ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:七夕0707

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24 土壌整備

 母なる大地とはよく言ったもので、土がなければ植物は育たない。

 

 植物が育たないということは食料がないということ。食料がないということは生き物がいないということだ。

 

 というわけでこの島に足りないのは土だ。

 

 耕しまくった地面を眺めてため息を吐く。

 

 地面っていうかこれ石だわ、マジで。砂漠で植物が育ちますか? 生き物が住み着きますか?

 

 そこでサボテンがあるじゃん。とかサソリとかラクダとかいるじゃん。とか考えるあなた。そういうことじゃないんですよ。

 

 良いですか? この場合のことを言っているんですよ、今の状況のことをね。

 

 緑化計画なんだから、緑化しなければいけないのだ。

 

 この辺の雨量は知らないが、対岸に見える大陸には普通に木々が生い茂っているので降ることは降るのだろう。

 

 この島は貧相だけど、植物が全くないというわけではない。あくまで人が暮らせない程度の環境というだけだ。

 

 ならば何が足りないのか。それは栄養だ。土が貧弱だから植物が育たないのだ。

 

 ではその土はどうやって準備するのか。他の大陸から土を拝借するにしても、この島は大きすぎる。もっと別な方法を考えたほうが早いだろう。

 

 考えた結果、俺は閃いた。土がないのなら土を作ってしまえばいいじゃない。

 

 というわけでバルジ島の土壌整備を行おうと思う。

 

 そもそも土とは何か。正直詳しくないが、その正体は細かい砂や岩などの鉱石と微生物や植物の死骸をバクテリアが分解したものが混じりあったものだ。・・・ややこしいな。

 

 砂や岩はいっぱいある。この半月の間延々と鍬で地面の岩部分を粉砕しまくってたからな。

 

 問題は微生物と植物をどうするかだ。

 

 そこでこれを用意した。

 

 

 【 栄養剤 500ml 】

 ・土地を豊かにする液体。撒くだけでどんな植物でも早く成長する。使う場合は1,000倍に稀釈してから使ってね。

 

 

 あんまりこういうのってよく分かんないけど、とりあえず栄養さえ与えとけば適当にどうにかなるだろ。

 

 俺は用意した『栄養剤』✕20本を半ばまで水の溜まった湖へ投げ込んだ。

 

 それだけでは育つ植物がないので、島に元々ある土と植物(苔や水草)を少し持ってきて同じく湖にぶち込んだ。

 

 あとは時間をおいて見に来るか。失敗したらしたで別の方法探さなきゃな。

 

 

 

 

 

 「お、おおう」

 

 翌日、湖の様子を見に来た俺はその光景に圧倒されていた。

 

 湖が苔だらけだ。一面が緑色。緑一色。

 

 栄養剤の効果が嬉しい半面怖くなる。なんて恐ろしい物を作ってしまったんだ。

 

 使い方を間違えたら生態系を大きく狂わせる代物じゃないか。

 

 まるで十年以上放置していた水槽のように汚い色をした湖を見て悲しくなった。

 

 だけど苔と水草が生えているだけで水が汚いわけじゃないはずだ。

 

 あとはパプニカかベルンの森へ行き、手頃な水棲生物を放流してやれば湖は完成だ。

 

 

 

 湖が完成したあと、俺は湖を起点に緑化を進めていった。

 

 苔ごと桶で水を掬ってはうち水のように辺りへ撒くと、その場所は湖と同じく苔や草で覆い尽くされていった。

 

 日々栄養剤入りの水を撒き続けた甲斐があってか、1年が経つ頃にはバルジ島の5割は森のようになっていた。

 

 「・・・やり過ぎたな」

 

 塔の頂上から島を眺めて呟く。

 

 どうしてこんなことになったんだっけ。すっかり当初の目的を忘れた俺は黄昏れながら辺りを見渡す。

 

 ああ、そうだ。そういえば避難民たちの食料確保が目的だっけ。

 

 その目的なら完全に達成したと言って問題ないだろう。

 

 島にはでかい湖が10箇所ある。霊丸4発ぶんで1つの湖なのだが、その直径は大体40メートル。

 

 それが10箇所もあるのだ。生態系に干渉しまくりである。現代知識を持つ俺としては若干の罪悪感があったりなかったりだ。

 

 そんな感傷に浸っている俺を余所に、下では小鳥たちが果物をついばんでいる姿が見える。

 

 

 【 豊作の苗 】

 ・枝ごとに異なる種類の実がなる不思議な木の苗。毎日必ず1つ果実を実らせる。成長を終えると普通の果樹になる。

 

 

 島全体で5,000本以上苗を植えたのに、動物たちが食べに来るので競争率は高い。

 

 食料が豊富になったからか最近はどこにいたのかネズミやリスのような小動物をよく見る。

 

 虫や爬虫類も多くなって、正直勘弁してほしいと思ったり。

 

 食物連鎖ができたことで、もうこの島には俺が手を加える必要はないだろう。

 

 1年半という長い歳月をかけて手がけた緑化計画であったが、終わってみるとあっという間だった。

 

 達成感に満たされてすぐ、俺はそれよりも強い虚しさを覚えた。・・・どうして気づかなかったんだ。

 

 「はあぁ。帰るか」

 

 ため息を吐いて荷物をまとめ始める。

 

 念の修業も順調だった、当初の目的の島の緑化も上手くいったというのに俺の心は晴れることはない。

 

 それどころか先を思うと暗澹たる思いが胸を支配していた。

 

 「じゃあな、バルジ島。結構楽しかったぜ」

 

 その想いを抱いたまま、自分で作り上げた第二の故郷へ別れを告げる。

 

 本当はもっと居たいが、これ以上愛着が湧いたら困るからな。

 

 「あーあ。数年後にはフレイザードの氷炎結界呪法で全部壊されるんだよなあ」

 

 やるせない気持ちを言葉にして、俺はバルジ島を後にした。

 




 最初から『豊作の苗』植えるだけでいいじゃんとか思ったけど、書いてる時はそこまで頭が回りませんでした。

 

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