機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU BYROADS   作:後藤陸将

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後少しで断章は完結します。
とりあえず、そのあとは種死編に入れたらいいなぁと思っています。


PHASE-X6 守るために

「艦長!!哨戒中の『彩雲』二号機から入電です。『廃棄コロニーメンデル周辺宙域に熱源を探知、熱紋パターンはZGMF-10Aフリーダムと合致。更にそれに続く複数の熱源あり。熱紋はジンとストライクダガー』とのことです」

宇宙軍第三航宙艦隊の航宙母艦、蒼龍の艦橋で通信長柿崎大貴中尉が哨戒機から受けた通信について艦長である財部伸吾大佐に報告する。

「ストライクダガーとジンの混成部隊だと?」

「はい。正規部隊ではないようです」

「……司令官。どのように対処しますか」

財部は隣の席に座る第三航宙艦隊司令竹林宗治少将に視線を移し、指示を乞うた。竹林は髭に手をあててしばし考えに耽ると、静かな声音で命令した。

「……このタイミングで行動に出たことは些か気になる。しかし、我々の任務を考えるとやつらを放置しておくわけにもいくまい。『風巻』を先行させろ!第三航宙艦隊は針路をメンデルに取る!!」

 

 

 第三航宙艦隊の任務は、日本の貨客船を占領してアメノミハシラに特攻させたテログループの行方を操作することだ。防衛省の分析を受け、彼らはテログループが事件当日に潜伏していたと思われる宙域を虱潰しに捜索していた。その最中に何れの国にも属さないMSの発見だ。疑ってかかるのは当然である。

しかし、自分たちが広範囲な捜査網を敷いていることは簡単に分かるはずだ。仮にも日本の貨客船を人知れず乗っ取ることに成功するほどの能力を秘めた組織がこのように自分からボロを出すことをするだろうか。ひょっとすると、これは罠の可能性もある。

そう考えた財部は乗員を戦闘配置につかせ、いつでも艦上機が発艦できる準備を整えるように艦隊に命じた。

 

 

 

 

「くそ!!追手か!!」

フリーダムのコックピットの中でキラは悪態をつく。追手はジンが4機にストライクダガーが8機、キラの腕とフリーダムの性能を持ってすれば鎧袖一触で撃ち落せる相手ではあるし、そうでなくても速度性能に物を言わせて遁走することもできたはずだ。だが、キラは迎撃という選択肢を取ることに躊躇した。その理由は彼の傍らで意識を失っている恋人の容態にあった。

現在、着の身着のままの脱出ということもあって、彼らはMSにパイロットスーツを着用せずにMSに搭乗している。パイロットスーツはパイロットをGから護り、その体調を一定の状態に保つ働きがあるため、これを着用していなければパイロットは戦闘機動を取ることができないのだ。

補給や整備の行き渡った正規軍であれば非常時用に精神安定剤等をコックピット内に常備しているため、機動の負荷に耐えられなくなり加速度病に陥ったとしても適切な応急処置を施せる。しかし、私設武装組織であるマルキオ一味の機体にはそのようなものは設置されていない。

正規の軍人としての教練を受けたキラはパイロットスーツなしでも短時間であれば強い負荷がかかる激しい加速や戦闘にも耐えられるが、コーディネーターとはいえ民間人であるラクスに耐えられるとは思えない。

また、ラクスは救出されるまでの丸一日以上の間マルキオたちに監禁されていた。その最中に彼女の身に何があったことは彼女の様子から明白だ。何があったのかは分からないが、ラクスは精神的にも肉体的にも万全な状態にあるとは言えない。

この状態のまま戦闘や急加速などの搭乗者に負荷のかかる機動をした場合、ラクスは加速度病に陥る危険性もある。加速度病になり、意識不明の状態で嘔吐した場合、脱水症状や吐瀉物による窒息の危険がある以上、キラにはラクスに負担をかける選択肢を取ることができなかった。

 

 キラは機体にレーダーに表示されている敵機を表す光点に視線を映す。敵機との距離は後数分でMSの携行火器の射程に入るほどの距離しかない。こうなれば、ラクスの負担を承知で加速をかけるか、パイロットスーツも着用していない意識不明の民間人に負荷を与えない機動での戦闘で敵機を追い払うかの二者択一(オルタネイティヴ)だ。

