機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU BYROADS   作:後藤陸将

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霧の艦隊撃破……そのままのテンションで一本書き上げました。

今回からはSEEDZIPANGUとSEEDDESTINYZIPANGU(仮)を繋ぐ断章がスタートとなります。断章は今のところ4~6話掲載するつもりです。
断章が完結したら、いよいよ続編に入る予定となっています。皆様、お楽しみに!!


断章 業からこぼれたSTORY
PHASE-X1 蜂起


 C.E.73 6月4日 L4 メンデル

 

 

「がぁ……!?」

長髪の男に鳩尾を蹴り上げられた茶髪の青年が苦悶の表情を浮かべる。

「どうした!?この程度なのか!?スーパーコーディネイター!!」

長髪の男は茶髪の青年の腕を強引に掴んで立たせると、その頭に拳を叩き込んだ。たまらず茶髪の青年は床に倒れる。

「どうした!?お前は唯一の成功体なんだろ!?失敗作の俺に手も足も出ないわけがないだろうが!?」

しかし、床に倒れている自身を見下ろす男の罵詈雑言に一言も返すことはない。何もなかったかのような無表情を浮かべながら青年は立ち上がろうとする。しかし、その済ました表情は男の怒りの炎に油を注いでいた。

「いいかげん、何か言ったらどうだ!?キラ・ヤマトォォオ!!!」

男は思い切り拳を振り上げ、猛る鉄拳を青年の頭に振り下ろした。しかし、今度は彼の拳は青年を捕らえることはできなかった。青年は身体を沈めながら男が突き出した腕を正確に掴み、男の突き出した右腕の運動エネルギーをそのまま活かして男を投げ飛ばした。

投げ飛ばされた男は壁に叩きつけられ、その衝撃で身体が硬直する。そして青年は身体の自由を男が失った一瞬の隙をついて地に伏せる男の首に目掛けて鋭い蹴りを叩きつけた。鞭のようにしなる右脚から繰り出された一撃は正確に男の意識を刈り取った。

青年は気絶した男の衣類を奪い、裸の男を自身の着ていた衣類を使って縛り上げる。そしてあちこちが痛む身体に鞭をうちながら青年は拘留されていた独房の外に出る。目標は一つだけ、愛する人の奪還だ。

 

「待っててくれ、ラクス……」

青年は愛する人を探し、駆け出した。

そして同時に思う。どうしてこんなことになってしまったのか…………

 

 

 

 

 C.E.73 6月1日 L4 名古屋宇宙港

 

「キラ、参りましょうか。地球では皆様が待っているそうですよ?」

「そうだね、白銀大……武さんも悠陽さんもセッティングをしてくれているらしいし。一体どんな式を用意してくれたのか、とても楽しみだね」

 

 人類が始めて経験した全世界を巻き込んだ宇宙規模の戦争――――第四次世界大戦、通称ヤキンドゥーエ戦役が集結してからおよそ1年と7ヶ月が過ぎようとしていた。既に各国の占領政策や今回の大戦で甚大な被害を被った諸国の復興政策も安定軌道に乗りつつあり、世界はつかの間の平穏を取り戻そうとしていた。

そんな中、大戦でその名を馳せた大日本帝国宇宙軍の若き撃墜王(エース)、大和キラ少尉(海皇《ポセイドン》作戦の功績により昇進)は秘密裏に亡命した元プラント最高評議会議長の一人娘、ラクス・クラインとの交際の末、めでたく結婚することとなった。

彼の上司、大日本帝国一の撃墜数(スコア)を誇る皇国最強の撃墜王(エース)の白銀武大尉(戸籍上は婿入りしたことで煌武院武となっていたが、政治的な場以外では旧姓で通していた)は彼らのために煌武院家の伝で式の手配をほぼ全面的に引き受け、企画をしてくれたのである。

そして彼らは今、いよいよ3日後に迫った結婚式のために現在居住しているL4大日本帝国領居住コロニー名古屋から地球に向かう貨客船に搭乗したのであった。しかし、彼らの幸せへの旅路はその出発点から何者かの妨害を受けることを、二人はこの時点では知る由もなかった。

 

 

 キラ達が登場している貨客船大瑠璃丸は日本の軌道ステーション、アメノミハシラとL4コロニーを往復している定期船だ。大戦から1年以上が過ぎていたが、未だに元ザフト兵やジャンク屋等による海賊行為が多発していたこともあり、その運行数は戦前ほど多くはない。

