なりきり妖夢一直線!   作:月日星夜(木端妖精)

73 / 87
第六十四話 永遠の夜で満たす者

 荒野。

 幾つか立つ、岩が重なってできた高い位置に、美しい男が立っていた。長い髪を一つに束ね、ローブで体を覆っている。手に持つ杖は硬質な木を素材とした真っ直ぐなものだ。

 土や血で顔や手やローブが汚れている。強い眼差しで遠くの空を見つめるその姿は、緊張に張りつめているためか、全体的に固い印象を抱かせた。

 ――やがて。

 遠方に巨大な影が浮かぶと、瞬く間に大きくなる。広げた翼は5メートル近くもある、中型の竜が現れた。

 最初から男に狙いを定めていたようで、縦に割れた目をぎょろりと動かして翼をはためかせた竜は、一つ咆哮すると、体ごとぶつけようというのか男に向かって行く。

 男は――。

 

「ふっ!」

 

 巨体に押し潰されるかと思われた男は、直前に後ろへと体を倒し、紙一重で避けると同時に、竜の腹へオーバーヘッドキックをお見舞いした。身体強化魔法の恩恵を受けた一撃に、竜はくぐもった悲鳴を上げて体を捩り、逃れようとした。すると、飛翔しようと翼を広げた竜のすぐ下が眩く光り、魔法陣が現れた。そこからするすると四条の光を伸ばして巨体に絡みつき、縛りあげる。遅延・設置型の戒めの光矢だ。

 くるんと一回転して着地した男は、杖を竜に向け、魔力を練り始めた。

 

「プラクテ・ビギ・ナル。つどえ、ななつのひかり。そのうつくしくもおおしきつばさ――」

「――!」

 

 上位古代語魔法《ハイ・エイシェント》。

 杖から放たれた白い光は、巨大な龍の姿をとると、まるで一つの生命のように羽ばたき、動けない竜へと食らいついた。悲鳴が上がり、抵抗しようと暴れる竜を、光が呑み込んでいく。

 やがて光が収まれば、そこには何も残っていなかった。

 

「……ふぅ」

 

 杖を下ろした男が頬の汗を拭い、首元に指を引っ掛けて服の中に風を送り込んだ。首元が歪んだ服は、逆に男の体の線をはっきりと浮かび上がらせた。細い……まるで女性のような体つき。

 それもそのはず。彼は、いや、彼女は女だった。

 14歳になった真だ。

 真はこの9年、大陸を歩き、海を越え、旅をしていた。立ち寄った村々で知識を蓄え、研鑽を積み、今やいっぱしの魔法使いになっていた。

 常に、戦いの日々だった。

 真が進もうと思った先には、いつも自分より一段上の相手が待ち構えていた。今もそうだ。全力で向かわなければ、真はあの竜に食い殺されていただろう。しかし、先日立ち寄った村で覚えた古代語魔法が、真を助けた。人助けの結果だった。

 難を乗り越えた真だが、代わりに魔力はすっからかんだ。残っているのは自決用の魔力が少しだけ。ゆえに、体の傷を治す余裕もない。岩に座り込んだ真は、乾いた風を感じながら休憩を始めた。

 

 自決……言葉通り、自分で死ぬための保険。

 女の一人旅には、常に危険がつきものだった。買い物をするとして、真になんの後ろ盾もないと知られれば、足下を見られる事もしばしばあった。宿をとって心を休めようとすれば、寝こみを襲われる事もあった。非力な少女は格好の獲物だ。食い物にしようと寄って来る悪人はごまんといたし、甘い言葉で誘惑する人間はそれに輪をかけて多かった。

 それは、『自分は自分を男だと思っているから、周りも当然そう思うはず』という真の認識を撃ち砕くには十分な旅路だった。

 真は、以前と変わりない、中性的な美しさを誇っている。前世では男寄りだったものが、今世では女性寄りになっているという違いはあれど、魅力的なのは確かだ。男と見間違えられる事もあると言う事は、女性的な成長の仕方をできていないという事でもあるのだが……。

 それでも体は変化していく。11の時には、すでに子を産める体になっていた。

 しかし真は自分の体に振り回される事なく、冷静に対処してきた。何よりも優先すべき事があったから、些事に気をとられる事はなかった。

 その目的のために力を蓄え、歩き続けているのだが……どこへ行って聞いてみても世界を渡る魔法の存在など旧世界へのゲート以外にはでてこず、文献にもそれらしき影はなく。

 まだ世界は広い。どこかにその方法を知っている生物がいるかもしれないし、記された書物があるかもしれない。

 だが、真の心は、折れそうでもあった。

 長い長い一人旅。考える時間は大量にあった。だから、妹が生きているだとか、この世界に都合よく転生してきているだとか、そんな甘い考えが現実に起こるという考えは捨てている。

