ぼっちが異世界から来るそうですよ?   作:おおもり

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 前々から思っていましたが、なぜこうも自分は戦闘描写が苦手なのだろう。


地獄にて、彼ら彼女らは試される。

『ギフトゲーム名“オニ退治"

 

 プレイヤー一覧

 比企谷八幡

 イラ・ルプス

 アシディア・オルソ

 ハーブギーリヒ・フックス

 久地縄(くちなわ)(りん)

 アロガン・リオン

 ルスト・ラミア

 ホッグ・グラットニー

 

 ホストマスター側

 司命

 司録

 水官

 鉄官

 鮮官

 土官

 天官

 

 ホストマスター側勝利条件

 全プレイヤーの死亡。

 プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 プレイヤー側勝利条件

 オニが七人打倒されること。

 

 備考

 罪を背負う覚悟のある者だけが生き残る。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 “十王 閻魔王”印

                                          』

 

 八幡は“契約書類”を読んだ後、自分の首輪、“リセイノケモノ”の意匠を少しだけ回した。

 それは、カチリと小さな音を立てるだけだったが、今はそれで十分だった。

 そして、八幡は周りの男女――――味方となる彼らを見た。

 一人目のイラ・ルプスは、恐らく自分より1つ2つ年上に見える茶髪の少女だった。

 ほりの深い顔に不機嫌そうな表情を隠すことなく浮かべていた。

 二人目のアシディア・オルソは、中性的で男女の判断は難しいが、明らかに自分より2,3歳ほど年下に見える人物だった。

 三人目のハーブギーリヒ・フックスは、アシディアとは対照的に175㎝の自分よりも明らかに高身長で筋肉質の男だった。年齢も恐らく、二十歳をゆうに超えているだろう。

 四人目の久地縄悋は、黒髪でこの中では、八幡と同い年かつ々日本人と思われる少女だった。

 五人目のアロガン・リオンは、不遜な態度で腕を組み、周りを見下したような目で見ている男だった。

 六人目のルスト・ラミアは、シスターのような恰好をした八幡よりやや慎重は低めだが、恐らく年上と思われる女性で、人間らしからぬ妖艶な雰囲気があった。

 七人目のホッグ・グラットニーは、何かの果実をムシャムシャ食べている高身長の女性だった。

 

(思いの外濃い面子だな。ていうか、言葉通じるのか?)

 

 いくつか懸念事項のあった八幡は、司録の方を向く。

 すると、司録も自分の仲間に何事か伝え、八幡のところに歩いてくる。

 

「申し訳ありません、比企谷八幡さん。我々としましても、仕事に支障が出るのは避けたいので、ルールの細分化を行いたいのですが」

 

「……ルールの細分化?」

 

「はい。こちらとしましては、ハンデとして『プレイヤー側二人、ホストマスター側一人の二対一の形式による代表戦』と『代表者の戦闘中に非戦闘中の敵プレイヤーを攻撃してはならない』というルールです」

 

 八幡は少し考える素振りを見せる。

 相手側の申し出はもちろん八幡としてもありがたい。しかし、それによってこちらに何らかのデメリットを与えようとしている可能性もある。

 

「……ちなみに、『代表者の戦闘中に非戦闘中の敵プレイヤーを攻撃してはならない』っていうのは、攻撃した時点ですか、攻撃の意志を持った時点ですか?」

 

「そうですね……では、『攻撃の意志、あるいは意図を持って攻撃した場合』にしましょう。事故で何かあっても困りますし」

 

「……じゃあ、その旨を他のメンバーに伝えて相談してきてもいいですか? 全然知りませんし」

 

「構いませんよ。ですが、出来るだけ手短にお願いいたします」

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

(……どうしてこうなった)

 

 八幡は、そう呟きたい気分だった。

 運よく言葉は通じた。しかし、自分のチームから出た条件が、八幡にとって最悪の条件だった。

 

『全七戦すべてに比企谷八幡は出場しなければならない』

 

「……完全に敵扱いなんですけど……」

 

 大方、先ほどまでの向こうとのやり取りで、敵との内通を疑われているのだろう。

 

「それでは、八幡さん。これで確定とさせていただきます」

 

 司録は羽ペンを取出し、“契約書類”に何事かを書き込んだ。

 

「それは?」

 

 ハチマンが羽ペンを指さす。

 

「これは私のギフトで、“制限契約(リミテッド・ギアス)”というものです。相手の同意などの特定条件の本、新たなギフトゲームやルール追加を行うことができるギフトです」

 

 そう言ってる間に、ルールの追加が終わる。

 

『追加事項

 

・ホストマスター側とプレイヤー側の勝負は全七戦。ホストマスター側一人、プレイヤー側二人の代表戦によるものとする。

 

