ここまですごく長かった気がします。
というわけで、『調子に乗ったボンボン坊ちゃんを倒せエピソード2~やっちゃおうか、アルゴール~』
お楽しみいただければ幸いです
決戦当日、ノーネームの主力である十六夜、八幡、耀、飛鳥、黒ウサギ、あと一応ジンが“ペルセウス”本拠前の舞台区画のゲームステージである宮殿前にいた。
「…あの、僕の扱いあんまりじゃないですか?」
「しょうがないだろ、お前の活躍ずっと後なんだから」
「原作の巻数的にはそんなにないがこの話の作者は量が多い割に進まないから、お前の活躍はかなり先だろうな…」
かわいそうなものを見る目で問題児たちは自分たちのリーダーを見る。
そんな感じにいつも通りの平常運転でいると、彼らの目の前に“契約書類”が現れる。
『ギフトゲーム名"FAIRYTALE in PERSEUS"
プレイヤー一覧 逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、比企谷八幡
“ノーネーム”ゲームマスター
ジン=ラッセル
“ペルセウス”ゲームマスター
ルイオス=ペルセウス
クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒。
敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターの降参・失格
プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合
舞台詳細・ルール
※ホスト側のゲームマスターは、宮殿の最奥から出てはならない。
※ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない。
※プレイヤーたちは、ゲームマスターを除くホスト側の人間に
※姿を見られたプレイヤーは失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。
※失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけで、ゲームを続行することはできる。
宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
』
全員が“契約書類”を読み終え、十六夜がにやりと笑う。
「姿を見られたらルイオスに挑めない…。まさに
「暗殺…ですか」
「暗殺ねえ」
「暗殺」
「暗殺なら…」
「おい、なんで俺を見てんだよ…」
八幡以外の全員が『だって…なぁ?』という感じの顔をする。
「お前のギフトなら簡単に入って殺ってこられるだろ?」
「同感ね。貴方にはそれだけのギフトがあるんだから、早く殺りましょう?」
「うん。ルイオスなんて早く殺るべき…」
「いや、それいいのか? モロに殺人だぞ?」
「大丈夫です! これはギフトゲームですから! 倒すために
本人の与り知らないところで、ルイオスの命が危うくなっていた。
(これはやばいな…。特に女性陣は黒ウサギのこともあってかなりやばい。主にオーラが…)
『これは断ったら自分が殺られる…!?』という戦慄を覚え、自分とルイオスの命を天秤に掛け…
「よしっ、極力殺る方向でいくか」
ほぼノータイムでルイオスの死刑が決定した。やはり八幡も我が身がかわいかった。
♦
「じゃあ、確実に殺るために役割3つに分担からするぞ」
「分担?」
「ああ。まずは、注目を集めて敵を欺く囮になる役。次に不可視の兜のギフトを回収する役。最後に、ルイオスと戦って倒す役だ」
「だったら、私が囮役ってところかしら?」
「…いいのか?」
八幡が訊くと、飛鳥は肩を竦める。
「生憎、私のギフトはあいつには効かないみたいだし、あいつの相手は十六夜君たちに任せるわ」
「じゃあ、次の不可視の兜を回収するのは、春日部に任せる」
「うん。わかった」
「で、恐らくルイオスが持ってるだろうギフトの隷属させた元魔王・アルゴールは俺がやる」
そこで飛鳥と耀が『あれっ?』という顔をする。
「八幡君はどうするの?」
飛鳥の質問に、十六夜はにやりと笑い、八幡の肩に手を置いた。
「よし、八幡。お前には
「悪い、俺ちょっと小町がちゃんと働いてるか不安だからちょっと帰るわ」
