ぼっちが異世界から来るそうですよ?   作:おおもり

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 みなさん、長らくお待たせして申し訳ありません。
 慣れない大学生活や私用で忙しかったのと、大学入学に伴って、新しくPCを買い替えたんですが、何度かマシントラブルで書いたデータがとんで時間がかかってしまいました。大学って意外にテスト多いんですね…知らなかった。
 今回は皆さんが予想した通り、千葉のコーヒーを求めたことから端を発する話です。


番外編1 祭りまでの日常
それでも、比企谷八幡は求めている 前編


 それは、ボンボン坊ちゃん(笑)が率いるコミュニティ“ペルセウス”を打倒した数日後のことだった。

 

「…今、何て…言った?」

 

 戦慄する八幡に、黒ウサギは小首を傾げてついさっき言った事をもう一度言う。

 

「いえ、ですから、この箱庭世界にMAXコーヒーなるものは存在しませんよ?」

 

「なん…だと…!?」

 

 八幡は目の前が真っ暗になったような錯覚を覚える。

 

「マッカンのない世界なんて…千葉のない日本じゃねえか!?」

 

「八幡さんの中でそのコーヒーはかなりヒエラルキーが高いんですね…」

 

「当たり前だ。千葉のない日本なんて、日本じゃない」

 

「そこまでいいますか…」

 

 苦笑しつつ、黒ウサギは申し訳なさそうに言う。

 

「そもそも、この“ノーネーム”は子供たちばかりですから、コーヒーなんておいてませんよ?」

 

 その言葉に八幡はピクリと反応する。

 

「待て、この箱庭にもコーヒーはあるのか?」

 

「はい。それでしたら、主に南側で栽培してますよ」

 

 八幡は望みがまだあることに内心で歓喜する。

 

(よし、まだ希望はある。それならどこかで売っているはずだ…)

 

「あ、ですが、ほとんど東側では出回っていないいませんから、入手するのは難しいかと…」 

 

「な…に…!?」

 

「あ、ですが、白夜叉様なら持っているかもしれません」

 

「なるほど…。あそこは大型商業コミュニティだからな。当然、他地域のも扱ってるってわけか…」

 

「YES! そういうことです」

 

(白夜叉のところか…。頼めばなんとかしてくれるだろうが、何か吹っかけられる可能性がないわけじゃないしな…。場合によってはギフトゲームをさせられる可能性も…俺は諦めるしかないのか…!?いや、マッカンのために諦めるわけには…ハッ!そうだ、黒ウサギを差し出せばいけるか!?)

 

 思考がおかしな方向に行きかけていると、唐突に背後から声がする。

 

「ん…? おまえら、どうかしたのか?」

 

「ん? あぁ、十六夜とジンか」

 

 八幡が振り向くと、何冊か本を抱えた十六夜と眠そうなジンがいた。

 

「お二人はずっと書庫で本を読んでいたんですか?」

 

「それが御チビが眠いっていうからちょっと休憩にしようかと思ってな」

 

「だ、大丈夫ですか、坊ちゃん!?」

 

「うん。これも、これからは必要になることだからね…」

 

「その意気だぜ御チビ。で、八幡たちは何の話をしてたんだ?」

 

「白夜叉のところに行こうかと思ってな」

 

 八幡の言葉にジンは驚く。

 

「白夜叉様のところにですか!? 一体どうして…」

 

「マッカンのためだ」

 

「…は?」

 

 ジンは八幡が一瞬何をいっているのかわからずキョトンとする。

 

「もう…もう俺はマッカンのない生活には耐えられない!」

 

「えっと…マッカンとは?」

 

 ジンが十六夜をちらりと見ると、十六夜はため息交じりに解説する。

 

「マッカンってのは○カ・○ーライーストジャパンプロダクツが製造、○カ・○ーラカスタマーマーケティングが販売している缶コーヒーのことだ。正式名称は「ジョージア・マックスコーヒー」。愛称は『マッカン』『マッコー』とかが有名だな」

 

「つまり、八幡さんはそのコーヒーが飲みたいと?」

 

「あぁ。だけど、そもそもコーヒーが東側ではほとんど出回ってないらしいからな。あるとしたら…」

 

「白夜叉のところか」

 

「あぁ。頼むにしても、どんなギフトゲームを吹っ掛けられるかもわからないからな」

 