 だから今は、死者蘇生の法を探し求め、その次のために世界移動の法を探している。

 そのどちらも、手掛かりさえ掴めない。前者は夢物語。後者はゲートの存在のせいで。

 真は、疲れていた。

 

 

「よぉヒデキ、竜種は見つかったか?」

 

 体力が回復した秀樹は、大きな街へ戻ってきた。竜討伐を報告するためだ。

 爬虫人類とでもいうような、軽鎧を着込んだトカゲ人間が親しげに真に声をかけた。

 ヒデキとは今の真の仮の名で、前世の父親の名からとったものだ。男に間違えられるようにと考えて偽名を名乗っている。

 

「倒した」

「ほほーう。見たとこ牙も角も持ってねぇようだが、ま、お前さんが言うなら本当に倒したんだろう」

 

 言葉少なに答える真に、気さくに真を称えて肩に手を回すトカゲ。それを嫌った彼女が肩の動きだけで腕を振り払うと、トカゲはやれやれのジェスチャーで肩を震わせて笑った。

 

「これから報告か?」

「…………」

「そうか。なあヒデキよお、お前、やっぱそのままじゃもったいねえよ。な? 俺と賞金稼ぎやろうぜ。俺とお前が組めば天下無敵よ!」

「……悪いけど」

 

 力を込めて勧誘するトカゲに目をくれず、大きな建物の前に来た真は、立ち止まって振り向くと、その誘いを蹴った。見知らぬ誰かと一緒にいて気を張るくらいなら、一人でいたい。そういう気持ちの表れだった。

 ただ、この街を色々と案内してくれたトカゲに思う所があったのか、報告を終え、報酬を得た真は、その半分をトカゲに渡して手切れとした。

 せめて一日休んで考えてからでも……。そう引き留めるトカゲに背を向けた真は、再び終わりの見えない旅に出た。

 

 真の前に蝶が飛んでいる。真には見えない、妖しい蝶だ。そいつが、真の行き先を決定していた。今の真よりも一歩先を行く敵がいる場所へ、誘導していた。

 そうとも知らず、しかしもう、行く先々で強敵と出会う事が常識になりつつある真は、警戒を緩める事無く道を行く。ここら辺はまだ街からそう遠くなく、旅人の行き来もあるので、強い生物はそういない。

 魔法に使用する杖をそのまま杖にしてつきつつ歩く真は、少しやつれていた。

 人に愛される事がどれほど大切か、自分が今までどれ程恵まれていたか……。最近真は、それを実感していた。

 一人で食事をするのは寂しい。一人で寝るのは寂しい。一人でいるのは寂しい。親しい人と話せないのは寂しい。

 ……今まで真は、常に誰かに愛されていた。

 両親が生きている頃は両親に。真緒と出会うまでは瑞希に。真緒と出会ってからは、真緒と門戸と瑞希の三人に。

 今は、誰も真に愛を与えてくれない。失って初めてわかる大切さ。

 愛する妹と会えないのは辛かった。

 言葉を交わせない。学校へ行くのを見送る事も、帰って来るのを出迎えて抱きしめるのも、おやすみのキスを額にするのも、もうできない。それが辛い。

 真緒とくだらない話をしたり、一緒に勉強したり、彼女を労わってやったり、菜園で野菜の成長を自慢しあったり。そんな日常が二度と訪れないのは辛い。

 いつも自分を気にかけ、好意をぶつけ、引っ張ってくれた門戸がいないのも辛い。はっきりわかりやすく、素直な好意は、今思えば心地良かったのだろう。

 何もかも、もう、ない。だから真は求めていた。希望を。また会えるという希望に縋って、旅を続けていた。

 腕を磨き、死線を潜り抜け、強大な魔法を扱えるようになった。

 だがどうだろう。未だ夢への糸口は見つからず、影も形もない。

 そもそも真は、なぜ自分がネギまの世界に来ているのかすらわからなかった。

 たしかに漫画は読んだ。少し恥ずかしく思いながらも最新巻まで読んでいた。

 しかし、熱心にか、と問われれば、真は首を振るだろう。

 真緒が読んでと勧めたから読んだ。ちょっとえっちだな、なんて思いつつも、興味が無い訳ではなかったから、瑞希が絶対に目にしないようにしつつ。

 その物語の内容はほとんど頭の中に入っているが、薄れている部分も多い。

 真が完璧に覚えているのは、東方に関しての知識だった。

 全作を通したキャラクター。同人誌、同人アニメ、ゲーム、CD……。たくさんのものを手にした。

 それもこれも、全ては瑞希が東方を気に入ったからだ。瑞希のお気に入りの妖夢に関して、真は熱心に調べ、知っていった。瑞希に話を合わせるために。

 ただ、それだけでなく、真も東方が好きだった。楽園のありように、そこで息づく人妖に惹かれたのだ。妖夢を含めた主人公勢が特にお気に入りだった。自分の分身として実際に動かせたからだろうか。明確な理由はなかったが、とにかく、妖夢を頂点として、霊夢、魔理沙、咲夜の三人は強く真の頭に焼き付いている。

