ぼっちが異世界から来るそうですよ?   作:おおもり

15 / 18
今回はいつもに比べてかなり短めです。
理由としましては、ぶっちゃけここで切らないと尻切れトンボになりそうだからです。


そして、比企谷八幡は試練に挑む。

 地獄 アリスの異空間

 

 

 

「危ねッ! これは死ぬだろ!」

 

「大丈夫……死なないようにやってる」

 

「くっ……!?」

 

 八幡を、ウィラの召喚する蒼炎が襲う。

 

(空中は……回りこまれる。却下だ。左右は……避けきれない。却下。前後も同じく。となると……)

 

 八幡は、その場で身を低くする。

 蒼炎が八幡の周りを焼いていくが、八幡の体にはそれほどダメージを与えていない。

 八幡は、自分のはめている手袋に繋がっている糸を確認する。

 

(この反応からして動いてはいないか。でも、すぐに来るはず……なら、まずは……)

 

「ゲーム確定、大富豪」

 

 そう呟くと、八幡は懐のトランプからカードを五枚引く。

 そして、その中から『8』のカードを炎に向ける。

 

「8切り!」

 

 叫んだ瞬間、蒼炎は切り裂かれ、消えてしまう。

 

「よしっ。次は……」

 

 八幡は左腕にはめた腕輪にイメージを送る。

 そして、息を吐くとウィラめがけて走り出す。

 

「……甘い」

 

 ウィラは、八幡の背後に瞬間移動する。しかし、

 

「……ッ!?」

 

 

 瞬間移動した先に彼の姿はなかった。

 当の八幡は、すでにウィラの側方に移動しており、“エレメンタル・ダガー”を振り抜いた。

 

「……ッ!? マジかよ……」

 

 だが、不意打ちの攻撃をウィラは冷静に受け流して対処し、八幡の姿勢を崩す。

 

「……えい」

 

 ウィラは、そのまま持っていたハンマーで八幡の頭を叩く。

 

「はい。これで八幡の4億5771万8567敗目」

 

「……全く勝てねえとか、ムリゲーにもほどがあるんですが」

 

「でも、今日は一時間も頑張った」

 

「……たった一時間の間違いでは?」

 

「最初に比べたら十分。それに、呑み込みも早い」

 

 正直、八幡はこのウィラという少女を嘗めていた。

 ウィラは、“北側最強”と渾名されるだけあって、圧倒的な実力を持っていた。

 最初の頃は、一秒すら持たず一瞬で負けていた。

 というのも、いくら攻撃が読めようと、瞬間移動のできる相手――それも、圧倒的実力者が相手では、碌に攻撃を躱すことができないのだ。

 しばらく経って、ようやく攻撃を躱せるようになったのも、ウィラとの修行で、八幡自身の霊格が高まったことで、いくつかのギフトが変質したことと、ギフトの一部の使い方を変えたからだ。

 八幡は、ギフトカードを見る。

 

『比企谷八幡

 

 “トリガーハッピー”

 “デプレッション”

 “ステルスヒッキ―”

 “デッドエンド・アイ”

 “エレメンタル・ダガー”

 “エレメンタル・アミュレット”

 “風精霊(シルフ)ウィン”(使用不可)

 “火精霊(サラマンダ―)ヒータ”(使用不可)

 “水精霊(ウンディーネ)エリア”(使用不可)

 “土精霊(ノーム)アウス”

 “ミラー・アリス”

 “災厄精霊フルーフ”

 “ルタバガ”

 “ジャンク・スケアクロウ”

 “マザーグース”

 “リドル・ナンバーズカード”

 “プリック・ヘッドホン”

 “ディスタント・ゴーグル”

 “A war on the board”

 “不如帰”(使用不可)

 “バグ・サルタスション”

 “セトル・ストリングス”▷

           “コーバート・ストリングス”

           “ブリストアー”

 “ジャイアントイーター”

 “シュレディンガー”

 “フラグ・フラッグス”

 “テセウスの船”

 “魔弾”

 “ギフト・バッグ”▶

 “リセイノケモノ”

 

                          』

 

「やっぱ、多いと使い所がなあ……」

 

「そこは、慣れるしかない」

 

「……慣れるですか」

 

 ウィラの言葉を繰り返しながら、八幡は無意識に首に付いた新しいギフトに触れる。

 新しいギフト――“リセイノケモノ”は、首輪のギフトだった。

 一本の丈夫な革製の首輪で、鈍く輝く銀の虎の意匠が付いていた。

 修行中に何度か使ったため、これがどういうギフトかも、大体わかっている。

 ただ、八幡自身このギフトは自発的には、使いたくなかった。これに慣れたらある意味終わりだ。いや、これに関して言えば、もう終わっているのかもしれない。

 

「いつも言ってるけど、八幡の強みはギフトの多さと心理戦の強さ。後者は貴方なりに伸ばすしかない。だから、今はすべてのギフトを同時に使いこなせなきゃいけない」

 

 この師匠は本当に簡単に言ってくれる。

 どうにも、彼女は人の才能を過信する傾向がある。

 

