機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU BYROADS   作:後藤陸将

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後2,3話で外伝にひとまず終止符を打つつもりです。


PHASE-X5 FREEDOM

 C.E.73 6月4日 L4 メンデル

 

 キラとラクスがマルキオの手に捕らえられ、個室に軟禁されてから二日ほど経過していた。キラの囚われている部屋の前には常に監視員が配置されており、キラは部屋でおとなしくしていることを余儀なくされている。

一昨日マルキオから明かされた自身の出生に関する秘密は確かに衝撃的なものであったが、ラクスはキラはキラであり、たとえどんな生まれであろうと自信の愛が揺らぐことはないと言ってくれた。そのため、キラは一人で閉じ込められたからといって塞ぎこむようなことはなかった。

しかし、一方で自身を愛してくれたラクスの身の安全が気になってしまう。食事や見張りの交代の時間などを見計らって脱走の算段を立てようとしたが、警備は厳重で助けが無ければまず脱出は不可能だろう。

愛する伴侶を奪われ、今すぐにでも監視を打ちのめして強引に脱走したい衝動に駆られるが、キラに叩き込まれた軍人としての冷静な部分はそれを否定する。理性と衝動の板ばさみになったキラは外面では平静を装いながら、内心では自身の無力に憤りを覚えずにはいられなかった。

 

 

 

 

「通せ!!邪魔だ!!」

「しかし、面会には導師の許可が……」

「何故俺があの坊主に一々許可をもらいに行かなければならんのだ!!俺はやつの配下になった覚えは無いぞ!!」

 

 キラが如何に監視の目を掻い潜って脱出するかの算段を思考していると、個室の外から言い争う声が聞こえてきた。監視役の男と口論になっている相手の声には聞き覚えがある。確か彼は大瑠璃丸を襲ったMSのパイロットだった。そんな彼が一体自分に何のようだろうか。

「もういい!!俺は通る!!邪魔立てするやつには容赦せんぞ!!」

その後、何かが壁に叩きつけられる音が連続して響き、静寂が訪れた。そしてその静寂の中で何者かの靴音が静かに反響する。靴音は次第に大きくなり、靴音の発信源はキラの拘束されている部屋の前で立ち止まる。キラは自分の身に危害が及ぶ可能性を考え、万が一の時にはいち早く反応できるように腰掛けていたベッドから立ち上がり、扉の前で身構えた。

ドアの電子ロックが解除され、更にドアに設けられていたシリンダーが回転する音がする。そして扉は勢いよく蹴飛ばされた。瞬間、キラは半身になって扉の奥にいる者を警戒する態勢を取った。

扉が開いた瞬間にその奥にいる者をなぎ倒して脱走することも考えたが、面会希望者が靴音を出していた一人であると考えることは早計だと判断したキラはひとまず様子を見ることとした。ここで無茶をして今後警戒を厳重にされれば、それこそ脱走の可能性は完全に潰えてしまうからである。それに、向こうはどうやらこちらに用があるらしい。先ほどのやりとりが真実であれば、個人的な理由から面会を望んでいる可能性もある。

轟音と共に扉を蹴飛ばして入室してきたのは長髪の男だった。だが、ここで男は予想外の行動を取った。男は不意にキラに接近し、その腹に強烈なボディーブローをお見舞いしたのだ。咄嗟にキラは身を引き、更に腕を腹の前にあてがって男の拳を防いだが、更に男は追撃を加え、キラに頭突きをお見舞いする。

キラが頭突きを喰らって怯んだ一瞬の隙をつき、男はガードの空いたキラの鳩尾に蹴りを叩き込む。男に鳩尾を蹴り上げられたキラは身体をくの字に折り曲げ、その顔には苦悶の表情を浮かべる。

「どうした!?この程度なのか!?スーパーコーディネイター!!」

男は暴言を吐きながらキラの腕を強引に掴んで立たせると、その頭に拳を叩き込んだ。たまらずキラは床に倒れる。

「どうした!?お前は唯一の成功体なんだろ!?失敗作の俺に手も足も出ないわけがないだろうが!?」

しかし、床に倒れている自身を見下ろす男の罵詈雑言に一言も返すことはない。だが、男の言葉からこの事態に至った概要をおおよそ理解していた。おそらく、この青年はユーレン・ヒビキの実験の過程で生み出された命、マルキオの言葉を借りるのであれば、狂った世の犠牲になったご自身の実の兄妹なのだろう。それ故に、スーパーコーディネーター(唯一の成功体)を恨んでいる。