身の危険を感じ、逃走しようとするも、問題児たちに首根っこを掴まれて失敗する。
八幡の首根っこを掴みながら十六夜が笑う。
「ヤハハ。安心しろよ、八幡。お前にやってもらうのはすごく簡単なことだ」
「俺、人がそう言って簡単だったの見たことないんだけど…」
「大丈夫。問題ない」
「おい、やめろ。俺に大丈夫じゃないフラグが建っちゃうだろ」
「で、十六夜君。結局、八幡君は何をするの?」
「ああ、八幡がやるのは至って簡単だ。たぶんこいつがすごく得意なことだ」
「俺が…得意?」
(集団から孤立することか? 人間関係をリセットすることか? 昔の知り合いとか誰も連絡とってねえし。いや、違うな、これはデリートだった)
色々考える八幡を指差し、十六夜は言う。
「向こうを思いっきり、引っ掻き回してこい」
「…………えー」
♦
「くっ…。まさか、“名無し”がここまでやるとは!?」
「水樹よ、まとめて吹き飛ばしなさい!」
“ペルセウス”の宮殿の玄関口にて、飛鳥が水樹を使って“ペルセウス”の敵兵を蹴散らしていた。
「あの水樹にこんな使い方があったなんて…。ギフトを操るギフト…色々と使い道がありそうね。にしても、この私が囮役を買って出ているなんて…」
(…箱庭に来る以前の私だったら、こんな思いは絶対に経験できなかったでしょうね
「だから、いまはこの役に甘んじていてあげるわ。だって、張り合いのない世界は嫌いだったもの!」
そういう飛鳥の笑顔はとても輝いていた。
「それにしても…」
ふと、彼女は真顔になって、“ペルセウス”の方を見る。
そこには―――
「ぐおっ!?」
「くっ!? どういうことだ、これは!?」
「くそっ!? 一体どこから…!?」
水樹の初撃の水流を避けた“ペルセウス”の中でも実力者であろう者たちが、まるで見えない攻撃を受けているかのように、次々と倒されていく。
八幡が“ステルスヒッキ―”を使って、全く敵に見つからずに攻撃を行っているのだ。
しかも、全て死角からの不意打ちの上、急所を外してあるのがまた見事だった。
「まさに『引っ掻き回す』って感じね…。こっちも負けてられないわ」
飛鳥がそう言うと、それを汲み取ったかのように、水樹の水流の勢いが増した。
「くっ…!? まさか“名無し”にこれほどの者がいたとは…。 だが、こんな派手な陽動だけでは我々を倒せるわけガッ…!?」
「残念。八幡と飛鳥だけじゃない」
不可視の兜を使って身を潜めていた兵士を耀が後ろから攻撃して意識を奪う。
「これでまずは一つだな」
そう言って、十六夜は気絶した敵の頭から不可視の兜を外す。
それを陰で見ていたジンも周りに敵がいないのを確認して出てくる。
「はい。ですが、恐らくこの兜を持っているのは数人の精鋭だけでしょうから、見つからないよう注意が必要ですね…」
「だな。どうだ、春日部。周りに誰かいるか?」
訊かれた耀は、注意深く周りを確認する。
「えっと…今のところは…特に誰も「おい、春日部―――」きゃあああああ!?」
「ぐふっ!?」
「…って八幡。何してるの?」
いきなり声をかけられて驚いた耀が、声をかけてきた相手を殴り飛ばすと、それは十六夜に言われて敵陣を引っ掻き回しに行っていた八幡だった。
「十六夜に言われたやつが一通り終わったから合流しようと思ってきたら、お前らの近くにこいつがいたからとりあえず倒したんだが…」
そう言って、八幡は何もないところを掴むと、まるで何かを外すような動作をする。
十六夜たちが『こいつは何をやってるんだ?』という視線で八幡のを構わずに八幡が動作を続けると気絶した男が現れ、八幡の手には不可視の兜があった。
それを見て、耀が驚いた顔をする。
「その人って…まさか…」
「“ペルセウス”の兵士…だな」
「でも、なんで…」
自分にはわからなかったのか、そう思った。
その疑問の答えは、十六夜が答えた。
「こいつがかぶってたのは
「それなら、八幡にはどうして相手の場所がわかったの?」
「それはギフトで索敵する際の手法の違いですね」
耀の質問に、ウィンが現れ答える。
「春日部さんのギフト“
「うん…」