 十六夜は少し考えてから、にやりと笑う。

 

「おもしろそうだな。で、おまえは何をするつもりだ?」

 

 八幡が作戦を十六夜だけに聞こえるように言うと、十六夜はまた笑う。

 

「いいぜ、面白そうだし、乗ってやるよ。おい、黒ウサギ、お前も来い」

 

「え? あ、はい、わかりました」

 

 二人はお互いに悪い笑み浮かべて黒ウサギを引き連れて去っていく。一人取り残されたジンは三人が出ていった方を見てぼそりと呟く。

 

「あのお二人…何気に仲がいいですよねえ」

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 八幡と十六夜と黒ウサギの三人はサウザンドアイズの支店に向かっていた。

 

「あの…白夜叉様のところに行くのはわかりましたが、なぜ黒ウサギも一緒に行かなければならないのでしょう?」

 

 黒ウサギは十六夜に首根っこを捕まれ、引きずられながら平然とする。

 

「ん? いや、条件にどんなゲームを吹っ掛けられるかわからないからな。一応、戦力は多いに越したことはねえだろ?」

 

「それはそうですが…。でしたら、耀さんや飛鳥さんも誘えばよかったのでは?」

 

「あいつらなら比企谷妹と一緒に遊びに行くって言ってたぞ」

 

「えっ!? く、黒ウサギはそんなこと聞いてないのですが!?」

 

 驚く黒ウサギに八幡はしゃがんで彼女の肩をポンッと手を置き。

 

「ようこそ、ぼっちの世界へ」

 

「ちょっ、勝手に黒ウサギを変な世界の住人にしないでください!?」

 

「ふっ…。小町達から誘われなかった時点ですでにお前もこっちの住人だ。お前がぼっちを変なもの扱いするということは、お前自身も変なものだということだ。…っていうか」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「お前、いつまで引きずられてるんだよ…。なんか途中から逆にしっくりき始めてんだけど…」

 

 黒ウサギはハッとして、十六夜に抗議する。

 

「そうでした!? 十六夜さん、いい加減放してください!」

 

「あいよ。ほら」

 

 そう言って、十六夜は黒ウサギの首根っこを離し、今度は耳を掴む。

 

「イタタタタタタ!? なぜに今度は黒ウサギのステキ耳を掴んで引っ張るのですか!?」

 

「ヤハハハハ! 悪い悪い。掴みやすかったからよ」

 

「いや、掴みやすくて掴むもんでもないだろ」

 

 呆れる八幡に十六夜は笑いかける。

 

「でも、実際掴みやすいぞ。このウサ耳」

 

 そう言って、十六夜は黒ウサギのウサ耳撫でる。

 

「掴みやすいって何ですか!? 十六夜さん、触るならともかく先ほどのように掴むのはやめてください!」

 

 そうこうしているうちに“サウザンドアイズ”に八幡たちは到着する。しかし、入り口で八幡的には遭遇したくない人物が掃除をしていた。

 

「はぁ…。前から言ってますが、ウチは本来“ノーネーム”お断りなんですが…」

 

 女性店員は心底迷惑そうに八幡を見る。最初に“サウザンドアイズ”に来た時以来、八幡は彼女に蛇蠍のごとく嫌われていた。

 

「いや、今日は白夜叉にたのみたいことが「言っておきますが、店にはいれませんよ」…まだ、全部言ってねえだろ」

 

「そうですね、失礼しました。では、今回はどういったご用件でしょうか?」

 

「ちょっと、白夜叉に頼「お帰りください」…だから、早えよ。まだ、最後まで言ってねえだろ。

 

「いえ、“ノーネーム”からの用件ならともかく、あなたの用件は通したくありませんので」

 

「いや、おまえ、俺のこと嫌いすぎるだろ」

 

「そうですが…それがなにか?」

 

「……あ、でも、たしかに嫌われるのって最近じゃいつも通りだったわ。じゃあ、気にする必要ないじゃん」

 

「…はい?」

 

 八幡の反応が予想外だったのか、女性店員は目を白黒させる。

 

「え、ちょ、それは「よく来たの黒ウサギイイイイイイイイイイィィィィィィィィィイイイイイイイイヤッホオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」…って、白夜叉様!?」

 