自分を恨む理由も理解できなくも無い。だが、恨みを晴らさせるわけにはいかない。自分はラクスを残して死ぬことは絶対にできないのだから。

 

 何もなかったかのような無表情を浮かべながらキラは立ち上がろうとする。しかし、その済ました表情は男の怒りの炎に油を注いでいた。

「いいかげん、何か言ったらどうだ!?キラ・ヤマトォォオ!!!」

男は思い切り拳を振り上げ、猛る鉄拳をキラの頭に振り下ろした。しかし、今度は男の拳はキラを捕らえることはできなかった。キラは身体を沈めながら男が突き出した腕を正確に掴み、男の突き出した右腕の運動エネルギーをそのまま活かして男を投げ飛ばした。

先ほどは不意をついた攻撃に対応が遅れたが、不意をついた攻撃でなければキラが対人格闘で遅れを取るということはない。キラは前回の大戦後も付け焼刃に近かった対人格闘術の訓練を続けており、上司であった武の勧めで休日には訓練場で修練を重ねていたのだ。

未だに一度も土をつけることができていない武に比べれば、目の前の男の技量は大したものではない。体力もあるが、動作には無駄が多く、喧嘩拳法のような自身の身体能力にものをいわせた力任せな戦い方だとキラは感じていた。

投げ飛ばされた男は壁に叩きつけられ、その衝撃で身体が硬直する。そして青年は身体の自由を男が失った一瞬の隙をついて地に伏せる男の首に目掛けて鋭い蹴りを叩きつけた。鞭のようにしなる右脚から繰り出された一撃は正確に男の意識を刈り取った。

キラは気絶した男の衣類を奪い、裸の男を自身の着ていた衣類を使って縛り上げる。そしてあちこちが痛む身体に鞭をうちながら青年は拘留されていた個室の様子を伺う。先ほど、あの男にノックアウトされた監視員2名を見つけると、キラは彼らも自身が拘留されていた個室に放り込む。

キラは監視員の処理を終えると、その手に握られた3枚のカードキーに目をやる。一つは長髪の男が奪ったこの個室のカードキー、そして残る2枚の正体は不明だ。だが、このカードキーで開けられる部屋にパソコンがあれば、ハッキングでラクスの居場所を見つけることもできる。

「待っててくれ、ラクス……」

青年は愛する人を探すために駆け出した。

 

 

 

 

 

 その部屋は異様と言っても過言ではなかった。多種多様な太さの配線が張り巡らされた卵型のカプセルの中に設けられた座席に女性が縛り付けられており、その頭部には特徴的な形をしたヘルメットが被せられていた。

「調子はどうですか?」

マルキオはカプセルの設けられた別室の様子をガラス越しに見ることはできないため、プレアに問いかけた。

「あまり順調ではありません。薬剤の複合投与までしていますが、中々……」

「彼女こそコズミック・イラを救う救世主(ジャンヌ・ダルク)です。失敗は許されませんよ。時間をかけても構いませんが、焦って彼女を壊してしまっては元も子もありません」

 

 ――――本人が如何に否定しようとも、英雄に相応しい強靭な精神力は健在か。マルキオは能面のような表情をつくろっていながら、内面ではラクス・クラインという一人の少女の強さに感嘆していた。

 

 

 彼女に使用されている装置は、第三次世界大戦終結後に大西洋連邦で普及した催眠暗示処理に使用された装置だ。

第三次世界大戦後、大西洋連邦は戦争でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えた帰還兵の社会復帰問題や、帰還兵による暴力犯罪や、薬物犯罪による治安の悪化に直面した。

しかし、福祉の充実や更正施設の設置など、長期的な政策はその効果の割りに非常に高価であった。それを受けた大西洋連邦政府は、短期間で確実な成果を出すために催眠処置に目をつけた。

記憶の封じ込めや深層心理に働きかけることで戦争に関連する記憶を薄れさせる暗示処理装置はその後、各国に普及する。今日でも暗示処理は帰還兵の抱える問題の解決に大いに役立っているのだ。