「この場合、耀さんの索敵手段は“匂い”、“音”、“視認”という物理的なものになりますが、本物の“ハデスの兜”は『“匂い”、“音”、“視認”、“気配”を相手に完全に知覚できないようにさせる』というギフトなので耀さんは蝙蝠やイルカの“ソナー”でもない限りまずわかりません」
「それはさっきの十六夜の説明でなんとなくわかってたけど…。それじゃあ、なんで八幡にはわかったの?」
「御主人様の“ディテクティブヒッキ―索敵手段は“視認”、“気配”、特定の人間…特に自分に対する“視線”、“敵意”…というか“負の感情”を察知してますね。さっきの場合は私たちのコミュニティに向けられた“敵意”を“パッシブ”で感知したので、『引っ掻き回し』ついでに倒した、というところですね」
「“負の感情”って…そんな抽象的なのがわかるの?」
「はい。むしろ、御主人様のギフトの成長の根幹は他者に対する“不信感”ですからね。そういうのは敏感にキャッチできます」
ウィンの話にその場の空気が少し気まずくなる。
しかし、十六夜が『しょうがねえなあ…』というふうに沈黙を破る。
「んじゃ、とりあえず俺は御チビと宮殿の最奥に行くから、八幡は春日部と適当に暴れてから来い」
その言葉に、ジンは『えっ?』っという顔をする。
「八幡さんは一緒に行かないんですか?」
訊かれた十六夜はにやっと笑う。
「八幡が暴れてた時の“ペルセウス”の連中の反応…あれはどう考えても八幡のギフトのことを知らなかった。それはつまり、ルイオスが八幡のギフトのことを話してねえってことだ。たぶん、“ノーネーム”のメンバーに不意を突かれたなんて言いたくなかったんだろうな…。それに、不意を突かれてなお、『今度は大丈夫だ』って自信があったんだろうな。ま、そのせいでうまくいきすぎて歯ごたえがなさすぎるくらいだけどな」
「でも、それでなんで八幡さんは一緒に行かないんですか?」
「よく考えろよ御チビ。もし、隠形使えるやつの姿が見えなかったら、御チビだったらどう思う?」
その質問にジンはハッっとする。
「…どこかに“ギフト”で姿を隠していると思う?」
「そうだ。けど、八幡の能力は
「なるほど、だから最初に十六夜さんと僕が行くんですね。相手に『近くに敵がいるかもしれない』という疑心暗鬼を抱かせて、相手の気がそれている間に八幡さんが不意打ちで倒すんですね?」
「そういうことだ。ま、あのボンボン坊ちゃんは大したことなさそうだし、俺がそのままぶっ倒すかもしれねえけどな」
そう言って十六夜はヤハハと笑う。
「十六夜、むしろぜひそうしてくれ。俺が働かなくて済むから」
「いや、もうちょっとがんばろうよ…」
腐った目に期待の色をにじませながら言う八幡に、耀がツッコむ。
「じゃ、俺達は先に行くぜ」
「おう、行ってこい」
(そして、そのまま終わらせて来てくれ! 俺が働かなくていいように!)
♦
「…敵、来ないね」
「…そうだな」
十六夜とジンが宮殿の最奥に行ってから十分ほどが経過したが、どうやら“ペルセウス”のメンバ-はジンたちがここまで来れると思ていなかったのか、はたまた飛鳥の陽動が功を奏しているのかは定かではないが、誰も来ないので二人は正直暇だった。
お互い沈黙した間に、八幡は『まぁ、別に話さなきゃいけないわけでもないか…』と考え、特に取り留めもないことを考え始める。
しかし、耀はそういう経験がないので、この沈黙をどうにかしようと考えるも、特にいい話題が思い浮かばない。
それでも、意を決して口を開く。
「えっと…ごめんなさい」
「……は?」
八幡は『なぜ謝られたのか理解できない』という顔をする。
「えっと、昨日…のことで」
「昨日…?」
そこで八幡は耀が言ってるのは、昨日の八幡の部屋でのことだと思い至る。
「あー、いや、その、なんだ…昨日も言ったけど、それは俺が勝手にやって怪我しただし、お前個人に恩を売ったつもりもない。だから、お前は何一つきにすんな…」
「いや、その、そうじゃなくて…」
「…?」
昨日のやりとり以外で何かあったのかと、八幡は記憶の中を探る。
しかし、特に思い当たることはない。
「…何かあったか?」
訊かれた耀は顔を赤くして、迷うようにもじもじする。
「ちょっと、訊きたいことがあるんだけど…」
「…なんだよ」
「…その、私のこと、どう思ってる?」
「ほう…」
八幡は思った。
