ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:七夕0707

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29 小さな勇者

 「そーれ、いちっ にっ さんっ もっと大きな声でっ」

 

 手拍子でリズムを取り、それに合わせて少年は木刀を振る。

 

 「いちっ! にっ! さんっ! ーーー」

 

 モンスター島と呼ばれるここデルムリン島の砂浜で、俺と少年は特訓をしていた。

 

 少年の名はダイ。いずれこの世界を救う勇者になる者の名である。

 

 

 

 俺がこの島へ訪れたのは5日前。パプニカを出たのは10日前だ。

 

 レオナ姫からダイの話を聞いた俺は、すぐにデルムリン島目指して旅立った。すべてはダイの特訓をするために。

 

 原作では確かレオナ姫とダイのイベントから少しして魔王軍の侵略が始まったはずだ。

 

 歴史を変えずにダイを特訓するにはこのタイミングしか思いつかなかった。アバンはこのあとレオナ姫とダイのイベントが終わった後にポップを連れてデルムリン島を訪れる。

 

 ダイの修行期間がどれくらいだったかは覚えていないが、恐らく半月とかそんなもんだろう。勇者育成のためのスペシャルハードコース。ポップがそれを受けると言ったダイを引き止めていたのが強く印象に残っている。

 

 レオナ姫と知り合ってから既に三週間は経過している。魔王軍が攻め込んでくるまで残り半年あるかどうか。

 

 何故アバンに直接頼まずに俺がやっているのか。それには俺なりに理由があった。・・・ダイにとって酷な理由だが。

 

 それは措いといて、今は特訓である。一番の懸念事項であったダイの籠絡はあまりにもあっさり上手くいった。

 

 ダイは俺がパプニカから来たという事と、何度かパプニカを襲ったモンスターを退治したことがあると教えたら自ら特訓を志願してきた。

 

 勇者に憧れている子供だけあってその辺は単純で助かった。

 

 

 

 「でやっ はっ! りゃあぁぁ」

 

 何度も打ち込まれる木刀を軽くいなし、距離を取ると鋒を下ろす。

 

 「ーー少し休憩にするか。疲れただろう」

 

 「はぁはぁ、まだまだ。もっとできるよ、俺」

 

 息を切らせて隙を伺うダイの目には強い闘志の色が見えた。流石は生まれながらの戦士といったところか。

 

 「そう焦るなって。休むのも修行の内だぜ。っていうか俺が疲れた」

 

 木陰まで移動すると、冷たいジュースをコップへ注ぎダイへ手渡す。

 

 礼を言ってコップを受け取るとダイはそれを一気に飲み干した。

 

 「っくはあぁ。すっごく美味いよ、これ」

 

 「ははは、そりゃ良かった。まだまだあるからいっぱい飲んでくれ」

 

 

 【 魔女のケトル 1.8L 】

 ・液体を入れて1時間おいておく。注ぐときに飲みたいものを念じるとその通りのものが出てくる。どれもすごく美味しい上に、栄養満点。

 ・注ぎ口が2つあり、青い口からは冷たい、赤い口からは温かい飲み物が出る。

 

 

 「あと1時間は休憩だから好きなことしてていいぞ」

 

 「だったらさ、トーヤの話もっと聞かせてよっ! 戦ったモンスターとかさ、冒険で行った場所とかっ」

 

 「良いけど、大した話じゃないぞ」

 

 とは言いながらもそんなに期待した目で見られると悪い気はしない。俺はパプニカで起きた事件や、倒したモンスターのことをダイに話して聞かせることにした。

 

 「そうだな、モンスターっていうのは基本的に街の中には入ってこないものなんだけど。そのときは何故か街中に突如現れたんだ」

 

 「突然? あとどうして街の中に入ってこないの?」

 

 立て続けに質問をぶつけてくるダイ。よっぽど興味があるらしい。仕方ないか、この島にいたんじゃ人に会うことだってないだろうし。俺も森に住んでたからよく分かる。

 

 「街の中に入ってこないのは縄張りみたいなものだよ。モンスターは人間の縄張りの街に意味もなく入るようなマヌケなことはしない。モンスターからしたら危険しかないからな」

 

 「ふーん。そっか島のモンスター達も互いの縄張りにムリに入ったりしないもんな。じゃあどうしてそのモンスターは突然現れたの?」

 

 「さあな、それはわからない。わかっていたのはあのまま黙って見てたら街の人達が危ないってことだけさ」

 

 今となってはあの事件は司祭率いる一派が連れてきたモンスター何じゃないかと踏んでいる。レオナ姫暗殺のために用意したものが何らかの理由で逃げ出したんだろう。・・・まさか力を計るためにわざと放ったわけじゃないよな。