・比企谷八幡は七戦すべてに参加しなければならない。

 

・必ず、一人一回は参加するものとする。

 

・戦闘参加中の両陣営のプレイヤーは非戦闘中のプレイヤーに、敵意ある攻撃を行うことを禁じる。また、逆の場合も同様である。

                                           』

 

 八幡が読み終わり顔を上げた時、司録は全員に宣言するように言った。

 

「それでは、第一戦に出るものは前へ、それ以外の者は離れて観戦しましょう。判定は“契約書類”を通して箱庭の中枢に下していただきます」

 こうして、地獄のギフトゲームの第一戦が始まった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 イラ――イラ・ルプスは、当初比企谷八幡を疑いの眼差しで見ていた。

 七人だけだと思っていたら、いきなり追加された異分子。しかも、敵と当たり前のように会話する彼に、彼女は疑念を抱かずにはいられなかった。

 それは、他の六人も同様だったようで、比企谷八幡の全試合出場は満場一致で可決された。

 イラは、八幡と共に前に出る。しかし、八幡に任せる気はなかった。どころか、隙あらば八幡を殺してしまおうとすら思っていた。

 しかし――

 

『勝者 比企谷八幡 イラ・ルプス』

 

 いつの間にか勝利していた。

 そう形容するしかないほど、圧倒的な勝利だった。

 敵側で出てきたのは、筋骨隆々のたくましい鉄官という赤鬼だった。

 その鬼は、武器らしい武器は何一つ持っていなかった。

 どうやら、力が自慢らしいその鬼が、腕を振り上げ、八幡を押しつぶさんばかりの勢いで拳を振り下ろした。

 しかし、八幡は顔色一つ変えず、鬼が自分に向けて振るった拳を止め、逆に自身の拳でもって鬼を一撃のもとに捻じ伏せた。

 これには、両陣営ポカンとするしかなかった。

 周りのその様子に、八幡は戸惑いながらも口を開く。

 

「えっと、これでいいんだよな?」

 

 八幡のその問いに答えたのは、答えたのは、ハーブギリヒというドイツ人らしき男だった。

 

「あ……ああ! よくやったぜ!」

 

 一体何がよくやったのかわからないが、八幡はイラに戻るように促す。

 イラは、この比企谷八幡という少年にどう反応したものか、一瞬考えあぐねたが、結局まだ信用すべきでないと判断した。

 故に、八幡を睨みつけていった。

 

「図に乗るなよ。私はお前を信用しない」

 

「……そうですか」

 

「……くっ、貴様ぁ!」

 

 さも、興味のなさそうに答える八幡に怒りをあらわにしようとすると、その肩を二人の人間に掴まれる。

 

「ダメですよ。こんなところで仲間割れしちゃ」

 

「そうだぜ。こんな面白そうなやつ、殺しちまったらもったいないぜ」

 

 止めたのは、穏やかに微笑むルストと楽しそうに笑うハーブギーリヒだった。

 そして、ハーブギリヒは八幡に笑みを向けた。

 

「なあ、八幡。次は俺と出ようぜ」

 

「あ、まあ、いいですけど……」

 

「敬語なんか使うなよ、水臭えな」

 

 急に友好的になったハーブギリヒを訝しむような顔をする八幡を気にした様子もなく、ハーブギリヒは八幡を伴って前へ出る。

 

「で、次はどいつだ?」

 

 ハーブギリヒが挑発するように言うと、黄鬼が前に出てくる。

 しかし、その鬼は他の鬼たちに比べ、頭一つ分ほど小さい。

 

「おいおい、てめえみたいなチビ鬼が相手かよ」

 

「ハッ! 言ってろクソガキ。すぐにほえ面かかせてやる」

 

 そうやって言い合う二人の様子を、八幡はただ黙って見ていた。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

『第二戦 土官 対 比企谷八幡 ハーブギリヒ・フックス』

 

「なっ!?」

 

 勝負が始まった瞬間、鬼の姿が消えた。

 

「くそっ! あの小僧、いきなり消えるとか卑怯だろ!」

 

 叫ぶハーブギリヒに、八幡は何を焦っているのかわからない、といった様子で尋ねる。

 

「どうかしたのか?」

 

「どうしたもこうしたも、俺の能力は相手が見えないと意味がないんだよ」

 

(なるほど……。相手を視認することがこいつのギフトの発動条件か)

 

 しかし、相手が見えなくても、八幡には相手の能力が大体掴めていた。

 

「たぶん、幻惑や幻術の系統の鬼だな。騙す能力に特化してるんだろ」

 

 いいながら、八幡は“プリック・ヘッドホン”と“ディスタント・ゴーグル”をハーブギリヒに渡す。

 