 女性店員が八幡に何か言おうとしたところで、店から飛び出してきた白夜叉が黒ウサギに突貫し、またも二人は川へと落ちる。

 それを横目に八幡と十六夜はやっぱりかという顔をする。

 

「ここに黒ウサギを連れてくれば、白夜叉が絶対に出てくると踏んでいたが、思ったより飛んでったな…」

 

「いや、計算通りだ。これで俺たちは合法的に黒ウサギの濡れスケ姿を拝めるというわけだ」

 

「いやにきれいに川に落ちたかと思ってたけど、やっぱりお前か…」

 

「そりゃ、黒ウサギの濡れスケを拝みたいからな。黒ウサギを白夜叉が来たら、ちょうどよく川に落ちる位置に誘導した」

 

「なに、その才能の無駄遣い…。他に使い道あるだろ」

 

 楽しそうに話す十六夜に八幡が呆れていると、黒ウサギが猛ダッシュで川から二人のところへ向かってくる。

 

「こんのおバカ様方はああああああああああああああ!!! 何のために連れてきたかと思えば、こんなことのためだったのですかああああああああ!!!」

 

「「まぁ、半分は」」

 

 悪びれずに言う二人に黒ウサギは肩を落とす。

 

「お二人とも箱庭に馴染んでくれるのは嬉しいんですが、最近黒ウサギの扱いが雑になっていませんか?」

 

「いや、黒ウサギの反応が面白くて、ついな」

 

「『つい』じゃありませんよ! このおバカ様は!」

 

「まぁ、アレだ。そういうのも愛されてるってことなんじゃねえの? 俺はよく知らんけど…」

 

「ちょ、最後ので説得力が皆無なのですよ!?」

 

「というか、おんしら結局何しに来た…」

 

 呆れたような声に八幡が声のした方を見ると、完全に忘れ去られてほっとかれた白夜叉がずぶ濡れになって立っていた。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

「つまり、『コーヒー』が欲しいので、それが手に入るギフトゲームあるいは仕事を紹介しろ、と?」

 

「まぁ、概ねそんなところだ」

 

「ふむ…。『コーヒー』ならうちでもとり扱っておるし、先日の件のこともあるし、どうにかしてやろう。代わりと言っては何だが、少し頼まれて欲しいことがあるのだが…」

 

「用件による」

 

「そうたいしたことではないよ。昔、うちの傘下のコミュニティが亡くなった同士のコレクションの扱いに困っておってな。今は一時的に“サウザンドアイズ”で預かっておるのだが、それを引き取ってもらいたい」

 

「『引き取る』ってことは、もらってもいいのか?」

 

「うむ。うちは商業コミュニティだからな。あくまで、取引の仲介や売買、ギフトゲームの紹介とギフトの鑑定が主なのだよ。だが、今回のはコミュニティたっての希望でな、『同士がコレクションしたギフトを売りにはだせない』とのことでな。引き取り手を探しておったのだが…」

 

「何かあったのですか?」

 

 不思議そうな顔で黒ウサギが尋ねる。

 

「破格の条件ゆえ、最初は引き取り手が後を絶たなかったが、どういうわけか皆しばらくすると引き取ったギフトを返しに来るのだ」

 

「ギフトになんか仕掛けでもあったのか?」

 

 訝しそうに十六夜の質問に白夜叉は首を振る。

 

「いや。一度、鑑定させたが、そのような仕掛けはされてないそうだ。大方、分不相応なギフトで扱いきれなかっただけだろうということになった。まぁ、おんしほどギフトを多量に持っているものなら、そう気にしなくてもよい」

 

 ここで、八幡はもう一度考える。

(おそらく、『昔』と言ったことから、“サウザンドアイズ”で預かってからけっこうな時間が経っている。だが、引き取り手が中々現れない。これは大手コミュニティとしては信用にかかわる問題だ。だから、できるだけ早く引き取り手を見つけなきゃいけないはずだ。つまり、これは体よく面倒事を押し付けようとしているわけだ。だが、 中古のギフトを引き取るだけで、こっちは『コーヒー』が手に入ると、ギフトに関してはよっぽどのものを使わなければ、まず、大丈夫。なら、デメリット要因は量だけか。でも、“ノーネーム”の倉庫はむしろ、ほとんど空に近いらしいから、よっぽどのことがなければいい。…よし、リスクとリターンの計算は完璧だ)

 

「それじゃあ、交渉成立だ」

 

