また、様々なご感想をいただき大変嬉しく感じています。これからもどうかよろしくお願いします。
「はぁはぁ。ーーヒャダルコッ」
眼前に突如現れた骸骨剣士を凍りづけにして、エイミとレオナは城を走る。
すでに50を超える敵を倒している。不死身の軍団の魔の手を掻い潜り彼女たちは先を急いでいた。
着々と避難の準備が進む中、その報せは届いた。
ーー城門が破壊されたーー
籠城していた城の者達や街の人達はその報せに恐怖した。誘導する兵士たちの声も届かず、彼らは一心不乱に逃げ出した。
王家の者達は近衛の騎士や魔法使いと共に隠し通路を使って脱出を試みた。
幸い不死騎団は戦闘力では他のモンスターに劣るため、逃げるだけなら街の者たちでも辛うじて可能であった。
蜘蛛の子を散らすように城を離れる住民たちにモンスターは追撃を仕掛けなかった。彼らの目的はパプニカの壊滅。城の占拠にあったからだ。
しかし、王家であるレオナは別である。不死騎団は執拗にレオナを追い立て脱出を阻んだ。住民が逃げ出した後の城内には、入れ替わるようにモンスターが入り込んでいた。
それが30分程前のことである。
現在レオナとエイミは潜伏していた城の地下室から抜け出し屋上を目指していた。幸いなことに気球の準備は整っている。後は屋上へ行き乗り込むだけで城を立つことができるだろう。・・・無事に辿り着ければの話だが。
最上階目掛けて走る彼女達を休む間も与えずモンスターは襲いかかった。
「ーーヒャドっ」
呪文で凍りづけにしては先を急ぐ。
武器で砕こうが、呪文で吹き飛ばそうが何度でも復活する不死身の騎士。故に凍結させ動きを封じる。それが不死身の軍団に対する彼女たちの唯一の手段であった。
ーーようやく辿り着いた最上階へ続く最後の階段。その目前の開けた場所にその騎士は佇んでいた。
全身に禍々しい鎧を纏い堂々と佇むその騎士の姿は明らかに常軌を逸していた。
レオナを自身の後ろへ庇い、エイミは息を呑む。
眼前の騎士の横をすり抜け、屋上の気球へと乗り込む。たったそれだけのことなのに彼女たちは動けずにいた。
先に動いたのは騎士だった。手に持った剣を構えもせずにゆっくりと歩み出す。
エイミはなんとかレオナだけでも屋上へ逃がそうと隙を伺うが、まるで活路を見出すことはできなかった。ーーまさにその時である。
「メラゾーマっ!!」
迫り来る騎士を灼熱の炎が呑み込み視界を覆い尽くす。
「姫っ、エイミ。無事かっ。ここは私が引き受けるっ。早く屋上へっ」
「ーーアポロっ!? 無事だったのね・・・私も一緒にっ」
奇跡的ともいえる救援にエイミは驚きと喜びの声を上げた。
「あなた達も一緒に逃げるのよっ。この城はもうすぐ敵の手に落ちるわ」
城に残ると言う二人にレオナは待ったをかける。ーー彼らとレオナの間には微妙に齟齬があった。
レオナは彼らが城へ残り城中の敵を引きつけようとしていると考えた。しかし、眼前の敵はそれほど甘くはない。彼ら二人は未だ炎に焼かれる騎士を見据えていた。
数度の会話を交わす間に、突如目の前の炎が切り裂かれる様に霧散した。そこには何事も無かったかのように佇む騎士の姿があった。
その姿をみてレオナは驚愕し、アポロとエイミは追撃の呪文を唱えるため魔力を溜めた。
「エイミっ。君はずっと戦い続けて魔力が殆ど無いはずだ。俺一人の方が戦いやすいっ」
再び逃げろというアポロに、エイミは素直に従うことにした。アポロの言うとおり魔力は残り僅か。レオナも一人で逃すには心許ない。
結論を下したエイミの行動は早かった。レオナの腕を引くと屋上へ続く階段を駆け抜けていった。
「ーー意外だな。てっきり後を追うのかと思ったが・・・」
逃げる彼女たちを守るように階段の前に立ち塞がり、片手に呪文を携えながらアポロは問う。
「ふっ、下らん。あんな小娘を逃したところで、何が出来る。国が滅びたことに変わりはない」
答えなど期待していなかったが、眼前の騎士は意外にも言葉を発した。
「・・・姫がいる限りパプニカは滅びないっ。必ず貴様らを打ち倒し、再び国は蘇る!」
「世迷い言を。ならばゆっくりとこの世の行く末を見るがいい。あの世でな」
騎士は剣を構えると挑発するようにアポロへ強い殺気を送った。
「脆弱な人間共がどうやって俺を倒すのか興味がある。死ぬ気で掛かって来いっ」
強い憎悪の念を言葉にのせ、ゆっくりと一歩を踏み出した。
先に仕掛けたのはアポロだった。
騎士が一歩を踏み出すと同時にイオラを放つ。爆音と衝撃波により大気が震えた。
確かな手応えを感じてアポロは敵を見る。しかし、そこにはまるで変わらぬ姿で騎士が立っていた。