 それだけに真は不思議だった。なぜ自分はネギまの舞台にいるのだろうか。なぜ、幻想郷ではないのか、と。

 不可思議な現象に何を求めるのも考えるのも間違っているかもしれない。それでも真は考えた。ひょっとして、楽園もこの世界にあるのでは。楽園の賢者、紫ならば、世界移動を容易く行えるのではないか……と。

 そう予測したのは数年前の事だ。真がまだ旧世界の日本に飛んでいないのは、この魔法世界を調べつくしたと言えないからもあるが、もし日本に向かい、楽園が無い事を知ってしまったらを思うと、恐ろしかったからだ。

 だから後回しにしていた。時間をかければかける程、楽園の存在が確実になるとでも言うように。

 

 

 幾日かが過ぎた。

 真は未だに、人なき道を行っていた。直感が導く先は人里から離れ、外敵が多くいる方へ伸びている。

 真は自分の勘を疑いつつあった。

 なぜ、地図もあるのに、自分はこちらへ進んでいるのか。

 目的と違う。人里でない場所に俺の求める物はあるのか。

 一度疑問に思ってしまうと、どうしてもこのまま進むのが正解ではないように思えて、真は頭の中で鳴り響く警鐘を無視して道を外れた。

 結果、今の真の数倍は強い魔法生物に遭遇してしまった。

 

「キョキョ……」

「……!」

 

 前に倒した竜種の倍はあろうかという巨大なカマキリだった。(はね)を羽ばたかせると、それだけで強力な魔法が発動し、幾つもの風の刃が真を襲った。

 疎らながらに木の立つ中、草に足を取られないよう回避行動をとった真の前に、素早い動きでカマキリが近付く。振り上げられた鎌が風を切り裂いて真に振り下ろされた。

 反応して、両手で持った杖を鎌へ向けて構え、瞬時に練り上げた魔力を用いて六重の魔法障壁を張った真は、豆腐でも切るかのように割られていく障壁を盾に時間を稼ぎ、その僅かな間で横っ飛びに跳躍した。コン、と音をたてて杖が二つになる。それで、ほんの少し鎌の振るわれるスピードが遅くなった。

 片足が跳ね飛ばされる。膝よりも下。右足。

 そうして避けた先に待っていたのは、もう片方の鎌だった。

 身を捩って避けようとした真の体の前面を鎌の先が通り抜けていく。一瞬後に傷口が開き、鮮血が飛び散った。

 苦痛を堪えて地面を転がり、距離を取ろうとした真にカマキリが肉薄する。腕をついて起き上がろうとする真には、追撃を防ぐ手立てはなかった。

 

「――――!!」

 

 胸の傷を強く押さえ、流れ出る血を止めようとしながら、真は自らに迫る凶刃を睨みつけた。

 

「キョ――!?」

「っ!?」

 

 その時、真の体から棒状の何かが飛び出した。

 硬質な音をたてて鎌を弾いたそれは、未知の鉱物でできた黒い杖であった。

 青い蝶が杖の周囲を飛んで回ると、杖はくるりと一回転して、次には猛烈な勢いでカマキリを弾き上げていた。

 空へ打ち上げられ、離れた場所に背中から落下したカマキリは、鎌と足を蠢かしてなんとか起き上がろうともがく。それを尻目に、杖は暗く輝きながら舞い戻り、今度は困惑する真の周囲を回り始めた。

 そうすると、真の体がふわりと持ち上がる。杖から漏れだした闇が足元へ集い、魔法陣を構築すると、せり上がるように上昇し始めた。それを潜り抜けた時、真は夜のようなドレスを身に纏っていた。

 切断された足も、切られた体も元通りになっている。半口を開けて呆然としながらも地に降り立った真は、吸い込まれるように右手に収まった杖――魔錫杖サーキュライフに、何が起こったかを理解した。

 変身が完了したとでも言うように、真の体から闇が迸った。同時に、サーキュライフにも一つの光が灯った。

 魔力が充実する。人の身には収まらない力が真の中で渦を巻いていた。

 それはまさしく、神の力――。

 

「キョキョ!」

 

 がば、と身を起こしたカマキリが、再び真に迫る。鎌が振り上げられ、振り下ろされる。数秒にも満たない間に行われた動作に、しかし真は、落ち着きを取り戻していた。

 右手だけで掲げた杖で難なく鎌を受け止めた真は、もう一本が横から迫るのに、受け止めていた鎌を押し払い、二つ目へと振り抜いた。

 魔法を介さない純粋な腕力のみで振るわれた杖が、魔法生物の鎌を打ち砕く。続いて真は、カマキリの顔へ二本指を差し向けた。体の中で熱く荒れ狂い、持て余すような力を指に集中し、そのまま、小細工なしに光線として放った。一瞬でカマキリの頭部に到達した光線は、ちゃちな障壁など無いも同然に頭部を焼き払い、空の彼方へ消えて行った。

