酔うと素が出るなりきりちゃんであった。
追記
話タイトル変えました。流石にわかりにくかった。
ある朝の一幕。
登校の最中に出会った小太郎君が本格的に転校してくると言っていたのを聞いて私は疑問に思いながらも、その日、いったいいつ、どんな風に教室の扉から彼が現れるのかを待っていた。
私が転校して来た時、みんなにはどういう風に見えていたのか気になったから、ずっと、待っていた。
……まあ、来なかったのだけど。
そもそも、ここは女子中等部で、彼はどう贔屓目に見ても男。このクラスに、どころかここに転校してくる訳が無かった。……授業中も休み時間もお昼の時もずっと待ってたのに…………。
それはそうと、学園祭だ。道中、道行く怪物達にも驚いたけれど、教室についた私達を待っていたものにも驚いた。……驚いたというか、驚かされた? ……ううん、ただ、先生が不憫だっただけ。
先生が囲まれて、メイドのような衣装を纏った……誰だっけ、あの人達。……クラスメイト達に飲み物を注がれたり代金を請求されたりしているのを遠巻きに眺めつつ、傍の扉を見上げて転校生君が来るのを待っていたのだけど、やって来たのは鬼先生だった。隣にいた千雨さんが真っ先に怒られて、私も怒られる。なんで? あ、いつの間にか千雨さん、服変わってる。隣にいたのに気付かなかった。それはそうと、あの先生、鬼先生であってたっけ。なんか、もっと別の名前だったような気もする。
まあ、どうでもいいか。……うん、ちょっと、怖かったとか、怒られて泣きそうになってしまったとか、そういうのはない。ないの。うん。
震える半霊を抱きしめると、ひんやりとして、熱くなった目元に気持ち良かった。
放課後、修行しようとエヴァさんの家に行けば、もうする必要も教える事もないと言われた。……ほとんど何もしてないような気がするんだけど……もう?
先生と修行したいと零すと勝手にやれ、と言う。それは、勝手にあの別荘に入ってもいいって事?
じゃあ、遠慮なく。
地下に下り、ガラス瓶に入った別荘の中へ進む。そこで一日、体を動かし、今さらながらに歓喜を発散した。……ここ数日、テスト勉強のせいで、全然体動かせてなかったから、こうして思い切りやれるというのは良い。朝のジョギングだけでは足りないのだ。
白楼剣からリボンを引き抜き、順次、三つの魔法を発動させて試し打ちする。
時間が止まり、八つの光弾が生み出された傍から流れるように飛んでいき、刀を大砲のように持ってどっしりと構え、塗り潰すように極大の光線を放出する。
ふう、気持ち良い。
さて、これらの技は、どれくらいで魔力が溜まるのだろう。
待ってみた結果、八つの光弾……夢想封印は、三度使用すると魔力が空になって、もう一度使えるまでに十分はかかるとわかった。極光、マスタースパークは、二発使うと弾切れで、チャージに二十分。おおよそ三秒間、時間を止めるのは一度きりで、八時間経った今でもまだ使えない。
ただ、半霊が変身した私の白楼剣に秘められた魔力は私とは別換算らしく、時間停止の魔法が切れてすぐ、半身が時間停止の魔法を使う事ができた。そういえば、あの老人との戦いでも、二度時間停止をしたような気がする。
……あ、あの老人が変身した化け物、どこかで見た事あると思ったら、先生の記憶の中の……悪魔だ。
今、思い出した。そして、納得した。最近、先生の元気が無い事を。
ずっと気になってた。あの日から、時折暗い顔を覗かせるのは、傍で見ていてすぐ気付けたけど……理由はわからなかったから。
でも、そうか。そういうの、か。
それは、私にはどうにもできなさそうな事で、先生の力になれない事にしばし落ち込む。
その後は、暗い気持ちを振り払うように、自分自身と刀を合わせ、腕を磨いた。
翌日。
このかの部屋で朝食をお相伴する。……お相伴、意味あってるのかな。
いちおう、私も準備や調理を手伝おうとした。食べさせて貰ってばかりでは、と思ったのだけど、ほとんど毎回手伝って貰ってるよ? とこのかが言うのに、そうだっけ、と首を傾げる。
「それに今日はなー、ふふふ……」
「……?」
意味あり気に笑うこのかに、なんとなく、私も笑う。……ところで、先生とアスナは、なんでそんなに余所余所しくしてるの? 主にアスナが、だけど。
疑問に思っていると、アスナと先生が少しの準備をする間に、カモ君が教えてくれた。先生とアスナ、一緒に寝たんだって。……ふーん? それで?