その結果をアポロは少なからず予想していた。先ほど不意打ちで仕掛けたメラゾーマ。その直撃を受けてもまるでダメージを負っていないことに気づいていたからだ。
理由はわからない。だがこの相手には呪文が通じないのだとアポロは考えていた。
「どうした。その程度で俺を倒すなどとほざいていたのか。来ないのならばこちらからいくぞッ」
重苦しい鎧をものともせず、その騎士は神速の攻撃を繰り出した。
近接戦闘を行う戦士と、遠距離攻撃を行う賢者の戦い方は大きく異なる。戦士は接近し武器や拳をもって敵を討つ。反対に賢者は敵から一定の距離を保ちながら呪文で相手を倒すのだ。
故に元々広くない城内で呪文主体で戦うアポロは不利だった。そんな場所で間合いを詰められ、剣戟を繰り出されたとあれば並みの賢者や魔法使いであれば負けることは確定している。
ーーそう、並みの賢者であれば。
「でりゃあぁ! ーーなにッ!?」
刃が届く寸前、アポロは騎士へ再びイオラを放った。
「ぐぁッ」
至近距離で炸裂したイオラの爆発によりアポロは呻き声と共に吹き飛ばされた。そして彼我の間には再び大きく距離が開いた。騎士にはダメージはなく、アポロはその衝撃により全身に大きな傷を負う。
距離を詰められれば為す術はない。賢者や魔法使いにとっての常識をまるで意に介さない戦い方だった。
傷を回復呪文で癒やしながら、アポロは再び闘志を燃やす。
「ふふ、決死で挑むか。面白いッ」
アポロの闘志に呼応するように騎士も闘志を燃やす。
仕切り直し、互いに睨み合う。そしてやはり先に動いたのはアポロだった。
その行動に再び騎士は驚愕する。先ほど自爆覚悟で距離を開けたにも関わらず、今度は自ら距離を詰めてきたのだ。
近接戦闘を得意とする騎士にとっては遅く感じる速度だった。それを補うためかアポロはイオの弾幕で応戦する。
前後左右、縦横無尽に周囲を駆けながらアポロはイオを唱え続ける。呪文のランクを落とすことで高速かつ簡単に呪文を唱えることができるからだ。
呪文の威力が上がれば上がるほど、その場で足を止める必要がある。初級呪文のイオであれば全力で駆けながら唱えることは容易だった。
すでに三桁近いイオを唱えながらそれでもアポロは攻撃の手を緩めない。
「ムダだということがまだわからんのか。呪文で俺を倒すことは出来ん」
呪文の効かない騎士にとって、その行動はまるで意味の無いものだった。しかし、その言葉とは裏腹に騎士はアポロを攻め倦ねていた。
動き回るアポロは速度こそ遅いものの、意図の分からないその動きを予測が出来ずにいた。更にはイオの生み出す爆風や衝撃波に視界や体勢を崩され剣戟を繰り出せずにいるのである。
いつまで続くともしれない呪文の弾幕の中、騎士は違和感を感じた。
この程度の呪文で自身を倒せないのは分かりきっているはず。ならば何故それを続けるのか。そして思い至った。これは時間稼ぎ。
先ほどの姫や城内に残る者を逃すために俺を足止めしているのだ、と。
「・・・たいした忠誠心だ。命をかけてあんなクズ共を逃がそうなどと」
バカにするような騎士の言葉に、アポロは動きを止めて騎士を見た。
「私の使命は姫をお守りすること。そのためであれば私の命などどうなっても構わない」
「ふっ。ならば手を止めて良いのか? 今から貴様の大切な姫とやらを殺しに向かってもいいんだぞ」
「追えるものなら追ってみるがいい」
屋上へ続く階段を指し示しアポロは答えた。
「こ、これはっ・・・貴様最初からこれが狙いでっ」
屋上へと続く階段。先ほどまであったはずの階段はその半分以上が呪文により崩れ落ちていた。階段だけではない。今いる場所の至るところが呪文により崩れ落ちそうになっている。
これでは屋上へ向かうことは出来ないばかりか、床が崩落してしまうだろう。
「ムリに動けば下へ真っ逆さまだ。いかにお前とて、この高さから落ちればタダでは済まないはず」
「くっはっははは、はははっはははっ」
「ーー何がおかしいっ」
突如笑い出す騎士にアポロが怒りの声を上げる。
「いやなに、貴様があまりにバカなのが愉快でな。まさかこの程度で俺を倒した気になっているんじゃないだろうな」
「なんだと!?」
「この鎧は大魔王バーン様より賜ったもの。この高さから落ちる程度では毛ほども感じぬわっ」
怒声ともつかぬ声を張り上げながらアポロへ詰め寄った。不意を突かれ、アポロはその場を動くことが出来なかった。
騎士はアポロを必殺の間合いに捉え、その凶刃を振り下ろした。
皆さんお気づきかと思いますが、騎士というのはヒュンケルでございます。
呪文も効かない。近接戦闘は強すぎる。こんなのよくダイ達は倒しましたよね。
ちなみにアポロはかなり善戦しているように見えるかもしれませんが、結局ヒュンケルのHPを1も削っていません。