 

「…………ん」

 

 頭を失ってもなおギチギチと音を鳴らしてしばらく動いていたカマキリが倒れると、ようやく真は一息ついて、その場にへたり込んだ。手から零れたサーキュライフが倒れて、カシャンと音をたてる。

 安堵のあまり、自らの胸に両手を押し当てた。薄いながらも確かな膨らみを持つ胸。そこに傷はないし、大きな力を得た全能感にも似た高揚が痛みを打ち消しているために何も感じないはずだが、どうしてか真は、そうせずにはいられなかった。

 生を示す鼓動は大きく、真の味わった恐怖を表している。目をつぶり、息を吸って、吐いて。そうして自分がまだ生きている事を実感した真は、よろめきながら立ち上がると、自分の姿を見た。

 不思議と体に馴染む漆黒のドレス。首に巻かれたリボン。腰の後ろにもリボン。他には、前髪の境目に黒曜石のティアラが乗っている。それを指でちょいと押した真は、次にスカートを引っ張って、自分の履くブーツを露出させて確認した。

 どれもこれも、ずっと身に着けていたかのような馴染みようだが、もちろん真はこんな服は持ってないし、着た事もない。未だに女性的な格好をするのに抵抗があるのだ。だというのに、簡素だった男物の下着は、膝までを覆う肌触りの良いドロワーズに変わってしまっているし、肌着も同じ素材の物に変更されていた。縛っていた髪は当然のように解け、ドレスから滲み出る闇の力に揺蕩っていた。

 

「……どうなってるんだ」

 

 ぽつりと零れた声は、しかし全てを理解した上での言葉だった。

 真は、自分の変質を、この異質な杖を手にした時から感じていた。

 自分は神になったのだ、と。

 満足気に舞う蝶が、それが真実だと語っているかのようだった。

 

 

 しばらくして、ようやく気持ちが落ち着いてきた真は、改めて自分の格好を認識して恥ずかしくなった。

 スカートなど履いていられるか。そうぶつぶつ言いながら脱ごうとして、簡単には脱げない事に悪戦苦闘して。もういい、とスカートをめくり上げようと両手で掴んだところで、ふと、目の前に横たわるカマキリの死骸に、我に返った。

 今の真は傍から見れば、死骸の前で脱ぎだそうとしているキチガイ女だ。自分の認識と周囲の認識が違う事はすでに理解している真は、頬を朱に染めつつスカートから手を離し、ぽんぽんと太ももを叩いて無念を晴らした。周囲に人がいないのは、感覚の広がった今の真ならわかるのだが、一度正気に戻ってしまうと、そもそも外で服を脱ぐとか、肌を晒すのは恥ずかしくてかなわなかった。これが水浴びをするだとかならまだ良いのだが……。

 どうにかならないものかと杖を拾い上げた真は、杖を通して送られてきた情報に、なんだ、と息を吐いた。この状態を解除すれば元の服装に戻せるようだ。ならさっさと戻そう、と気軽に変身を解いた真は、真っ二つになった服がひらりとはだけるのに、無言でドレスを纏った。傷は治ったままでも、服は直っていないようだ。

 では替えの服を、と考えてみても、小さなバッグは最初の風の刃でズタズタだ。地図も食料も水も全部。真は、自分の勘に抗った事を心底後悔した。

 途方に暮れる真の前に、青白い光がふよふよと飛んできた。杖を持つ真には、それがカマキリの魂だとわかった。普通はすぐに消えるものが、どうやらサーキュライフに引き寄せられているらしい。そう判断した真は、サーキュライフの先端で魂をつついた。そうするとしゅるんと宝石――サーキュライフの先端についた物――に魂が収納される。

 それをどうするのも自在だと、真は知った。たとえば……。

 

「……! ……――」

 

 杖から魂を取り出し、手の平の上に乗せた真は、ふっと息を吹きかけて、カマキリの死骸に魂を戻した。

 すると、カマキリはたちまち生きた気配を取り戻し、震えながら起き上がろうとして……再び息絶えた。頭が無いのだから、当然の結果だった。

 確認するためとは言え、悪い事したな、と結構なショックを受けつつ、杖に魂が収まるのを眺めた真は、随分と無感動に生と死、魂を操る術を受け入れた。あの時にこれがあれば、瑞希を救えたかもしれないのにとか、この力を使って瑞希を生き返らせようとか、そういった事が頭に浮かんだが、今はあまりに自分の変質が大きすぎて、それに対する反応ができなかった。