「それでは、『コーヒー』の方は明日にでも持って行かせよう。モノはうちの倉庫に箱が置いてあるから適当に持って行くがよい」

 

「あいよ」

 

 こうして、一行は“サウザンドアイズ”の倉庫に向かうことになった。そして、白夜叉に案内された一行は、その倉庫の巨大さに驚愕することになる。

 

「思いのほかでかいな」

 

「当然だ。ここではギフトゲームの賞品になるものから一時的な預かりまで、幅広く取り扱っておるからの。では、開けるぞ」

 

 そう言って、白夜叉が倉庫の扉を開けると、広大な倉庫内にはあらゆる商品が整然と置かれていた。

 

「へぇ…意外と片付いてるな」

 

「まぁ…。白夜叉様は仕事に関してはしっかりしてますから」

 

「ってことは、他に関してはちゃらんぽらんってことか」

 

「まぁ、予想通りだな」

 

「おんしら…私に対して礼節欠きすぎではないか

 

 白夜叉の呟きを無視しつつ、倉庫の中に入った八幡はあたりを見渡す。

 

「それで、肝心のモノはどこにあるんだ?」

 

「それなら、そこにあるぞ」

 

 白夜叉の指す方を見ると、確かに段ボールほどの大きさの他のものに比べて新しい箱が置いてあった。

 

「思ったよりは大きくないな」

 

「まぁ、基本的に小物がほとんどだからの。それでは、頼むぞ」

 

 そう言って、白夜叉が出ていくと、八幡たち三人は箱を見る。

 

「たしかに、箱の大きさの割に小物が多いな」

 

「まぁ、一応いただいたのは八幡さんですし…どうするかはお任せします」

 

 そこで、八幡はふと疑問に思う。

 

「なぁ…これ俺が本拠まで持ってくの?」

 

「そりゃ、そうだろ。おまえのだし」

 

「マジか…」

 

 こうして、八幡は“サウザンドアイズ”支店から“ノーネーム”本拠まで箱を運ぶ破目になった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 その日の夜

 

 

 

 それなりに多くのギフトが入った箱は、八幡に使う気がないとはいえ、それでも使えるギフトがあるか選別するために、一旦彼の自室に持ち込まれることとなった。しかし、八幡は自室に置かれた箱を前に悩んでいた。

 

「さて、どれから見りゃいいんだ…?」

 

 八幡はこの箱庭に来て、ペルセウス戦後に“ノーネーム”本拠でしていたことといえば、書庫から数冊本を借りてきて読んでいただけだったため、ギフトに関しての知識がほとんどなかった。そのため、箱の中のものがどういった効果を持ったものか全くと言っていいほどわからなかった。

 とりあえず、いくつか取り出してみると、出てきたのは見た目が小奇麗な銅の手鏡や藁を中心に使わなくなったガラクタのようなもので出来たさ○ぼぼのような姿勢の人形が親亀子亀のように5段ほどに連なったものやひびの入った卵型の石の置物、紙製の割にかなり丈夫に作られた掌に収まるサイズの旗、棒に巻きつけられた糸、古ぼけたゴーグルと耳当て、駒のないチェス盤、端々が擦れたトランプ、木彫りの鳥など、どんなモノなのかよくわからないものばかりだった。

 八幡が箱の中の多くのモノに悪戦苦闘していると、八幡の部屋にメイド服姿のエリアが入ってくる。

 

「どうですか、マスター。何か役に立ちそうなギフトはありましたか?」

 

「いや、それ以前に知識がないから、全然わかんねえ」

 

 そうですか、と言いながら、エリアは少し考えるようなそぶりをする。

 

「では、後でウィンに来させましょうか。あの子ならマスターのギフトだけならある程度は鑑定できるでしょうから」

 

「そういや、そんなこともできたなアイツ」

 

「ところで、マスター。一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「…なんだよ?」

 

 エリアは怪訝そうな顔をする八幡の右腕の後を指さす。

 

「先ほどからマスターの腕についているその人形は新しいギフトか何かでしょうか?」

 

 言われて、八幡は自分の右腕を見る。すると、そこにはついさっき箱から取り出した藁とガラクタで出来た人形が八幡の腕にしがみついていた。

 

「…なにこれ、怖い」

 

「…ふむ。どうやら、敵意はないみたいですね。おそらく、マスターをギフト所有者として認めたのではないでしょうか?」

 