キラは迷う。その迷う時間も刻一刻と削られていく中、キラはハーネスをつけている愛する恋人に目を配る。彼女を失うことなど考えたくはない。

与えられた選択肢は一人が確実に生き残るか、二人で生きるか死ぬか。だが、最愛の女性を危険に曝して得た命で日々をのうのうと暮らしていくことを是とできるほどキラは汚れてはいなかった。

 

 キラはラクスの髪を撫で、操縦桿を握る。足をフットバーに置き、各種モニターを作動させる。

「待ってて、すぐに終わるから」

キラはフリーダムを反転、追撃するMS部隊と相対させた。

「そして帰ろう、みんなのところへ……」

キラはフットバーを蹴り、愛しい人を護るべく戦場にその身を投じた。

 

 

 

 

 

「艦長、フリーダムが反転しました。後続の部隊につっこんできます」

「……どういうことだ?やつらは仲間ではないのか?」

「少し待ってください。先行した『風巻』が捉えた光学映像を出します」

ややあって蒼龍の艦橋の中央モニターに『風巻』が捉えた光学映像が映し出される。そこに映し出されたのは多数のジンやストライクダガーに対して大立ち回りを演じるフリーダムの姿だった。フリーダムはその圧倒的な火力を持って弾幕を展開し、後続部隊を火球に変えていく。その機動はフィギュアスケートの選手の流れるような氷上の舞踏を思わせるほど見事なものであった。

だが、それを隣で見ていた竹林はモニターに映し出されるフリーダムの姿に違和感を感じた。

「参謀、私の記憶にあるフリーダムとあの機体の姿はいささか異なるように感じるのだが、君はどう思う?」

竹林は航宙参謀の村木重雄中佐に疑問を投げかける。

「……はっ。僭越ながら本官も同じことを感じておりました。具体的に言えば脇腹の対艦刀、腰部レールガンといったところでしょうか。また、翼部のプラズマ収束ビーム砲も別のものに換装されているようです」

「何者かによる改装がなされているということか……しかし、あのフリーダムに改装を施して運用できるほどの組織とは、一体どんな組織なのだ?」

「私見ですが……弾丸の初速と口径から推測するに、あの腰部レールガンは大西洋連邦のエクツァーンではないかと。そしてあの対艦刀は大西洋連邦が開発した統合型ストライカーパック『I.W.S.P』に搭載されている9.1m対艦刀に間違いありません。これらを運用する組織を考えた場合、最も可能性はあるのは……」

「大西洋連邦の援助を受けている組織……または戦後のどさくさに紛れて各国の兵器を漁ったジャンク屋の残党といったところか。どちらにせよ油断はできないということだな」

竹林は参謀との会話を切り上ると、通信管制官にその視線を移した。

「第三航宙艦隊の全艦に通信を繋いでくれ」

「了解」

ややあって回線が繋がる。竹林は受話器を手に取って言った。

『総員戦闘配置につけ!!蒼龍、飛龍のMS隊はただちに発艦し、敵MS部隊を攻撃せよ!!ただし、捕虜を取るために可能な限り敵MSを無力化することを優先せよ』

 

 

 竹林の命令を受けて蒼龍、飛龍の両艦からカタパルトがせり出し次々とMS隊が発艦体勢にはいる。

『機龍1、発進準備完了だ』

『HQより機龍1、発進を許可する。繰り返す、発進を許可する』

『機龍1了解――――さ~て、野郎共!憲兵さんは不埒な輩の生け捕りが御所望だ!あまりいびりすぎて殺すんじゃねぇぞ!!」

機龍1――権藤吾郎大佐は配下のベテランパイロット達に忠告する。

『分かりました……それで隊長。隊長はとこまでいびるつもりなんですか?』

『佐藤……俺がそんなドSに見えるのか?まぁ、いびりたいのはやまやまなんだがな、今回は尋問部隊に任せるさ。後で司令官殿からお小言を頂くのはお断りだ』

実は第三航宙艦隊司令官の竹林は権藤が新人として配属された部隊の上官だった。まるで中学校の教師のようにとくとくと続く説教を何度も受けた権藤は彼に苦手意識を持っているのである。

