ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:七夕0707

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25 勇者

 「あのー、相席宜しいですか」

 

 バルジ島から帰って1年。俺はパプニカ周辺で今まで通り修行に励んでいた。

 

 今はパプニカの食堂で昼食を食べているところだ。そんな折、俺に声をかけてくる人物がいた。

 

 「ああ、別に良いでーーぶぉふっ」

 

 行儀悪くも口に物を含んだまま喋ったのがまずかった。思わぬ出来事にむせ返ってしまう。

 

 「ありゃりゃ、大丈夫ですか。はい、お水」

 

 「っげっほげほッ。ど、どうも」

 

 水を受け取り咳き込みながら礼を言う。

 

 「いやー、それにしても良い町ですねえ。ちょっと立ち寄っただけなのについ長居してしまいましたよ」

 

 「へ、へえ。・・・そうですか」

 

 適当に相槌を打ち窓の方を向いて水を飲む。

 

 そっぽを向きつつも気になるのでチラリと横目で盗み見る。

 

 「どうかしましたか?」

 

 「っ!? い、いえ、別に」

 

 視線に気づいたその人物と目があってしまい、挙動不審になりながらも平静を装った。

 

 「ーーですからね。私も是非見てみたいなと思っちゃったりしたわけなんですよ」

 

 「は、はあ。」

 

 相席したその男はとてもお喋りだった。偶々相席しただけなのにやたらと話しかけてくる。

 

 その勢いと人柄のためか、やめといた方が良いのにつられて会話をしてしまう。

 

 「旅行みたいなものですか。パプニカは豊かな国ですからね、ちょうど良いと思いますよ。お一人で旅行してるんですか?」

 

 「ええ、そうなんですよ。当てのない一人旅ってやつです。まあ、仕事も兼ねてるんですけどね」

 

 ただ話しているだけでは不毛なので、適当に探りを入れてみたり。

 

 「ーーというわけなんですが。そうそう申し遅れました。私・・・、こうゆうものでございます」

 

 そう言うと男は巻物のようなものを取り出して広げてみせた。

 

 「アバン・デ・ジニュアールⅢ世。勇者育成のための所謂家庭教師というやつです」

 

 人の良さそうな笑顔で自己紹介をする勇者アバン。

 

 その自己紹介をきき、途端に俺は強い不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 偶々相席した相手に自己紹介をする人間はどれ程いるだろう。

 

 少なくとも俺はやらない。個人情報とか防犯意識とかそういったものとは関係なく普通は自己紹介なんぞはしないのだ。

 

 じゃあ人が誰かに自己紹介をするときはどういう時か。答えは簡単だ。その人物と長く関わることになると感じた時だ。

 

 名前や素性を明らかにすることで円滑なコミュニケーションを取ることが出来る。

 

 ではどうしてアバンは俺に自己紹介をしたのか? それも答えは簡単。アバンが俺とがっつりお知り合いになろうとしているからだよっ!

 

 この男、偶然のフリしてるけど俺のこと知ってて近づいてきた可能性が高い。

 

 考えてみればアバンは城の人間と繋がりを持っている。パプニカ城の者なら俺の特徴や居場所なら普通に答えられるだろう。接触すること自体は容易に行える。

 

 ではどうしてアバンは俺に接触をしてきたのか。考えられる理由は二つある。

 

 一つ目は俺の持っているアイテム。

 

 俺は回復薬を始めとした便利なアイテムを多数所持している。パプニカで流行り病が起きた時や、作物が不作なときに何度か手をかしたことがある。

 

 便利なアイテムを持っていることはその都度口止めしているが、人の口に戸は立てられぬというやつで噂は結構出回っている。その噂を聞きつけたとしたら、学者気質のアバンなら一目見ようと訪れても不思議はない。

 

 二つ目は俺を弟子にすることだ。

 

 さっきの流行り病とかと一緒だが、パプニカ周辺で凶悪なモンスターが出た時に俺が退治することがあるのだ。修行も兼ねて。

 