「それ使えば大体の場所はわかるはずだから、しばらく敵を動かしてくれ」

 

 八幡の指示に、ハーブギリヒは一瞬のよくわからないといった顔をしたが、すぐにその顔に笑みを浮かべる。

 

「おまえが言うなら信じてやるよ(・・・・・・)!」

 

「…………」

 

 八幡はハーブギリヒの言葉に返答はしなかったものの、その瞳には複雑な色が揺れていた。

 ハーブギリヒはそれに気づくことなく、ヘッドホンとゴーグルを装着する。

 すると、先ほどまでわからなかったのが嘘のように、敵の行動が手に取るようにわかる。

 “プリック・ヘッドホン”と“ディスタント・ゴーグル”の能力。それは、耳と目それぞれの感覚の強化とその感覚への妨害の無効化だった。

 当然、そのギフトを使っているハーブギリヒには、敵の行動がまるわかりだった。

 

「はっ! こりゃいいや。そこだ!」

 

「くっ……!?」

 

 敵は大して身体能力の高くない鬼らしく、ハーブギリヒの攻撃を躱している間、八幡に構っている余裕はないらしい。

 八幡はその間に、両手にはめている“セトル・ストリングス”の糸を伸ばす。

 糸は無数に伸び、八幡もこれで十分かというところで糸を伸ばすのをやめる。

 そして、糸を引っ張る。

 その瞬間――

 

「あ?」

 

 ハーブギリヒと戦っていた鬼が現れ、その体から血が吹き出していた。

 伸ばしていた糸がカミソリの様に鬼の体を切ったからだ。

 鬼は急激な出血多量のショックでその場に倒れる。

 

『勝者 比企谷八幡 ハーブギリヒ・フックス』

 

「うしっ! やったな!」

 

 嬉しそうに、ハーブギリヒは八幡に向けて手を挙げて見せる。

 

「……ん、何?」

 

「何って、ほら、お前も手ぇ挙げろよ」

 

 言われたとおり、八幡も手を挙げる。

 すると、その手をハーブギリヒは叩き、ハイタッチをする。

 

「この調子で頼むぜ」

 

「……ああ」

 

 心底楽しそうに笑っているハーブギリヒとは対照的に、その顔に何の感情も出すことなく、八幡は司録達の方を見る。

 

「……それで、次は誰だ?」

 

 訊くと、青鬼が出てくる。

 

「……次は青鬼か。こっちのは……」

 

 八幡自陣側に目を向けると、ホッグが出てくる。

 ホッグは未だ、どこからか取り出しているのか、どこからともなく何かを出現させては口に運んでいた。

 

「……何食ってるんだ?」

 

「柘榴だ」

 

「……あ、そう」

 

 生臭い匂いのする無花果の果実を食べながら、ホッグは八幡の後ろについてくる。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

『第三戦 水官 対 比企谷八幡 ホッグ・グラットニー』

 

 戦闘が始まった瞬間、鬼は口から濃紫色の霧を吐く。

 

「……ぐっ……今度は邪鬼の毒霧かよ」

 

 邪鬼――病をばら撒く疫病の鬼で、毘沙門天に退治された鬼である。

 八幡はできるだけ霧を吸い込まないようにしながら、腕にはめてある“バグ・サルタスション”を確認する。

 

(ちゃんと、機能している。なら、大丈夫か)

 

 “バグ・サルタスション”の能力。

 それは、有体に行ってしまえば“生命の目録(ゲノム・ツリー)”の劣化版だった。

 一つは、より原始に近い生物――微生物、魚類、昆虫類、両生類、爬虫類などの能力を自身が使用できるようにする能力。

 二つ目は、あらゆる劣悪な環境に、使用者の体を強制的に(・・・・)の適応させる能力。

 このギフトが“生命の目録”より優れている点といえば、ある程度は知識で保管できるという点である。

 ただし、実際のサンプルのあるなしでは、性能にかなり差は出てしまう。

 とりあえず、今はそれを置いておいて、強制環境適応能力により、比企谷八幡の体は相手の毒霧をものともしていなかった。

 つまり、この鬼は八幡の相手にまるでならないのだ。

 

『勝者 比企谷八幡 ホッグ・グラットニー』

 

「すっげーな、八幡!」

 

 自陣側に戻ると、ハーブギリヒが飛びついてきて、八幡の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 八幡がそれを鬱陶しそうにしていると、ルストもよってきて笑いかける。

 

「意外に強いんですね」

 

「……別に」

 

 興味なさそうに言う八幡に、ルストは苦笑する。

 

「別に謙遜しなくてもいいのに」

 

「……そういうわけじゃない」

 