 確認のため、八幡がギフトカードを確認する。

 

「でも、何も変わってないぞ?」

 

「え…?」

 

 八幡がエリアにギフトカードを見せる。

 

 『比企谷八幡

 

 “不協和音▷

      

      “トリガーハッピー”

      “デプレッション”

      “ヒッキ―▷

          “ディテクティブヒッキ―”

          “ステルスヒッキ―”””

 “エレメンタル・ダガー”

 “エレメンタル・アミュレット”

 “風精霊(シルフ) ウィン”

 “火精霊(サラマンダ―) ヒータ”

 “水精霊(ウンディーネ) エリア”

 “土精霊(ノーム) アウス” 

                          』

 

 確かに、ギフトカードに四姉妹の名が表記された以外には、何も変わっていなかった。

 それを見て、エリアは八幡の方に向き直り、首を傾げる。

 

「これは…どういうことでしょう?」

 

「いや、俺に訊くなよ…。こういうのは、おまえの方が専門だろ」

 

「いえ、私たち姉妹において、基本的にギフト…特にマスターのギフトに関して詳しいのはウィンですから」

 

「んじゃ、明日にでも訊いてみるか」

 

「かしこまりました。では、私も本日は休ませていただきます」 

 

 エリアが部屋を出ていくと、八幡は人形を箱に戻し、ベッドに身を投げ出した。

 

「今日は疲れたな。とりあえず、明日は厨房かりるか…」

 

 そうして、目を閉じ、まどろみに落ちた八幡は気づかなかった。部屋の片隅…多くのギフトが入っている箱から微かな呟きが上がったことに。

 

『さて、今度の人はどうだろうなぁ…。あぁ…楽しみだなぁ、楽しみだなぁ。…あははは! あはははははははははははは!』

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 次の日の朝

 

 

 

 八幡は朝食の後、“サウザンドアイズ”から『コーヒー』が届いたことをレティシアから教えてもらい、厨房に来ていた。

 

「いや、『コーヒー』は頼んだけどさ…多すぎじゃね? …っていうか、コーヒー豆じゃん、これ」

 

「あれだけの量を押し付けたからサービスしてくれるそうだ。それと、古いものだがよければ使ってくれ」

 

 そう言って、レティシアは八幡にコーヒーミル(コーヒーの豆を挽く道具)を渡す。

 

「あ、悪い。これ、どう使えばいいんだ?」

 

「主殿は使ったことがないのか?」

 

「最初から挽いてあるインスタントしか使ったことがない」

 

「ふむ…。では、使い方は別の機会にでも教えよう。では、豆は私が挽いておくから、主殿は他の材料を用意してくれ」

 

「…あいよ」

 

 レティシアがコーヒー豆を挽いている間、八幡はMAXコーヒーを作る上で必要な材料を並べる…っといっても大した量ではないため、すぐに終わってしまう。

 

「用意し終わったぞー」

 

「あぁ、わかっ…ちょっと、待ってくれ主殿。それは何だ?」

 

 八幡はレティシアが指さした材料を見る。

 

「何って…砂糖と練乳だけど」

 

「いや、あるのはいいんだ。それがどうして淹れる予定のコーヒーより多いんだ!?」

 

 八幡は「はぁ…」と軽くため息を吐く。

 

「いいか、MAXコーヒーの成分で最も多いのは練乳だ。あれは分類上は生豆換算で2.5g以上5g未満のコーヒー豆から抽出した コーヒー分を含むからコーヒー飲料になるが、飲料内の炭水化物…ぶっちゃけ糖分だが、100mlで10.2gというまさかの10%越えだ。MAXコーヒーはコーヒーと銘打ってるが俺にとってはコンデンスミルクだ」

 

「それはコーヒーとしてどうなんだ…。まぁ、主殿がそれでいいなら、別にかまわないが」

 

 八幡はレティシアが挽いたコーヒー豆を湯に溶かし、そこに練乳と砂糖を入れる。これで簡易的な疑似MAXコーヒーができる。

 八幡はそれをコップに移し、飲もうとしたところで、

 

「いい匂い…何か作ってるの?」

 

「ちょっと、春日部さん!?」

 

「ヤハハ! 春日部の鼻は本当にすげえな」

 