(並のぼっちなら、『あれ、こいつ俺のこと好きなんじゃね?」と、勘違いしてるところだが…俺は違う。訓練されたぼっちは勘違いなんかしない。これはあれだな、同じコミュニティのメンバー的にどう思うのか的な意味だな。…でも、どう思うも何も俺こいつのこと全然知らないんだけど)
緊張して八幡の返答を待つ耀に八幡がいろいろ考えて出した答えは…
「さぁ…。俺も知らん」
「……………え? エ? E?」
八幡の意外すぎる答えに、耀はしばらく彼の言葉の意味が理解できなかった。
耀はそもそも、八幡と友達になるために『八幡が自分をどう思っているのか』について知ろうと思ったのだが、まさか聞かれた本人が自分のことなのに『知らない』と答えるとは、思ってもみなかった。
「…えっと、どうして?」
「いや、だって俺、おまえのこと知らないし…」
「知ら…ない?」
「だって、そうだろ? 俺とお前ら会ってまだ一か月もたってないんだぜ。それなのに何かわかるわけないだろ? わからないのにわかったふりをするなんて…ただの欺瞞だ」
八幡は自然と最後の部分の語調が強くなる。
耀は自分の声が少し震えているのを自覚する。
「じゃあ、八幡にとって、私って何?」
「…友達、ではないし…何だ? 知り合い?」
「―――――っ!?」
耀にとって半ば予想通りの答えとはいえ、『友達』になりたいと思っていた相手からのその言葉は無慈悲で残酷なものだった。
それでも、耀はちゃんと知った上で『友達』になりたいと願った。
だからこそ、そのためには相手の言葉を受け止める『覚悟』がいると思った。
「じゃあ、他のみんなも八幡にとって知り合い?」
「まぁ、そうだな。…あ、いや、小町は違う」
「それは知ってる。じゃあ、なんで助けたの?」
その質問に八幡は『またその話か…』と、ため息をつく。
「はぁ…。だから、それは俺が勝手に「私のだけじゃなくて…」…は?」
八幡の言葉を訂正するように耀が言う。
「それだけじゃなくて、黒ウサギや飛鳥、今だってレティシアのために頑張ってる。ただの『知り合い』なら、なんでそんなに頑張るの?」
言われた八幡はそっぽを向く。
「別に、ただそれが一番効率が良かったからそうしただけだ…」
「本当に?」
「あぁ。それによく考えてみろよ。そうでもなきゃ、面倒なことが嫌いな俺が自分からそんなことするわけねえだろ?」
「…今は、そういうことにしておく」
「ていうか、なんでそんなこと訊くんだよ?」
訊かれた耀は八幡の顔をまっすぐ見つめる。
「私は友達を作りたくて箱庭に来た。だから、十六夜とも、黒ウサギとも、飛鳥とも、小町とも、八幡とも友達になりたい」
「友達、ねえ…それで?」
どこか含みがあるような言い方で、八幡は耀に続きを促す。
「だけど、さっき言ったみたいに八幡は私のことを…私たちのことを『友達』だなんて思ってない。だから、そういうのも含めてちゃんと知って、八幡と『友達』になりたい」
耀の言葉に、八幡は黙り込む。
(いや、どんだけ友達欲しいんだよ… 『友民党』の党首にでもなるの? いや、でも相手のことをちゃんと知ろうとしてるのはいいんだけど…)
「だから、私に八幡のことを教えて」
そう言って、自分に一歩近づいてきた耀に八幡はため息交じりに答えようとする。
「…なぁ。お前って他「GYAAAAAAAAAAAA!!!!」―――っ!?」
宮殿の最奥から上がった人間ではあり得ないであろう絶叫に二人は宮殿の奥の方を向く。
すると、そちらの方向の上空に向けて白い光線が放たれていた。
「なっ、何だ、あれ!?」
二人が愕然とすると、ウィンとヒータが現れる。
「御主人様! 恐らくあれが初代ペルセウスが倒したと言われている“アルゴールの悪魔”です! 初代が“魔王”だったものを隷属させたのでしょう。あの光は浴びると石化してしまいますので気をつけてください!」
「あの、石化は呪いだから、たぶん、私の『再生』じゃ、治せないから…」
二人が注意を促した途端、それをあざ笑うかのように光線は二人の方へと傾いてくる。
「…くっ!? 春日部!」
「八幡!?」
八幡はとっさに射線上の耀の前に出る。
そんな彼の前に影ができる。
「そろそろ私も頑張ろうかしら…」
そんな声が聞こえて、八幡と耀は閃光に包まれた。
♦
「おい、春日部。大丈夫か?」
「えっと…うん。大丈夫」
『にしても』、と八幡は上を見上げる。