「でも、師匠の課題はムリゲーだと思うんですが……」

 

「それでも、これから箱庭で生き残っていくなら必要だし、何より……」

 

 そこで、ウィラは一度言葉を切り、八幡に言い聞かせるように言った。

 

「大切なものを守るために必要」

 

「うっす……」

 

 八幡はウィラの言葉に静かに頷いた。

 

「じゃあ、もうちょっと頑張ろうハチハチ」

 

「すみません、ハチハチはやめてください」

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

「はあ!? ウィラ姐が比企谷八幡を弟子にした!?」

 

 病室に、アーシャの声が響きわたる。

 そんな彼女をジャックが諌める。

 

「こら、アーシャ。ここは病室なのだから、弁えなさい。ですが、まさか、ウィラまで彼に興味を持つとは……」

 

(恐らく、私が売ったペンダントの反応に引き寄せられたのでしょうが……奇妙な縁もあったものですね)

 

 まさか、自分が認めた相手が、そのまま自分のコミュニティのリーダーの弟子になるとは思わなかったので、ジャックはおかしくて内心で苦笑する。

 

「それで、修行の経過はどうですか?」

 

 ジャックが訊くと、その人物たち――いや、精霊たちはそれにどこか愛おしげに触れながら、微笑む。

 

「はい。アウスが言うには、ウィラ様曰く『ハチハチは戦う度に色んな作戦を思いつくから、育てがいがある』だそうです」

 

 師匠も弟子も出来がいいのか、双方の関係は良好らしい。

 

「それで、八幡殿の体の様子は?」

 

「大丈夫です。私たちの全てにかけて、我らが主の肉体は守ります」

 

 エリアが力強く言うと、他の二人も頷く。

 死んだ八幡の肉体が腐らなかった原因は、いたって単純で、彼女たちが自身の持てる力をすべて使い、八幡の肉体を保たせていたからだった。

 

「ですが、貴方たちの霊力は大丈夫なのですか?」

 

 心配するジャックに、彼女たちは嬉しそうに笑う。

 

「ここ最近マスターの霊格が急激に成長しているおかげで、むしろ絶好調です。今なら、あと500年やれと言われても、余裕でできそうです!」

 

 よっぽど、主の成長と健在(?)が嬉しいらしく、自信たっぷりに言うエリアにジャックは苦笑する。

 

「ヤホホ! それは、とても将来が楽しみですね」

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

「あー、キツかったー!」

 

 鬼の責苦(今日のノルマ)を終えた八幡は、僅かばかりの休憩を満喫していた。

 いくらウィラたちに助けられたとはいえ、鬼が大勢で攻めてくると、さすがに厄介なので、八幡は修行の合間を縫って、定期的に鬼に殺されに行っていた。

 また、それも修行の一環として、ウィラからは課題を与えられていた。

 それは、殺されている間、相手を観察し続けるというものだった。

 相手が一体どんな性格でどんな殺し方をするのか。

 それをつぶさに観察するのだ。

 以前は、これに意味を見いだせなかったが、理由ができ始めると途端に楽に感じるから人間というのは単純だ。

 

「いや、そう単純なことでもないんだよね。これって」

 

 八幡が伸びをしているとアリスが呟く。

 

「どういう意味だ?」

 

「君はどうにも、自分を過小評価しすぎる気があるけど、これって十分に異常なんだよ」

 

「…………異常」

 

「そう、異常。だって、普通だったら、どんなに有益な意味があったって、文字通り永遠に等しい地獄の苦しみを耐えろなんて言われてやるわけないし、やったとしたって正気でいられるわけがない」

 

 八幡はアリスの言葉に何も言えない。

 彼女の言う通り、八幡が実行しているのは通常の人間ではなし得ない異業だからだ。

 

「比企谷八幡、君はもう箱庭世界(こっち側)の住人だ」

 

「………………」

 

 八幡は何も答えず、ただ“リセイノケモノ”に強く、引き千切れてしまいそうなほど掴んでいたのだった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 

 修行を始めて何年が経っただろうかという時、ようやく修行が一区切りついた。

 

「たぶん、これぐらいなら十分に戦える」

 

「あの、どうも、ありがとうございました」

 

 八幡が頭を下げてお礼を言うと、ウィラはその肩をポンッと叩く。

 

「修行が終わりなんて、いつ言った?」

 

「…………え?」

 

 まるで意味が分からないという顔をする八幡に、ウィラは何でもないことのように言う。

 

「単に時間がないからもう終わりってだけ。これで簡単に誰にでも勝てるほど、箱庭は甘くない」

 

「……なるほど」

 

 言われてみれば、納得できる話だった。

 修羅神仏の箱庭たる“箱庭世界”で、それこそただの人間が何年かかけたところで到達できるほど、彼らの経験も才能も甘くはないだろう。

 

「また、機会があったら鍛える」

 

「さいですか」

 

「強くなったら、ストーカーの撃退をさせる」

 

「俺は防犯グッズですか……」

 

 力強く言うウィラに八幡は微妙そうな顔をする。

 そんな八幡に、ウィラは首を横に振る。

 