だが、人の精神に干渉する手段が治療だけに使われるはずがない。当然、軍事的な利用法も考えられた。捕虜への暗示による情報の引き出し、捕虜を味方にするための洗脳など、その研究は多岐に及ぶ。大西洋連邦の一部のMSに搭載されている精神操作システムや、プラントでESP兵士の教育や調整に使われていたタンクもその研究の一環だ。

だが、大規模な記憶の改ざん、別人格の植え付けとなると、現代の技術でも大規模な施設で年単位の時間をかけた処理と膨大な予算が必要となる。そのため、拉致した外国人を洗脳してスパイに仕立て上げたり、敵のエースパイロットを洗脳して味方に引き入れたりといったことは行われていない。

大西洋連邦の一部で行われている戦闘特化の強化人間(エクステンデッド)や、プラントのESP兵士はまるでノートに字を書いたり消したりするごとく簡単に記憶や人格を改造しているように思えるが、彼らは人格形成期である幼少期に様々な処置を加えられているので、その後の記憶の改ざん処置が容易になっているだけなのである。

また、大西洋連邦のMS搭載型の精神操作システムは感情の操作や動揺の抑制などといった感情の操作が限界であり、使用後は精神状態が負の状態に向かいやすくなる欠点を抱えている。

今、ラクス・クラインに使用されている装置は東アジア共和国から流出した催眠暗示処理装置を改造したもので、軍の最新鋭のものに比べれば性能は劣るが、民間用以上の性能を誇る高性能機だ。

マルキオは配下に命じてラクス・クラインに催眠暗示処理を施して彼女の思想を変革させようとしていた。といっても、人格を変えてマルキオの配下にするわけではない。予算的にも技術的にもここの設備ではそれは不可能である。

ラクス・クラインに施している催眠処理の目的は、彼女の感情を操作することで自己欺瞞的心理操作で自分達に対する疑念を払拭させることにある。つまり、マルキオらは人為的にラクスをストックホルム症候群に近い状態に陥れようとしていたのだ。

マルキオはあくまで、彼女を説得できると信じていた。そのためにこのような比較的穏便な処置で十分だと踏んでいたのだ。

 

 

 

 

 

 その頃、キラは監視員から奪ったカードキーを使い、警備員の詰所に潜入していた。室内で報告書を作成していた中年の男性の意識を一瞬で刈り取ると、キラは室内の端末を使ってコロニーの運営システムが集まっている中央管理室のコンピューターをハッキングする。

自分が脱走したことが察知されるのは時間の問題であり、余計なことに気を使っている暇はない。キラは他のものには目もくれずにラクスの居場所とここからの逃走手段を探した。

ラクスはすぐに見つかった。コロニー内部にある建物の一室でカプセル型の機械の中に囚われていたラクスの姿を見たキラは思わず駆け出しそうになるが、冷静になるように自分に言い聞かせてなんとか堪える。衝動を抑えながらキラは脱出手段を捜索する。

湾港部には中小艦艇が多数存在したが、これらを脱出手段にすることは難しいとキラは判断した。これらの艦を一人で操艦することは難しいし、脱出できたとしてもあの長髪の男のMSで追撃されたら大瑠璃丸のようにコンピューターを乗っ取られるか、攻撃されて航行不能になることは確実だろう。ハッキングへのカウンターと操艦を同時にすることはキラでも不可能だ。

となると、残る選択肢はシャトルかと考えながら現在このコロニーに存在する全てのシャトルの現在位置や機体の状態、警備状況を確かめる。そしてキラはとあるハンガーの監視映像を見て、不敵な笑みを浮かべた。

「これなら……やれる!!」

彼はそう呟くと、警備員詰所から弾丸のように飛び出した。目指すはハンガー。狙いはかつて死闘を演じた敵機だ。

 

 

 

 

 

 

「バイタルデータを見る限り、ラクス様の御心は昨日の処置にも全く揺らいでないようです。薬剤もあまり効果がありません」

「信じているのでしょうね。救援が――いえ、キラ・ヤマトが来てくれるということを」

マルキオはプレアから昨日からの催眠処置の経過と現在のラクスの精神状態についての詳しい説明をプレアから受け、ラクスの精神力、そしてキラ・ヤマトに対する信頼に感嘆すると同時に、より一層期待を強く持つようになっていた。

