今までは一人称視点で書いてましたが、今回は三人称視点で書かせていただきました。所謂神視点というやつで書いてます。
オリ主がいない時や戦闘シーンで迫力を持たせたい時にはこんな感じで書かせていただくことになると思いますが、つまらないとか読みにくいとかございましたら感想等お願います。
世界各地で起こった魔王軍の進撃。ここパプニカ王国も例外ではなく、厳しい戦いを強いられていた。
「ーー港だっ! 港にまだ逃げ遅れた人達がいるぞっ!」
とある兵士の声が城内で響いた。しかしそれはこの兵士に限った話ではない。そこかしこからあらゆる人間の怒鳴り声ともとれるような声が響き渡っている。
不死騎団の攻勢が始まって10日。パプニカはよく持っている方だ。
ここパプニカのあるホルキア大陸は、かつて魔王ハドラーの居城があった地である。それ故に魔王軍の進軍もより一層激しいものとなっていた。
その激しい攻撃を辛うじて押さえ込んでいるだけでも称賛に値するものである。
それも限界。このままでは城が落とされるのも時間の問題だろう。彼らは選択を余儀なくされていた。すなわち、国を捨てる選択を。
「本気ですかっ!? 国を捨ててどうなさるというのですっ」
パプニカ王の決断に周りの者達は一様に驚きの声を発した。
「仕方あるまい。戦線は少しづつ城へ迫っておる。ここは一旦離脱し、体制を立て直すのだ」
「しかし、民はどうするのですっ!? 城の兵士はっ!?」
「わかっておるっ! しかし他に手立てがないのだっ」
王の間を怒鳴り声が飛び交う。しかし不死騎団の襲撃以来この光景は見慣れたものとなっている。国中どこもかしこも余裕もなく焦るばかり。
国の終焉は確実にすぐそこまで迫っていた。
「浮かない顔だな。我らがそんな顔をしていては周りの者達も不安がるというもの」
王の間と離れた別室でアポロはマリンに声を掛ける。そういったアポロの顔にも疲労の色が濃く現れていた。
「・・・アポロ。仕方ないでしょう、敵は不死身の軍団で普通の兵士たちじゃ歯がたたないのよ」
不死騎団の一番厄介なところは力ではなく、その特性にあった。骸骨剣士を中心としたその布陣は力そのものは大したことはなかった。
それこそ兵士の中でも実力の劣るものや、街の力自慢でさえも簡単に撃退することができた。ーー問題はやられてもすぐに再生するその不死性にあった。
不死騎団は名前の通り死なないのだ。倒しても倒しても何度でも復活する。それに対処できるのは国の数少ない僧侶や魔法使い、賢者だけだった。
そして厄介な特性はもうひとつ。彼ら不死騎団には疲労というものがない。朝でも夜でも昼間でも、いつでも同じ勢いで攻撃を続けてくるのだ。
どんな生物でも活動時間というものがある。例えモンスターであっても昼行性か夜行性かはあって然るべきである。しかし、元々死んでいる彼らには生き物らしい習性は存在しなかった。
結果としてパプニカはこの10日間休む間もなく戦線を維持し続けることとなっている。
「マリン。私が言いたいのはそんなことではない。彼のーートーヤのことが気になるのだろう」
「それは・・・。そうだけど、でも」
その先を口にすることはマリンにはできなかった。それを口にしてしまったら確かめずにはいられなくなってしまいそうだったからだ。
3ヶ月前、トーヤはレオナ姫を糾弾し帰っていった。それ以来トーヤは姿を見せない。今の城の現状を考えるとその方が良かったとも思えるが、同時に不安でもあった。
マリンはトーヤの事を子供の頃からよく知っている。半月に一度。間隔が空いても一月に一度は必ず顔を見せに来るのだ。
それが3ヶ月も音沙汰が無い。トーヤはパプニカを去ったんじゃないか。そんな不安をずっと抱えていた。
「・・・こんなことになるのなら、もっと早く彼に会いに行けばよかった。そうすれば・・・」
謝ることができたのに。とマリンは後悔していた。
マリンはトーヤの事をよく知っている。それ故に思うのだ。ルーラでいつでも駆けつけることができるはずなのに、トーヤが現れないのはパプニカという国を見限ったから。あるいはルーラを使える状況にない。つまりはもうこの世にはいないのではないかと。
