑いながら俺の背中をバンバンと叩くクロコダイン。ちょっと痛いです。
再度薬を飲むことを進めると、ようやくヒュンケルは薬を飲んだ。そしてその効果に驚いた様子で手を握って身体の調子を確認するのだった。
事情を知らない体を装っている俺は、二人からダイたちの状況を聞いていた。
ダイたちとフレイザードがバルジ島で戦ったこと。禁呪法によりバルジ島では皆の力が封じられてしまうこと。ダイの仲間が人質に取られたこと。
すべての話を聞き終えた俺は、こいつら事情通だなと思いつつも直ぐに出発するために立ち上がった。
「早くダイたちと合流しようぜ」
「待て。合流するのはダイたちが魔王軍と戦い始めてからの方が良い」
そんな俺に待ったをかけたのはヒュンケルだった。
「どうして?」
「恐らく魔王軍はバルジ島へ乗り込んだダイを総出で迎え撃つだろう」
だろうな。だからこそ早く合流した方が良いと思うのだが。
続くヒュンケルの言葉を待っていると先にクロコダインが口を開いた。
「魔王軍が総出で掛かるといっても、魔王軍とダイたちでは戦力に差がありすぎる。奴らは少なからず油断しているはず」
「なるほど、魔王軍の意表をつくわけだな。・・・確かに元軍団長が二人もダイへ加勢してると向こうへバレたら厄介なことになりそうだ」
どうりで原作でクロコダインやヒュンケルがタイミングよく現れたわけだ。
さすが軍団長やってただけあってかなり戦い慣れてる様子。頼もしい限りだ。
「ダイたちはフレイザードよりも先に炎魔塔と氷魔塔を破壊しようとするだろう。俺とクロコダインはそこで待ち構えているはずの敵を食い止める」
「ああ。いくら多勢に無勢とはいえ、奴らの隙をついて塔を破壊することくらいは出来よう」
「俺は?」
「トーヤはどちらでも構わない。体を張るのは俺たちの役目だ。ダイたちと合流したらそのままフレイザードの元へ向かってくれていい」
「なんだ自由か。なら俺はさっき言った通り島へ入る前にダイと合流しても良い?」
「それは構わんが、何かあるのか?」
俺の意図がわからずヒュンケルは質問してくる。
「まあね。俺はお前たち二人と違って魔王軍に警戒されてないから合流しても変わらないだろうし。それなら先に向こうでやっておきたいことがあるんだ」
「そういうことなら異論はない。オレとヒュンケルは一足早く島へ行って待機しているさ」
話が纏まると、俺は二人と別れてダイの元へ向かうことにした。
『同行』を使うわけにもいかないのでバルジ島への道のりを全力で走っていたら、俺はあることに気がついた。
「結局別行動かよ。話しかけた意味無いじゃん」
ガルーダに運ばれ、どんどん姿が小さくなっていく二人を眺めて俺はやるせない気持ちになるのだった。
っていうか俺もそれに乗せて欲しかった。
またまた動きのない会話だけの回でした。
そろそろ戦うはずなのでもう少しお待ち下さい。