 ただ、数時間もすると自分が超常の存在になり、至上の力を手に入れた実感がわいてきて、何度もガッツポーズをした。彼女にしては珍しいはしゃぎようだが、それも当然。10年近く探し求め、諦めかけていたものが、突然自分の下に現れたのだ。自分の力として、明確に。代わりに人でなくなってしまった事など、些細な話だった。

 

 

 それから真は、再び旅を始めた。

 さらに研鑽を積むためだ。

 最初に寄った村で人々に怯えられ、自分が闇の力を垂れ流しにしている事に気付いて、気配を抑えようと努力したり、人々の畏れが自分の未知なる力、神力に密接な関わりを持っている事を知り、服や食料などを購入した後は、元の『秀樹』の姿に戻って放浪を開始した。

 神になり、凄まじいパワーを得られたとはいえ、真は万能ではない。それこそ、八百万いる神の一柱程度の存在だ。夜の闇の中であれば能力が底上げされたり、ある程度自然を操ったり、幻覚であれば小規模の世界創造なんかもできはしたが、それは真の目的とはなんの関係もない。

 目的とはずばり、妹である瑞希の蘇生だ。

 無から人を作り出せない真は、まず人の体を構成するものを調べ、人形を作り出そうとした。これを調べるのは意外と簡単だった。今まで旅してきた場所にそういった文献は数多くあったし、不老不死を願う人々の研究がそういった分野に及ぶのはよくある事だった。だが、それでもまだ足りない。

 一番大事な瑞希の魂が、手元にない。

 だから真は、魂を引き寄せる術を探そうとした。失せ物探しの魔法、人探しの魔法、そういったあれこれを調べ、研究し、一年を通して開発してみたが、どうにも芳しくなかった。

 もっと資料があり、設備が整った拠点が欲しい。

 適当に賞金首や討伐指定の魔法生物等を狩りながら資金を集めつつ、最近そればかりを考えている真。その姿が、神となった時から少しも成長していないのには気付いていた。

 最初は生理が止まった。次に、人間が持つ生理的な欲求が弱まった。最後に、自分の力を試している際、動植物の成長をある程度操れるのに、自分には全く効かなかった事から、神となった自分にこれ以上の成長はないと判断した。不死かまではわからないものの、不老である事は確かだった。

 20になって胸が大きくなったり、まかり間違って男に恋をしたりなんて可能性や、毎月の煩わしいものがなくなった事に喜びこそすれ、嘆きなどしなかった真は、これも簡単に受け入れた。

 古くから人が夢見た不老不死など、真にはどうでも良いものだった。

 

 一年ほど経ったある日、名の知れた賞金稼ぎになった真の下に、怪しい二人組が現れた。

 その日は澄み渡る青空で、こんな天気の良い日はかつての日々を思い出して憂鬱になってしまう真は、一つ思い立って人形を組み上げていた。もちろん、人の形をした、生きた人形だ。魂が入っていない事以外は人と同じで、息もしていないし死んでいるも同然だが、魔法的処置で心臓だけは動き、酸素と血液を巡らせていた。後はここにどうにか魂を引き込んで、甦らせるだけ……。

 そこに水を差したのが、小さい太っちょ男と細長い痩せ男の二人組だった。

 

「あなたがヒデキでよろしいですか?」

「ちょっと俺達に付き合って貰うぜ」

 

 小さい集落の端に小屋を建て、腰を落ち着けて研究に励んでいた真の下に、時折誰々を倒して欲しいだとか捕まえて欲しいと駆け込む人間はたびたびいた。悪意のない人間に頼まれてしまうと断れない真は、早く瑞希に会いたい早く瑞希に会いたいと呪文のように繰り返しつつ依頼された仕事をやっつけて家に戻り、研究を繰り返す日々を送っていた。

 目の前に妹への足掛かりがあるのに、それでも届かないもどかしさは筆舌に尽くしがたく、だから真は、悪人に容赦はしない。その悪人の括りに最近自分も入り始めているから、この認識はその内消えるだろう。

 生物の魂と命を弄ぶ存在は悪だ。そんな事は百も承知な真だが、いざ自分がその力を持ち、一つの目的に向かってがむしゃらに頑張っていると、これが悪い事なのだと認識するのは難しかった。

 

 さて、そんな真が青空を見てかつての日を思い出し、いよいよ妹を甦らせようと集めた血肉を人型に整え、自分の血を混ぜた塗料で緻密に魔法陣を描き、改良した失せ物探しの魔法を行使して魂を呼び寄せ、いざ入魂、という時に現れた訪問者は、果たして真にとってどう映ったのだろうか。

 げっへっへと笑う二人組は、明らかに害意や敵意を持って真の家にやってきている。

 

「私達はあなたを倒すためにやってきました」

「お前を倒せば昇進確定だな。なんだっけ? ナントカっつー呼び名で有名らしいが、俺達にかかれば……おい、聞いてんのか」

 