――彼女が我々に協力するようになれば、キラ・ヤマトも彼女を護るために自分達に助力してくれるだろう。その後はプラントにいるアスラン・ザラと日本に亡命しているカガリ・ユラ・アスハを引き入れなければならない。彼らが揃えば例え大国のイデオロギーに支配された世界であろうと変えることができる。いや、変えさせてみせる。それこそが自分がこの時代に生を受けた理由に他ならないのだから。

 

 マルキオがかつて『視た』光景は今でもはっきりと脳裏に浮かぶ。それは神の道を見失い、途方にくれていた若かりし頃の自分がその視力を永久に失う代償に得た天の啓示だった。

人種を巡り、二つに分かたれた世界。互いに憎悪し、剣を交え、この世の全てが憎しみの炎で焼き払われかけていた世界。そんな世界を救うべく立ち上がった自由の翼(キラ・ヤマト)正義の騎士(アスラン・ザラ)暁の姫(カガリ・ユラ・アスハ)永遠の歌姫(ラクス・クライン)。平和の道を模索し続け、絶望的な戦力差にも関わらず最後まで戦いぬき、世界を正しき方向に導いた4人のSEEDを持つ者たちの姿は彼に新しい信仰の道を示したのだ。

月日が経ち、マルキオは啓示の通りにSEEDを持つ者が生まれてきたことを知る。そして啓示で視た自分への啓示は天からの預言であると考え、何れ預言は成就するものであると信じていた。

だが、世界は次第に啓示で見せられた世界から剥離していく。そしてマルキオはこの世界は啓示で見せられた世界とは様々な相違点がある平行世界であることを思い知らされた。預言が平行世界の観測だったということは、天はいかなる意図で自分に啓示を下さったのかとマルキオは思い悩んだ。

そして彼は一つの答えに辿りつく。――啓示は天が世界のあるべき姿をお示しするために自分に見せたものであり、啓示を受けた自分の使命は天が示したあるべき世界を実現させることにあるというものだ。

故に、彼は世界のあるべき姿に導くためには手段を選ばないのである。

「……あの世界のように、世界は救われなければならないのです」

マルキオは誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

 

 その時、研究室でけたたましい警報音が鳴り響いた。

「何事ですか!?」

プレアが無線機を取り出し、中央管理室と通信を試みる。だが、中央管理室からの応答は無い。更に立っていられないほどの衝撃が彼らを襲い、轟音と共に施設内の電源が落とされて室内は一瞬闇に包まれる。プレアは咄嗟にマルキオを護るべくその身体に覆いかぶさる。

「導師!!お怪我はございませんか!?」

「ええ……しかし、これは一体……!?」

「まだ僕にも分かりません。万が一のこともありえますので、自分の指示に従って行動してください」

「分かりました」

プレアは腰のホルスターから銃を取り出し、赤色の非常電源灯が映し出す視界に目を凝らす。これが襲撃だとしたら、狙いは導師である可能性もあるからだ。だが、同時にこの場にいるもう一人の標的となりうる人物を思い出す。しかし、導師の身を護らねばならない以上、この場を離れるわけにはいかない。

「ヒルダさん!!貴女はラクス様を!!」

「アンタに言われるまでもないよ!!」

呼びかけられたヒルダはそう吐き捨てると、近くにいた警備員から軽機関銃をひったくり隣室に続く通路に駆け出した。

 

 しかし、ヒルダが通路に出た瞬間、機関銃のものと思われる軽快な銃声が連続して響くと同時にヒルダのものと思われる苦悶の声があがる。プレアはそれに反応して先ほどヒルダが飛び出した扉に銃口を向ける。

先ほどの様子からすると、どうやらヒルダは部屋を出たところで武装した何者かと鉢合わせたようだ。さきほどの銃声はどちらのものかは分からないが、敵は武装したヒルダを一瞬で制圧するほどの能力を有していることは間違いないようだ。

――来るなら来い!!刺し違えてでも導師をお守りしてみせる!!