 これも同じく城内では結構な噂になっているため、次期勇者候補を探しているアバンが目をつけたとしても可怪しくないだろう。

 

 ただ、もしもこっちの理由だとしたら厄介だ。何故なら、俺がアバンの弟子になることでポップやダイの弟子になるタイミングがズレる恐れがあるからだ。

 

 正確に覚えていないが、彼らがアバンの特訓を受けた期間はあまり長くなかったはず。俺が余計なことをして狂わせる訳にはいかない。

 

 色々な可能性を考え、俺は不安を募らせる。

 

 しかし、この不安はあくまでも俺の妄想の粋を出ない。まだアバンは俺に対してなにもアクションをしていないのだ。

 

 本当はただの営業で、誰でも彼でも適当に宣伝行為をしているだけかもしれない。

 

 だから今の俺の取るべき行動は全力でしらを切ることのみだ。

 

 「それにしても珍しいものをお持ちですねえ。その木刀、普通の木刀ではありませんね」

 

 アバンは立てかけてある木刀を手に取って観察した。

 

 「あ、ちょっとっ」

 

 それを慌てて取り返し、抗議の声をあげる。

 

 「おっと、失礼。つい気になってしまいまして。・・・ふぅむ、やはり変わった木刀だ。あなたもそう思いませんか?」

 

 この木刀は『旧文字』が書き込まれており、一度『周』をしただけでもしばらくオーラを留め続けるという名刀に勝るとも劣らない逸品である。

 

 現に今も昨日込めたオーラが僅かに残っている。闘気を操るアバンならその僅かなオーラを感じることが出来るのかもしれない。

 

 アバンはそれを分かった上で探りを入れているのだろうか。そうだとするとなんて答えるのがベストだろう。

 

 この木刀の所有者である以上、知らないと言い張るにしても限度はある。入手した経緯や性能を適当に話しとけばいいだろうか。

 

 「そうですね。随分と昔に別の町の武器屋で買ったんですが、重宝してますよ。変な文字は書いてあるけど、普通の木刀よりめちゃくちゃ頑丈ですからね」

 

 「ほほう、武器屋でですか。それは是非行ってみたいですねえ」

 

 「それならベルナの森の近くの町にありますよ。10年以上前に買ったので今もその武器屋があるかは分かりませんが」

 

 どうせ行っても売ってるのは普通の木刀だけどな。

 

 「おや、その町なら私も以前に行ったことがありますね。午後にでも行ってきますかねえ」

 

 「まだ売ってると良いですね、木刀。ーーでは俺はこれで」

 

 「もう行ってしまうんですか。もっとお話したかったんですが。ーー貴重な情報をありがとうございました。またどこかで会いましょう、トーヤくん」

 

 ちょうど話の区切りがついたので俺は立ち上がり食堂を出ることにする。

 

 これ以上一緒にいてボロを出したら嫌だからな。

 

 

 

 

 ・・・。

 

 どうやら俺の不安は杞憂だったみたいだ。結局ただの世間話をしただけ。変わった木刀見つけて気になっただけだなあれは。

 

 だけどしばらくパプニカに行くのは控えよう。アバンとは接触しない方がいい。

 

 俺は自宅のベッドで横になりながら今日の出来事振り返っていた。

 

 そして意識が朦朧としだした頃、唐突に別れ際の言葉を思い出して勢い良く起き上がった。

 

 アバンは別れ際にこう言った。

 

 ーーまたどこかで会いましょう、トーヤくんーー

 

 名乗った覚えなんかない。俺のことを知った上で近づいてきたんだ。

 

 どういう意図があってやっているかは知らないが、そっちがそう来るなら俺もそれ相応の対応をさせてもらう。

 

 俺は荷物を纏めると深夜にも関わらず家から勢い良く飛び出すのだった。

 




 勇者アバン、満を持して登場です。

 それにしてもオリ主は一体何と戦っているんだ。


 最低でも週に二話は投稿したいのですが、明日も仕事なので遅くなるかもしれません。できるだけ頑張ります。

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