『HQより機龍1。後がつかえていますからとっとと出てってください。それにこの会話は自分の判断で艦橋に聞かせることができることをお忘れなき用に』

『あ~分かった分かった、もう出ますよ。機龍1――陽炎発進するぞ!!全機、続けぇ!!』

カタパルトに競りあがってきた灰色の機体は僅かなずれもなく立て続けに発進し、発艦からわずか数秒で陣形を整えた。

『機龍1から機龍隊。第二小隊、第三小隊は敵右翼のジン部隊を無力化しろ。フリーダムは俺の第一小隊が、敵左翼は飛龍の連中が相手する。いいか、焦るなよ。武装とセンサーの類を優先的に潰していけ』

『了解!!!!』

権藤が自身の率いる第一小隊をフリーダムの相手に当てたのは当然のことだった。

彼と彼が率いる第一小隊は前回の大戦から編成が変わっていないベテラン部隊であり、そのチームワークと経験は帝国でもトップクラスのものだ。そして彼らは前回の大戦でエースパイロットが搭乗したフリーダムと交戦した経験もあり、フリーダムとの適切な戦いかたを実戦で学んでいた。

また、他のMS隊とは違い、機龍隊には宇宙軍の次期主力MSである陽炎改が先行配備されているということも大きい。前回の大戦で猛威を振るったフリーダムを相手に現在の宇宙軍の主力MSである白鷺で対応することは危険だと判断したのである。

 

『さあて……いくぞ、結城!!佐藤!!新城!!』

権藤は機体のフットバーを蹴り、フリーダムへの突撃体勢に入る。一対他を特意とする砲撃戦用MSを相手に距離を開けることは愚の骨頂であることを身をもって体験している権藤は近接戦闘でフリーダムを無力化するつもりだ。だが、いざ長刀を振りかぶったところで目の前のフリーダムから通信が入った。

「こちらは大日本帝国宇宙軍安土航宙隊第13航宙戦隊所属、大和キラ少尉です!!攻撃を中止してください!!」

フリーダムのコックピットから通信を繋げてきた相手の顔を認識した権藤は目を見開いた。さらに慌てて機体を急停止させ、小隊の全機もその場に踏みとどまらせた。

「大和少尉だと……帝国の撃墜王(エースパイロット)が何故ここにいるんだ!?」

キラとラクスが誘拐されていた件は艦隊の司令クラスにしか明かされていなかったため、権藤は事態を掴むことができないでいた。だが、権藤自身もキラとは軍の内部広報や演習で何度か顔を合わせたことがある。そのため、顔と名前は即座に一致することは確認できた。

権藤はまた上層部が何か隠していることを察して内心で舌打ちをする。機密もいいが、教えるべきことは最低限こちらにも教えてもらいたい。もしもこのまま斬りかかっていたら、自分の方が無力化されていたのかもしれないのだから。

『こちら機龍1。フリーダムのパイロットとの交信に成功した。尚、パイロットは安土航宙隊第13航宙戦隊の大和少尉と名乗っている。指示を乞う』

面倒なことになった以上、こちらの判断では簡単には動けない。ここは事情を知っているお偉いさんの指示を仰いだほうが得策だ。

ややあって、竹林が直々に権藤に命令した。

「権藤大佐。彼をMSごとこの蒼龍まで連行して欲しい。また、万が一に備えて銃口は下ろさずに監視をつづけておいてくれ』

『了解しましたよ』

権藤は司令部との回線が切れると、フリーダムに対して回線を再度開いた。

「……君がそのMSに乗っている事情やらハーネスに固定させている嬢ちゃんやら、こちらとしては状況が把握できない。そのため、貴官には我々の母艦、蒼龍に来てもらいたい。尚、すまんがしばらくはこちらは銃を構えたままということになる」

「わかりました。でも、急いでください。彼女の容態がよくないんです」

大和少尉の口調から、彼が焦っていることは理解できた。

「了解した。できるだけ急いでやる」

そして権藤指揮下の第一小隊はフリーダムを四方から取り囲む陣形を保ちながら蒼龍へと向かった。

 

 

 

 