 鼻をひくつかせる耀とそれを追ってきたらしい飛鳥と十六夜が厨房に入ってきた。

 

「おまえら、どうしたんだよ?」

 

「厨房から甘い匂いがしたから」

 

「春日部さんと散歩してたら、いきなり春日部さんが厨房からいい匂いがするって言って、ふらふらと歩いていくのについてきたの」

 

「途中で二人を見つけて面白そうだったから」

 

 三者三様の答えに八幡は「はぁ…」と、ため息を吐く。

 

「…とりあえず、飲んでくか?」

 

「飲む!」

 

「見たことないわね…。ど、どんな味かしら?」

 

「まぁ、別に毒ってわけじゃねえし、飲んでみろよ」

 

 時代的に飲んだことのない飛鳥以外は普通に飲んだことがあるらしく、耀は目を輝かせて、十六夜は八幡自作のMAXコーヒーを興味深そうに飲む。

 

「…おいしい」

 

「甘すぎる気もするけど、おいしいわね」

 

「へぇ…ちゃんと、それっぽい味になってるんだな」

 

「当然だ。これは俺が実家で試行錯誤しつつ、作り続けた千葉ッシュコーヒー~マッカン風味~だからな」

 

「そういえば、前から気になってたんだけど、八幡の家って千葉にあるの?」

 

「そうだけど。それがどうかしたか」

 

 耀の質問に八幡が答えると、耀と飛鳥が微妙そうな顔をする。

 

「どうしたっていうか、八幡君のシャツが、その…」

 

「そうか? 俺は面白くっていいと思うぜ」

 

 言いよどむ飛鳥に、十六夜は楽しそうに笑う。

 どういうことかというと、箱庭世界に来た八幡と小町は別に制服でいる必要もないことに気づき、カッターシャツの下に来ているTシャツだったり、“ノーネーム”内にある男物の服を適当に小町に見繕ってもらい着ていたが、この日着ていたのは彼が“ノーネーム”の本拠内で見つけた、どうしてあったのかが謎な

『I♡千葉』とプリントされたTシャツだった。

 

「いえ、郷土愛を否定するつもりはないけど…ちょっと、独創的すぎるのではないかしら」

 

「ばっか、おまえ。郷土愛にあふれてるとか超人間出来てるじゃねえか」

 

「…さすがに、その理論はおかしいと思う」

 

「いや、考えてみろ。俺ほど千葉愛の深い人間もいないぞ」

 

「だからって…その服はどうなの?」

 

「それに、八幡ってこのシャツ以外にも服あったよね? 小町が選んでたの…なんでかパーカーばっかりだったけど」

 

 耀のさりげない疑問に八幡は「あー」という顔をする。

 

「それな、小町が言うには『お兄ちゃん、ただでさえ目が腐ってるんだから隠さないとモテないよ!』って…」

 

 八幡の説明に飛鳥の顔が若干引きつる。

 

「小町さん…意外に容赦ないわね。それにしても、今の口真似うまかったわね。意外な特技ね」

 

「他にも得意なやつがいるんだけどな。まぁ、知らんやつのをやっても意味ないからやらんけど」

 

 そこで、八幡はふと、雪ノ下雪乃のことを思い出す。

 

(そういや、アイツぐらいの天才やそれ以上の天才の雪ノ下さんとか、葉山とかがなんで呼ばれなかったんだ? 俺よりもアイツらの方がよっぽどすごいギフトがあったはずだ…)

 

「あぁ…それはですね」

 

「……ッ! …ってエリアかよ」

 

「マスター、そんな声も出ないほど驚かさないでください」

 

「いや、いきなり声かけられたら驚くだろ。…っていうか、人の思考をナチュラルに読むなよ」

 

「すみません、わかりやすかったものですから。恐らく、『自分より優れた人間は元の世界には他にいたのに…』といったところだと思いますがいかがでしょうか?」

 

「お前、エスパーか何かなの?」

 

「いえ、精霊です。それで、マスターの疑問に関してですが、マスターのギフトはマスターが思っている以上に強大です。マスターが思い浮かべた方たちは、それは素晴らしいギフトをお持ちなのでしょう。しかし…」

 

 そこで、エリアは言葉を切り、真っ直ぐに八幡を見据える。

 

「『私たちの』マスターには及びませんよ。それでは、私はまだ仕事がありますので」

 