……あ、うん、そうだね。恥ずかしいね。……恥ずかしいのかな。誰かと一緒の布団で寝た事なんてないから、その気持ちはわからない。でも、恥ずかしいとは別の気持ちが胸に浮かんだ。もやもや。よくわからない、もやもや。気持ち悪くはないけど、でも、気分が悪いとしか表現できないような感覚に胸を押さえていると、黒い影が慰めるように吹き出て私を取り巻いた。影に驚いたのか、足下にいたカモ君が逃げる。怖い、だって。そんな事ないよ。私、怖くなんかないよ。……先生が妙にすっきりした顔をしてたのを思い出すと、怖いくらい、変な笑いが出てくるけどね。
すぐに引っ込んだ影に、代わりに半霊を腕の中に収めていれば、二人の準備が整ったようなので、出発する。早い時間にみんなと家を出るのは、修学旅行の時以来かな。
セツナと合流してひた走る。電車を使い、学校の近くを行ったところで、寄り道。なぜか通学路に超包子の屋台があった。そういえば、他にも野良屋台とか、色々あったような気がする……。このかと話していたから、周りが見えてなかった。見えてても、特に反応する要素はないけれど。
あ、でも、気がついてみれば、良い匂いがする。それはたぶん、ほとんどが目の前の超包子からだと思うんだけど。
朝を抜いているせいか、きゅうとお腹が鳴くのに、音を隠すようにお腹を抱く。……これだけ人がいて騒がしいのだから、聞かれてなんかいないだろうと顔を上げれば、このかも、先生も、アスナも、セツナまで、笑みを浮かべて私を見ていた。……そういうの、やめて欲しい。凄く恥ずかしいから。
気恥ずかしさを誤魔化す為と、赤くなってしまっただろう顔を風に晒して色を取るために視線を廻らせ、お客さん達を見る。中には、おっきな不思議生物|(かわいい)なんかもご飯を食べていて……あ、口の中に男の人が…………み、見なかった事にしよう。
それから、見知った人もいる。マキエとか、ユーナとかだ。二人で何かを話しながら、人ごみの中に消えていく。手に何か持ってたから、きっと落ち着いてものを食べられる場所に移動したのだろう。
「妖夢ちゃん、行こ?」
「あ……」
待たせちゃってたかな。
私に笑いかけながら手を差し出してくるこのかと手を繋いで、それから、引かれるまま数歩程歩いて、はっとする。……手、繋いでる。凄く自然に手を出されたから、思わず握ってしまったけど……う、なんか、恥ずかしい……。
うつむいていると、屋台の前についたのか、先生やアスナが店員さんと話す声が聞こえた。その中に、私にどうしたのと問いかけるこのかの声も混じる。
ううん、なんでもないの。
恥ずかしいだなんて、私は何を思ってるんだろう。
繋いだ手は暖かくて、柔らかく包まれた指は気持ち良くて、流れる血がそこに集中する感覚は、幸せで……ずっと、こうしたかった。ずっと、こうしていたいと思った。
……でも、私の手は、汚れている。すごく、すごく汚れてるから……そんなもの、このかに触れさせられない。
それをそのまま、ではないけど、このかに伝えて手を離して貰おうとすると、このかが私に体を向けて屈み込んだ。目線が同じになると、やっぱりちょっと恥ずかしくて、まともに目も合わせられない。あ、手、離さないと……。
もぞもぞと指を動かして、離したいという意思を示していると、このかは、もう片方の手も私の手に重ねて、そんな事ないよ、と言った。
……そんな事、あるよ。
だって私、このかなら、そう言ってくれるって思ってた。わかってたから……そういう言い方して……たとえ私の手が綺麗なのだとしても、私の心は、黒いのだろう。こんな、卑怯な事をする奴だから。
「そんな顔せんで? ほら、こんなに白くて、綺麗な手や。どこもばっちくなんてない。ウチ、妖夢ちゃんには笑顔でいて欲しいなあ」
