ぼっちが異世界から来るそうですよ?   作:おおもり

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まず、すみません。
先日、『やはり超高校級の妹が希望ヶ峰学園に入学するのはまちがっている。』の方を更新すると書きましたが、こちらの方が思いのほか筆が乗ってしまいこちらが先になりました。
ようやく、2巻です。
今回は観光回です。


あら、魔王襲来のお知らせ?
やはり、比企谷八幡の北側観光はまちがっている。


「どうしたの? 行くわよ」

 

「あいよ」

 

 現在、八幡は北側の祭り“火龍誕生祭”に来ていた。

 しかし、今彼といるのは、妹の小町でも、同じコミュニティ“ノーネーム”の同士でもなく、今日初めて会ったばかりの幼女だった。

 

「八幡、次はあれが食べたいわ」

 

 そう言って、露店を指さす。

 

「お前…さっきから俺に奢らせすぎじゃね?」

 

「別にいいでしょ、これぐらい」

 

「よくねえよ。人の金だろ」

 

 そう言いつつ、八幡は露店に行き、何某かの焼き菓子を買う。

 

「これ、見たことないけどうまいのか?」

 

「ええ。食べてみる?」

 

 そう言って、八幡から焼き菓子を受け取った幼女は、その焼き菓子を手で割り八幡に差し出す。

 

「ん、サンキュ」

 

 女性に対して警戒心の強い八幡だが、“ノーネーム”に子供が多いことや妹がいるだけに、幼女に対してキョドるようなこともなく受け取り、口に入れる。

 

「お、うまい」

 

 どうやら、その焼き菓子はクッキーに近い生地にキャラメルのようなものをかけたものらしい。

 ややしつこいくらいの甘さが口に広がるが、甘党の八幡にはちょうどよかった。

 

「それで、これから行くのって、どこのコミュニティの店なんだ? やっぱり、“サラマンドラ”か?」

 

「いいえ。今回はこの祭りに作品を出品してるコミュニティが出店してるお店に行くの」

 

「有名なのか、そこ?」

 

「ええ、かなり有名よ。北川にブランドを持ってるらしいし、一番有名な作品は、『ジャック・オー・ランタン』らしいわ」

 

 幼女の言葉に、八幡は眉を顰める。

 

「『ジャック・オー・ランタン』って…あのハロウィンのか?」

 

「そう。コミュニティ“ウィル・オ・ウィスプ”。それが今から私たちの行くコミュニティの名前よ」

 

 そう言って先導する幼女の後ろを歩きながら、八幡は目の前の名も知らぬ幼女について考える。

 

(コイツ…かなり強そうだから、とりあえず逆らわないようにしてるが、恐らくアリスたちの上位種っぽい感じがするな。ホントに何者だ、この斑ロリ(・・・)

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 問題児たちのストーカー騒動(小町発案)から、一週間たった日のことだった。 

 

「どうでしょう、八幡様?」

 

 狐耳の少女リリは、八幡の反応をドキドキしながら待っていた。

 

「うん、うまい。これなら、いけそうだな」

 

「本当ですか! やったー!」

 

 リリは諸手を挙げて大喜びする。

 何をしているかと言うと、先日、八幡がマッカンを飲んでいる時にリリが厨房に訪れ、八幡が飲んでいたのが気になったのか、飲ませて欲しいと頼まれた。八幡も特に断る理由もなかったため作って飲ませてあげたのだが、その際、マッカンの味をいたく気に入ったらしく、マッカンの作り方を八幡から教わった後、料理に応用できないかと、作る度に八幡のところへ持ってきていたのだ。

 

「にしても、リリはすごいな。この歳でここまで料理ができるなんてな…」

 

 そう言って、八幡はリリの頭を撫でる。

 

「…あっ。…えへへ」

 

 リリは、一瞬だけ体をピクリと反応させるも、すぐに気持ちよさそうに目を細める。

 すると、厨房に匂いを嗅ぎつけたのか耀が入ってくる。

 

「…いい匂い。何作ってる…二人とも、何やってるの?」

 

「あっ、耀様! 今八幡様からも合格をいただいたので、耀様も食べてみてください」

 

 そう言って、リリが差し出したお菓子を耀は一つ口に入れてみる。

 

「あ、おいしい。それにこの味って…マッカン?」

 

「はい。八幡様に作り方を教わったので、料理に活かせないかと思って、八幡様に味見してもらってたんです」

 

「へぇ…そうなんだ」

 

「よ、耀様!? そんなに一気に食べちゃダメですよ! 皆にも食べてもらうんですから!」

 

 途中からほぼ無心で食べている耀をリリが止める。

 

「そういえば、そっちのは?」

 

 そう言って耀が指さしたのは、作られたばかりと思われる朝食だった。

 

「飛鳥様がまだ起きていないので、持っていこうと思って」

 

 リリの言葉に八幡は眉を顰める。

 

「アイツって、俺より朝弱いのか?」

 

「起きるのは遅い方じゃないけど、朝はあんまり強くないって言ってた。八幡も朝結構弱いよね?」

 

