機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU BYROADS   作:後藤陸将

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さっそくできました、番外編第一話。
初っ端からネタです。


改造

 いまや人類の一大宇宙拠点となっているL4大日本帝国領コロニー群。その中でもやや外縁に位置する軍港コロニー『志摩』にある問題を抱えた船が停泊しておりました。

 

 アークエンジェル級強襲揚陸艦1番艦アークエンジェル。この軍艦が抱える問題、それは――――

 

「やはり、元々大西洋連邦の軍艦なので、兵装なども日本軍の規格に合わず、これから運用する際に支障をきたしかねないところだと思います」

 

 そう語るのは今回の依頼人代理、日本に亡命した元大西洋連邦軍第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス少佐。彼女は初の実戦から日本に亡命するまでの間アークエンジェルの艦長を務めていた人物で、誰よりもアークエンジェルを理解している人物でもあります。

 

 この艦は建造からおよそ半年ほどしか経過しておりませんから、艦齢的には全く問題ありません。各種装備に関しても戦闘証明(コンバット・プルーフ)済みです。しかし、問題はこれらの装備の殆どが日本軍の装備の規格とは異なる大西洋連邦の兵装であるために消耗しても交換が不可能なことや、自軍の規格と異なる船の補修点検には人材の育成も含めてかなりの時間がかかることでした。

 

 

 

 

 アークエンジェルは今年の初めにL3にある中立国のオーブ連合首長国領コロニー、ヘリオポリスで竣工しました。しかし、竣工したばかりのアークエンジェルに不幸が降りかかります。ザフトが連合の新型MS奪取を狙いヘリオポリスを電撃的に強襲。これに巻き込まれてアークエンジェルの正規クルーの殆どが戦死してしまったのです。

更に不幸は続きます。ザフトは奪取し損ねた最後のMSであるストライクの破壊を狙って再度襲来したのです。ストライクを収容したアークエンジェルでは、ヘリオポリスで生き残った軍人で最も階級が高いマリュー・ラミアス大尉(当時)が臨時で艦長として指揮を執りこれを迎え撃ちます。

ストライクの奮戦の結果、何とかザフトの撃退には成功しますが、戦闘の影響でヘリオポリスは崩壊してしまいました。アークエンジェルは敵の有力部隊が闊歩する宙域に孤立し、宇宙を彷徨うこととなったのです。

 

 ヘリオポリス脱出後は大西洋連邦の有力な拠点である月基地を目指してアークエンジェルは進みました。道中の同盟国の要塞で艦艇を拿捕され、迎えに来た艦隊は沈められ、資源は枯渇して墓荒らしを余儀なくされと散々な後悔……ではなくて航行を経て、アークエンジェルはついに連合軍でも指折りの大戦力、大西洋連邦第八艦隊との合流に成功します。

しかし、そこに再びザフトの魔の手が忍び寄ります。アークエンジェルはアラスカの地球連合軍本部JOSH-Aを目指して降下を試みましたが、ザフトの執拗な追撃を受けたためにザフト勢力圏への降下を余儀なくされました。

 

 一難去ってまた一難。地上に降りたアークエンジェルには次から次へと追っ手が差し向けられます。

アフリカの地でアークエンジェルに牙を剥いたのは砂漠の虎の異名を持つザフト屈指の名将、アンドリュー・バルトフェルド。紅海で襲い掛かってきたのは紅海の鯱と畏怖される水中用MS部隊の指揮官、マルコ・モラシム。どちらも一隻の軍艦に割く戦力としては破格でした。ザフトは牛刀をもって鶏を割こうとしたのです。

しかし、これまでの激戦が祟ったのかオーブ近海での戦いで遂に機関に被弾し、航行不能に追いやられてしまいました。幸いオーブの領海に墜落したため、アークエンジェルの建造に深く関わったオーブの国有軍需企業のモルゲンレーテ社の手で徹底的な修復を受けることができ、オーブ出港後はほぼ完全な状態でアラスカの地球連合軍本部JOSH-Aへ辿りつくことができました。

 

 ……ここまで来ると呪われているのかもしれないと思いたくなりますが、アークエンジェルはJOSH-Aにて再度ザフトに襲撃されました。次々と味方が討たれる中、アークエンジェルのクルーは衝撃の事実を知ります。もはやこの基地はもたないと判断した上層部はJOSH-Aの地下に設置された自爆装置――サイクロプスを起動させ、ザフトの戦力の大半をいまだ奮戦中の自軍兵士もろとも吹き飛ばそうと考えていたのです。