「…………」
頬を撫でられるのに、頭の奥がじんとして、私は、自分でも無意識の内に、その手に、そっと手を重ねていた。そうすると、このかはいっそう優しく微笑んで、私の髪に指を滑らせて腕を下ろした。
触れられた髪に残る指の感覚は、このかが立ち上がっても、まだ残っていて……。
視界の上の方で奇妙に踊る半霊を見つけて、その傍に立つセツナが変な笑みを浮かべているのに、慌てて、顔を逸らした。
どうしてそうしたのかは自分でもわからなかったけど、たぶん、恥ずかしいとか、やっぱりそういうのだったんだろう。
移動する事になったのか、再び差し出されたこのかの手を見つめて、少しの間考える。本当に、この手をとってもいいのか、って。
だって私は、私は……魂魄妖夢だ。私は剣士だ。何人も斬った。刀越しにあったその感触は忘れられないし、血濡れた手は、いくらティッシュで拭おうとしても、綺麗になんてならなかった。
あの女……月詠だって言っていた。そんな手で、お嬢様の……このかの手をとるのか、と。
このかは、私の手を綺麗だと言ってくれた。でも、どうなんだろう。本当なの? この手は、本当にきれいなの?
私には、わからない。このかの言葉を信じたいのに、そのまま、受け入れたいのに、心のどこかで、それは駄目な事なんだって押し止められて……
駄目。こんな気持ち……抱えていては、動けなくなってしまう。
だから、だから……今は、忘れよう。
結局私は、このかの手をとった。嬉しそうに笑うこのかに、私も笑う。……その笑みが、ひきつったりしていなかったかは、自信が無いけど。
数あるテーブルの内の一つについて、メニュー表を眺める。……小難しい漢字ばかりで、ちょっとよくわからない。先生が誰かに挨拶するのに顔を上げてみれば、茶々丸さんがいて、そういえばこの前はラーメンを食べたな、と思った。……正確には、ラーメンではないらしいけど。
結局自分では決められなくて、このかやアスナがお勧めするものを頼んでみた。セツナも先生もそうしたから、自分で決められなかったのは私だけではない。
運ばれてきた料理に舌鼓を打っていると、コックさんがやって来て、先生にサービスをしていった。どうやら、この間ここでバイトした時に見たコックさんは、クラスメイトのようだ。……どうりで、見た事があると思った。
「よーし、やる気でてきた! 頑張るぞー!」
「わ、急に元気になったわね!?」
「おー、スープパワーや!」
シュウマイみたいなのをお箸で挟んで持ち上げていると、唐突に先生が叫ぶのにびっくりして、お皿の外に落としてしまった。……私のシュウマイ……。
◆
ホームルームの時間、学園祭の出し物を何にするかをみんなで相談する事になった。
いや、相談とはちょっと違うかもしれない。ただ、それぞれがやりたい事を挙げていくだけだ。
やりたい事、やりたい事……特にない。こないだ千雨さんと話した時は、お祭りの出店のようなものをイメージすればいいと言われたけど、お祭りなんて行った事ないし……あ、でも、金魚すくいはわかるけど。
でも、それを言う勇気もないので、黙って他の人が挙げるものを聞くだけにする。
……猫耳裸族バーってなんだろう。……猫か。
どこかの民族みたいな枯葉の飾りを頭につけた猫達が、お手製の槍を片手ににゃーにゃー言ってるのを想像してみると、自然と笑みが出てしまう。凄くかわいい。にゃーにゃー。それでいいと思う。猫なら調達も簡単だろうし。
なんて考えてる内に、またネギ先生が不憫な事になっていた。そしてまた鬼先生……もとい、新田先生? が来て、怒られた。私、何も悪い事してないのに……。あの先生、ちょっと苦手だ。