「まあな。学校の遅刻も結構多かったしな。…っていうか、なんで知ってるんだよ。この間のストーキングといい、ちょっと努力の方向おかしいよ」

 

 八幡が戦慄して言うと、耀はきょとんとする。

 

「でも、この間のも小町の発案だったし、このことも小町が教えてくれたよ」

 

「マジかよ。人様に何教えてんの。うちの妹の情報管理甘すぎでしょ。お兄ちゃんちょっと不安なんだけど」

 

「え、えっと、それはともかく、今から飛鳥様のお部屋に行きますけど…どうします?」

 

 リリの提案に、耀は手を挙げる。

 

「あ、私行くよ。たぶん、飛鳥まだ起きるのつらいだろうし」

 

「じゃあ、俺は部屋に戻「ほら、八幡も行こっ!」…聞いてねえし」

 

 耀は八幡の手を取り、リリの後について飛鳥の部屋へ行く。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 飛鳥の部屋の前で、なかなか起きてこない飛鳥を起こすために、耀はドアを連続でノックをして安眠妨害をすることで飛鳥を叩き起こした。

 

「もう! 一度でいいから二度寝というものを体験してみたかったのに!」

 

「お嬢様にあるまじき発言」

 

「まぁ、二度寝って気分いいからな。特に学校をサボってする二度寝は最高」

 

「いや、それはどうなの?」

 

「でも、そのあと学校にすげえ行きづらいんだよなあ。特に教室に入った時の注目はなあ…」

 

「じゃあ、遅刻しなきゃいいのに」

 

 呆れるように言う耀に八幡は胸を張る。

 

「ばっか、お前。世の中には『重役出勤』って言葉があってだな。つまり、遅くに登校する俺は将来重役になることが約束されているんだよ」

 

「いや、あなた普段から働きたくないって言ってるでしょう」

 

「ていうか、その『重役』って皮肉だよ」

 

「くそっ…。こいつら無駄に頭がいい分通じねえ」

 

 呆れる飛鳥と耀に、賢い分厄介さがあることを知った八幡だった。

 そんな彼らの様子を見ていたリリは、パタパタと嬉しそうに尻尾を揺らす。

 

「みなさん、箱庭での生活を楽しんでいただけているようでよかったです」

 

 リリの言葉に八幡は僅かにピクリと反応するが、誰も気づかない。

 

「ええ、そうね。箱庭での体験はどれも新鮮でとても楽しいわ」

 

「うん。私も来てよかった」

 

 しかも、この空気である。

 八幡は手持無沙汰になり、ギフトカードを眺めることにする。

 ここのところ、アリスを始めとした、白夜叉からもらった(押し付けられたともいう)ギフトをいくつか調べ、安全そうなものだけ、箱とは別にして直接ギフトカードに入れていた。

 なので、使えるギフトがかなり増えたのだが、問題が起きていた。

 

『比企谷八幡

 

 “不協和音▷

      

      “トリガーハッピー”

      “デプレッション”

      “ヒッキ―▷

          “ディテクティブヒッキ―”

          “ステルスヒッキ―”””

 “エレメンタル・ダガー”

 “エレメンタル・アミュレット”

 “風精霊(シルフ)ウィン”

 “火精霊(サラマンダ―)ヒータ”

 “水精霊(ウンディーネ)エリア”

 “土精霊(ノーム)アウス”

 “ミラー・アリス”

 “ジャンク・スケアクロウ”

 “マザーグース”

 “リドル・ナンバーズカード”

 “プリック・ヘッドホン”

 “ディスタント・ゴーグル”

 “A war on the board”

 “不如帰”

 “バグ・サルタスション”

 “コーバート・ストリングス”

 “ジャイアントイーター”

 “シュレディンガー”

 “フラグ・フラッグス”

 “ブリストアー”

 “ギフト・ボックス”▶

 “???”

 

                          』

 

 自身でも、随分増えたと思うが、調べてみると、これらのギフトはかなりめんどくさいギフトだということがわかった。

 

(白夜叉のやつ…こんなもん押し付けやがって…)

 

「何これ? 前より増えてる…これが白夜叉からもらったギフト?」

 

「前よりもかなり増えてるわね…」

 

「うわー! 八幡様のギフト、いっぱいです!」

 

 ギフトカードを眺めていると、いつの間にか三人が八幡のギフトカードを覗き込んでいた。

 

「…確かに白夜叉からもらったギフトだけど、大したことないのも多いぞ」

 

「そうなの? この“ジャイアントイーター”って、いかにも強そうだけど…」

 

 飛鳥がギフトカードに記された内の一つを指さすと、八幡は微妙そうな顔をする。

 

「ああ…こいつはな…うん」

 

 言葉を濁す八幡に、耀と飛鳥は悪そうな顔をする。

 

「ねえ、八幡。これ、使ってみてもらっていい?」

 

「いや、これは…」

 

『八幡君、このギフトを使いな「キャハハハハ! 俺様をお呼びかい? かわいいかわいいガァアアアルズ!!」…え?」

 