そしてL4からデブリベルトを抜けて地球に向かう針路を取っていた大瑠璃は航路の途中で自艦に接近する物体を捉えていた。

「艦長!レーダーが距離3000イエロー32マーク12アルファに浮遊物を確認しました。今モニターに映像出します」

「……これはコンテナだな…………国籍マークは旧ジャンク屋連合のものか」

「どこかから流れてきたんですかね?見た感じボロボロですし、かなり長い間宇宙を彷徨っていたのかもしれませんな」

大瑠璃丸はそのコンテナの推定コースを割り出し、このまま大瑠璃丸が進んでも接触しないことを確認した。しかし、一応コンテナから一定の距離を取って前進することを戸川は選んだ。

 

「コンテナ、後方に抜けます……!?待ってください!!コンテナから謎の飛行物体が発進しました!!こちらに向かってきます!?……MSです!!」

航宙士の真笠からの報告を受けた戸川はすぐに通信長の荏田に振り向いた。

「海賊か!?リア通信長、軍と至急連絡を取ってくれ!!」

「艦長、ここらはまだ我が国の宇宙軍の縄張りですよ?そんなところに海賊なんていますかね?あれが宇宙軍に関係ある機体だって言われた方が説得力ありますよ?」

「バカヤロウ!日本の関係者だったらこの距離にきたら何らかのリアクションをとる!連絡できないような事情を抱えた特殊任務をこなしているのなら定刻通りにこの宙域を通過する民間船に見つかるようなヘマはせん!いいから早く軍と繋げ!!」

大瑠璃丸の船長、戸川は昨年退職した元駆逐艦の乗組員だ。彼は軍での経験から接近する物体が味方ではなく、襲撃者であると瞬時に判断した。

 

『こちら大日本帝国宇宙軍安土管制本部。大瑠璃丸、応答せよ』

「こちら扶桑運輸、貨客船大瑠璃丸!現在本艦に海賊と思われるMSが接近」

「船長!!MSが!!」

副長の市倉の絶叫に反応した戸川が接近するMSの機影を映す正面モニターに視線を移したその時だった。凄まじい衝撃が大型貨客船である大瑠璃丸を激しく揺さぶった。

凄まじい衝撃で戸川はまるでボクサーのパンチを喰らったように吹っ飛ばされ、艦橋の壁面に頭部を強打する。脳が揺れて目の前の景色もまるで遊園地の遊具に乗っているときのように回転して見えた。

『……どうした大瑠璃丸!?応答せよ!!』

通信機からは安土管制本部からの呼びかけが流れている。一方、艦橋にいたクルーは皆先ほどの凄まじい衝撃で吹き飛ばされ、通信機から流れてくる呼びかけの声に応えることができないでいた。

しかしその時、応答するものがいないはずの無線に応えるものが現れた。

「こちら大瑠璃丸……すまないこちらの勘違いだった。本艦は前方から漂流してきたデブリを敵性勢力と誤認したようだ……どうやらあのデブリはザフトのMSのスクラップらしい。心配かけてすまない。少し前まで駆逐艦乗りをしていたせいか、ついMSが現れると緊張してしまう」

苦笑交じりに安土管制本部の管制官と応答しているのは紛れもなく戸川の声だ。しかし、その戸川は艦橋の壁面に叩きつけられて意識が朦朧としている状態にあり、とても管制官との応答ができる容態ではない。

『…………誤認であったのなら幸いだ。しかし、大瑠璃丸。今度からはもう少し落ち着いて状況を判断するようにしてほしい。常に緊張感を持って任務に臨む姿勢は理解できるが、誤認やそれに基づく通報は好ましからざることだ。理由が理由とはいえ、今回の一件は扶桑運輸に報告する必要がある』

「責任は後で船長たる私が取りましょう。迷惑をかけて申し訳なかった。これで失礼する」

『貴艦の航海の安全を祈る』

安土管制本部と繋がれていた通信が切られる。しかし、艦橋の誰もそのような操作はしていない。艦橋にいたクルーたちは皆戸惑いの表情を浮かべている。

 