なんとしても生き延びるべく、アークエンジェルは敵に包囲されたJOSH-Aを強行突破します。その甲斐あって何とかサイクロプスの起爆直前にサイクロプスの影響範囲外に脱出することに成功したのでした。

 

 JOSH-A脱出後、アークエンジェルはクルーと共に日本に身を寄せます。いくら自爆から逃げたとはいえ、アークエンジェルの行動は完全に敵前逃亡です。大西洋連邦に帰れば彼らは軍法会議にかけられることを理解していた彼らには第三国に身を寄せるという選択肢しかありませんでした。

 

 

 

 このような経緯を経てアークエンジェルは日本に接収されました。当然、日本としてもまだ艦齢が若く、ザフトの名将を悉く打ち破ったポテンシャルを誇る艦を置物にするはずがありません。ちょうど同じころザフトとの戦争が始まったことでアークエンジェルの需要はさらに高まっていました。

しかし、アークエンジェルの各種装備は大西洋連邦の規格で造られています。日本では調達ができない部品も多数使われているために一度損傷したら修復にはかなりの手間がかかることが予想されました。

そこでアークエンジェルは硫黄島の第二宇宙港からブースターをつけて打ち上げられてL4へ向かい、軍港コロニーである志摩に入港して本格的な改装作業を受けることとなりました。

 

 

 この白亜の大天使を再び戦場に送り出す――大日本帝国宇宙軍の大きな期待を受けてこの船の改装に一人の匠が立ち上がりました。

 

 軍艦改装の匠、大日本帝国宇宙軍艦政本部第四部(造船担当)滝川正人造船少将。

――あの世界のビッグセヴンと謳われる長門型戦艦の設計に携わり、弾幕を張るのに効果的かつ防御の妨げにならない絶妙なバランスの火器配置が軍内部でも高く評価されている人物です。

彼は金剛型戦艦のころから宇宙戦艦の設計に携わっているベテラン設計士でもあり、経験に裏づけされた堅実な部分と若かりしころと変わらない技術的冒険心溢れる部分を併せ持った機能美のある軍艦をこれまで数多く世に送り出してきました。

そんな彼を人は畏敬の念を籠めて天鳥船(アメノトリフネ)と呼びます。

 

 

 

 安土が強襲されたということもあって、アークエンジェルの戦力化が急務となっていました。工事を急ぐ匠の指示で優先的にF1ドッグに入ったアークエンジェルは次々と兵装が剥ぎ取られていきます。

これまで多くの敵機から艦を守ってきた傘であるイーゲルシュテルンも、時には曲芸まがいの機動をしてまで射線を取ろうとしたゴットフリートも、ここぞというときに艦を救った切り札であるローエングリーンもあっというまに剥がされ、アークエンジェルは数日の内に武装一つない状態になりました

 

 

「美しいですよね」

日本の宇宙軍士官としての教育を伏見で受けているラミアス大尉は武装が全て剥がされたアークエンジェルの映像を見てこう言いました。

「武装がないと、本当に天使みたいに思えてしまうほど優美な艦です。でも、私達はこんな美しい船に鎧を着込まして剣を持たせて戦場に送り込みます。……軍艦として造られたはずですが、少しだけ戦う運命を背負ったあの船が可哀想に思ってしまいます」

 

 

 

 

 

「バリアントの射角をもっと取れる配置にしていれば戦果も増えただろうに……」

まず匠はアークエンジェルの戦闘データを取り寄せ、この艦にどんな武装が必要かを考えました。そして彼が至った結論は、両舷への副砲の増設でした。

アークエンジェルが装備していたバリアントMk8は110cm単装リニアガンです。大口径電磁砲の威力は凄まじいもので、直撃すれば殆どの艦にかなりの損害を与えることができます。

しかし、バリアントには大きな問題がありました。砲が独立して稼動しないため、照準を合わせるには艦首ごと向けなければ撃てないのです。これでは照準の補正はできず、命中弾を出すのも容易でもありません。当たればタダではすまない巨砲でも、当たらなければどうということはないのですから。

そこで匠はバリアントを取っ払い、そこに防衛省特殊技術研究開発本部(ヨコハマ)が開発したという試作75cm電磁砲――通称デキサスビーム砲の搭載を提案します。このデキサスビーム砲はこれまでの大口径電磁砲と比べ、同じ砲腔内径でもより短い砲身で従来の長砲身の電磁砲と同等の破壊力を得られるという画期的な兵器でした。

既に発射実験や耐久実験も終了しているので使っても大丈夫だろうと匠は考えました。しかし、この提案は受けた防衛省は却下します。

デキサスビーム砲はまだ量産体制が整っておらず、生産を委託する業者も選定中だったために使用許可が得られなかったのです。しかも研究現場からもたらされたばかりということもあて一門あたりのお値段もとても高いものでした。改装するだけなのにそんなに金がかかってはたまらないというのが防衛省の見解でした。