 

 「とにかく、その場に偶然居合わせた俺は悲鳴を聞いて駆けだした」

 

 俺はその時のことを思い出しながら何とかダイを楽しませようと言葉を紡ぎだす。

 

 「駆けつけた先には小さな女の子とその父親らしい人が蹲って震えてた。その奥にはデスストーカーが斧を振りかぶってたんだ」

 

 その様子を想像したのか、ダイは俺の話を固唾を呑んで聞いていた。

 

 「正直、助けるかどうか迷ったよ。木刀しか持ってなかったし、そのデスストーカーも普通のやつの倍以上のデカさだったからな」

 

 「で、でも。トーヤは助けにいったんだろう?」

 

 「はは、そうだな。斧が振り下ろされるよりも早く走りだした俺は、その斧を白刃取りで抑えて叫んだんだ。『俺のことはいいから早く逃げろ』ってな」

 

 キラキラした眼差しで感嘆の声をあげるダイ。その期待にこたえるために俺は更に続ける。

 

 「その二人が無事に走り去るまでモンスターを引きつけた俺は、回りを見渡した。もう周辺には誰も居ない、モンスターと俺だけだ。城の兵士達も駆けつけるには時間が掛かるだろう」

 

 「・・・そ、そんな強そうなモンスターと1対1。そ、それから?」

 

 「あとはなんやかんやでモンスターを倒してめでたしめでたし。被害もかすり傷程度の怪我人が数人。みんなハッピー。そんな感じだな」

 

 「たはっ ト、トーヤあ。そりゃないよお。一番いいところだったのにぃ」

 

 拍子抜けしたダイがズッコケて抗議してくる。

 

 「木刀で頭ぶっ叩いたら1発で沈んじゃったんだからしょうがないだろ。俺だって命がけで向かったのにあっさり終わったから驚いたんだぞ」

 

 こうして俺の武勇伝は微妙な感じで幕を閉じた。しかし、ダイはそれでも十分満足したようで楽しそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 特訓の目的はダイの基礎能力の向上にあった。原作のダイはアバンからの特訓をハドラーの襲撃に邪魔され途中までしか受けることができなかった。

 

 大地を斬り。海を斬り。空を斬る。それらすべてを習得した後に完成するのがアバンストラッシュ。

 

 ダイがそのアバンストラッシュを完成させるのは空の技である空裂斬を覚えた直後。フレイザード戦の時だ。

 

 アバンの技の中で一番難しいのが空の技とされており、その習得は一朝一夕にはいかないという話だ。

 

 仮にアバンのスペシャルハードコースを1ヶ月と考えた場合。確かダイは半分くらいしか特訓を受けていなかったから半月くらいの期間と予想できる。

 

 1週間目で大地斬。2週間目で海波斬って感じだろう。残りの2週間で空裂斬を教えるつもりだったんじゃないだろうか。

 

 俺との特訓により基礎能力のが高まったダイならばハドラー襲撃までの間に空裂斬を覚える可能性は十分にありえる。

 

 空裂斬を覚えた程度でダイがハドラーを倒せるとは思えないのでこの程度は予定調和の範疇だろう。続くクロコダインやヒュンケルも素の状態のダイなら厳しい相手だ。

 

 ダイにはポップ達との冒険を通して成長してもらわなければいけないんだ。身体ではなく心の。ダイの冒険は紋章を使いこなすための冒険といっても過言ではない。

 

 そして竜の騎士の紋章の力は心の影響が大きいと思う。もしかしたら人の血を受け継いだダイだけが特別なのかもしれないが・・・。とにかく心の影響という点では『念』を使う俺も同じなのでよく分かる。

 

 自分の心や意思の強さがそのまま力になるのが『念』の特徴だ。原作において何度も意思の力で紋章を操っていたダイもきっとそうだ。

 

 成人するまでは自由に紋章を使えないとダイの父親であるバランは言っていたが、それは強大な力を意思で抑えこむことができないからだろう。バラン自身、竜魔人と化した己の心を制御しきれていなかった。

 

 だから、俺はダイにあえてアバンがハドラーにやられるところを見せることにした。これはアバンにも話せないことだ。

 

 子供のダイには酷なことかもしれないが、俺にはダイ抜きでバーンを倒す手段が思い浮かばない。・・・すまない。

 

 そんなことを考えているなんてことを知る由もないダイは、今も無邪気に木刀を振り続けるのだった。

 




 今まで仕事で書けなかった反動か随分と今日は投稿することができました。この調子で書き続けていきたいものですね。

 それにしてもオリ主くんはとんでもない勘違いをしているようですね。本当にこの先大丈夫なんでしょうか。

 オリ主くんはとんでもないポンコツです。

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