「あのストーカーは普通のストーカーじゃない」

 

「いや、ストーカーの時点で普通じゃないと思うんですけど」

 

「あのストーカーは段違い」

 

「……そうですか。まあ、受けた恩ぐらいは返すんで、何か力になれることがあったら言ってください」

 

「うん。期待してる」

 

「……うっす」

 

 さすがに野暮だと思い、「されても、どうにもできません」とは言えなかった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

「閻魔様、大変です!脱獄者です!」

 

 獄卒が閻魔の元へと駆け込むと、閻魔は慌てた様子もなくその獄卒へと目を向ける。

 

「誰だ?」

 

「比企谷八幡です!」

 

 焦ったように言う獄卒に閻魔はにやりと笑う。

 

「ようやくか……」

 

「どうなさいますか?」

 

 冷静に尋ねる司録に閻魔は落ち着いた声で言う。

 

「何もしなくていい。したところで、並の者では相手にならんだろうからな。もし、ここに来たら、私の元に案内しろ」

 

「かしこまりました」

 

 司録は、閻魔に恭しく礼をすると、すぐに部屋を出ていった。しばらくして、司録に引き連れられた比企谷八幡がやってきた。

 

「……どういうつもりだ?」

 

 すんなり通されたことを怪しむ八幡に、閻魔は余裕をもって答える。

 

「お前の様子は司録から聞いている。お前が何者かの指導によって力をつけていることもな」

 

「知ってて放っておいたのかよ」

 

 ハチマンが怪訝そうな顔で尋ねると、閻魔はフンっと鼻を鳴らす。

 

「当然だ。たかが人間風情がそうやすやすとこの『閻魔王』を倒せると思っているのか?」

 

「はあ……。じゃあ、減刑の条件はあんたを倒す事か?」

 

「いや、違う」

 

「……どういうことだ?」

 

「私がお前に一つ試練を与えてやる」

 

「試練……ギフトゲームか?」

 

「そうだ。受けるか?」

 

 閻魔が訊くと、八幡は「はあ……」と、ため息を吐く。

 

「どうせ拒否権ないだろ……受ける」

 

「そうか。では、さらばだ」

 

「は?」

 

 閻魔の言葉に、八幡が間の抜けた声を出すと同時に、八幡の足元から床の感覚が消えた。

 

「……おいおい、マジかよ」

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 何年振りかの感覚を味わう暇もなく八幡は落ちていく。しかし、今回は前回ほど時間もかからず地面に到着する。

 

「っと、ここで何させるっていうんだよ」

 

 普通に着地した八幡は、周りを確認する。

 

「ん?」

 

 八幡が着地した場所にいたのは、七人の男女だった。見たところ、性別どころか年齢すらバラバラだった。

 とりあえず、何か言われるまで待つことにする。

 すると、見覚えのある鬼が後ろに獄卒と思われる鬼たちを引き連れて現れる。

 

「……確か、司録だったか?」

 

「はい。お久しぶりですね、比企谷八幡さん。今回のギフトゲームでは、私達がお相手させていただきます」

 

 八幡が「なるほど」と、納得すると、周りを見る。

 

「で、こいつらは?」

 

「貴方と同じで試練を受ける方々です」

 

「つまり、こいつらとギフトゲームに挑め、と?」

 

 八幡が訊くと、閻魔の声が響く。

 

「そういうことだ。それでは、これがお前たちに与えられる試練だ」

 

 全員の手元に契約書類が現れる。

 

『ギフトゲーム名“オニ退治"

 

 プレイヤー一覧

 比企谷八幡

 イラ・ルプス

 アシディア・オルソ

 ハーブギーリヒ・フックス

 久地縄(くちなわ)(りん)

 アロガン・リオン

 ルスト・ラミア

 ホッグ・グラットニー

 

 ホストマスター側

 司命

 司録

 水官

 鉄官

 鮮官

 土官

 天官

 

 ホストマスター側勝利条件

 全プレイヤーの死亡。

 プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 プレイヤー側勝利条件

 オニが七人打倒されること。

 

 備考

 罪を背負う覚悟のある者だけが生き残る。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 “十王 閻魔王”印

                                          』

 

 閻魔は、玻璃の鏡から八幡を含む八人を見やると、不遜に言う。

 

「さあ、罪人共よ。この試練を超えてみろ」

 

「…………そうかよ。そういうことかよ」

 

 八幡は誰にも聞こえない程度の声で短く呟き、首輪の意匠をカチリと鳴らした。




 え? 修行編といいつつ修行風景がない? 君たち主人公が延々師匠にボコられ続けるだけの描写がみたいの?
 さて、次回は新たな仲間と共にギフトゲームに挑みます。彼らは一体何者なのでしょうか。ちなみに、今回のギフトゲームはかなりエグイ内容となっております。
 ヒントは『鬼ではなく、オニ』です。
 そんな次回、比企谷八幡の新しいギフトの能力も公開です。
 一応、地獄編は残り2話ぐらいの予定です。
 次回も頑張って書こうと思います。
 それでは、感想、評価、ヒロインアンケート、誤字訂正お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。