「くそ!!キラ・ヤマトめ!!」

先ほどまでキラが拘留されていた個室で全裸のまま縛られていたカナードは副官のメリオルに助けられ、一路ハンガーを目指していた。

「メリオル!!俺のハイペリオンは出せるのか!?」

「出せます。しかし、周囲には日本帝国の空母打撃部隊が遊弋しているため、キラ・ヤマトと戦える可能性は高いとはいえません」

「構わん!!やつがいるのなら俺はそれでいい……邪魔する雑魚どもは叩きのめすだけだ!!」

メリオルは彼が一度言い出したことを撤回することはないことを知っている。色々と言いたいことはあったが、自分の成すべきことはカナードの望みをかなえることであると言い聞かせた彼女はカナードと別れ、オルテギュアに向かった。

何があってもカナードを護ることができるようにするために。例えそれが、自身の命の引き換えでなければ成しえないことであっても彼女が躊躇することはないだろう。彼女のカナードを見る眼差しは、まるでわがままな我が子に振り回される母のようであった。

 

 メリオルと分かれたカナードはハンガーに出ると、慌てふためいている作業員を尻目にハイペリオンのコックピットに飛び乗った。即座にOSを起動させると、機体を移動させる。既にフリーダムの追撃部隊が出ているらしいが、有象無象の者たちがキラを討てるとは思わない。だが、彼らとの交戦でキラは多少なりとも時間を費やしたことは間違いない。

今すぐにやつを追いかければ、やつと戦う機会がある。やつを討ち、自分こそが唯一のスーパーコーディネーターであると実証できる。それだけがカナード・パルスのアイデンティティー確立する唯一の方法なのだ。

「邪魔だ貴様ら!!とっととどけ!!」

カナードの駆るハイペリオンは脱出の準備で慌しくなるハンガーの工員の都合などお構いなしに強引に発進ゲートに向かう。何人もの作業員が慌ててハイペリオンの針路から飛び退いた。

「全システムオールグリーン…………CAT-X1/3ハイペリオン一号機、カナード・パルス発進するぞ!!」

そしてカナードは漆黒の宇宙へと飛び出した。自身の敵、キラ・ヤマトをこの手で討ち取るために。

 

 

 

 

 蒼龍に着艦したフリーダムのコックピットを開放し、キラはラクスをその手に抱えたまま無重力空間に飛び出した。コロニー内とは違い、重力がないためにラクスを抱える重さは感じない。

「大和少尉は君かね?」

キラは近づいてくる髭を蓄えた老将の肩についた階級章を見て反射的に敬礼しようとする。だが、ラクスを抱えているために右腕は挙げられない。

「敬礼はいい。私はこの艦隊の司令官を任された竹林だ。……そこの君、彼が抱えている女性を医務室にお連れしなさい。色々と聞きたいことが彼にはあるが、それよりも女性の容態が気になる」

「彼女は薬物を投与され、なんらかの催眠措置がとられていた可能性があります。すぐに検査してください」

保安部員の一人が竹林に手招きされ、キラからラクスを受け取ってその場を後にする。そしてそれを見届けた竹林が厳しい声音でキラに語りかける。

「それよりも、私から君に質問がある。君もその腕で抱かれている女性のことで色々とあることは分かっているが、こちらとしても君が本物の大和少尉であることを確認する必要があるのだよ。もしも君が偽者だったとしたらかなり面倒なことになるからな」

キラは自身を取り囲むように配置されている保安部員が銃を抱える腕に力を籠めたことを察知した。

「君が本物であるということを証明するために、私の質問に答えてもらおうか。本物なら応えられるはずだと白銀大尉のお墨付きをもらっている」

「わかりました」

キラは老将と堂々と対峙する。恐らく、竹林は本物しか知りえないはずのプライベートなことや、アークエンジェルにいたころのことを聞くのだろう。だが、本物である以上質問を恐れる理由はないのだ。老将は堂々としたキラの態度に笑みを浮かべる。

 

「よろしい。では質問だ。……君が第二次ヤキンドゥーエ戦役の前に叢雲劾の剛力ーと交換したポケモンはなんだ?」

キラは記憶を探る。確か、あれは劾が伝を通じて入手した通信ケーブルを初めて使ったときのことだった。あの頃、クリスタルを初めてシナリオ攻略の中盤にさしかかった自分は丹波のジム戦に備えて戦力を欲していて、手っ取り早い戦力増強として通信進化という選択をしたのだ。珍しく気分の浮ついた劾を見て気持ち悪いと思ったことを今でも覚えている。そしてキラは堂々と答えを言った。