 飛鳥が“威光”のギフトを使おうとすると、下卑た笑いと共に、八幡のギフトカードから幼児が書いたお化けをそのまま人形にしたかのようなパペットが出てきて、すっぽりと八幡の左手にはまる。

 

「俺様が、“ジャイアントイーター”様だ! にしても、旦那も隅に置けねえなぁ! 朝っぱらからこんな美少女、美幼女とご一緒たぁ、恐れ入るぜ! よっ! 色男! 憎いね憎いね! かぁっー! 羨ましいぜ! しっかし、朝たぁいえ、関係ねえ! とっとと、押し倒して、三人ともペロリと平らげちまいなぁ! もちろん、性的な意味でだぜ! キャハハハハハ!!」

 

 マシンガンのように浴びせられる下品な言葉の数々に、女性陣は皆一様にポカンとし、八幡は「はぁ…」とため息を吐いた。

 

「だから、出したくなかったんだけどな…」

 

「おいおい、いくらなんでもひどすぎねえかい、旦那? 箱ン中じゃ、誰とも喋れねえし、ようやくギフトカードに移動できたと思ったら、アリスの姉御もシュレの小僧もボードの奴等も『お前みたいな下品なのと話したくない』っていうしよ! 旦那だって知ってんだろ? 俺様がお喋り好きだっつーことはよ!」

 

「いや、知ってるけど口汚いのはホントだろ…」

 

「キャハハハハ! こりゃ、手厳しいぜ! んで、結局のところはどの娘が本命だ? 気の強そうな娘っ子もいいが、すましっ娘もなかなかそそるな。だが、未来の可能性って意味じゃあ、この狐耳のロリっ娘もいいなぁ! なぁ、おい! 旦那はどう思…」

 

 言葉の途中で、八幡は“ジャイアント・イーター”を左手から外す。

 すると、あれだけ、マシンガントークを繰り広げていたにもかかわらず、八幡が外した途端、先ほどのお喋りが嘘のように静かになる。

 “ジャイアントイーター”はジタバタと暴れるも、抵抗虚しくギフトカードに戻された。

 

「これでわかっただろ? 俺が出したくなかった理由」

 

 八幡がやや疲れたように言うと、飛鳥と耀も微妙そうな顔をする。

 

「ええ。嫌というほどわかったわ。たしかに、アレは出したくないわね」

 

「…うん。あれが強いギフトでも、出すのをためらいそう」

 

「で、でも、それだけのギフトを預けられるってことは、八幡様が白夜叉様から信用されてるってことですから、十分すごいですよ!」

 

 慌ててフォローするように言うリリに、八幡は首を横に振る。

 

「いや、単に厄介物押し付けられただけだろ」

 

「まぁ…どちらにせよ。ここ最近の日銭を稼ぐような小さいゲームじゃなくて、もっと大きなゲームじゃないと試せなさそうね」

 

「そうだね。そんな大きなギフトゲームがあればいいんだけどね」

 

 言いながら、飛鳥と耀はリリの二尾を抱きかかえ、モフり始める。

 

「ひゃ、ひゃああっ!? や、やめてください~」

 

 尻尾を触られるのは苦手なのか、リリは抵抗しようとするも、飛鳥と耀はリリの尻尾をモフって離さない。

 その時、リリの割烹着のような服のポケットから、手紙の封筒のようなものが落ちる。

 

(なっ!? アレは…)

 

 その封筒が何かいち早く気づいた八幡は、封筒を回収しようと試みるも、耀に先に回収されてしまう。

 

「何、この封筒? …ッ!? 飛鳥!」

 

「どうしたの、春日部さん? …これは!?」

 

(ああ、終わったな。…めんどくさいことになりそうだ)

 

 これから起こる騒動に自分も巻き込まれることを考え、辟易とする八幡だった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

「黒ウサギのお姉ちゃ~ん! 大変なの!」

 

 リリは黒ウサギとレティシアのいる農園跡地に慌てて駆け込んだ。

 二人はただならぬリリの様子に驚く。

 

「ど、どうしたのですかリリ!?」

 

「こ、これ!」

 

 そう言って、リリは二人に手紙のようなものを二通渡す。

 まず、一通目。

 

『黒ウサギへ

 

 近日行われる箱庭の北と東の“階層支配者”による共同祭典“火龍誕生祭”に参加してきます。

 

 貴方もあとから必ず来ること。あとレティシアもね。

 

 私たちにこの祭りのことを秘密にしていた罰として、今日中に私たちを捕まえられなかった場合———五人ともコミュニティを脱退します。

 

 死ぬ気でで探してね♪

 

 なお、ジンくんは道案内に連れていきます。』

 

「な、なんなのですか、これは!? あ、あの問題児様方はあああああああああああ!!」

 

「落ち着け黒ウサギ。こっちも読め」

 

 レティシアがもう一通を見せる。

 

『たぶん、あいつらはすぐに白夜叉に頼る方法を思いつくだろうから、まずは“サウザンドアイズ”に来い。それで間に合わなかったら腹くくれ』

 

「これって、八幡さんですか?」

 

「恐らくな。にしても、間の悪い」

 

「全くです」

 