前者であればまだいい。見限られたことは悲しいが、それでも落ち度は自分たちにあるのだと納得できる。しかし、後者だったら・・・。
そう思うだけで、マリンは全身の力が抜けそうになった。不安を拭うために彼から貰った指輪を見るが、より一層悲しみが込み上げてきた。
「見てられないわね。そんなんじゃ護衛なんて怖くて任せられないわ」
「ーー姫」
混乱の只中にあって尚、気丈なレオナ姫がマリンへ声を掛ける。
「つい今しがた決まったわ。今夜この城を捨て、別の地へ避難するわ。あなたたちにはそれまでの戦線の維持と避難の際の護衛をしてもらうわ」
「わかりましたっ!」
レオナ姫の命令にアポロはすぐさま返事をする。マリンはというと返事こそすれども、心ここにあらずといった具合だ。
「マリン。あなたにはそれに加えて別の任務があるわ」
「は、はいっ」
直接名前を呼ばれたことにより、マリンは即座に姿勢を正した。
「あなたには近隣の森へ行き、トーヤの捜索をしてもらうわ。そして協力を仰いで頂戴。魔王軍と戦うために」
それはレオナ姫なりのマリンへの心遣いであったが、それを受けるのは躊躇われた。この状況下においてマリン程の実力者が戦線から長時間離れる訳にはいかないのだ。
「そ、それは。私が離れては他の兵たちの士気が・・・」
「それについては問題ないわ。エイミがあなたの分も戦線へ出るそうよ」
「ーーエイミが。・・・分かりましたっ。その任務必ず成し遂げてみせます」
一刻の時間も惜しい。マリンはレオナへそう告げるとすぐにパプニカを立とうとした。
「ちょっと待って。ーーもし、彼が協力を受けなかったら・・・一言だけ伝えて頂戴。・・・約束を破ってごめんなさいって」
そう言ってレオナは諦観とも悲哀ともつかない表情をした。
「ーー姫。必ず伝えます」
そしてマリンは走った。トーヤのいる森を目指して。
鬱蒼とした森の中をマリンは走り続けていた。パプニカからトーヤの住む洞窟まではかなりの距離がある。
早朝ではあるが今夜にはパプニカから避難しなければならないので、残り時間に余裕があるとは言えないだろう。
息を切らせながら一心不乱に森を駆け抜ける。その足は時間がないこと以上に彼を思う気持ちに突き動かされていた。
ようやく辿り着いた洞窟に入り、彼女は絶望した。
トーヤの住んでいた洞窟はメチャクチャに荒らされていたのだ。
走っている最中、彼女はずっと考えていた。最初にあったら彼になんて謝ろうかと。期待を裏切ってごめんなさい。私達を許して欲しい。私にできることなら何でもする。
きっと彼なら笑って許してくれるんじゃないか。そんな淡い期待を抱いていた。・・・さっきまでは。
レオナから彼への伝言を受けたとき、内心彼女は喜んでいた。レオナはトーヤが生きていることを信じている。だからきっとトーヤは生きているんだろうと。
レオナを信じるマリンだからこそ、その言葉に絶対の自身を持っていた。謝って許してもらえなくても生きてくれてさえいればそれで良い。そうマリンは考えていた。
ーーしかし、甘かった。トーヤは強い。だからきっと生きているなんて楽観的過ぎたのだ。魔王軍の猛攻にたった一人で耐えるなんてことできるはずがないのに。
亡骸はない。しかし生きているのなら必ずトーヤは駆けつけてくれる。そんなこと分かっていたはずなのに、と。
洞窟の前で佇んだまま、彼女は一人で涙を流した。
洞窟やその周辺を確認したところ、やはりここにも不死騎団の襲撃があったようだ。
すぐ近くに動かなくなった腐った死体を見つけた。最初みたとき、マリンそれをトーヤの亡骸かと思ったがすぐに違うことに気づくと安堵の息を吐いたのだった。
しかし彼女は思った。こうして生きているのか死んでいるのかも分からないままこの先ずっと彼のことを思い続けるのかと。
どことも知らない地で、誰にも知られずに腐ちていくであろう彼のことを考えると胸が切なくなった。
ままならない想いを抱えたまま、彼女は洞窟を去るのだった。
ーー洞窟の前に一輪の花を添えて。
表現が難しかったのですが、結局マリンはトーヤはほぼ死んでいると考えていると同時にもしかしたら生きてるかもっていう願望なんだか妄想なんだか分からない気持ちになっているということです。