すったもんだの末、副砲には長門型戦艦への搭載で実績を挙げている45口径41cm電磁単装砲を砲廓式に搭載し砲廓は上下左右に射角が取れるよう稼動装置をつけて設置することとなりました。

同様の理由で主砲に提案されていた新型レーザー砲――通称メガバスターも、CIWSへの使用が考えられていた省電力メーサーバルカンも却下されてしまいます。

結局、主砲には長門型戦艦への採用で実績のある245cmエネルギー収束火線連装砲を採用し、CIWSには日本の軍艦でもいくつか採用例のあるイーゲルシュテルンをそのまま用いることになりました。

 

 しかし、匠はそれらの譲歩と引き換えに、一箇所だけ自らの要求を押し通しました。それは艦首砲です。

アークエンジェルの艦首砲には陽電子破城砲『ローエングリン』二門が搭載されていましたが、匠はそれを撤去することを画策。代わりにプラズマを発生・加熱して中間子(ニュートリノ)を生成し、収束照射する71式速射光線砲、通称「プラズマメーサーキャノン」の搭載を主張したのです。

プラズマメーサーキャノンはその連射能力、破壊力、射程から試作段階でありながら高い評価を受けている最新鋭の兵器でした。

一方、防衛省側はローエングリンでも十分な破壊力があるために無理に変更する必要は無いと主張しましたが、これまで主砲、副砲、CIWSと譲歩させられた苛立ちが頂点に達したのでしょうか、匠はものすごい剣幕で捲くし立てます。

 

「陽電子砲は第2射発射までの速度が遅すぎる。それに発射のたびに艦は放射能で汚染される。もしも船体が損傷している時に陽電子砲を放てば放射能汚染が船内まで広がる可能性もあるし、軌道上での戦闘では放射性物質をばら撒く可能性がある。この兵器は使えるときが限られる」

匠はこう主張しました。

喧々諤々の議論の末、匠の主張が認められて艦首にプラズマメーサーキャノンを搭載することが了承されました。

その他にもメインブリッジ周辺が狙われやすいということでブリッジ周辺に対空防御火器を増設、ブリッジの近くにあるために誘爆時には危険ということでVLSは移設しました。ミサイルの規格が日本軍の規格に合うように、VLSそのものも艦後部のSSM発射筒と合わせて国産のものに換装されています。

 

 

 武装の話が一段落ついたところで、匠は次に機関へと手をいれました。

 

「マキシマオーバードライブに換装してみようか」

 

 マキシマオーバードライブ。防衛省特殊技術研究開発本部(ヨコハマ)の八尾南晩博士が20年の研究を経て生み出した光を推進力とする最新鋭の機関です。従来の機関とは比べ物にならないほどの推力を発揮するこの機関を採用しているのは最新鋭の長門型戦艦のみです。匠はこの機関をアークエンジェルに搭載することで、アークエンジェルを長門型戦艦と組ませて行動できる艦にしようと目論んだのです。

従来の機関を搭載している軍艦とマキシマオーバードライブを搭載した軍艦では最高速度も巡航速度も違いすぎるために編隊を組んで行動することができず、防衛省も長門型の運用方法で頭を捻っていたこともあり、MSも運用できて自衛も可能なアークエンジェルを改装して長門型と組ませるという意見は一定の賛意を得ることに成功します。

また、艦首砲にプラズマメーサーキャノンを搭載するのであれば、マキシマオーバードライブが生み出す莫大なエネルギーが必要不可欠です。従来の機関ではエネルギー不足のため、プラズマメーサーキャノンの速射能力が発揮できなくなります。プラズマメーサーキャノンがあってもそのエネルギーを支える機関が無ければ宝の持ち腐れになってしまうのです。

何れ日本軍の主力軍艦の機関は次々とマキシマオーバードライブに換装されることが予想されるということもあって、防衛省は特に異論を挟むことなくこの計画を了承しました。

しかし、当初からマキシマを搭載する前提として設計されてはいなかったアークエンジェルの機関部にマキシマオーバードライブを搭載するには大規模な改造が必要です。内部の通路構造も変わるほどの大改装の結果、以前よりも機関部が巨大化してしまいました。

 

 

 最後に匠は装甲に着手しました。匠は新型MSに採用されたという噂の最新鋭装甲技術、ダイヤモンドコーティングを艦全体に施すことを画策します。しかし作業にかかる時間や予算が限られているために艦全体にダイヤモンドコーティングを施すことは不可能です。