「……一体何が起きているんだ!?先ほどの通信はなんだ!?」

意識がはっきりとしてきた戸川がリア通信長に捲くし立てる。

「わ……分かりません!?我々は何もしていません!!」

「く……もう一度安土航宙本部と通信を繋ぐんだ!!」

「了解です……!?船長!!通信機能が使えません!!」

リア通信長の報告を聞いた戸川は目を見開く。更にそこに航宙士達からも悲鳴のような報告が入る。

「船長!!操舵も不可能です!!操縦システムがこちらの命令を受け付けません!!」

「船内の通信も駄目です!!更に船内のセキュリティシステムが勝手に作動!船内のあちこちでセーフティシャッターは下りています!!」

戸川は次々と入る報告に顔を青くする。その時、操作不能だった船内通信機能が突然起動し、艦橋のモニターにヘルメットで顔を隠した人物の姿が映し出された。

 

『大瑠璃丸の全乗組員に通達する。大瑠璃丸は我らヴァンガードが占領した。繰り返す、大瑠璃丸は我らヴァンガードが占領した!』

突然の通告に艦橋のクルー達も驚きを隠せない。

「一体何が起きているんだ!?今の放送はどこから流されているんだ!?」

「分かりません!?船内の全システムの制御が奪われています!!救難信号も打てません!!」

更に、戸惑うクルー達の下に犯人と目される人物から直接通信が届く。

『艦橋のクルーに通告する。無駄な抵抗はやめて全員こちらの指示に従え』

「貴様等は何者だ!?目的は何だ!?身代金か!?」

戸川は思わず声を荒げる。

『我々はヴァンガード。我々の要求は乗客の中からある人物を引き渡してもらうことだ』

「……誰を引き渡せというのだ?」

戸川は乗客を売り渡してまで自身の命を繋ぎとめようとするような浅ましい人間ではない。しかし、外部と通信を取ることが不可能である以上自分達でできるかぎりのことをするしかない。交渉のためには相手について知る必要があると彼は判断したのだ。そしてヴァンガードのメンバーを名乗る謎の人物は要求を口にする。

「キラ・ヤマトとマリカ・ムサだ。乗務員に指示させてすぐに彼らを緊急脱出艇に乗せろ。既に乗客名簿はチェックしている。タイムリミットは30分だ。それまでに要求が受け入れられない場合、この船の生命維持設備を停止させてもらうことになる。こちらは乗員が動けなくなったころを見計らってお目当てのやつらを拉致する余裕もあるから、交渉をするつもりはこちらには毛頭ないということを付け加えておこう…………船長の懸命な判断を期待しよう」

そう言い残して犯人からの通信が途絶えた。同時に、通信設備が船内通信に限って復旧した。さきほどまで全通信システムは犯人が握っていたはずだ。これが復旧したということは犯人による仕業に間違いない。恐らくこれはクルーが速やかに要求を満たすことができるようにするためのお膳立てだろう。

 

「……どうしますか、船長」

市倉副長が不安げに戸川に尋ねる。ここで犯人の要求を呑もうが拒もうが指名された二人の乗員は拉致されることは確定だ。しかし、要求を呑めばその二人以外に犠牲を出すことはない。逆に要求を拒めば二人は連れ去られ、更に生命維持装置が停止するために乗員乗客は命の危険に曝されることとなる。

「通信長、どうにかして外部とコンタクトは取れんのか?」

もはや事態はこの場の船員だけで打開することは不可能だと考えた戸川は何とかしてこの事態を軍に通報することをまず考えた。旧世紀のアメリカの大衆映画じゃああるまいし、こんな事態に陥った船員たちが自分達の力で犯人を捕まえるなんてことは不可能だと彼は結論を下したのだ。

「駄目です。この船の全システムがこちらからの操作を受け付けていません。おそらく、大瑠璃丸の全システムは犯人側の制御下にあります。緊急信号も発進できません」

「船長、脱出艇の緊急信号発生装置は使えないでしょうか?あれならば本艦のコンピュータと繋がっていませんから、犯人側の手に墜ちている可能性は低いですし」

副長からの提案に戸川は首を横に振る。

「駄目だ。脱出艇に搭載されている発進装置の出力は小さすぎる。運よく軍の哨戒機が信号を捕らえてくれない限りはまず増援は期待できんだろう。それに、船内の全システムは犯人に掌握されている。脱出艇を船から出そうとしてハッチを空ければ勘付かれる」

 

 打つ手は無い。しかし、船乗りとして客を犠牲に生きながらえることには抵抗を感じずにはいられない。

「……艦長、ご決断を」

艦橋にいる全クルーの目が戸川に向けられる。クルーの命を護るため、乗客を危険から護るためにここで己は決断を下さなければならない。それが船を託された者の責務だ。船が沈む最後の瞬間まで船長は乗員乗客のために全てを尽くす義務がある。