すっかり落ち込んでしまった先生の事が気になってくっついていると、先生は私を気にしてか、涙を引っ込めて笑顔ばかり浮かべるようになった。最初はめそめそしてたのに。……私には弱みは見せられないという事だろうか。それはなんか、ヤだな……。
だって、私は先生に涙を見せたのに、先生は私に見せてくれないなんて、不公平だ。今にして思えば、あれはとても恥ずかしいもののような気がするし、そう。だから先生も、私の胸で泣いていいんだよ。
そんな事は口に出せないので、ちょこちょこ後をついて歩いて、放課後。先生は、何も言わない私に、ようやく笑みを引っ込めて、普通に落ち込み始めた。そのまま、泣いてもいいんだよ。なんなら泣かしてあげようかな、なんて思ってると、へんてこな像の前の階段に座る私達に、近付く影。今朝のコックさんだ。コックさん……四葉さん、というらしい女性は、先生と、それから半霊と私に順繰りに目をやった後、先生に目を戻して、優しい声音で話しかけた。聞いていて安心できるような声。
先生の杖を弄りながら、先生の横顔を見る。先生は、言われるまま、四葉さんについていく事にしたようだ。思い出したように振り返って、私に同行するかを確認してくる先生に、杖を固く抱いて答えを示すと、小さく笑われた。
……何か、おかしい?
感じた疑問に、首を傾げる代わりに半霊を揺れ動かしていると、行きましょう、と促された、うなずいて、先生の後に続く。……どうしてか、前に後ろに揺れる先生の手が気になった。
屋台のカウンター席に座って料理を待っていると(私は、一番右の端っこ。先生は隣)、元々薄暗かった空はすっかり黒く塗り潰されて、辺りに夜の匂いがたちこめるようになった。屋台の明かりや外灯の光が幻想的に降り注ぐ。
お客さん達の話し声や様々な料理の匂いを感じながら先生の杖を弄っていると、妖夢さん、と先生。丸い椅子を回転させて体ごと顔を向ければ、先生は、どこか言い辛そうにしていた。無意識なのか、髪を掻き上げる仕草が少し荒っぽく感じられて、珍しいものを見てしまった気分だった。
「あの……すみません」
「……どうして、謝るのですか」
小さく頭を下げて言う先生に、意味がわからなくて、咎めるように言ってしまう。ひょっとして、私が傍にいるのは嫌? なら、初めからそう言ってくれれば、ついて回ったりなんかしないのに。
先生から視線を外して、カウンター越しの少し奥で動き回るコックの人……四葉さんを見やる。カチャカチャと食器の擦れ合う音や、煮え立つ湯の音、少し刺激的な匂い。気を紛らわせる為にそういったものに意識を向けたのに、全部が全部混ざり合ってしまって、気持ち悪い感情ができあがった。
「私が」
「え?」
先生が何かを言いかけるのにかぶせて、吐き出すように言う。そこに見える火や煙にあてられたのか、顔も、体も熱い。怠い、と感じた。
私が……違う。私を、私……。
言葉を探しながら、幾度か「わたし」と零す。先生は、困惑しながらも私の言葉を待っているようだった。
落ちかけていた顔を持ち上げて、先生の顔を見上げる。戸惑いを含んだ表情。電気の光と夜の闇が半分ずつ先生にかかっていて、それが凄く、そう。もっと……もっと幻想的だった。
「妖夢さん?」
「……あ、え」
先生の声に、はっと気を取り戻す。心配そうに私を覗く先生に、大丈夫ですとぶんぶん手を振って、カウンターの方へ体を戻した。ちょうど、四葉さんが料理を並べ始めていて、それで先生の注意も逸れたみたい。背けた顔を見られたくなくて、先生との間に半霊を下ろして即席の壁を作り、強く杖を抱いた。
……どうしたんだろう、私。
なんで、ぼーっとしてしまったんだろう。
……疲れてるのかな。それとも、風邪をひいてしまった?
風邪なんて、ひいた事無いから、どんな症状が出るのかは知らないけど……いや、読んだ事はあるから、知ってはいるけど……こんな感じなの?
