ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:七夕0707

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37 深域へ

 破邪の洞窟へ潜ってすでに8日。現在は地下100階くらいにいる。

 

 「いやあ、やはりあなたがいると楽で良いですねえ。想像以上のペースで進めていますよ」

 

 モンスターの大群を一人で蹴散らしたアバンは剣を鞘に収めながら戻ってきた。

 

 当初、戦闘は交互に行うという取り決めだった。しかし何故かアバンは途中から一人で戦うといって聞かなかった。修行のつもりだろうか。

 

 「しかし結構下まで来たと思うんですが、大魔王と戦えるような呪文は見つかりませんねえ」

 

 さすがに疲れてきたのか、この洞窟へ入って初めて弱気なセリフを吐く。

 

 戦闘後の回復アイテム手渡し係と化している俺は、アバンへ『メンタルウォーター』を渡しながら返事をする。

 

 「そうですね。25階のミナカトールでしたっけ? あれ以降は目ぼしい呪文も無いですしね」

 

 その割にモンスターはどんどん強くなっていくのだから堪ったものではない。

 

 原作でこの先に秘宝があると知っているから良いが、そうでなければただの苦行でしか無い。普通なら早々に切り上げているだろう。

 

 「それにしてもトーヤくんのアイテムは素晴らしいの一言につきますねえ。どれも効果はピカイチな上に味も良いとは。文句なしです」

 

 俺の持ってきた『メンタルウォーター』を飲みながらアバンが言う。

 

 「大魔王を倒した後はアイテム作りの特技を活かして商売でも始めてはどうでしょう」

 

 「あはは、褒めても何も出ませんよ」

 

 「おや、アイテム作りというところはスルーですか。てっきり否定するかと思いましたが」

 

 「・・・ま、今更それくらいは別に」

 

 元々バレないようにしてたのは準備が整う前に魔王軍に目をつけられないようにするためだったし。

 

 っていうかこれらのアイテムを俺が作っていることをアバンは既に確信していたしな。

 

 「であれば教えて欲しいですねえ。どうやって作っているのか」

 

 「ダメですよ、前にも言いましたが手の内は明かしません。っていうか俺以外には教えても多分できないですし」

 

 「むう、そうですか。残念です」

 

 ただの会話として言っただけなのだろう。アバンは言葉とは裏腹にまるで気にしている様子はない。

 

 「・・・アイテム作りといえばアバンさんも得意ですよね」

 

 ちょうど良い機会なので、以前から気になっていたことを聞いてみることにした。

 

 「ん? どういうことですか?」

 

 「いえね、初めて食堂で会った次の日。俺は全然違う別の街に逃げたのに普通に追ってきてたじゃないですか。あれってそういうアイテム使ったんですよね?」

 

 俺が気づいていることが意外だったのか、アバンはとても驚いた表情をしていた。

 

 「目印みたいなもんですかね。それをきっと食堂で俺の木刀に触ったときにつけたんでしょ。大まかな方角と距離さえ分かればルーラで最寄りの街まで飛んで追えばいい。どうです? 合ってるでしょう」

 

 「こ、これは驚きました。正解です。ただ追っただけでそこまで推測してしまうとは」

 

 そう言ってアバンは懐から砂の入った小瓶を取り出した。

 

 「これは私が調合した魔法の砂・・・名前はまだありませんが、あなたの言うとおり目印のようなものです」

 

 やっぱりアイテムだったか。この砂って確かアバンがキルバーンと戦った時に使ってたやつだよな。ムダに使って本番で無くなりましたなんてやめてくれよ?

 

 「ですがこれを私が作ったなんてどうして分かったんでしょうか?」

 

 「俺はアイテムを探す旅で世界中飛び回ったことがありますからね。人を追うようなアイテムは見たことも聞いたこともないです。普通なら俺が知らないだけで終わる話ですが、アバンさん程の人が相手なら自作したと考えた方が自然だっただけですよ」

 

 とか言って本当は原作知識でアバンが「魔弾銃」を始めとするマジックアイテム作りが得意なのを知っていたからなんだけどね。キルバーンに使った砂だとまでは気付かなかったが。

 

 「で、どうやって作ってるんですか?」

 

 お返しとばかりに質問してみる。

 

 「なんてことありませんよ。ルラムーン草という植物の特性を利用しただけに過ぎませんからね。私の作るアイテムは書物や人伝に聞いた珍しい植物や鉱物を元に作り出しているんですよ。なので新しい町へ行っては情報収集ばかりしています」

 