 扉を壊して勝手に家に押し入って来て、儀式の最中の真……つまりは女神姿の真を前にして不敵に笑う二人組は、強者か愚か者か。正直どっちでも良い真は、無視して儀式を続けた。ちなみにこの時も最初は話を聞こうとしてしまっていた辺り、癖というのはなかなか治らないものなのだろう。

 儀式は最終段階に入っている。といっても、そう大袈裟なものではない。どこかから引き寄せた魂を肉体に定着させるだけだ。二人組が入って来た時にはすでに入魂は完了し、今は『それ』が目覚めるのを待っている状態だ。

 

「……ひょっとして、私達はかなり()()()をしてしまったのでは」

「いやいや、殺人現場に遭遇しちまったのかもしれん」

 

 真の異様な雰囲気と、床に描かれた赤い魔法陣の上に横たわる()()の姿に慄く二人組。

 ――女性。

 その言葉通り、今真の前に横たわっているのは、女性だった。長い茶髪に、現代的な服とまちのケーキ屋さんのエプロンに、真緒や瑞希には無い豊満な……。

 それは門戸だった。しっかりサングラスもかけた、真の記憶の中の、イメージ通りの門戸が、両手をお腹の上で重ねて眠っていた。

 最初真は、いよいよ瑞希を甦らせんと息巻いていた。

 だが、作業を進める内に不安になったのだ。

 もし、この神の力を以てしても、妹を甦らせられなかったら……。そう考えると、恐ろしくてたまらなくなって、日本の幻想郷に行けばまだ可能性はあるのだから、と急遽門戸を甦らせる事にしたのだ。

 そこには様々な要因が絡んでいた。まず真は、真緒が死んだ事を知らない。だから真緒を甦らせようという発想はあり得ないのだ。だから門戸になった。なぜ門戸を選んだかを詳しく言えば……。

 真は、ずっと考えていたのだ。門戸が消えた理由を。そしてやはり、彼女も死んでしまったのではないかという結論に達した。というか、そう考えざるを得なかった。

 もし真が瑞希を甦らせる事に成功して、元の世界に戻れたとする。門戸が死んでいれば、当然彼女はそこにおらず、真の悲願は達成されない。だから、死亡した事を前提に動く事にしたのだ。

 失せ物探し改め、魂召喚(仮)の法を試みて、門戸の魂を引き寄せる事に失敗すれば、それはそもそも門戸が死んでいないか、術が完璧ではないかになる。

 だからひとまず真は試してみたのだが……真の感じていた緊張や悲壮感などお構いなしとでも言うように、彼女の魂はあっさりどこかから現れてしまったのだ。

 やはり死んでいたのかと落胆する気持ちと、呼び寄せる事に成功したという喜びがないまぜになって複雑な表情を浮かべた真の姿は、とても妹には見せられないありさまだった。

 

「ン……」

「む……?」

「な、なんだ?」

 

 もぞ、と動いて緩やかに呼吸を始めた門戸に、真は顔を上げて、その様子を注視した。真の動きにびくっと体を震わせた二人組が、半端に構えをとりながら、門戸と真とに視線を行き来させる。

 どれくらい時間が流れただろうか。二人組が痺れを切らして口を開こうとした時、むくりと門戸が身を起こした。

 本調子ではないのか、ん、ん、と確かめるように声を出しつつぷるぷると頭を振った門戸は、頭を押さえようとして、自分がサングラスをしているのに気付いたのか、それを外すと不思議そうに眺めた。

 

「門戸……」

「んー?」

 

 甦った彼女を固唾をのんで見守っていた真が小さく呼びかけると、ようやく傍に立つ真の姿に気付いたのだろう、門戸ははっとして、慌てて立ち上がった。ばばっと真へ手の平を突き付けると、

 

「英国で産まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

「……なんだって?」

 

 コンゴウ? と困惑する真を前に、言い切った、とドヤ顔をしていた門戸……金剛と名乗った女性は、ふと自分の格好を見下ろし、腰をひねって背面を見て、んん? と不思議そうにしていた。

 

「Hey! 提督ぅ~、これはいったいどういう事デース? んむ~、んー?」

「ていと……? …………??」

 

 門戸だと思っていた女性が、真には理解できない発言を繰り返すのに、ようやく真は「失敗したのかな」と思い至った。思い込んだらそれが絶対、が改善されていなければ、きっと真はこの女性を門戸だと認識し続けていただろう。真も成長しているのだ。

 混乱する二人を前に、のっぽとちびはこそこそと小声で会話を交わしていた。

 

「こ、これはチャンスなのではないでしょうか……」

「お、おう。なんか知らんがターゲットは呆けてるし、よし」

 

 攻撃だ。

 二人組の意思が揃うと、息のあった動きで駆け出した。懐から折り畳み式の杖を取り出すと、まずは真の前に立つ邪魔な女をどかそうと、それぞれ無詠唱魔法を発動させた。

 