 本当になんとも思っていないかのように八幡が言うと、アロガンがつかつかと八幡に近づく。

 

「言っておくが、俺も貴様を認めていないぞ。貴様がいかに強くともだ」

 

「ああ、そうですか。別にいいです」

 

「ハッ! そう言っていられるのも今のうちだ。次は、俺が行く」

 

 言うと、アロガンはさっさと前に出ていった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

『第四戦 鮮官 対 比企谷八幡 アロガン・リオン

 

「おい、鬼。俺は比企谷八幡の助けなんぞいらん。とっととかかってこい」

 

「いいだろう。ならば、自分自身に殺されて死ね!」

 

 途端に、鬼が霞の様になって、アロガンに向かう。

 その様子に、八幡は呆れたように呟く。

 

「……邪鬼の次は人間に憑りつく縊鬼(いき)。よくもまあ、これだけ鬼のパターンが揃ってるもんだな」

 

 縊鬼――人に憑りつき、自殺させる悪鬼である。

 

『俺に憑り殺されて死ねえええええ!」

 

 アロガンに縊鬼が迫る。しかし――

 

「やめろ。『動くな』」

 

『ッ!?』

 

 アロガンが言った途端、縊鬼はまるで動きを封じられたかのようになる。

 

「……ああ、なるほど」

 

(久遠とは別系統の命令のギフトか)

 

 ウィラとの修行で、見るだけでもある程度感じられるようになった二人の霊格から察するに、霊格をある程度無視して命令ができるらしい。

 

「『元に戻れ』」

 

 アロガンが命令すると、鬼は霞のような靄から、鬼に姿を戻す。

 

「そのまま、『絶対に動くなよ』」

 

 アロガンはそう言うと、鬼を地面に引き摺り倒し馬乗りになった。

 そして、鬼に向けて拳を振り下ろす。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も殴り続ける。

 それも、ただ殴るのではなく、顔のどの部分を殴るのかを、ある程度変化をつけて、相手の反応を試しながらだ。

 

「おい、どうした鬼。まさか、この程度とは言わんのだろ? せっかく手加減をしてやっているのだ。早く反撃をするがいい。あれだけのことを言ったのだ。まだ、何かあるのだろう?」

 

 言いながら、その顔に狂喜の色を浮かべ、アロガンはただひたすら、相手が気絶しないように細心の注意を払いながら、ダメージだけを与えていた。

 

「……仕方ない」

 

 八幡は、軽く助走をつけると、馬乗りになられている鬼の頭部を、思い切り蹴った。

 当然、鬼は首がゴキリと嫌な音を立てて気絶した。

 

『勝者 比企谷八幡 アロガン・リオン』

 

「なぜ、あんな余計なことをした?」

 

 敵からも味方であるアロガンからも剣呑な視線を受けながら、八幡は彼の質問に平然と答える。

 

「……あんなの、時間の無駄だろ」

 

「時間の無駄だと? 俺の楽しみを邪魔するな」

 

「……知らねえよ」

 

 そっけなく言ったその言葉に、アロガンの怒気が高まる。

 しかし、二人の間のルストが入る。

 

「はいはい、そこまでにしましょう。比企谷さんは、まだこの後もあるんですから」

 

「おまえが俺に指図するな」

 

「いえいえ、そんなつもりはありませんよ。ですが、ここで彼がいなくなったら、私たちはこの試練(ゲーム)をクリアすることもできなくなりますよ」

 

「チッ!」

 

 舌打ちをし、アロガンは自陣側に戻って行った。

 八幡はそれを無視し、ルストを見る。

 

「……次は貴女ですか?」

 

「いえ、私は次にしようかしら。それよりも、この子をお願いします」

 

 そう言ってルストが前に出したのは、アシディアだった。

 ただ、この少女。

 

「……すぅ」

 

 最初の時点から、ほとんどずっと眠っていた。

 

「……これ、出してもいいのか?」

 

「大丈夫だと思うわよ。たぶん」

 

「……まぁ、いい」

 

 八幡はアシディアを背負うと、前へ出る。

 敵側は、次の鬼――天官が出てくる。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

『第五戦 天官 対 比企谷八幡 アシディア・オルソ』

 

(……とりあえず、下ろすか)

 

 アシディアを下ろした八幡は、鬼の方を見る。

 

「なんで攻撃しないんだ?」

 

「当然だ。鬼とはいえ、腐っても地獄の獄卒だ。罪人相手でも卑怯な真似はしない」

 

(……これはまた、随分といい奴が来たな)

 

 何の鬼か分析しようと、鬼を見るも、どうにも今までの鬼と違う気がする。

 

「来ないならば、こちらから行くぞ」

 

 鬼が言った瞬間、八幡は信じられないものを見た。

 