 

 戸川は覚悟を決めた。

「……船内通信を使って指名された男女を脱出艇のハンガーに連れ出すように添乗員に指示を出してくれ。彼らには、ハンガーで私が事情を説明する」

艦橋のクルーは皆険しい表情を浮かべているが、異を唱えることはしなかった。これが戸川にとった苦渋の決断であることは彼らにも分かっていたのである。

「船長、僕も付き添います。脱出艇の通信機の出力を上げる方法がないか、確かめさせてください」

戸川は無言でリアを促した。そして押し黙るクルー達に背を向けて、戸川らは艦橋を静かに後にした。

 

 

 

 

「僕達を引き渡せ……それがむこうの要求なのですか?」

ハンガーに連れてこられた青年……キラ・ヤマトは険しい表情を浮かべている。傍らに寄り添う女性――マリカも不安そうに青年の腕を抱きしめている。雰囲気から察するに、彼らは男女の仲にあるようだ。

「そうです。犯人はこの艦のメインシステムを掌握しており、生命維持システムも彼らの思いのままという状態です。要求が受け入れられない場合は艦の生命維持システムを停止させ、我々が動けなくなったところで貴方がたを拉致するだけだと犯人は言っていました」

「僕は犯人の要求に従うことにした船長の判断を支持します。しかし、できれば彼女は危険に曝したくありません」

「しかし、あちら側は交渉する気は無いようです。なんせ、あちら側には強硬手段という奥の手があります」

打つ手はこちらには無い。だが、戸川は彼らに恨まれようとも、一人でも多くの乗客乗員を護る義務がある。そのためには彼らを説得する必要があるのだ。しかし、罵倒され、拒絶されることも考えていた戸川に青年がかけた言葉は、彼の予想だにしないものであった。

 

「艦長、僕に残りの25分を預けてくれませんか?」

戸川は青年にかけられた言葉の意味が分からず、一瞬呆然とする。

「僕は元々プログラム関係の技術者をやっていました。ハッキングされているこの船のメインシステムを奪還できるかもしれません。犯人が示した時間の限界まで、やらせてください」

「し、しかし、この最新鋭の船のメインシステムを数分もかけずにハッキングした相手ですよ?とても勝ち目は……」

「僕はMSのOS作成にも携わっていたこともある軍人です。それに、折角時間があるんです。足掻かなければ損だと思いませんか?」

青年は今の状況とは不釣合いなほど、朗らかな笑みを見せた。

 

 

 

 

 青年は持参していた小型端末を使って大瑠璃丸のメインコンピュータへの干渉を開始する。

「……これはこの船内の端末からのハッキングじゃないな。犯人の使用した端末が見つけられない」

青年――キラ・ヤマトの零した言葉に戸川は眉を顰める。

「……どういうことだ?船内の共犯者にジャックされているんじゃないのか?」

船内にいるはずの犯人を拿捕しようと考えていた戸川は予想外のことに訝しむ。

「違います。……しかし、船外から直接この船のコンピューターに干渉することは不可能ではありません。軍機にあたりますので詳しくは説明できませんが、いくつか心当たりもあります」

キラの言う心当たりとは、アクタイオン・ヘビーインダストリーが開発したバチルスウェポンシステムだ。ミラージュコロイド粒子を媒介に任意の量子コンピュータに特殊なコンピュータウィルスを送信し、感染したコンピュータを掌握することができる。

このシステムを使用されれば、戦場で艦船やMSのメインコンピュータがハッキングされる恐れがある。そこで現在、日本軍ではミラージュコロイド粒子を媒介とした干渉を受けないようにコンピュータを特殊な組織で覆う措置を取っている。しかし、この措置は機密保持のために軍のコンピュータにしか施されていない。当然ながら民間船には施されていなかった。

「だけど……ミラージュコロイド粒子を媒介に干渉してくるってことは、逆もまた、可能だよね!!」

キラは誰にも聞こえないくらいの小さな声でつぶやく。

キーボードをたたく軽快な音が響くと同時にキラの逆襲が始まった。

 

 

 

 

 大瑠璃丸の艦橋の上部に取り付いているMSの中で、一人の男が凄まじい速さでキーボードを叩いていた。最初に大瑠璃丸を揺さぶった凄まじい衝撃はこの機体が大瑠璃丸に衝突したときのものである。このMSは大瑠璃丸がその姿を捉えることができない角度で取り付いたため、戸川らは未だに大瑠璃丸に取り付いているこの機体の正体に気がつけなかった。

