扉を開けると中でリンゴを齧る少女は肩を震わせた。
「ご、ごめんなさい。わたし、ずっとっ。ずっと迷子で、なにも食べてなくて」
声を震わせながらリンゴを無断で食べたことを謝罪する。
「ああ、いい、いい。リンゴくらいまた採ってくるから」
精神年齢的には30歳近いので、食料を無断で食われたくらいでは何とも思わない。
それよりも、この世界へ来て初めて人にあったので結構感動していたりする。
「他にも何か食うか? っていっても山芋とかよく分からない酸っぱい木の実とかしかないけど」
小屋の隅においてある籠から状態の良さそうなものを選んで囲炉裏に火をくべる。
そうそう。何故かこの小屋、ドラクエ世界なのに江戸時代風なのである。
なので少女が無断でご飯を食べているよりも、土足で上がっていることの方が気になっていたりする。
しかし子供のしていることなので咎めない。うーん、俺って大人。
鍋に水を入れて芋を茹でる。
味気ない食事であるが、調味料がないのだから仕方ない。
その間に瓶の中に放流していた川魚をつかみ出して棒で刺す。
囲炉裏の端に指して遠火で焼く。
「あ、あの」
「ん?」
少女の声に反応する。
「ここ、あなたのお家なの?」
「そうだよ」
本当は違うけど、わざわざ言う必要はないよな。
「お父さんとお母さんは?」
「いないよ」
「あ、えっと。ご、ごめんなさい」
俺の両親が死んだと思ったのだろう。少女は申し訳無さそうに謝った。
この子、本当に5歳児か? 少なくとも俺が5歳の時ならなんにも気にしないぞ。
なんか可哀想になったので別の話題を提供する。
「君はどうしてこんなとこにいるんだ? 近くに住んでるのか?」
もしかしてこの近くに町でもあるのかな。
だったらこれを機に町に出てみるのも面白いかもな。
「ううん。町からきたの」
否定するってことは町は遠いのか?
「どうやって迷ったんだ?」
「妹と遊んでて。そしたらはぐれちゃって」
そう言ってまた涙ぐむ少女。
んー。中々要領を得ませんね。
相手が少女なのだから仕方ないのかもしれないけど。
黙ってたら迎えに来るなんてのは楽観的だよな。
少なくとも俺はこの辺りで2年近くも人の気配を感じてないし。
「とりあえず、今日は此処に泊まってけよ。明日一緒に町まで行こう」
「うんっ」
「よし、そうと決まればご飯食べてゆっくり休むといい。魚も焼けたみたいだし」
そう言って焼けた魚を少女に渡す。
「ありがとう。えっと、お名前は?」
「ああ、名前ね。おれは遠矢」
「トーヤくん? 変わった名前だね。私はマリン」
ドラクエ世界だと確かに変わった名前だろうな。
「呼び捨てで良いぜ。よろしくな、マリン」
「うん」
翌日、時間にして10時くらいだろうか。
俺は籠を背負い、マリンとともに町を目指す。
「町の方向わかるの?」
「まあな」
自信満々に答える。
何故なら昨日の夜に町の場所を確認したからだ。
俺が住んでいる小屋は山の麓にある。
背面の崖を登ると山の中腹まで行くことができた。今までは山の上の方は強いモンスターがいる恐れがあるので近づかなかったのだが・・・。
しかし、昨日の夜はマリンを町へ送るために意を決して崖を登ってみた。
そしたら間抜けな話であるが、モンスターもいないし町は普通に見渡せるしで、俺の数年間は何だったのかという始末だ。
まあ、見た感じ森は結構広かったから人が来ないのも頷けるけどね。
俺の小屋から東に10キロくらい歩いたところに町が見えた。
他に町は見えなかったので、おそらくそこがマリンが来た町だろう。
マリンの手を引いて森を歩く。
よく考えれば、よくマリンはこんな森を彷徨って小屋までこれたな。
スライムくらいしか居ないとはいえ、モンスターまで出るのに。
なんて思っていると、さっそくスライムのお出ましだ。
しかも5匹も。
マズいな。俺はダメージを負わないから良いとしても、マリンは普通にヤバい。
金属バットのフルスイングなんて耐えられないだろう。
「マリン。後ろにーー」
「まかせて」
後ろに下がらせようとしたら、マリンが俺の前へ出た。
ああ、ちょっと。勝手なことしないで。
作戦名はめいれいさせろだから。
ヒロインはマリンにします。だって他のキャラってみんな各自好きな人いるんだもん。
三賢者を強くするのはストーリー上どうしますかね。
あくまでサポートで終わって欲しいですが、かといってヒロインにする以上活躍して欲しいですね。
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