 というのも、“火龍誕生祭”のことに関する白夜叉との会談が今日だったのだ。

 

「たしかに、一度依頼を受けて向こうに行かれてしまったら元も子もない。すぐに追いかけるぞ! リリ、留守を頼む!」

 

「わ、わかりました!」

 

 リリが返事をすると、黒ウサギは髪が桜色に代わり、レティシアも姿が変わる。

 

「行くぞ、黒ウサギ!」

 

「はい! レティシア様!」

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 一方、問題児たちはすでに“サウザンドアイズ”支店の白夜叉の私室に来ていた。

 

「ふむ…約束の時間より早くはないか?」

 

 白夜叉は少し不思議そうに八幡を見る。

 ここまで、文字通り首根っこ掴まれて引きずってこられたため、若干疲れた様子で八幡は答える。

 

「こいつらがここに来た時点で察してくれ」

 

「まぁ…時間については別に良い。ジン殿、結論として、路銀に関してはこちらで負担しよう」

 

 白夜叉の言葉に十六夜は「へぇ…」と、感心したように呟く。

 

「話す前から俺らが何を頼むか知っていた。しかも、八幡に訊いたってことは、お前も一口噛んでやがったな」

 

「あら、そうなの八幡君?」

 

「…私たちに教えてくれてもよかったのに」

 

「まったく、このごみいちゃんは」

 

 不満そうにする問題児たち(妹含む)に八幡は「でもなぁ…」と半眼で彼らを見る。

 

「そもそも、お前ら路銀が出るかどうかも不明な状態でも、招待状のこと知ったら、速攻で行こうとするだろ」

 

「「「当然」」」

 

「息ぴったりかよ…。うちのコミュニティにそんな余裕ねえんだから、わがまま言うんじゃありません」

 

「うわっ、お兄ちゃんめんどくさい」

 

「めんどくさいとか言うな。しっかりしてると言え。ていうか、おまえはこいつらの影響受けすぎだろ」

 

 比企谷兄妹を無視して、白夜叉は話を続ける。

 

「ともかく、路銀を負担する代わりに、おんしらには東の“階層支配者”として、受けて欲しい依頼がある」

 

「…依頼、ですか?」

 

「うむ。ところで、おんしらは“火龍誕生祭”についてどのくらい知っておる?」

 

 白夜叉の質問に答えたのは八幡だった。

 

「北の“階層支配者”が急病で世代交代したから、そのお披露目も兼ねた大祭で、主催はたしか…“サラマンドラ”ってコミュニティだったか?」

 

「その通りだ。よく知っておるな」

 

 感心したように白夜叉が言うと、褒められたのが照れくさいのか、八幡は顔を逸らす。

 

「噂で聞いた時に気になって、情報を集めただけだ」

 

「“サラマンドラ”となら、かつては交流がありました。それで、どなたが頭首に? サラ様ですか? マンドラ様ですか?」

 

 白夜叉は首を横に振った。

 

「いや、サンドラだ」

 

「サンドラが!? 彼女はまだ十一歳ですよ!」

 

「あら、ジンくんだって十一歳で私たちのコミュニティのリーダーじゃない」

 

「いや、コミュニティのリーダーうんぬんよりも、“階層支配者”が十一歳ってことが普通じゃないんだろ。で、大方それを良く思わないやつが北側にいるから、今回は東側と共同で開催ってことになったってところか?」

 

 八幡の推理に白夜叉は目を丸くする。

 

「ほう…おんし、中々に慧眼だの」

 

 今度は北側の現状に思うところでもあるのか、八幡は微妙そうな顔をする。

 

「まぁ…そこらへんには色々と事情が「ちょっと待て」何だいきなり」

 

 白夜叉が北側の現状について説明しようとすると、十六夜がそれを制する。

 

「それって、長くなるか?」

 

「こら、人を年寄り扱いするな。一時間くらいにまとめるつもりだ」

 

「いや、普通に長いですよ」

 

 心外そうな顔をする白夜叉に小町が突っ込むと、十六夜は少し慌て始める。

 

「とにかく、今すぐ北側に向かってくれ!」

 

「ん? 依頼内容は聞かぬのか?」

 

「構わねえ! そっちの方が面白い!」

 

「そっちの方が面白いか…なら仕方ないの!」

 

 にやりと笑った白夜叉がパンッと柏手を打つと、八幡は空気が変わったかのような錯覚を受ける。

 

「着いたぞ」

 

「「「「「「…ハ?」」」」」」

 

 八幡は後悔した。コイツのでたらめさを嘗めていた、と。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 “サウザンドアイズ”支店から外を見た“ノーネーム”の一同は、その街の様子に息をのんだ。

 基本的に農耕地が中心ののどかな村のような風情のある東側と打って変わって、北側は街灯やランプによって彩られたきらびやかな街だった。

 

「すごいわ! 白夜叉、あっちのガラスの回廊に行ってきていい?」

 

 瞳を輝かせて言う飛鳥に、白夜叉は苦笑する。

 

「構わんよ。続きは夜にでもしよう」

 

