「姉さんだったら今日は出かけてるけど。帰ってくるのは夜じゃないかしら」
「えぇ、そうなのか。・・・でも良いか。二人には先に渡しちゃおうかな」
プレゼントを完成させた翌日。俺は朝早くからパプニカへ訪れていた。
しかし、どうやらタイミング悪くマリンはいないようだ。
せっかくだからみんな揃っているところで渡したかったけど、仕方ないか。約束もしてないのに来た俺が悪い。
持ってきたリュックから綺麗に包装してある手袋と腕輪の入った箱を取り出すと、遠慮する二人に半ば押し付ける形でプレゼントを渡した。
「凄く良い生地でできているな。丈夫でよく伸びる」
アポロは手袋をつけて嬉しそうにしている。どうやら気に入ってくれたみたいだ。
良かった。その手袋は効果こそ他の二つと比べたら劣るけど、デザインでは群を抜いてるからな。
鋼の錬金術師のマスタング大佐の手袋を黒にした感じだ。厨ニ心を擽る最高のデザインとなっている。火はでないけど。
アポロも14歳だからな。きっと気にいると思ったぜ。
「姉さんには何をプレゼントするつもりなの?」
エイミは腕輪をつけ、姿見で自分の姿をチェックしながら聞いてきた。
「ああ、指輪だけど」
何気なく答えると二人は顔を見合わせた後、俺の方を見る。
「なんだよ」
「いや、別に」
「そうね。別に」
俺が質問すると二人はそっけなく返し、そっぽを向く。
「姉さんとあなたって仲良いわよね。よく二人で食事に行ったりしてるみたいだし」
「そうか? マリンと出かけるよりもアポロと出かけることの方が多いと思うけど。なあ?」
同意を求めてアポロを見るが、なんか微妙な表情をしている。
「・・・姉さんって結構モテるのよね」
「へぇ、そうなんだ」
ぼそっと漏らすエイミの言葉に、俺は相槌をうつ。
マリンは可愛いからな。エイミもそうだけど、普通にモテても可怪しくないだろう。
「そうなのよね。この間も、城の兵士に食事に誘われてたわよ」
「え?」
その言葉に俺は一瞬ワケがわからなくなった。
「あら? 気になるのかしら」
「あ、ああ。それで、マリンはその兵士とどうなったんだ?」
「その時はあなたとでかける約束があるからって断ってたわね」
「そ、そうか。なら良いんだけど」
ほっと胸を撫で下ろした俺を、エイミはニヤつきながら見る。
「そうだわっ。今夜姉さんに渡したらどうかしら。場所と時間はこちらで決めて伝えておくわ」
「え? あ、ああ。プレゼントの話ね。そりゃ早く渡したいからそれは嬉しいけどーー」
「なら、予約取ってくるから少し待ってて。一時間位で戻るから」
そう言って返事も待たずにエイミは部屋を飛び出していった。
何なんだ一体。情緒不安定か。
っていうか予約ってなんだ?
「マリンが兵士に食事に誘われていたら、気になるか?」
エイミが飛び出して行った後、しばらく雑談していると急にアポロがそんな質問をしてきた。
さっきは妹のエイミが居たし、姉であるマリンの話はしづらかったのだろうな。
だから俺も気兼ねなく素直な感想を口にする。
「なるよ。お前はならないの?」
「私は別に気にならないな」
「マジか。マリンって結構可愛いだろ。四六時中一緒にいるんだから、お前も少しは何か思わないのか?」
「確かに美人だとは思うが、彼女とはあくまで同じ道を目指す仲間といったところだからな」
なるほど。一緒の職場で働く同僚みたいなものか。
職場恋愛はしませんってタイプだな。雑念が入ると仕事も雑になりかねないしな。
真面目なアポロらしい意見だ。城の兵士も見習えよな。
「しかし、そうか。・・・やはり君は」
「おい、どうしたんだ?」
「いや、何でもない。それより、私に協力できることがあったら言ってくれ。力になるよ」
「ん? あ、ああ。そうだな。何か困ったら相談するよ」
何かよく分からないが、アポロの眼に強い意志の力を感じる。一体何が起きたんだ。
それにしてもアポロは兵士にマリンが口説かれても何とも思わないのか。
もしかしてこの世界だと普通なのかな。
だってこの城の兵士って、若くても20代後半のやつらなんだぜ? そしてマリンは14歳。
どう考えてもおかしいだろー。
前の世界で言えばその辺のサラリーマンが中学生を口説こうとしてるんだぞ。しかもマジモードで。
ヤバイでしょ。気になるでしょ。守らないとでしょ。
今夜マリンとあった時に、その辺のことをそれとなく話してみよう。
プレゼントの指輪を見つめ、心のなかでマリンのことを考えるのであった。
「こ、ここなの?」
夜、マリンと待ち合わせをしてエイミが予約をとったレストランを訪れる。
エイミが探してきた店なので、俺も来るのは初めてだ。
「ああ、そうみたいーー。じゃなくて、そうだよ」