「クソ、キラ・ヤマトォォ!!貴様ァ!!」

そのMSのコックピットの中で長髪の男が怨嗟の声をあげる。彼は今、電子の海で一人の男と戦闘中であった。しかし、現在は一進一退、いや、僅かに男の分が悪い。

「成功作は貴様ではない!!貴様を下して俺がそれを証明する!!」

男は現在電子の海で戦っている相手が自身の怨敵、キラ・ヤマトであることを確信していた。このタイミングで大瑠璃丸のシステムを掌握したこの機体のコンピュータをハッキングしようとする者など、彼以外にいるはずがない。あの導師からもたらされた情報にも一致する。確かにハッカーとしての能力も高い。

だが、ここで勝負に凝ったことは彼の落ち度だった。大瑠璃丸からの電子上の攻撃を彼は凌ぎきることはできなかったのだ。ハッカーとしての能力で、男はキラ・ヤマトよりも劣っていた。

「クソ!クソ!クソ!!これが成功作だというのか!?俺は!俺は失敗作だから勝てないのか!?」

男は激しく歯軋りするが、それで戦局が変化するわけがない。遂に、彼の機体のコンピュータは陥落してしまった。

 

 

「やった!!敵のコンピュータを掌握しました!!船内の全システムの管制も取り戻しました!!」

キラは満面の笑みを浮かべながら思わずガッツポーズをする。戸川も喜色を浮かべながらキラの肩を叩く。

「よくやってくれた!!すぐに軍に通報する!!これでこの船は」

「そこまでですよ、キラ・ヤマト…………全く、カナードも遊びすぎですよ。ムキになるからこんなことになる」

その時、ハンガーに落ち着いた声が響いた。その声の持ち主はこの船の通信長、リアだ。彼はどこから取り出したのか、船外活動用の宇宙服を着て、両手に2丁の拳銃を握りながらハンガーに立っていた。

 

「リア通信長!!貴様はいっ」

そこまで口にしたところで戸川は頭を銃弾で撃ちぬかれて沈黙した。サイレンサーを使っているため、銃声はとても静かなものだった。

崩れ落ちる戸川の姿を見たマリカは思わず恐怖でキラにしがみつく。リアはキラではなく、彼にしがみつくマリカに銃口を向ける。

「キラ・ヤマト。今すぐハッキングをやめてください。要求が受け入れられない場合は、強硬手段に出なければなりません」

「……君も襲撃犯のお仲間か。でも、君達の目的は僕達を拉致することのはずだ。ここで殺すことができるのかい?」

キラは女性を庇うように前に出て、冷静に交渉しようとする。

「確かに僕は貴方たちを殺すことはできません。でも、足の一本や二本撃ちぬくことなら許容範囲だって上司から言質とってますから……まぁ、確かに、ラクス・クラインには手が出せませんが」

リアの言葉でキラの顔が一層険しくなる。

「お迎えに参りました。ラクス・クライン嬢。礼をつくしてお出迎えしたかったのですが、残念ながら礼を尽くして貴女を迎えるだけの余裕はありませんでした」

「……私に何のご用件でしょうか、プレア・レヴェリー」

マリカ改め、ラクスがリアに非難じみた視線を送る。しかし、リア――プレア・レヴェリーと呼ばれた男はその顔に喜色を浮かべる。

「おや、私の顔を覚えていらっしゃいましたか。光栄ですね」

「……先ほどまでは気がつけませんでしたわ。月にいたころ、私の監視役兼連絡役だった貴方はもっと若かった――見たところ、12かそこらに見えました。しかし……」

「私自身、実は結構わけありなんですよ。さて、用件については、目的地に到着次第、説明させていただきます。私には、貴女に情報をむやみやたらと話す権限がないものでしてね……それよりキラさん。もういいでしょう?」

キラは悔しげに口元を歪めて敵コンピュータへの干渉を止める。その様子を見たリアは笑顔を浮かべた。

「懸命です。……さて、お二方にはすぐにこの救命艇に乗船してもらいます。既に宣告から30分が過ぎましたしね」

 

 

 

 キラはラクスと共にリアに険しい視線を送りながらハンガーに収められた救命艇に乗り込んだ。




これが今年最後の投稿となります。皆様、よいお年を。
来年も機動戦士ガンダムSEEDZIPANGUをよろしくお願いします。

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