そのため、匠はダイヤモンドコーティングを限られた部分――艦首プラズマメーサーキャノンのカバー部分と、ブリッジ周りの装甲にのみ採用することにしました。他の部分は基本的に他の日本軍艦と同じラミネート装甲で、そしてその上にレーザー蒸散塗料を吹き付けることにしました。レーザー蒸散塗料はほぼ全ての日本軍艦で艦の塗装に使用されているものと同一の色を使用したため、艦全体は灰色がかった色となりました。

 

 

 

 

 こうして軍艦改装の匠、大日本帝国宇宙軍艦政本部第四部(造船担当)滝川正人造船少将による改造(リフォーム)は全て終了しました。

 

それでは、天鳥船(アメノトリフネ)と呼ばれると呼ばれる造船の匠が兵装の日本軍規格化のみならず、新兵器や既存の技術を見事に組み合わせて実現したその驚異的な改造(リフォーム)の全貌をごらん頂きましょう。

 

 

 

 その軍艦に似つかわしくない優美な曲線で構成された白亜の巨艦だったアークエンジェル。その軍艦に似つかわしくない眩しい白の船体は他の日本軍の艦艇と同じ濃いねずみ色に、そして主砲が格納式から非格納式に変更したために露出した4本の凶暴な牙――245cmエネルギー収束火線連装砲。

 

 なんということでしょう。改修前はまるで優雅で気品ある豪華客船のようにも思えた外観が一転。無骨な武士のような印象を受ける外観になりました。

 

 高威力ですが照準を会わせづらかった両舷の110cm単装リニアガン、バリアントMk8は撤去され、代わりに両舷に身を守る棘のように生えた副砲は45口径41cm電磁単装砲。一発あたりの威力はバリアントに劣りますが、次弾装填速度も命中性もバリアントを遥かに凌駕します。

「大口径砲でなければ太刀打ちできない敵艦を攻撃することは主砲の役目である。副砲は主砲で攻撃するには効率の悪い小型の敵を狙うべし」

その考えに基づいて設置された両舷で8門の単装砲。その速射性は両舷の防御力を格段に向上させました。

 

 船体の各部には改装前の倍となる計16門の75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」。16門の近接防御火器が形成する弾幕は容易に潜り抜けることはできないでしょう。これでもう、ブリッジに敵機を近づけさせることはありません。

 

 

 

アークエンジェル改造(リフォーム)費用

 

予算 部外秘

 

工事費 軍機

材料費 軍極秘

内装費 8,000,000

合計  軍機(設計顧問料を除く)

 

 

 

 大日本帝国の最新鋭火器を備え、火器と装甲の配置による組み合わせで極めて沈みにくい艦として生まれ変わった大天使(アークエンジェル)。果たしてラミアス中佐(アークエンジェル艦長就任に伴い昇進)は喜んでくれるのでしょうか?

 

 

 

 

C.E.71 8月22日

 

 この日、大日本帝国宇宙軍大学での士官教育を終了し、アークエンジェル艦長就任を命ずる辞令を受け取ったラミアス中佐はかつてアークエンジェルの操舵を担当していたノイマン曹長と共に志摩のF1ドッグにやってきました。

 

「確か、F1ドッグって言ってたはずよね」

「そうですね。どんな改装をされたのかわくわくします」

二人とも期待からか少し早足でアークエンジェルの待つF1ドッグに向かいます。そして、正面の巨大ゲートをくぐってアークエンジェルといよいよご対面です。

 

 

 

「…………」

「…………」

 

「如何でしょうか?」

滝川少将に尋ねられ、二人は衝撃から抜け出したようです。機能美に魅せられて二人は思考を停止してたのでしょう。

 

「……すごく、ええと……独創的になりましたわね」

「え……ええ、まさか……というかんじですね」

 

 二人の顔はなんとも言いがたい表情。彼らは匠の素晴らしいセンスに圧倒されたのでした。

 

 

 

 

 

 

 異国の地で始まった大天使(アークエンジェル)の第二の人生。最新鋭の装備に身を包んだ日本の護り手は今日も志を同じくする国の守人を乗せて宇宙の平和を護るために漆黒の大海原を航行しています。

できれば、その矛を使うことなく余生を終えてほしいものですね。

因みにその後、ラミアス艦長はMS開発関係者という縁で知り合った顔の左半分に大きな傷がある強面の男性を誘って歓楽街に飲みにいったそうです。きっとこの艦のすばらしさについて力説していたのでしょうね。




今回、依頼を受けてくれた匠は『惑星大戦争』で轟天号を設計した滝川正人博士でした。

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