何故かエイミじゃなくて俺が予約をしたことにしろと言われたので、言われた通りにしておく。
聞いたところによると、パプニカではお洒落なレストランとして有名らしい。
店の外観は城を彷彿とさせるような綺麗なものとなっており、内装もそれに遜色ないほど整っている。
たしかにお洒落だ。そしてメチャクチャ高そうだ。
財布的には全然問題ないが、何故エイミはこんな高級店を選んだのだろうか。
ウエイターに案内され、窓際の席へと座る。
「ず、随分と良い席ね。海が綺麗だわ」
「そうだな」
言われて窓の外を眺める。確かに夜の海って綺麗だなー。沖に出ている船の灯りがいい味だしてる。
「きょ、今日はどうしたの? 突然こんな・・・」
「ん? ああ、ちょっと話したいこととか。まあ色々だよ。とりあえず今はここの食事楽しんでからにしようぜ」
本当はプレゼント渡したいだけなんだけど。こうして場所を整えられるとイキナリは渡しづらいよな。
っていうか、なんかマリンの挙動がおかしい気がする。
顔赤いし、いつもよりなんか大人しいような・・・。
城で慣れてるって言っても、こういうかしこまった場所は苦手なのかもしれないな。俺もそうだからその気持ち分かるよ。
食事を終えてようやく調子が戻ってきたのか、マリンの緊張がほぐれてきたようだ。
「そういえば、マリン。エイミから聞いたんだけど。兵士から、なんていうか。そのーー」
話そうと思うと言葉が出てこないというのは結構あるもので、特にこういうデリケートな話題はさらに気を使う
「食事に誘われたって話? さっきエイミから聞いたわよ。わ、私が兵士に誘われてる話をあなたに教えたら、お、怒ってたって・・・」
「・・・いや、怒ってはないけどさ」
エイミのやつ、なんて人聞きの悪いことを。俺はただ、マリンがロリコンのクソ野郎に手を出されないか心配なだけなのに。
ちょうどその話もしようと思ってたところだから、このタイミングでしておこうか。
「マリン。真剣に聞いてくれ」
「は、はい」
真剣な眼差しを受けてマリンは居住まいを正して俺の方を見る。
「エイミから兵士の話を聞いた時、すごい嫌な気持ちだったんだ」
「そ、それってーー」
「最後まで聞いてくれ」
口を開くマリンを制して、俺は続ける。
「だけど、この気持はとても自分勝手なものだと思うんだ。俺がマリンのやることに口を挟むことはできないし、そんな権利はない」
そう、そんな権利はないのだ。恋愛は自由だからね。外野が文句を言うなんておこがましいにも程があるってもんだ。
「でも、もしその場に居合わせてしまったら、きっと邪魔をする。そんな連中がいる限り、きっと俺はそうしてしまうんだ」
前の世界の倫理観が抜け切らない限り、俺はその場面を見過ごすことはできないだろう。
「そんな俺をマリンは煩わしく思うだろう。だけど、そうなったとしてもこれだけは覚えておいてくれ。その相手を本当にお前は好きなのか、真剣に考えてから行動してほしい。俺はお前の幸せを願っている」
「ーーはい」
俺の想いは伝わったのだろうか。マリンは頷くと、少し俯き静かになった。
おっと、説教臭い話で空気が悪くなったな。
ここは、俺のプレゼントでひとつ明るい空気に変えなければ。
「マリン。受け取ってほしいものがあるんだ」
プレゼントの指輪が入った箱を開けて、マリンの前へ差し出す。
「俺の気持ちだ」
「えっ!? き、気持ちっ!? 突然、そんなーー」
驚いてる驚いてる。アポロやエイミもかなり驚いてたからな。
あ、そうだ。あの二人にも言ったけど、マリンにもちゃんと言っておかないとな。
「お返しとか、そういうのは要らないんだ。俺の想いを形にしただけだから。今は何も言わずに受け取ってほしい」
こいつら親の教育が良いのか、プレゼントなんてしたらお礼とかいって何か返してきそうだからな。
日頃世話になってる礼なのに、その礼を貰ったらキリがない。
「あ、ありがとう。とても嬉しい。大切にするわ」
指輪を握った手を抱きしめるようにして、マリンが礼を言う。
そんなに喜んでもらえるなんて、苦労した甲斐があった。
それから半月経った頃。エイミに聞いた話なんだが。
何でもあの日の後、マリンを誘う別の兵士がいたらしいのだが、キッパリとお断りされたらしい。
その断り方には一切の迷いがなく、兵士は取り付く島もない様子だったという。
良かった。あの日の話をしっかりと聞いてくれたようだな。
これでしばらくロリコン兵士の心配はしないで済みそうだ。
はじめて恋愛要素のある文を書きましたが、恥ずかしくてまともにはかけませんね。
なんとか勘違いコント風で誤魔化しました。
そして全然まとまらないのでいつもより長くなってしまいました。