「……え?」

 

 自分の腕が片方、いつの間にか千切れていた。いや、正確には、いつの間にか鬼によって、千切られていた(・・・・・・・)

 

「……痛ッ」

 

「ふむ。最初からずっと涼しい顔をしていたからな。よもや、感覚がないのかと思ったが、そうでもないらしい」

 

「……そんな理由で千切るな」

 

 八幡は傷口を見る。傷口には、火の属性の“再生”の炎が揺らめいているが、治癒能力を上げるものである以上、完全再生は見込めない。

 

(……なら、アレを使うしかないか)

 

 八幡は、ギフトカードからあるモノを取り出した。

 それは、木彫りの腕だった。

 それを見た鬼は怪訝そうな顔をする。

 

「……そんなものを何に使う気だ?」

 

「ん? そんなのこうするにきまってるだろ」

 

「……ッ!?」

 

 鬼は、目の前の現象に驚愕して声を失っていた。

 なぜなら、八幡が傷口にあてた木彫りの腕が、そのまま八幡の腕に変わったからだ。

 

「……なんだそれは?」

 

「……“テセウスの船”って知ってるか?」

 

「『ある物体の全ての構成要素が置き換えられたとき、それは基本的に同一と言えるのかどうか』というパラドックスだったか?」

 

「……そう。そして、俺の持つ“テセウスの船”は、『おじいさんの古い斧』同様に、『いくら部品が変わろうとも同一である』という理論の側だ。それに則ったこのギフトの能力は、『自身が“欠損した部品と同一である”と認識したものを欠損部分の代替品として置き換える』っていう能力だ」

 

「つまり、“欠損補充”のギフトというわけか」

 

 だが、と鬼は考える。

 

(自身が欠損部位と同一と見做さなければならないということは、それだけ補充部品が精巧である必要があるという事。ならば、数もそうはないだろう)

 

「とすれば、予備がなくなるまで千切ればいいだけのことだ」

 

 先ほどと同じように、一瞬で腕を引き千切ろうと、踏み出した瞬間――

 

「な……に?」

 

 鬼の腕が落ちていた。いや、正確には、何らかの鋭利な刃物によるものなのか、綺麗に切断されていた。

 

「……土官の時に使っていた糸か?」

 

「……ああ。どれだけ鋭い武器を持っていても、それを使う部分さえなくせばいいだけだからな」

 

 鬼は、ため息を吐いて苦笑する。

 

「なるほど。これでは満足に戦えんな。降参だ」

 

『勝者 比企谷八幡 アシディア・オルソ』

 

「お疲れ様」

 

 八幡が再びアシディアを負ぶって自陣側に戻ると、ルストが笑顔で迎えてくれる。

 

「どうも。これ、頼んでもいいか?」

 

「そうしてあげたいんですけれど、たぶん私は次出た方がいいでしょうから」

 

「次……。そういえば、もう一人は?」

 

「あそこよ」

 

 ルストが指さした方を見ると、そこには皆よりやや離れた位置に悋がいた。

 

「あの子、まだあなた……というか、みんなを信用しきってないっていうか、少し嫌悪してる節があるみたいだから」

 

「……そうですか」

 

 本人が出たくないというなら、無理強いすることもないだろう。

 八幡は、ハーブギリヒの方を向く。

 

「……悪いけど、頼んでもいいか?」

 

「おう、いいぜ。とっとと、六勝目決めてこい」

 

「……はいはい」

 

 ハーブギリヒに適当に返し、八幡はルストを伴って前へ出る。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

『第六戦 司命 対 比企谷八幡 ルスト・ラミア』

 

「……は?」

 

「……え?」

 

 戦闘が始まった瞬間、八幡とルストは体から血を吹き出し倒れた。

 対して、司命の方は不思議そうな顔をする。

 

「おや? これぐらいなら避けられると思ったのですが……」

 

「……こんなの避けられるわけねえだろ」

 

 八幡が言うと、司命はふっと笑い、八幡にだけ聞こえるように言った。

 

「まさか、私が気づいていないとでも? あなたのそれぞれの相手に対する適切過ぎる対応……どこで手に入れたかは知りませんが、“予知のギフト”を持っているようですね」

 

「……“予知”ねぇ」

 

「“未来視”の方がよかったですか? どちらにせよ、そう言う厄介なギフトは使えないようにさせていただきます」

 

 司命が手を薙いだ瞬間、八幡の両目を見えない刃が切り裂いた。

 

「……がっ!?」

 

「これで、もう見えないでしょう。それに、目なら先ほどの様に治そうとすれば、一度眼球を取り出す必要があります。そうなれば、代替できない視神経を傷つけることになるので、そう簡単に直せないでしょう?」