 なるほど。俺はアイテムを作るとき既存のアイテムを材料に効果を強めていたからな。植物や鉱物の特性を利用するなんて当たり前のことだけどやらなかったな。

 

 もちろん面倒だということもそうだけど、それ以上に時間と基礎知識が足りなすぎる。たった一人、短時間で一からアイテムを生みだすなんて真似俺にはできない。

 

 今更ながらに俺は自身の貰ったチート能力が本当にチートなんだと思い知らされた。

 

 

 

 

 

 「そういえばトーヤくん。ちょっと疑問に思ったんですが・・・」

 

 そう前置きをしてアバンは俺を振り返った。

 

 「神託とやらはいつ頃授けられたんでしょう。大魔王討伐のために蓄えたアイテムを見るにかなりの前から準備していたように思いますが」

 

 「えっと、5歳くらいの時ですね」

 

 転生した時は3歳くらいだった。この世界がダイの大冒険と知って準備を始めたのはその数年後だから確か5歳くらいだったはず。

 

 アバンはそれを聞いて何を思ったのか神妙な表情をしている。

 

 「・・・あなたはその頃からずっと準備を? 一人で?」

 

 「ええ・・・まあ、そうですね」

 

 「誰かに協力を仰ぐことはしなかったのですか?」

 

 「いえ、してません。だって誰も信じないでしょう」

 

 実際は信じる信じないに関わらず話さないだろうが。原作と未来が大きく変わってしまったらまずいからな。

 

 「信じてもらえなくてもご家族に相談とかしなかったのですか? 子供が一人で抱えるには大きすぎる問題です」

 

 「あー、俺家族いないんです。物心ついた頃には森に住んでて、それからずっと一人で生活してました」

 

 「それはーー」

 

 何かを言いかけてアバンは口を閉ざした。きっと言うべき言葉が見つからなかったのだろう。俺も逆の立場ならそうなってしまうだろう。・・・まあ、アバンの想像と違って悲惨でも何でもないんだけど。

 

 「・・・先を急ぎましょう。過去を振り返るのも感傷に浸るのも後で出来ますよ」

 

 いたたまれなくなったので強引に会話を終わらせることにした。

 

 

 

 ーーだというのにアバンにさっきまでの陽気さがない。・・・当たり前か、普通に聞いたら俺の過去はかなり暗いものだ。

 

 とはいえこんな空気で先へ進むのは御免こうむる。というわけで俺は努めて明るく別の話題を提供することにした。

 

 「そうだ、アバンさん。俺のアイテムで気になる奴とかあります? 俺自身使い道が思いつかない奴もあるので良ければ差し上げますよ」

 

 「そ、そうですねっ。ではお言葉に甘えちゃいましょうかねっ」

 

 どうやらアバンも話題を探していたのか、俺の言葉に勢い良く食いついてきた。

 

 台車を適当にごそごそと漁ったアバンは、小さな小箱を取り出した。

 

 「これなんか気になりますね。ただの箱とも思えませんし、一体どんなアイテムなんです?」

 

 「あーそれですか。それは『時の小箱』と言って、箱の中の時間を早めたり遅くしたり出来るんですよ」

 

 

 【 時の小箱 】

 ・時の流れを操れる不思議な箱。蓋に-10から+10までのメモリが付いている。10にメモリを合わせると箱の中の時間が外の10倍早くなる。-10にメモリを合わせると箱の中の時間が外の10分の1になる。

 ・蓋をきちんと閉めないと効果はない。

  ※-1から+1は変化なし

 

 

 効果自体は凄いんだが、箱があまりに小さいために役に立たないアイテム筆頭である。

 

 「・・・このタネは?」

 

 「それは調合してたらできた訳のわからない植物のタネです。俺もよく分かってません」

 

 

 【 謎の種 】

 ・何が育つか分からない謎の種。

 

 

 一応これも錬金術でできたアイテムなんだよな。でも作ってからは放置している。だってただのタネだし。

 

 なんだろう。あの箱でタネでも育てるつもりかな。

 

 台車のアイテムを端から引っ張りだしては質問してくるアバン。余程俺のアイテムが気になって仕方ないらしい。

 

 夢中になってアイテムを漁る後ろ姿を眺めながら、早く先に進みたいなあと一人ため息を吐くのだった。

 




 今回は会話がメインでした。

 既存のアイテムとその辺の植物からアイテムを作ることの違いが分かりにくかったかもしれませんが、オリ主のアイテムはすべて市販のものを強化してますよ的なものだと思って下さい。対してアバンがやっているのは一から作ることなので、労力や知識はオリ主くんの比じゃありません。

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