 白夜叉の気遣いに、問題児たち(+妹含む)が大手を振って街に繰り出そうとしたところで、八幡はただならぬ気配を感じる。

 

「ようぉぉぉやく、見つけたのですよ。問題児様方」

 

「チッ! もう追いついてきやがったのか! 逃げるぞ、お前ら!」

 

「ちょっと、十六夜君!?」

 

 十六夜は飛鳥を抱えると、一目散に逃げ出し、耀も小町を抱えてそれに倣おうとしたところで、黒ウサギに足を掴まれ、小町もろとも後方へと投げ飛ばされる。

 

「っと、危ねえ…」

 

 投げられた耀は白夜叉の方へと投げ飛ばされ、小町は八幡が受け止める。

 

「こら、黒ウサギ! おんし、最近いささか礼儀を欠いておらんか!」

 

「白夜叉様! 黒ウサギは十六夜さんと飛鳥さんをレティシア様と捕まえてきますので、耀さんたちをよろしくお願い致します!」

 

「おお…、がんばっての」

 

 黒ウサギの勢いに気圧され、白夜叉は頷く。

 “サウザンドアイズ”支店のある展望台からジャンプする黒ウサギ。

 黒ウサギと問題児たちの追いかけっこは、後半戦に突入するのだった。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

「ふふ。なるほどのう。おんし達らしい悪戯だ。しかし“脱退”とは穏やかではない。ちょいと悪質だとは思わなんだか?」

 

「それは………うん。少しだけ私も思った。だ、だけど、黒ウサギだって悪い。お金がないことを説明してくれれば、私達だってこんな強硬手段に出たりしないもの」

 

「普段の行いの差だろ。現に、俺はこの祭りの話したら普通に教えてくれたし」

 

 呆れるように言う八幡に、耀はむっとする。

 

「それは………そうだけど、それも含めて信用のない証拠」

 

「そりゃ、成果以上に問題起こしてるんだから当然だろ」

 

「うっ…」

 

 心当たりが大いにあるため、耀は言い返せなくなる。

 

「ていうか、問題はお前だ」

 

 そう言って、八幡は小町を指さす。

 

「え、小町…なんで?」

 

「いや、おまえ全部知ってて十六夜たちの側についただろ…」

 

「え…そうなの?」

 

 驚く耀に、小町はしばし黙考する。

 

「…面白そうだから、つい」

 

 小町の悪びれない態度に八幡はため息を吐く。

 

「はぁ…。なんつーか、だいぶ影響受けてるな」

 

「むっ…私たちのせいって事?」

 

 不機嫌そうにする耀に八幡は首を横に振る。

 

「いや、小町の自己責任だな。」

 

「あれ、意外だね。『おまえらのせいでー』とか言うと思ったのに」

 

「そりゃ、他人と関わったぐらいで変わるもんだからな。そんなもの、どうなったって変わってただろ。そんなのいちいち他人のせいにしてたらキリがねえよ。それより、この“火龍誕生祭”にうちのコミュニティが出れるのって、どんなのがあるんだ?」

 

「それなら、ちょうどよいのがあるぞ。特に耀とおんしに出てもらおうと思っておったのがな」

 

「あっ、俺はパスで」

 

「おい。話すら聞かんのか。まぁ、よい。耀の方はどうだ?」

 

「うん。私は出る。それで、どんなゲームなの?」

 

「“造物主たちの決闘”というゲームでな。作成者問わず、創作系ギフトの技術や美術を競い合うためのゲームだ。おんしのその“生命の目録”なら、その意味でも十分優れておるし、力試しにもなると思うが……」

 

「そうかな?」

 

「うむ。幸い、サポートも認められておるし、祭りを盛り上げるために一役買ってほしいのだ。勝者には、強力な恩恵も用意する」

 

 白夜叉の言葉に、耀がピクリと反応した。

 

「ねえ、白夜叉。その恩恵があれば、黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

 不安げに訊く耀に、白夜叉は優しげに笑った。

 

「できるさ。おんしにそのつもりがあるならな」

 

「うん。頑張る」

 

 ギフトゲームに意気ごむ耀に、小町は八幡のいる方を向く。

 

「ねえ、お兄ちゃんもせっかくだから出てみたら…って、あれ、お兄ちゃんは?」

 

「え?」

 

 耀と小町が周りを見ると、いつの間にか八幡がいなくなっていた。

 

「あやつなら、さっき普通に出ていったぞ」

 

 白夜叉は扇子で外への襖を指す。

 

「あのゴミいちゃんは…。耀さん、行きますよ!」

 

「え、ちょっと、小町!」

 

 耀の手を引き、小町が出ていくと、白夜叉が二人が出ていった方とは別の方に目を向ける。

 

「それで、あの二人を欺いてまで私と二人っきりになろうとした理由を訊こうか」

 

 八幡はグレーのギフトカードを白夜叉に見せる。

 

「これについて訊きたいんだよ。ウィンに訊いてもよくわからなかったみたいだからな」

 

 白夜叉は八幡のギフトカードを覗きこむ。

 

『比企谷八幡

 

 “不協和音▷

      

      “トリガーハッピー”

      “デプレッション”