 

 司命の言う通り、八幡の両目は見えない上に、治せなくなってしまった。

 しかし、八幡は司命の言うような、『目が見えなくなること』や『ギフトが使えないこと』を心配してはいなかった。

 

(痛みでショック死しなかっただけ、まだマシか(・・・・・)

 

 さらに言えば、司命が“予知・未来視のギフト”と推測した八幡のギフト“デッドエンド・アイ”は、そんな生易しい(・・・・)ギフトではない。

 しかし、それを知らない司命はとどめを刺そうと八幡に近づいた。

 

(さて、どうとどめを刺すか。念のためある程度距離を保つか、直接とどめを刺すか)

 

 司命はどうとどめを刺すか、それを想定した時に八幡が何をするかを考える。

 その時、司命の予想もしていなかったことが起きた。

 

「な……に……?」

 

「……残念だったな」

 

 倒れている八幡の目の前にいる司命の背後から、数人の八幡(・・・・・)が司命を襲撃していたのだ。

 司命はそのまま、倒れる。

 

「何故……何故他にいる?」

 

 司命が疑問を口にした時、背後から襲ってきた八幡たちの姿がすうっと消える。

 

(“シュレディンガー”。なんとかうまくいったみたいだな。)

 

 “シュレディンガー”――理論物理学者エルヴィン・シュレディンガーによって提唱された量子力学の基本である「コペンハーゲン解釈」への批判で、有体に行ってしまえば、『その理論が正しいと「死」と「生」すら複数の状態として成り立っちゃうんだけど、いくらなんでもメチャクチャじゃない?』というようなものなのだ。

 そして、このギフトは、それを“人間の可能性”に当てはめたのだ。

 このギフトは、『人間の可能性が無限だというなら、人間は無限の状態が重なっている』として、『相手が想定している可能性に対して、本体も含めたギフト使用者をそれぞれの総定数に合わせて増加させる』というギフトとして確立させたのだ。

 ただし、それゆえに、このギフトは増加した自分が『最終的にすべて別の行動をとらなければならない』、『増加した自分が負った傷は最終的にすべて本体に“結果”として収束される』、『増加したうちのどれか一人でも自分が“死亡”した場合、それを本体として“結果”が収束する』、『増加数に合わせて元々持っていたギフト以外はそれぞれに分配されてしまう』と、致命的な欠点を多く抱えている上、使用条件として『相手の想定を全て使用者が読んでいなければならない』という過酷な条件があるため、多用ができないのである。

 

「……とりあえず、この勝負は引き分けってことでいいのか?」

 

「ええ。私もそちらも動けませんし、それが落としどころでしょう」

 

 お互いに倒れたままの八幡と司命が相談していると、八幡の方に怪我をしているためか、かなりゆっくりとルストが近づいた。

 

「比企谷さん。まだ、決めるのは早いですよ?」

 

 ルストは目の見えない八幡を抱くように持ち上げる。

 

「……何する気だ?」

 

「こうする気です」

 

 そう言って、ルストは八幡の唇に自分の唇を合わせた。

 

「ちゅ、んちゅ、ぢゅ、ちゅ、んぷぁ」

 

 舐めるように、嘗めるように、舐るように、味わうようにルストは情熱的に八幡にキスをした。

 対する八幡は、何をするでもなくされるがままになっていた。

 その間に、ルストの行為は止まらず、口づけする箇所が首筋、耳、頬、額とどんどん増えていく。

 ルストが八幡の服に手を掛けたところで、八幡はルストの腕を掴む。

 

「……これが貴女のギフトですか?」

 

「さぁ、どうかしら。それよりも、続き、しません?」

 

「……お断りします」

 

「あら、残念」

 

 妖艶に笑うルストは八幡から体を離す。

 すると、いつの間にか八幡とルストの怪我が全快していた。

 その様子を見た司命がため息を吐く。

 

「はぁ……。どうやら、私の負けのようですね」

 

『勝者 比企谷八幡 ルスト・ラミア』

 

 自陣側に戻ると、ハーブギリヒが満面の笑みで迎える。

 

「すげえな八幡! さっきの増えるやつとか、驚いちまったぜ!」

 

 興奮したように言うハーブギリヒは、すぐににやりと笑う。

 

「で、どうだったよ。あんなに熱烈なキスをした感想は?」

 

「……別に、そういう意味のじゃないだろ。アレは」

 

「おうおう、余裕のあるやつは言う事が違うな」

 

 にやけた顔で言うハーブギリヒを放って、八幡は悋に近づく。

 

「……次、出られます?」

 

「……ん」

 

 久地縄悋は言葉少なに頷くと、立ち上がって前に出た。

 八幡もそれについていくと、すでに司録が出てきていた。

 