「何だ…これ?」
今、八幡と耀は水で作られたドームの中にいた。
「…これって、水?」
「水…ってことは」
八幡が自分の胸元を見ると、そこにある“エレメンタル・アミュレット”にはまっている四色の石の内、赤、黄、白色の石が光っていた。
それを見て、耀もこれが八幡のギフトによるものだと理解する。
「これって…確か『赤』が『風』、『黄』が『火』、『白』が『水』の属性、だったよね?」
「ええ、その通りです」
『――――っ!?』
声が聞こえた方向に二人が顔を向けると、そこには青髪の美少女がいた。腰まで届く長い髪に穏やかで大人びた顔立ちをしている。
外見から年齢は八幡よりも少し上といったところだった。
「えっと、お前は「御姉様!」「お姉さま!」―――え?」
いきなり現れた少女にウィンとヒータが抱き着いた。
「きゃっ!? 二人とも、まだゲーム中なんだからダメですよ」
二人を離し、少女は八幡の方を向く。
「初めまして、
「…ご丁寧にどうも。で、これは何だ?」
「私たち三人の能力を複合させて作った防御結界ですね。格は相手が格段に上ですが、私たち三人のギフトを効果的に使えば対抗できますので。私の『水』の霊格のギフトが持つ『循環』と『浄化』、ウィンの『風』の霊格のギフトが持つ『流動』、ヒータの『火』の霊格のギフトの持つ『変化』のギフトを組合わせることで、相手の攻撃を結界表面に永続的に滞留させて、その間に相手の石化の呪いを浄化した上で力を変質させ、この結界の力に変えます」
「なるほど…。欠点とかはあるのか?」
「はい。固定結界ですので、移動しながらの発動ができません。それと、この規模ですと効果範囲は御主人様を中心とした五メートルくらいになります」
「ふぅん…」
(この規模なら…か。だったら…)
八幡は何か思いついたような顔をして、エリアの方を向く。
「なぁ、ちょっと、提案があるんだが…」
♦
「ここが最奥の間か…」
現在、八幡はルイオスのいる最奥の間に入る扉の前にいた。
耀は最奥の間に続く廊下で引き続き待機しているので、万が一入っていきなり気づかれる心配はない。
「さて、行くか」
八幡は扉を開けて中に入ると、そこには…
「WRYYYYYYYYY!!!?」
「おいおい、どうした元魔王様!!! 派手に登場しといてこの程度かああああ!!!」
十六夜が“アルゴールの悪魔”らしき怪物の光線を叩き割りながら、相手をボコボコにしていた。
それを見た八幡はちょっと考えて…
「………………失礼しましたー」
そっと、扉を閉じて出て行こうとする。
そこにウィンが現れる。
「ちょっと、何やってるんですか、御主人様!?」
「いや、ここで俺がでたらなんか空気読めない奴だろ。いいとこどりしにきただけみたいだろ…」
「まぁ、いんじゃねえか、別に。俺は期待外れで飽きてきてたし」
「いや、そうは言ってもな…って十六夜!?」
そこには、先ほどまでアルゴールをボコボコにしていた十六夜がいた。
「お前の精霊がお前に話してるのが見えたからこっちに来たんだよ」
どうやら、ウィンが八幡に話しかけたことで“ステルスヒッキ―”が解けたらしい。
「いや、だからってお前…」
「貴様ら、そうやって余裕でいられるのも今だけだ! アルゴ――――――ル!!!」
「GYAAAAAAAAAA!!!!!」
二人の会話に割って入ったルイオスの声に応えるようにアルゴールが叫び、石化の呪いの光線を八幡と十六夜の方に放ったかと思ったら……。
「………? なんであいつ、あんな見当違いの方向に…? もしかして…」
疑問に思った十六夜が即座に思い付いたのか、八幡の方を見る。
「『風』の空気による屈折と『水』の光の反射、『火』の熱による光の屈折の三重のダミーだ」
「なるほどな…。それであんな見当違いの方向に…やっぱ、お前はおもしろいな」
「さて、この間に準備しとかないとな…」
「…準備? へぇ、また何かおもしろいことでもするのか?」
十六夜の期待するかのような眼差しに、八幡はとびきり悪い笑顔を浮かべる。
「あぁ…。さっき思いついたやつだ」
そう言って、八幡は意識を集中させる。
すると、光の屈折と反射を利用した八幡の像が無数にできあがる。
作った八幡は一息つく。
「ふぅ…。仕上げは上々。後は結果をご覧じろってところか…」