      “ヒッキ―▷

          “ディテクティブヒッキ―”

          “ステルスヒッキ―”””

 “エレメンタル・ダガー”

 “エレメンタル・アミュレット”

 “風精霊(シルフ)ウィン”

 “火精霊(サラマンダ―)ヒータ”

 “水精霊(ウンディーネ)エリア”

 “土精霊(ノーム)アウス”

 “ミラー・アリス”

 “ジャンク・スケアクロウ”

 “マザーグース”

 “リドル・ナンバーズカード”

 “プリック・ヘッドホン”

 “ディスタント・ゴーグル”

 “A war on the board”

 “不如帰”

 “バグ・サルタスション”

 “コーバート・ストリングス”

 “ジャイアントイーター”

 “シュレーディンガー”

 “フラグ・フラッグス”

 “ブリストアー”

 “ギフト・ボックス”▶

 “???”

 

                          』

 

「ふむ。この“???”で表示されているものか…。恐らく、これはギフトの萌芽だな」

 

「…萌芽? なんだそれ」

 

「まぁ、有体に言えば、ギフトになる前のギフトとでもいえばいいか。何かのきっかけがあれば、完全に目覚めるだろう。気にすることはない」

 

「きっかけ、か…」

 

(できたら目覚めてほしくない。面倒になりそうだから)

 

「ああ、それと…」

 

「わかっておる。あやつらには言わん。また、なにかあったら相談するがいい」

 

「悪いな。助かる」

 

「よいよい。せっかくだ。おんしも祭りを楽しんでこい。どうせ話は夜からだしの。なんだったら、妹にプレゼントの一つでも送ってやれ」

 

 白夜叉の言葉に八幡は珍しく、悪くないと思った。

 

(たしかに、ギフトが一つってのも不安だし。何かいいのがねえか探してみるか)

 

「そうしてみるわ。あー、その、なんつーか、ありがとうございました」

 

「かまわんよ。地域の者の相談に乗るのも“階層支配者”の務めだ」

 

「んじゃ、俺も行ってくる」

 

「うむ。存分に祭りを楽しんでくるといい」

 

 白夜叉に見送られ、八幡は“サウザンドアイズ”支店を後にした。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 街へと出たはいいものの、まったく土地勘のない始めてくる場所のため、どこに行けばいいのか迷っていた。

 

(つっても、どこに行ったもんか…。この街の地理には全く詳しくない。かつ、他人に聞いてもそれが地元の奴でなければ意味がない。とすると、警備している“サラマンドラ”の奴に聞くのが妥当か)

 

「なのに、周りにいないってどういうことだよ。警備ちゃんとやってるのか?」

 

「まったくね。ちゃんと警備する気があるのかしら」

 

「………は?」

 

 八幡はいつの間にか自分の横に立っていた、斑模様のスカートの幼女を見る。

 

「…………ッ!?」

 

 そして、その一瞬で悟る。『自分では絶対に勝てない』と。

 

「…? どうかしたの?」

 

 幼女が訊いてくるが、八幡は逃げるべきかおとなしくするべきかで悩んでいた。

 

(ここは逃げるべきか! いや、まだ敵かどうかも決まってないのに…いや、違う!)

 

 相手の敵意を“ディテクティブ・ヒッキー”で探った八幡は戦慄する。その殺意に。憎悪に。怨嗟に。

 かつてないほどの恐怖を感じた。

 これまで、自分が人から受けてきた自覚的、無自覚的問わない悪意のなんと微々たるものか。なんと矮小なものか。

 自分に向けられたのではない。しかし、その圧倒的な悪意に『逃げる』という思考さえ放棄した。

 八幡は確信する。この幼女は間違いなく神の格だと。

 だからこそ、自分の心を気取られてはいけない。

 大丈夫だ。それは自分が最も得意とするところ。問題はない。

 

「…誰だお前?」

 

 かなり失礼な物言いに、相手は嫌な顔一つしない。

 当然だ。むしろ、ここは下手に出る方が悪手。こっちが気づいていないふりをするならただの幼女として扱わなければならない。

 

「迷子か? なんなら警備の奴ぐらいは探すぞ」

 

「…結構失礼ね、あなた」

 

 「しょうがない」とでも言うように、幼女はため息を吐く。

 

「それで、あなたは道に迷ってるの?」

 

「…まぁ、それで合ってる」

 

「あなたはどこに行こうと思ってたの?」

 

「別に行きたい場所があったわけじゃねえよ。ちょっと、買い物しようと思って店を探してただけだ」

 

「店? それなら周りにたくさんあるじゃない」

 

 彼女の言う通り、出店なら周りにたくさんあるが、どれも飲食系であり、八幡が探している店ではない。

 

「ああ…えっと、そういうんじゃなくてだな。なんだ? 要はお守りとか、そういう気休めにでもなるようなものを探してんだよ」

 

 その言葉に、幼女は不思議そうな顔をする。

 

「お守り…? あなたには必要そうには見えないわ。そこそこ…六桁の中層ならある程度は通じると思うけど」

 

「いや、俺のじゃなくて妹のだ」

 