「……どうも」

 

「ええ、どうも。一応、こちらの面子もありますので、私一人ぐらいは勝たせていただきます」

 

 爽やかな笑顔で言ってはいるが、瞳の奥が全く笑っていない。明らかに本気で勝ちに来る目だった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

『最終戦 司録 対 比企谷八幡 久地縄悋』

 

「……がっ!?」

 

「……なに?」

 

 八幡と悋を手に握った金棒で殴ろうとしていた司録は、目の前の状況に困惑していた。

 なぜなら、開始早々に悋が味方であるはずの八幡を刺したからだ。

 悋はそのまま八幡を引き倒すと、そのまま馬乗りになり、八幡何度も刃物を突き立てる。

 

「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい何でそんなにすごいのたくさん持ってるの? 私には何にもないのに。何であんたみたいな目の腐った奴がそんなすごいの持ってるの。ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい私も欲しいのにそういうすごいのねえ、そんなにあるなら私にもちょうだいよいいじゃない、それだけたくさんあればいらないのだってあるでしょ? ねえ、なんで何も言わないの? ダメなの? ねえ? ねえ? ねえ? ねえ? ねえ? ねえ? ねえってば!」

 

 一言一言言うたびに、悋は八幡に刃物を突き立てていく。

 

「ねえ、死んじゃったの? だったら、もらってもいいよね? ね? ね? ね?」

 

 先ほどの様子から一転して、満面の笑みで言う悋に、八幡は、ギフトカードからあるモノを取り出して悋に差し出す。

 

「何これ? ……弾丸?」

 

 八幡が取り出したのは、七つの銀の弾丸だった。

 

「くれるの?」

 

「……ああ、やる」

 

「ホント? やったー!」

 

 打って変わって、無邪気に喜ぶ悋を尻目に、体の傷が回復するまで待ってから、ふらふらと立ち上がる。

 そんな八幡を、司録は少し気遣うように言う。

 

「……降参しないんですか?」

 

「……しない」

 

「…………そうですか」

 

 比企谷八幡は治したとは、度重なる連戦の疲労と出血ですでにフラフラ。悋はこちらを意識してすらいない。

 戦況は、司録が圧倒的に有利だった。

 司録は、握った金棒に改めて力を込める。

 そして、思い切り目の前の八幡に向けて振り下ろした。

 

 

 

 

 

 ズパン

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 司録が金棒を振り下ろした瞬間、戦いを観戦していた司命たちホストマスター側の六人の首が飛んだ。

 司録は金棒を見る。そこには、八幡のギフト“セトル・ストリングス”の糸が巻き付いていた。それによって、司録は何が起きたかを悟る。

 

「貴方……まさか、今までの試合で彼らに糸を……」

 

「……正解だ。最初の戦いのときから、戦闘の度におまえのところのやつの一人一人の首にバレない程度に巻きつけておいたんだよ」

 

「……いや、でも、そんなことできないでしょう? 最初に決めたルールをお忘れですか? 『戦闘参加中の両陣営のプレイヤーは非戦闘中のプレイヤーに、敵意ある攻撃を行うことを禁じる。また、逆の場合も同様である。』という追加ルールを。これは私と貴方が決めたことでしょう」

 

「だからこそだ。このルールの穴は、『敵意がなければいくらでも仕掛けられること』と『味方にいくら攻撃しようとルールに抵触しないこと』なんだよ」

 

「……ッ!? そうか、だから、それぞれの戦闘中に……」

 

 戦闘中の攻撃ならば、そもそも勝負内でのこと。そして、後は最低限の注意さえしておけば、いちいち敵意など向けなくても司録という敵が自分で味方を殺してくれる。

 つまり……

 

「仲間を殺したのは……」

 

「……そう。あいつらを殺したのはお前だ。お前が殺した。俺はただ仕掛けただけだ。だから」

 

 そこで八幡は言葉を切ると、司録の目の前まで歩き、彼の顔を覗き込むように言った。

 

「……悪いのは全部お前だ」

 

「え? あ? え? え? 私は……私は……あ……う……あ……うぁ……うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 否定するための言葉はあるはずなのに、頭に何も浮かんでこない。

 浮かんでくるのは、途方もない罪悪感だけだった。

 涙があふれ、自身の手で喉元を貫いてしまいたい衝動に襲われる。

 しかし、それには至らなかった。

 

「……え?」

 

「貴方、うるさい。今、私すごく気分がいいんだから黙っててよ」

 

 悋の不機嫌そうな声を最後に、司録は自分が彼女に殺されたことを理解した。彼の意識はそのまま暗闇に沈んで、二度と戻ることはなかった。

 