「ゴーストです」

キラの答えに竹林は表情を和らげ、手を下ろすしぐさをした。同時にキラの周囲を取り囲んでいた保安部員が手に持っていた銃を降ろす。

「……どうやら、君は本物の大和少尉みたいだな。君があそこにいた経緯までは大体調べがついているが、一応確認のために事情聴取」

だが、竹林の喉まで出かかった言葉はハンガーの作業班長の大声で遮られた。

「竹林司令!!艦橋より緊急通信です!!」

「なんだというのだ!全く!!」

竹林はすばやくハンガー内の通信機の元へと駆け寄り、受話器を手にする。

「私だ。一体何が起きた?」

通信相手である艦橋の村木参謀は上ずった声で叫んだ。

「司令!!至急艦橋にお戻りください!!メンデルから新手の部隊が出現しました!!飛龍のMS隊が蹂躙されています!!」

 

 

 

 

「雑魚には用はない!!」

カナードのハイペリオンはアルミューレ・リュミエールを展開し、日本のMSを一方的に攻撃していた。一方、日本側のMSはアルミューレ・リュミエールを破る手立てがないと判断すると、ひたすら回避に専念していた。だが、ちょこまかと逃げ回る雑魚の姿にカナードはフラストレーションを募らせていた。

「ええい!!いい加減に……」

しかしその時、上方から多数の閃光が降り注ぎ、少なくないMSが白鷺が被弾して火球となった。カナードは驚きの表情を浮かべて上方を見やる。そこにいたのはYMF-X000Aドレッドノートと見慣れない巨大なMAだった。

『カナード!!提案があります』

ドレッドノートを駆るプレアから通信がきた。カナードは通信に心底面倒くさそうな態度を見せる。

「何のようだ。貴様もキラ・ヤマトとは因縁があることは知っているが、俺はやつの相手を譲るつもりはないぞ」

カナードはプレアが自分達(スーパーコーディネーター)を生み出す資金と引き換えに製造された短命なクローンであるということは知っていた。だが、キラ・ヤマトを恨む理由があるからといって相手を譲るつもりはカナードには毛頭ない。

 

『……貴方の懸念は分かりますが。僕にはそんなつもりはありませんよ』

プレアはカナードの意見を苦笑しながら否定する。

『私はペルグランデと共に突撃して敵艦隊の戦力をひきつけます。貴方はその隙にキラ・ヤマトが収容されたソウリュウ・タイプの空母に取り付いてください。できるだけ早く』

「貴様……何が狙いだ?」

カナードはプレアの提案に疑念を抱かずにはいられない。そんなことをして、一体彼らに何のメリットがあるのだろうか。

『もうすぐ、マルキオ様が脱出されます。そして私の望みはマルキオ様の脱出を成功させることです。彼らの艦隊まで突っ込んで暴れまわれば、その分マルキオ様は遠くに逃げることができます。その分の時間を稼ぐのに協力してくれれば、キラ・ヤマトの相手をお譲りします』

メンデルを見ると、確かにいくつかの光点が観測できる。メンデルを放棄し、逃亡するつもりなのだろう。そうなると、プレアのいう本音は真実の可能性は高い。カナードはプレアの提案に乗る意思を示した。

「いいだろう……貴様の企みに乗ってやる。しくじるなよ」

『私も、貴方の宿願が果たされることを期待していますよ』

カナードは薄く笑うと、フットバーを蹴っ飛ばして更に前に出た。目標にむけて、針路は真っ直ぐだ。

 

 

 

 

 

「状況はどうなっている!?」

艦橋に駆け込んだ竹林が村木に詰め寄る。

「MS2機とMA1機が接近中!!迎撃にあたったMS隊は蹴散らされました!!先ほど機龍隊の第一小隊が再出撃しましたが、彼らもMSの前に押さえ込まれています!!」

「第一小隊が押さえ込まれているだと!?」

村木の報告に竹林は驚きを隠せない。第一小隊は最新鋭機を任される精鋭部隊だ。それがわずか1機のMSに封殺されるとは。

「第一小隊を潜り抜けたもう1機はアルミューレ・リュミエールを展開!!本艦に迫っています!!」

「護衛部隊が対空砲撃を開始!!命中多数なれども効果なし!!」

「敵MA、無線誘導砲台を展開しています!!護衛部隊に被弾多数!!」

次々と艦橋に入る厳しい報告に竹林は歯軋りする。まさかテログループがこれほどの戦力を持っているとは彼も想定していなかったのだ。

 