プレアは覚悟を決めて扉を見据えるが、扉の向こうからは何も出てこない。隙をうかがっているのかと勘ぐっていると、後方から足音が聞こえた。そしてプレアは襲撃者の狙いを理解する。

「狙いはラクス様か!?」

プレアが振り返ると、ガラスの向こうでは茶髪の青年が桃色の髪の女性を抱えながら立ち去ろうとしていたところだった。

「キラ・ヤマト!?いつのまに脱出を……」

そしてプレアが思わず漏らした言葉にマルキオは反応する。

「キラ・ヤマト!?彼がラクス様を奪還したと言うのですか!?プレア!!今すぐ彼を捕縛なさい!!」

「し、しかし、導師をお護りすることが」

「私のことよりも今はラクス様を優先なさい!!」

「……分かりました」

プレアはマルキオの命令に従い、キラを追いかけようとする。女性とはいえ人一人を抱えているキラの移動速度は自分よりは劣るはずなので、全力で追いかければ追いつくことも難しくないだろうとプレアは判断したのだ。

「導師はその場を動かないで下さい!!すぐに増援を要請しますので!!」

マルキオにそう言い残し、プレアは廊下に出る。

 

 通路の角を曲がる人影が見えたのでプレアはそれを追いかけようとしたが、その足は足元からかけられた声によって止められた。

「プレア……待て……あたしの、銃をもってけ」

「ヒルダさん!!怪我は!?」

足元でぐったりとしているヒルダは弱弱しい声で答えた。

「肘を一瞬で撃ちぬかれた……あの茶髪の優男、尋常じゃない。あいつの武器は拳銃2丁だけど、アンタだけじゃ手に負えない」

プレアは険しい表情を浮かべる。自身の戦闘能力はお世辞にも高いものとは言えないのだ。キラにはラクスを守るというハンデがあるが、それを差し引いてもキラとプレアの技量の差は余りあるとヒルダは言っているのだ。

「港湾を封鎖し、多数で包囲します!!ヒルダさんはここにいてください!!」

ヒルダを壁に寄りかからせ、プレアは研究施設の出口に向かう。

 

 

 

 キラはラクスを肩で担ぎ、全速力で施設内から飛び出した。如何に鍛えている軍人であるキラでも、女性一人を担ぎながら追撃者を撃破することは重労働であり、既に息もあがっていた。

「ラクス!?ラクス!!」

何度呼びかけてもラクスの目は虚ろで反応は鈍い。彼女の身体に何が起こっているのかわからない以上、一刻も早く脱出し、専門の施設に搬送しなければならないという事実がキラを焦らせていた。

しかし、焦っていても判断を誤ることはない。キラは周囲に敵がいないことを確認すると、施設の前に降ろした『機体』の昇降機を掴んで上昇、そしてラクスを抱えたままコックピットに飛び込んでコックピットを閉鎖する。

この『機体』であれば、このままコロニー内の敵戦力を振り切って宇宙に脱出することも不可能ではない。ヤキンドゥーエ戦役の戦訓を受けて帝国の索敵システムはこの機体を最優先で察知するように設定されているので、上手くいけば早々に帝国の哨戒網に引っかかり、周囲から増援を呼ばせることもできるだろう。問題はそれまで生き延びられるかということなのだが、キラは自身の力量には絶対的な自信があった。

「このまま……行かせてもらう!!」

各種計器のチェックを終えると、キラは操縦桿を強く握り直した。

 

 

 

 プレアがコロニー内の円筒区画に出たとき、初めに目に入ったのは目の前で跪く天使の姿だった。天使は静かに腰を上げると、その背に6枚の蒼き翼を広げる。

一見優美な天使のように見えるが、この機体はそんな可愛らしいものではない。未だ記憶に新しいヤキンドゥーエ戦役において正義の名を背負う兄弟機と共に連合軍に災悪と並び称されたザフト最強のMSだ。

そして彼はその天使の名を震える唇で告げる。

「まさか…………フ、フリーダム!?」

フリーダムは地上で目の前の光景に驚愕する彼を一瞥し、その白い両脚を曲げ、上空に跳躍すると同時に各部のスラスターを噴射して飛翔した。

 

 奇しくもマルキオの視た天啓と同様に歌姫の騎士は自由の翼を手に飛び立った。その剣を得た経緯、振るわれる対象に違いはあれど、少年が行きたい道を切り開く為に自由の剣は振るわれるのだ。

 

 

 

 

 

 

形式番号 ZGMF-10AR

正式名称 フリーダムリバイ

配備年数 C.E.73

設計   ヴァレリオ・ヴァレリ

機体全高 18.03m

使用武装 腕部搭載型モノフェーズ光波防御シールド「アルミューレ・リュミエールハンディ」

     腰部88mmレールガン「エクツァーン改」

     翼部125mm2連装高エネルギー長射程ビーム砲「シュラーク」

     75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」

     肩部220mm径6連装ミサイルポッド

     ES01ビームサーベル

     9.1m対艦刀

 