「妹? あなた、妹がいるの?」

 

 意外そうな顔をする幼女に八幡は頷く。

 

「2つ下のがな。まぁ、小賢しくて小憎たらしいが、可愛い妹だよ。うん、うちの妹超かわいい」

 

「…そう、どうでもいいわ。ねえ…」

 

「…なんだよ」

 

「一つだけ、いいコミュニティを知ってるわ。噂しか聞いたことないけど」

 

「噂だけかよ…。ま、他に行くとこもねえし、そこでいいか。と、その前にちょっといいか?」

 

「…何?」

 

「そこって、“ノーネーム”大丈夫か?」

 

 そこで、今度こそ幼女が驚いたように目を見開く。

 

「あなた…“ノーネーム”なの?」

 

「いや、見りゃわかんだろ。どこにも旗印付けてないんだから」

 

 八幡が箱庭で暮らすうちに気づいたことだが、コミュニティに所属する者は、通常は自分のコミュニティの旗印の入った何某かを身に着けている。

 しかし、コミュニティの名と旗印を奪われている自分たちにはそれがないのだ。

 

「…そう。ねえ、一つ提案があるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「あなた、私のコミュニティに入らない」

 

「は?」

 

 まさか、勧誘してくるとは思わなかった。意外な申し出に、八幡は虚を突かれる形となった。

 

「どうかしら?」

 

「どうって…そもそも、勧誘してくる理由がわからん。ていうか、おまえコミュニティのリーダーなのかよ」

 

 ある意味納得だ。このかなり強そうな幼女なら、別にコミュニティのリーダーをやっていてもおかしくないだろう。

 

「…私がコミュニティのリーダーってことに驚かないのね」

 

 幼女の言葉に、八案はドキリとした。

 

「いや、うちのコミュニティのリーダーも新しく“サラマンドラ”リーダーになる奴も十一歳だからな。実力があるんなら普通じゃないのか?」

 

 これは我ながらいい返し方だと、八幡は考える。

 基本的に実力主義の箱庭なら、あくまで実力があることを悟っているのではなく、実力があるからリーダーをやっているんだろうと考えているように思わせることができる。

 

「…そうね。だからこそ、うちみたいな新興のコミュニティはいい人材が欲しいのよね」

 

 幼女のつぶやきに、八幡はある可能性に思い当たる。

 

「もしかして、人材の勧誘でこの祭りに来たのか?」

 

「ええ。この祭りにはたくさんの参加者がいるもの」

 

 黒ウサギやジンから聞いた話によると、この“火龍誕生祭”は芸術品や出店、ギフトゲームなどでのコミュニティの参加のほかに、観光目的で来るものも多く、自分のコミュニティをアピールすることで、人材を集めることもできるらしい。この幼女のコミュニティも、そのために来たのだろう。

 

「悪いけどパスさせてもらう。“ノーネーム”だが、今のコミュニティには世話になってるしな」

 

「…そう。まぁ、いいわ。また機会があるだろうし」

 

「…?」

 

「ところで、気休めでもいいからお守りになるようなものが欲しいのよね?」

 

「…まあな。それがなんだよ」

 

「いいわ。案内してあげる」

 

「は? おい」

 

 八幡が呼び止めようとするのも聞かず、幼女はスタスタと先に行ってしまう。

 

「くそっ!」

 

 仕方がないので、幼女の後についていくことにする。

 

 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 

 

 そして、現在へと至るわけだが、幼女は道中の露店で買い食いしまくっていた。主に八幡の金で。

 

「おい、まだ着かないのか?」

 

「もうすぐよ。ほら、あそこ」

 

 そう言って、幼女が指さす方を見れば、大きなカボチャをかぶり、ボロ布を纏った何かが店番をしていた。

 

「…あれがジャック・オー・ランタンか?」

 

「みたいね。旗印からして、あの店はウィル・オ・ウィスプのものだし、そうなんじゃないかしら」

 

 ぼっちの八幡にとっては、いきなり人外の店番に自分から話しかけるのはハードルが高かった。

 しかし、八幡の様子が不振だったのか、声をかけあぐねている様子を見かねたのか、カボチャ頭の方から話しかけてきた。

 

「ヤホホ! いらっしゃいませ。本日はどのような商品をお求めで?」

 

 見た目に似合わない紳士的かつ陽気な態度に八幡は驚く。

 

「えっと、お守りになるようなものって…ありますか?」

 

「お守りですか…それならばこちらはいいかかでしょう」

 

 カボチャ頭が持ってきたのは、中で炎が揺らめくガラスでできたペンダントだった。

 

「これは?」

 

「『コミュニティの子供が安全に帰ってこられるよう』にというコンセプトの元作られたものでして。道に迷った時に帰り道を示してくれたり、子供の居場所を知らせたり、子供に危険な場所を知らせる優れものですよ」

 

「ほう…でも、お高いんでしょう?」

 

「いえいえ、本日はせっかくの祭りです。稼ぎ時ではありますが、だからといって子供に与えるものを高値で売るなど、我ら“ウィル・オ・ウィスプ”の名折れであり、野暮というもの。よって、この値段でどうでしょう?」