「司令官!!ハンガーから連絡です!!大和少尉が敵から奪取したフリーダムで出るそうです!!彼は発艦許可を求めています」

その報告を聞いた竹林は即座にオペレーターに返事をする。

「許可したまえ。彼にはアルミューレ・リュミエールを装備した機体を相手にするように伝えてくれ」

「了解」

敵の機体も、パイロットもかなりのレベルであることは間違いないだろう。ならば、こちらも相応の機体とパイロットを当てなければ相手にできない。この状況下でその条件を満たすにはかつての大戦でその名を馳せた大和少尉とフリーダムだけだろう。竹林は青年に賭けたのだ。

 

 

 

 

 

 キラはフリーダムに乗り込むと、再度機体のOSを立ち上げる。そして正面のモニターにOSの起動画面が表示された。

 

 

Generation

Unsubdued

Nuclear

Drive

Assault

Module

 

 

 この機体のOSもストライクと同じGUNDAMだ。網膜投影ではなく、周囲はモニターになっている。ストライクとは異なり操縦には間接思考制御が使われているのだが、蓄積データがインプットされたパイロットスーツがない以上この機能も無用の長物なので、結局は間接思考制御を用いないマニュアルの操作となる。

つまり、周囲のモニターを見ながら間接思考制御無しで戦うということだ。そしてOSまでGUNDAMとくれば、ストライクに乗っていたころを思い出してしまう。2年の時を経て、自分はどこまで成長したのか、試したくなる気持ちも湧いてきた。

そして何故か、このフリーダムという機体に愛着を感じてしまう自分がいる。まるで長年連れ添った愛機のような感覚を覚えるのは何故だろうか。自分はザフト系列の機体には一度も乗ったことはないというのに。

 

『フリーダム、発艦願います』

オペレーターからの通信でキラは我に帰る。そうだ、今考えることはフリーダムに感じる愛着のことではなく、如何にみんなを護るかということだ。フリーダムのことは後でいくらでも考える時間はあるのだから。

 

 

「キラ・大和、フリーダム行きます!!」

 

キラの駆るフリーダムは星の海に蒼い翼を広げて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

形式番号 TSF-Type2

正式名称 二式戦術空間戦闘機『白鷺』

配備年数 C.E.71

設計   大日本帝国防衛省特殊技術研究開発本部

機体全高 19.5m

使用武装 71式突撃砲

     71式支援突撃砲

     70式近接戦闘長刀

     70式片手盾

     71式ビームサーベル

     71式複合砲

 

備考:XFJ-Type2との外見上の差異はない。

 

 

 XFJ-Type2の量産仕様である。整備性に難ありと判断された腕部内蔵兵装をオミットし、胸部ブロック以外の装甲も軽量化されている。しかし、それでも接近戦の鬼と称されたこの機体の実力を引き出すことは設計者が考えていたほど容易ではなく、結局調達は少数で打ち切られ、結局次期主力機の座を陽炎改に譲ることとなる。

だが、この機体の開発で培われた経験と技術は陽炎改に受け継がれており、陽炎の近接戦闘性能は白鷺に比べれば劣るとはいえ、他国の主力機の追随を許さないほどのものであった。

白鷺と陽炎改の各種部品の互換性も高かったため、主力機の代替わりに関わる財政的な負担も最小限で済まされた。

 

 

 

 

 

 

形式番号 XFJ-Type5

正式名称 試製五式戦術空間戦闘機『陽炎』

配備年数 C.E.71

設計   三友重工業

機体全高 18.0m

使用武装 71式突撃砲

     71式支援突撃砲

     70式近接戦闘長刀

     70式片手盾

     71式ビーム砲

     71式ビームサーベル

     71式複合砲

     71式高周波振動短刀

 

備考:外見はMuv-Luvシリーズに登場するF-15J『陽炎』

   ただし、脹脛の部分にスラスターを内蔵しているほか、甲型は跳躍ユニットの形が異なっている。(飛行機を思わせる形状ではなく、扁平な形状)

   撃震とは異なり、ナイフシースは膝にある。。

 