「な、何だこれは…!?」
ルイオスは突然現れた無数の八幡に驚愕する。
「まさか、分身を作り出した…!? いや、前の時から考えて“幻覚”のギフトか…!?」
八幡のギフトを勘違いしたルイオスは、アルゴールの方を向く。
「アルゴール! すべてを石に変えてやれ!!!」
「GYAAAAAAAAAA!!!!」
ルイオスの命令に応えるようにアルゴールが無数の八幡の像に向けて光線を発射する。
それを見て、八幡はにやりと笑う。
「今だ」
そう短く言った途端、八幡の像はアルゴールの像へと変化する。
「まさか…これは、鏡か!? だが、アルゴールは“星霊”だぞ!? 鏡ごときでアルゴールの石化の呪いの光が防げるか!!」
しかし、アルゴールを映す鏡はアルゴールの石化の光線を防ぐのでも、ましてや反射もさせなかった。
鏡は光線が着弾すると、一瞬だけ光が止まり、光線がいくつかに分かれた上、向きを微妙に変えて別の鏡へと向かっていく。
そのため、どんどん光の線は細くなっていく。
しかし、それが延々と繰り返され、やがて光線は同じ所へと集まっていく。
その集まった光は少しずつ太くなり、集まった光はアルゴールを囲む鏡へと集まっていく。
そして、アルゴールの全方位から、アルゴール自身が放った攻撃がアルゴールを襲う。
「SYYYYAAAAHHH!?」
「アルゴール!?」
光がすべてアルゴールに向けてはなたれ終わると、アルゴールは自身の能力によって、石化していた。
その様子に、ルイオスはまたも愕然とする。
「馬鹿な…!? アルゴールほどの星霊が自分の能力で石化するなんて…」
その疑問には八幡が答えた。
「確かに、そのままだったら無理だっただろうな。だから、こっちの精霊の“ギフト”を使ったんだよ」
「精霊の“ギフト”だと?」
「あぁ。屈折させたお前の星霊の光線を『変化』の属性で微妙に変質させて、こっちの精霊三体分の霊力と同化させて力を上乗せしてたんだよ」
「だから、アルゴールは石化したのか…」
納得したルイオスを八幡は『さてと…』と言いながら見る。
「この勝負、まだ続けるのか?」
「いや、こっちの負けでいい。元々乗り気じゃなかったんだ。あの吸血鬼は連れて行け」
「何言ってんだ、お前?」
「なに?」
負けを認めたルイオスに対して十六夜が言った言葉に、ルイオスは『意味がわからない』という顔をする。
「どういう意味だ?」
訊かれた十六夜はにやりと笑う。
「このままお前が本当に負けを認めたら、俺達はこのコミュニティの旗を貰うぜ」
「なにっ!? あの吸血鬼じゃないのか!?」
「当たり前だろ? ここを潰しちまえば、同じことだ。その次は、それを盾に即座にもう一戦申し込んで、名前をいただく。そうすりゃ、お前たちも“ノーネーム”だ。いや、それ以上に、箱庭で永遠に活動できなくさせてやるよ」
「やめろ! コミュニティが崩壊する…!」
「そうか、嫌か。そうだよな。だったら…」
そこで十六夜は言葉を区切り、自分を指差した。
「来いよ、ペルセウス。全力で、命がけで、俺を楽しませろ」
言われたルイオスは鎌を出現させ、構える。
「負けられない…負けてたまるか!」
♦
「で? こいつ、どうする?」
その後、十六夜にボコられたルイオスの処遇について、ノーネームのメンバーは話し合っていた。
「死刑ね」
「…死刑」
「死…いえ、なんでもありませんよ?」
「女性陣に任せる」
「僕も同じ」
「じゃあ、死け「ちょっと、待て!」んだよ、ボンボン坊ちゃん…」
「いきなり『死刑』ってなんなんだ!?」
訊かれたノーネームのメンバーの意見を代表するように八幡が言う。
「自業自得だな」
「おいっ!?」
騒ぐルイオスを無視して、八幡が女性陣の方を向く。
「男子は全員が女子に任せる方向でいくが、一応女子組に決をとる。ルイオスは有罪か無罪か、どっちだ?」
「有罪ね」
「…有罪」
「有罪でございますね」
女性陣の総意を聞いた八幡はルイオスの方を向いた。
「というわけだ。死ぬなよ?」
「ちょっと待て!? おい!? おいいいいいい!?」
『ルイオスくんがクロに決まりました。お仕置きを開始します』
※以降は音声のみでお楽しみください。
「待てっ!? お前ら、僕に何をする気だ!?」
「えい」
「ぐはっ!?」
「はっ!」