 

 手元に示された値段に八幡は感心する。

 

(決して高すぎず、相手に買える値段でありながらある程度の儲けも出るようにしていやがる。…ここ、かなり商売がうまいな)

 

「わかった、買わせてもらう」

 

「ヤホホ! お買い上げありがとうございます!」

 

 会計を済ませると、八幡は“サウザンドアイズ”支店に戻るため、元来た道を戻っていく。

 

「そこの少年。ちょっといいかな?」

 

 不意に呼び止められて振り向くと、そこには上等な服を着た老人がいた。

 

「…なんすか?」

 

 以前、姉妹たちのことがあったため、警戒心を崩さないように話をする。

 

「なに、そう警戒しなくてもよい。ただ、君の店員との会話が聞こえてしまってね。贈り物は多い方がいいとは思わんかね?」

 

「…どういう意味だ」

 

「簡単だ。『うちの店の商品もどうか?』といっている」

 

 なるほど。つまり、この老人は一種の呼び込みをしており、ちょうどよく自分の店の製品を売りつけられる相手を見つけたということらしい。

 

「そういうのいいんで」

 

 さすがにどんなものを、どんな高値で売られるかわかったものではない以上、そうやすやすと買うことはできないので、断ろうとする。

 

「まあ、そう言わずに」

 

 どういうわけかこの老人、足運びが非常にうまく、なかなか逃げ出せない。

 

(…ッ!? ったく、今日は完全に厄日だな)

 

 苛立ち始める八幡に、老人は少し考える素振りを見せる。

 

「ふむ。では、少年。この商品を実際に使い、満足したら買ってもらう、というのはどうだろう?」

 

「…最終的に買ったとして、俺がそこまですることで、あんたにメリットがあるのか?」

 

 警戒する八幡に、老人はそっと笑う。

 

「なに、ただの職人の意地というものだ。『自分のコミュニティの商品の方が優れている』というな。だから、君が気に入ってくれれば、この商品を宣伝してくれないかな?」

 

 つまり、あくまで老人は自分の腕の方が上だと主張したいらしい。

 老人が差し出した商品は、きれいな指輪だった。

 よく見ると、指輪には笛を吹く鼠の意匠が施されていた。恐らく、これが老人のコミュニティの旗印なのだろう。

 

「ちなみに、こっちが気に入った場合の料金は?」

 

「一応、宣伝料分引いて、銀貨三枚もところを銀貨一枚でどうだろうか」

 

 多少割高だが、悪くない買い物だ。

 『宣伝』というのはめんどくさいが、そこらへんは“サウザンドアイズ”あたりに丸投げしよう。

 そう考え、八幡はどうするか決める。

 

「んじゃ、とりあえずはもらっとくぞ」

 

「ええ、くれぐれも悪用しないように」

 

 そう言うと、老人はスタスタと歩いていく。

 

「さて、俺も戻るか」

 

「買い物は終わった?」

 

 いつの間にか、先ほどの幼女が戻ってきていた。

 

「おい、斑ロリ。いきなりどっかに消えてんじゃねえよ。ぼっちが店員に不審な目で見られないように話すのがどれだけ難しいかわかってんの?」

 

 八幡がやや責めるように言うと、幼女は少し拗ねたようにそっぽを向く。

 

「仕方ないでしょ。あまり目立ちたくないのよ」

 

「は?」

 

 目立ちたくないというのは、八幡自身よくわかることだが、この幼女がそれを気にする理由がよくわからなかった。

 

「目立ちたくないって…何か悪いことでもあるのか?」

 

 幼女は八幡の質問にため息を吐く。

 

「はぁ…勧誘するってことは、『場合によっては他のコミュニニティから人材を引き抜く』ってことよ。その意味が分かる?」

 

 そこまで言われて、八幡もようやく理解した。

 確かに、今の“ノーネーム”がそうであるように、人材がコミュニティの盛衰に関わる一因である以上、自分のような“ノーネーム”所属の人間ならともかく、他のコミュニティがいる場では、あまり大ぴらに勧誘をするわけにはいかない。規模の大きいコミュニティの近くならなおさらだろう。

 

「あー、なんつーか、ここまで案内してくれてありがとな。俺は戻るわ」

 

 八幡が礼を言って歩き出そうとすると、ぼそりと僅かに幼女の声が聞こえた。

 

「こちらこそ。そこそこ楽しかったわ。またいずれ」

 

 八幡はまだ知らない。

 この日から八日後、思いもしない形でこの幼女と再会することになるとは。




というわけで、ただの観光回でした。
え、他のメンバー? 適当の観光してるんじゃないかな…。うん。八幡抜きで。
次回はお風呂回と耀のギフトゲームを予定しています。
ヒロインアンケートは現在も行っております。
いくつかのサイトにてアンケートを行っております現在の順位は1位 春日部耀 2位ペスト、精霊、アリス 5位 ウィラとなっております。ちなみに、春日部がすでに2位以下に3倍ほどの差をつけています
それでは、感想、評価、誤字の指摘などありましたらお願いします。

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