「まぁいいデース。さっそく……?」

「ん! こいつ、ら……?」

 

 迸る雷と風の刃が謎の女性に迫り、そして、突如現れた大質量の壁に跳ね返された。壁と床とにそれぞれぶつかって爆発する魔力に、ハテナマークを浮かべて振り返る金剛。慌てて止まる二人を視認すると、なるほどと納得した顔になり、次にはびしっと二人の中間あたりへ指を突き付け、敵艦(?)発見を宣言した。

 ちなみに真は、金剛が艤装を展開するのに頭が追い付かず、これが失敗なのかよくわからない成功なのか、判断がついていなかった。

 

「撃ちます! Fire~!」

「なっ」

「おっ」

 

 ドォン、と耳を打つ爆音がしたかと思えば、短い声を残した二人組ごと家の壁が消し飛んだ。砲撃の反動で床を削って後退してきた金剛を、成り行きで真が押し留める。遠くに二人組が落ちていく声と、コングラッチュレーショーン、と声を弾ませて言う金剛に、やっぱり失敗したんだな、としみじみ思う真だった。

 

 

 一連の騒ぎで集落を追い出された真は、あてもない旅を再開していた。

 金剛はすでに解体され、サーキュライフに収納されている。

 というのも、その場から動いていないのに帰還報告をされた真がとりあえず門戸ではないのかと聞いて提督じゃないのかと返されたりしていると、数分もしない内に金剛は動かなくなってしまったのだ。

 やはり儀式が完璧ではなかったのか、それとも他の要因か。抜け出して漂う魂を収集し、抜け殻になった肉体に一抹の寂しさを感じながらも、真はその血肉を杖に収納した。

 やはり一からの肉体再生ともなると、普通に人を甦らせるのとは違う。

 今まで何度かこの力を使い、死にかけの人間を助けた事のある真だが、最初からこの儀式をそれくらい簡単な事だとは思っていなかった。

 まだまだ目的までの道のりは長い。真は気を取り直して、ひとまずは人の多い都市などに向かおうと思った。

 

 

 また幾月かが過ぎた。

 戦争が始まっている。

 一年前からそれを知っていた真だったが、実際にそれを目の当たりにしたのは、回収されず息絶えたばかりの骸や、どうしてか存在する子供の亡骸を見つけた時だった。押し返し、押し戻しを繰り返す戦争は、常に戦場を移動させる。その波に呑まれたのだろう村は、数は少ないながらも死した人々の無念に溢れていた。

 真は、そんな死体を見つけると、それが子供であればあるほど胸を痛めた。同情もあるが、それより、妹と重ねてしまうのだ。

 まだ死ぬはずではないのに、死んでいいはずがないのに、容易く命を奪われる。こんな事が許されるはずがない。

 だがもっと許されないのは、真の偽善かもしれない。

 

「生きたいか……どんな姿になっても」

 

 亡骸に問いかける真に、死人は答えない。だが、漂う魂は剥き出しの感情を真にぶつけていた。

 生きたい。どんな姿になっても……。

 それを聞くと真は女神の姿になり、一度魂と肉体をサーキュライフに収納すると、新たな生命として作り出した。

 それは魂魄妖夢の姿をしていた。

 

「…………」

「…………失敗か」

 

 表情のない妖夢がふらふらとどこかへ歩いて行くのを見届けながら、真は呟いた。その無感動さは、もう幾度もこの行為を繰り返している事の表れだった。

 あれから何度か儀式を(おこな)った真は、最初の一度以外全て失敗し、どんなに改良を施そうと、改善しようと、結果が変わる事はなく、だから手法を変える事にした。

 妹を甦らせられないというなら、せめてその思い出だけでも……。

 幾度もの失敗と、それに対する失意や絶望が、真の方向性を狂わせていた。

 そうしてただ、思い出を……瑞希が最も好いていて、真が完全に再現できる可能性のある人物……魂魄妖夢を作り出す事を繰り返し始めた真の目は、暗く淀んでいた。

 どれ程の力を持っても、成し得られない事がある。そんなのは、知りたくなかった。

 楽園に行けば元の世界に帰れる? 魂を呼び戻せば妹を甦らせられる?