「がっ!?」
「では、黒ウサギも…」
「おい、待て!? なんだ、そのかなりデカい武器は!? そんなの喰らったら死ぬだろう!?」
「…とっとと死ねばいいのに」
「ええ、そうね。あなたのような下衆はここにいるべきではないわ」
「というわけですので…はあああああああ!!!」
「GYAAAAAAAA!!!??」
「…なぁ、十六夜」
「なんだ、八幡?」
「………やっぱ、女って怖いな」
「…………………」
♦
『じゃ、これからよろしくメイドさん』
『はい?』
ノーネームにレティシアが戻った…のはいいが、問題児三人の発案で、なぜか彼女がメイドのなることが決定した。
「ゲームで活躍したの私たち四人だけだものね」
「私も兜集めた…」
「俺はルイオスをボコッた」
『で!』と、三人は静観を決め込んでいた八幡の方を向く。
「ゲームのお膳立てや相手の星霊まで倒したんだ。今回のMVPは間違いなくこいつだろ? というわけで、所有権は八幡、俺、お嬢様、春日部で2:1:1:1だな」
「何言っちゃってんでございますか、この人たち!!?」
その様子を見ている八幡は彼らのやり取りを微笑ましそうに笑って見ているレティシアに目を向ける。
「なんかお前の今後について話してるけど、なんか言わなくていいのか?」
「………ふ、そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。君たちが家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」
「…そっか」
そんな二人の話を聞いていた黒ウサギが割って入ってくる。
「レっ、レティシア様!? 何を―――」
そんな彼女を飛鳥が押しとどめる。
「ほらほら、もう決まったことなんだから。それより、歓迎会をしてくれるんでしょう?」
言われた黒ウサギは気を取り直すように宣言する。
「えー、それでは…新たな同士を迎えた、“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」
こうして、各々料理を食べたり、歓談を始めたりする。
「だけど、どうして屋外の歓迎会なのかしら?」
「うん、私も思った」
疑問を口にする飛鳥と耀の間に黒ウサギが入る。
「実は、皆さんに見せたいものがありまして。先日打倒した“ペルセウス”のコミュニティですが、一連の騒動の責任から、あの空から旗を降ろすことになりました」
言われて、飛鳥や耀は意味が分からないという顔をする。
「空から…旗?」
「それってどういう…」
一人、十六夜は『もしかして…』という顔をする。
「おい、黒ウサギ…まさか」
「それではみなさん、箱庭の大天幕にご注目ください!」
言われて、全員が空を見上げると、それはとても見事な流星群だった。
「うわぁ、すごい…」
「綺麗…」
飛鳥と耀は感嘆の声を上げる。
そんな二人に黒ウサギは『してやったり』という笑みを浮かべる。
「どうですか、驚きました?」
訊かれて飛鳥と耀は降参だとばかりに諸手を上げる。
そして、十六夜が黒ウサギの横にたった。
「やられた…とおもっている。“世界の果て”といい…いろいろと馬鹿げたものを見てきたつもりだったが、まだ、これだけのショーが残ってたなんてな」
十六夜の言葉に黒ウサギは笑顔を浮かべる。
「箱庭の面白さは保証済みですよ」
「ああ。おかげさまでいい個人的目標もできた」
そう言って、十六夜は美しく輝く星空を指差した。
「あそこに俺達の旗を飾る。どうだ、面白そうだろ?」
言われた黒ウサギは満面の笑顔を浮かべる。
「それは…とってもロマンがございます」
「だろ?」
「はい♪」
♦
「なんか普通に飯食ってるだけなのに、完全に最後空気だったな俺…。絶対読者も『あ、そういえばいたんだ?』って言ってるよ、これ」
本日も、“ステルスヒッキ―”は絶好調。
最後にヒッキ―のこと忘れてた人、感想に『あ、八幡いたんだ?』的なコメント待ってます。
そりゃ、彼がみんなとわいわい会食やってるのって、あまりイメージに合わない気がしますし?本人いわく『陰で飯食ってるくらいしかやることない』ですね。
次回からはしばらく番外編オリジナルストーリーです。
次回は八幡の大好きなあるものを探しに行くお話です。