備考:外見はほぼフリーダムだが、細部の武器のデザインが異なる。

 

マルキオが変革の時に備えてキラの搭乗機に宛がうために準備させたMS。ザフト降伏後、武装解除のどさくさに紛れて東アジア共和国が接収した機体をちょろまかした。

しかし、プラントが降伏し、プラントの軍需企業がフリーダムやジャスティスといった高性能機の部品の生産を終了せざるをえなくなったため、フリーダムを引き続き管理・運用することは難しくなった。

また、戦争期の驚異的な技術的進歩によりフリーダムの性能も他国で開発中の次世代MSと比べればいささか見劣りすることも否めなかったため、マルキオは来るべき戦いに備えて全面的な改装を施すことを決定する。

設計依頼は秘密裏にヴァレリオ・ヴァレリに対して行われている。彼も戦争中の反コーディネーター気運が抜けないアクタイオン社では大きな権限を与えられておらず、設計した機体が実際に製造してもらえないことに鬱憤を感じていたために了承した。一説にはとある極東に君臨する魔女の情報を流し、彼を焚きつけたとかそうではないとか。

コンセプトはI.W.S.Pに近く、如何なる相手と如何なる状況で戦っても優位に立てる万能MS。

装甲はPS装甲からTPS装甲に改装されており、PS装甲の外側の装甲にはラミネート装甲が採用されているためにビームに対しても耐性を持つ。

武装は弾薬や補充部品の補給の都合から全て連合側の武装に変更されている。

腰部のエクツァーン改はこの機体に搭載するためだけに態々砲身を二つ折りに改造した物である。口径はクスィフィアスに比べて小さくなったために一発あたりの威力は低下したが、その分速射性能と装弾数は向上している。

125mm2連装高エネルギー長射程ビーム砲「シュラーク」はカラミティに搭載されているものに比べて砲身を切り詰めた設計になっているが、核エンジンから供給されるオリジナル以上のエネルギー出力を利用することによりビームの収束性は向上している。そのため、オリジナルと比べても性能に遜色は無い。

頭部機関砲は丸々換装し、イーゲルシュテルンに換装した。オーブ崩壊のどさくさで技術者が流出し、更にモルゲンレーテの有形無実化が進んだことでライセンス料の踏み倒しも横行したためにイーゲルシュテルンは世界中で出回るようになっている。部品の調達もかなり容易というのがこの砲が選ばれた理由の一つでもある。

肩部のミサイルポッドはバスターに搭載されていたものと同型だが、ミサイルを撃ちつくした後はパージできるようになっている。バスター系列の機体とは違ってパージが前提になっているのは、ポッドと翼部のシュラークが接触するためにシュラークの射角が制限されるため。

9.1m対艦刀はI.W.S.Pに搭載されているものと同型で、I.W.S.Pと同様脇腹にマウントされている。また、この対艦刀を問題なく扱えるよう、腕部から肩部にかけての関節には小型のパワーシリンダーを内臓している。オリジナルのパワーシリンダーに比べれば性能は比べ物にならないほど低いが、このサイズの対艦刀を扱うには十分なパワーがある。同様のパワーシリンダーは脚部にも組み込まれており、蹴りも侮れない攻撃となりうる。

腕部のモノフェーズ光波防御シールド「アルミューレ・リュミエールハンディ」はヴァレリオがハイペリオンの設計データを社内から無断で持ち出して自身の手で改良を加えた一品。腕部から有線で電力供給を受ける小型化されたアルミューレ・リュミエールの発生器がビームシールドを発生させることで、敵の攻撃を防御することができる。

攻撃、防御共に隙はなく、機動力もオリジナルと比べても遜色はない機体として仕上がっている。

ハンガーに置いてあったのは運用試験のためだった。




補足


マルキオの天啓
因果情報の受け取りってやつですね。信仰に悩みを抱いていた彼にとっては神の啓示に思えたのでしょう。

ヴァレリオ?
ジアコーザじゃありません。ASTRAYの登場人物です。


キラ君はフリーダム奪ってコロニーの管理システムを一時的にダウンさせてその隙にラクスのとらわれている研究施設にフリーダムで突貫。ラクス奪還を試みたというところです

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