『勝者 比企谷八幡 久地縄悋』

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

「ああ、えっと、お疲れ様?」

 

 戻った二人を、やや引きつった笑みでルストが迎えた。

 対して、ハーブギリヒは気にした風もなく八幡の肩を叩く。

 

「お疲れ、八幡! 祝杯やろうぜ祝杯!」

 

 その提案にアロガンも彼にしては珍しく乗ってくる。

 

「ほう。お前にしては中々いい意見じゃないか」

 

 終始、柘榴を食べているホッグはあまり関心がなさそうに言う。

 

「……食えればなんでもいい」

 

 その中で、いつの間に起きたのか、アシディアがぽつりと言う。

 

「そもそも、誰か食べ物持ってるの?」

 

 そこで、全員の目がホッグに向く。

 ホッグもそれに気づいたのか、柘榴を見る。

 

「……おまえら、柘榴だけで祝杯になるのか?」

 

「……まぁ、祝杯にそれはないな」

 

 ホッグの最もな意見に、イラも同意する。

 ルストは、あからさまに困ったような顔をする。

 

「あらあら、困ったわね。どうします、比企谷さん? ……あら、何してるんです?」

 

 全員がルストにつられて八幡を見ると、八幡はギフトカードから八本の筒型の容器を取り出して、それぞれに一本ずつ放り投げる。

 

「あの……これは?」

 

「……俺の自作したマッカン風コーヒー。乾杯ぐらいはできるだろ?」

 

「なるほど。それでは、音頭をお願いしますね」

 

 ここで変に抵抗しても意味のないことはわかりきっているので、八幡は珍しく素直に容器を掲げる。

 

「乾杯」

 

「「「「「「「乾杯ッ!」」」」」」」

 

 ちなみに、八幡の自作したMAXコーヒーの甘さは彼らにはあまり好評ではなかった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

「にしても、俺たち勝ったんだよな?」

 

 ハーブギリヒの言葉に、ルストが答える。

 

「そうだと思いますよ。私達全勝したわけですし」

 

「で、ここからどうすればいいんだ?」

 

「ルール上は勝っているはずですし、そのうちお呼びがかかるでしょう」

 

「……それはないぞ」

 

 八幡が静かに言った言葉に、全員が彼の方を向く。

 

「どういう意味ですか?」

 

「……どういう意味も何も、まだゲームは終わってないだろ?」

 

 八幡が言った瞬間、八幡以外の七人が体から血を吹き出して倒れる。何度も八幡が見せた“セトル・ストリングス”を使った攻撃だ。

 

「……“オニ”は“鬼”じゃなくて“隠”――つまり、“人ならざる者”を指す。それが転じて、“人でなし”。だから、このゲームの本当の勝利条件は『自分以外のメンバーを倒す事』なんだよ」

 

 その言葉に答える者はいない。だから、八幡は、この場を去ろうとする。

 しかし、何かに服を掴まれた感触に振り返ろうとして、頬に与えられた衝撃と共に吹き飛ばされる。

 ボロボロの体で起き上がったイラに殴られたからだ。

 彼女は明確な殺意と怒りの形相で八幡を睨む。

 

「お前の言いたいことも、お前の言い分もよく分かった。その上で言う。お前はここで死ね」

 

「まぁ、待てよ」

 

 イラが八幡を殺そうとすると、それをハーブギリヒが止める。

 

「……ここまで来て邪魔するつもりか?」

 

 ハーブギリヒをも睨むイラに、彼は今までと違った真剣な眼差しで言う。

 

「まさか。でも、許せないのは、俺もお前も他の奴も同じだ。だから、全員で殺すぞ」

 

 彼の言葉に同調するように、他の五人もゆっくりと起き上がり、八幡を見る。

 そんな彼らから、八幡は一度目を逸らし、そして、再び彼らを見る。

 

「……結局、こうなるのか」

 

 八幡は首の“リセイノケモノ”の意匠を弄り、再度カチリと鳴らす。

 そして、彼は戦いに挑む。

 たとえ、この戦いの結末が“悲劇(バッドエンド)”で終わることがわかりきっていたとしても。




 書いてて思いましたけど、キャラ濃いなぁ……。
 ちなみに、今回ので何となく察してるとは思いますが、八幡のギフトはまだ明かしてないギフトも今回のギフトも含め、ほとんどがハイリスクハイリターン設計です。なので、八幡の基本的な戦闘スタイルは短期決戦or精神攻撃が主戦法になっています。
 さて、次回。
 仲間との戦いとなってしまった八幡。
 果たして勝機はあるのか、彼らのギフトは一体何なのか。
 次回、地獄編最終回(予定)。
 それでは、感想、評価、ヒロインアンケート、誤字訂正お待ちしております。

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