 言うだけ言うと、エリアは足早に厨房から出ていく。残された八幡はどう反応すればいいか困っていた。

(落ち着け。これはアレだ、上司と部下的な顔を立てようとお世辞を言ってるだけだ。何も変な勘違いをするようなことじゃない)

 

「へぇ…よかったじゃねえか。すごく慕われてるみたいで」

 

「ええ、そうね。すごくいい雰囲気だったわよ」

 

「…おめでとう?」

 

 にやにやした顔で言う問題児三人に八幡は嫌そうな顔をする。

 

「いや、別に…あれはそういうんじゃないだろ…」

 

「ふむ…。別に他意はないにしても、あそこまで慕われているのは八幡自身の人徳なのだから、もっと誇っていいんじゃないのか?」

 

 レティシアの素直な賛辞に、しかし八幡は複雑そうな顔をする。

 

「………ホント…別に…そういうんじゃないんだけどな」

 

 ぽつりとつぶやくと、コップを机に置き、厨房から出ていく。

 

「あー、これはやっちまったか?」

 

「え…い、十六夜君。私たち、何か変なこといっちゃたかしら」

 

「からかいすぎたかな…」

 

「私も何か変なことを言っただろうか?」

 

 「しまった」という顔をする十六夜に、困惑する三人が訊いた。

 

「いや、おまえらがってわけじゃねえよ。こればっかはしょうがねえよ」

 

「……? どういうこと?」

 

「あいつ個人の問題ってことだ」

 

「十六夜君、それはどういう意味なの?」

 

 十六夜の要領を得ない説明に飛鳥と耀が頭に疑問符を浮かべる中、レティシアはわかったようで、難しそうな顔をする。

 

「なるほど。それなら、私たちには難しい問題だな…」

 

「それでも…どうにかできないのかな?」

 

 恐る恐る言う耀に、レティシアは微笑する。

 

「耀、八幡のことは私たちが力になれるかもしれない。しかし、それは『今』じゃない。これから、必要になった時に私たちが力を貸せばいい。私たちは同じコミュニティの同士なんだからな」

 

「そっか…そうだね」

 

 納得したように耀は頷く。そこで、飛鳥が何かを思い出したような顔をする。

 

「そういえば、昨日八幡君が白夜叉からもらったっていうギフトはどうなったの?」

 

「それなら、まだ見終わってないって言ってたな。そもそも、前知識がないから、暇なときにウィンに見てもらうってよ」

 

「そういえば、八幡君のギフト限定で簡易的な鑑定ができるんだったかしら?」

 

「ああ。そういや、昨日も今日もまだやってんの見てねえな。もしかすると、めんどくさくてさぼってるかもな」

 

 十六夜が冗談交じりに笑うと、女性陣は「あぁ、たしかに、それはありえる」と思い苦笑する。

 しかし、彼らの和やかな雰囲気は突如壊されることとなった。

 

「きゃああああああああああああああああああああ!!!」

 

 少女の悲鳴が、“ノーネーム”の本拠に響き渡った。

 

「…なっ!?」

 

「この声って!?」

 

「比企谷妹だ!」

 

「八幡の部屋の方からだったぞ!」

 

 十六夜たちが急いで八幡の部屋に向かうと、八幡の部屋の前で小町が腰が抜けたかのように呆然と座り込んでいた。

 そんな彼女に耀と飛鳥が駆け寄った。

 

「小町、いったい何があったの?」

 

「すごい悲鳴だったわよ、大丈夫!?」

 

「あ……あれ…」

 

 二人は、呆然とした様子の小町が指さした方を見る。

 そこには、ただ八幡が窓際に外を向いて立っているだけだった。

 

「えっと…八幡。何かあった?」

 

「いや、俺にもよくわからないんだが…」

 

「「「「……………!?」」」」

 

 振り向いた八幡に全員が驚きで言葉を失う。

 

「は、八幡君…どうしたの?」

 

「いや、どうしたって…何がだよ」

 

「おまえ…気づいてないのか?」

 

「…………?」

 

 呆然とする彼らに「意味が分からない」という表情をする八幡。

 その彼の眼は…………全く腐っていなかったのだ。




初めてのオリジナルストーリー。しかも、まだ前編…自分でも何やってんだと思いました…。次が後編になるといいんですが…。できるだけ、はやく書けるように頑張ります。

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