 

 白鷺の試験運用の結果、白鷺は近接戦闘能力秀で、ザフトのエースとも渡り合えるだけの性能を示した。しかし、その一方で豊富な近接武装を使いこなし、機体の力を出し切ることができるパイロットは極少数に留まる結果となった。ようは、機体の技術力についていけるだけの人材はそうそういなかったということである。

この結果を受けて白鷺の生産でそのノウハウを学び、実戦データの洗い出しで更なる改良点を見出していた三友重工業は搭乗者の能力によらず、一定以上の能力を引き出せる機体の設計に踏み切った。

その設計思考は徹底した基本性能の高性能化にある。枯れた技術とも呼ばれるものをも徹底的に取り込んだ本機はフレームの剛性や装甲の耐久力、腰部噴射ユニットの出力といったところから最高のものを求めた。

結果、撃震から白鷺に受け継がれた各種部品のある程度の共通性はほぼ失われたといってもいい。だが、白鷺にはなかった10年は軽く第一線で運用を続けることが可能になるであろう拡張や発展の設計用の余地を考えれば、次期主力機とするだけの価値はあるという試算が防衛省でも出ている。

また、肩部には多種多様な装備を取り付けることが可能なウェポンラックが設置されているため、偵察、強襲など任務に応じて様々なユニットを搭載できる。輸出も考え、改造すればストライカーパックに運用も可能になるように設計されているため、機体は胸部と噴射ユニットのみラミネート装甲が採用されており、劾が搭乗した機体には試験的に対ビーム蒸散塗装がされている。

 

劾が与えられた機体はその拡張性を十二分に発揮し、劾専用機に近い改修を受けている。主な改良点としては、ナイフシースはナイフが射出されるタイプに変更、頭部は特注の大型センサーマストを搭載、肩部ウェポンラックにはスラスターを増設しているほか、ナイフシース収納ユニットそのものにもビーム刃発生装置を組み込んだ。

 

 

 

 

 

 

形式番号 TSF-Type5

正式名称 五式戦術空間戦闘機『陽炎改』

配備年数 C.E.73

設計   三友重工業

機体全高 18.0m

使用武装 71式突撃砲

     71式支援突撃砲

     70式近接戦闘長刀

     70式片手盾

     71式ビーム砲

     71式ビームサーベル

     71式複合砲

     71式高周波振動短刀

 

備考:XFJ-Type5と外見上の差異は無い。しかし、宇宙軍使用の甲型、陸軍使用の乙型が存在し、跳躍ユニットの形状が若干異なる。

 

 ストライカーパックの換装で様々な状況に対応する連合のMSとは異なり、武装の換装のみで如何なる状況にも対応できるMSである。これは原型機となった陽炎の機体の優れた基礎設計の賜物である。

これは宇宙軍が各種ストライカーパックを十分な数だけ母艦で運用することを嫌がったことも影響している。

アークエンジェルで得られたデータを基に、各種ストライカーパックを適切に運用する航宙母艦を想定した場合、ストライカーパックの在庫で格納区画のスペースが少なからず奪われることが判明したのだ。1機につき3種類のストライカーパックを用意するだけでかなりの数のストライカーパックを必要とするのだから当然である。

また、ストライカーパック搭載機は、その性質上戦闘能力のほとんどをストライカーパックに頼っている。そのため、ストライカーパックを喪失した場合、戦闘力は大きく削がれてしまう。戦場では戦況に応じてストライカーパックをスムーズに交換することも難しかったため、宇宙軍ではストライカーパックは費用対効果では割に合わないと判断されていた。

これらの事情を考慮し、ストライカーパックを運用せずに如何なる戦場にも対応するMSということで宇宙軍が次期主力機に目をつけたのが陽炎だったということだ。

更に、陽炎は設計段階から各種の改良の余地を残しながら設計されている。戦間期に入るため、長ければ10年ほどは戦争は無いと判断した防衛省はその間の主力機として改修で性能を大きく底上げできる基礎性能に秀でたMSを運用するつもりだったため、改良の余地のある機体は魅力的だったのである。

尚、陽炎改は他の中立国からライセンス生産を申し込まれるほどの人気となった。




SEED ZIPANGUで紹介し忘れていた劾の搭乗機、陽炎の紹介も一緒に載せておきました。

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