 

「あは、はは……」

 

 無理だ。

 馬鹿げた話だ。とんだ茶番だ。

 そんな事、できる訳ない。

 だったらせめて、せめて……。

 思い出に、ひたらせて。

 

 

 温もりを忘れた神は、外法を操る人間の敵になっていた。どこかに現れては、白髪の少女を生み出す彼女を、人は黒の女神あるいは、紅目の死神と呼んだ。

 ……呼んだ人間がどうなったかは、真しか知らない。いつしか噂だけが独り歩きしだして、実態は真とは離れだした。

 それを気にする余裕は真には無い。

 思い出を作り出そうとする真には……。

 

 

「君がヒデキという男であってるかい」

 

 そんな真の前に、白髪の青年が現れた。真(今は秀樹の姿で休憩していた)は、その男に見覚えがあった。完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)の幹部構成員、アーウェルンクス。時期的に、一番目のプリームムであるだろう。

 空を見ていた真は、青年の問いかけに素直に頷いた。すると青年は、真を勧誘し始めた。実は前に倒した二人組は、真を試すためのものだったのだ。真が大きく移動してしまい、見逃した組織は、ようやくその姿を見つける事ができ、接触した。

 誰も真がヒデキと呼ばれる男と同じだなんて思っていない。容姿が同じなのになぜわからないのか。それは、変身によって変わる雰囲気や力の質のためだ。これらは目の前で見ない限り、その変化を把握できないだろう。

 

「どうかな。僕と一緒に来ないかい」

 

 話を聞いても、真は答えなかった。

 ただぼうっと空を見上げるばかりで、まるで話を聞いていないようだった。

 何度か話しかけた青年は、反応が芳しくないのに肩を竦めると、「考えておいてくれたまえ」と残して姿を消した。

 

 真が完全なる世界の末端組織に加入したのは、それから一週間程経った日の事だった。

 

 

 今の真は、神の力を纏わずとも凄まじい戦闘力を誇っている。女神となってからも、一歩先の相手が現れる事は変わらなかったからだ。

 その日々の最後に現れたのが白髪の青年だった。

 再三の勧誘を蹴った真に、ならば消えてもらおうと襲い掛かった青年。真は何を思ったのか、わざわざ素の状態で相手をし、死闘を演じた。

 女神状態でしか使えない技能を抜こうが、常に強敵と戦い続けてきた真は強かった。それは最強に設定されたプリームムを驚嘆させるほどだった。

 結局プリームムを倒す事ができなかった真は、同じく真を倒す事ができなかったプリームムの、なぜそこまでして拒むのかという問いかけに、そういえば拒む理由がないな、と思って、近場の施設に平団員として入ったのだ。

 幹部どころか完全なる世界の構成員もほとんど来ないような木端組織。いつ戦争に呑まれて消えてもおかしくない、雑多な位置に真が入ってしまったために、プリームムはわざわざここに足を運び、幾度も移動を勧めた。

 しかし真は、彼が真の気を引こう、待遇を良くして上に来てもらおうという意思からくる贈り物(最先端の設備や真が新たな魔法などの開発・研究に没頭できるための人員)に満足してしまって、いつまでたってもそこから動こうとしなかった。

 なので、本来は捨石のはずの末端組織は、どんどん地位を上げて、その内本格的に完全なる世界の一部に取り込まれて行った。何も知らない構成員からしてみれば、いっそ恐ろしいくらい謎の待遇の良さであった。

 本格的に魔法の成り立ちや基礎を勉強できるこの場所は、真にとって良い逃避場所だった。そうして勉強に打ち込んでいれば、悲しい事は全部忘れられる気がした。

 神の力を用いても、妹の蘇生が不可能なんていう、そんな悲しい現実を。

 

 完全なる世界に近付いていくと言う事は、とある一団に目をつけられる事と同義だった。

 この戦争を止めようと活躍する紅き翼(アラルブラ)。その全員が、真のいる組織へ殴り込みをかけてきた。

 組織加入からほぼ一年。真が16歳の時だった。この頃、紅き翼のリーダー、ナギ・スプリングフィールドは13歳。

 子供ながらに恐ろしい力を振るう、向かうところ敵なしの存在だ。

 

「やれやれ、正義気取りが死にに来たようだね……」

 

 いつものように真を促しに来ていたプリームムが、侵入者の対処に入り、近衛詠春、アルビレオ・イマ、ゼクトの三人に足止めと称した集中砲火を受けているのを一段高い位置から眺めていた真は、そのメンバーの中で最も小さい者が、腕の一振り杖の一振り、足の一振りでばったばったと構成員を薙ぎ倒すのを見た。

 赤毛の少年。それこそがナギだった。

 当然真は、彼に見覚えがあった。だがもはや、それがなんなのかすら忘れていた。不敵な笑みを浮かべて暴れまわる少年の名前が出てこず、うんうんと額を押さえて考えていた真は、そこではた、と動きを止めた。

 ……なんで名前なんて気にしてるんだろう。

 自分の目的の事以外はどうでもいいはずなのに、やけに少年の姿が気になった。

 それはきっと、生に満ち溢れていたからだろう。あんなに体の全部を動かし、でかい魔力を気持ち良いくらいに吐き出して、何度も建物を揺らす男の子。

 散る魔力の残滓が輝いて、ナギを照らす。

 真はずっと、その姿だけを目で追っていた。

 ――やがて。

 

「よお。お前がここの頭か?」

 

 真の前に、ナギが下り立った。

 真とナギの初めての邂逅(かいこう)だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。