動悸が激しくて、視界がぶれるような感じ。ただ、近くにいる先生の姿ははっきり見えて……だから、私、先生の事見てて……。
大丈夫ですか、と四葉さんが声をかけてくるのに、またはっとする。ほんとに、調子が悪いみたい。四葉さんの顔に目を向ければ、ようやっとはっきり彼女の顔が見えて、それから、先生が私の方を見ているのにも気づいた。何を言っていいか、何をすればいいのかもわからないから、とりあえず杖を突き返して、無理矢理握らせてから、カウンターに向き直った。
四葉さんは、私の分も用意してくれたみたい。当然、お代はとるのだろうけど……そんなのは、関係ない。このよくわからない気持ちを誤魔化す為に、今は、ご飯を食べる事に集中しよう。
湯気を上げるあれやそれをお箸に刺したり、お箸でわったり、そうすると出てくる汁を眺めたり、スープを飲んだり、差し出された飲み物を飲んだり……あんまり食べられないから、ゆっくりゆっくり食べていると、なんだか気分が良くなってきた。頭がふわふわするというか、胸の中が暖かくて、波みたいに揺らめいているというか……さっきまでの色んな、嫌なような、良いような気持ちは全部どこかに流れていって、今は、とっても気分が良い。
周りの空気までふわふわしているのか、体が軽いのに笑ってしまいながら、先生を見る。……先生は、泣いていた。
どきっとする。
だって、やっと、泣いたんだもの。先生、やっと、私に弱いところ見せた。嬉しい。先生。
私と先生の間、その後ろに立っている人……タカミチ、先生だったかが、先生の肩に手を置いて何事か話しかけている。その顔にぽこぽこと半霊が体当たりしていて、タカミチ先生が困ったように手で払っているのがまたおかしくて、笑ってしまう。
……逃げているだけ、と先生は言った。自分は逃げてるだけの駄目な先生だ、って。
先生、かわいい。
凄く、かわいいの。
赤くなった顔も、頬を伝って落ちる涙も、その気持ちも、わかるから。私だって、結局は逃げてるだけだ。おんなじ。でも、それ、悪い事じゃないよ。全部、ぽいしちゃえばいいだけだもん。
突っ伏してしまった先生の腕を揺すって、せんせ、せんせ、と呼びかけてみる。返事は、期待してない。
タカミチ先生が私の体を捕まえて抱きしめてしまうのに、今度は影が抜けだして攻撃し始めるのを感じながら、何度も先生に呼びかける。
ね、先生。私、先生の友達だよね。
でも、友達ってなんだろう。私、わかんないや。
わかんないから、先生に教えて欲しいの。先生じゃないと駄目。
だって、先生は、先生だから……私と、一緒、私に近い。私に、……わたし……えと、なんか……眠くなってきちゃった。
先生、一緒に寝てもいい?
友達は、一緒に寝るんだって知ってるよ。霊夢と魔理沙はそうだもの。私と先生だって、そうしたっておかしくないよね?
だって先生、アスナと一緒に寝たんだもんね。友達で、生徒のアスナと。
私も、一緒。
ねえ、先生。
先生ってばぁ。
◆
私は、超包子の屋台の中で目を覚ました。……いや、形状が似てるだけの別物?
どうやら、私、ここで寝させて貰ったみたい。……昨日、何があったのだろう。ここに来てからの記憶が曖昧だ。
重い頭をとんとん叩きながら布団から出ると、外に先生と……四葉さんの気配。
電車から降りようと扉の傍まで行くと、四葉さんの声が聞こえてきた。
……どんな事でも、手に入れた力は、ちゃんと、自分のものなんだって、先生に話す声がして、それで、私は寝ぼけ頭に、何かかちりとはまるものを感じた。
……直接言われた訳でもないし、それは私の事でもないのに。
体の近くを半霊が飛ぶのを目で追って、それから、話が終わったタイミングで外に出る。おはようございますの声。先生は、すっかり元気になっているようだった。昨日までの落ち込み様は何だったんだってくらい。……私がなんとかしてあげたかったな、なんて、思ってみたり。
緩く頭を振りながら先生の傍まで行って、それから、三人で登校した。
その日の朝に、学園祭の出し物がお化け屋敷に決まったのだけど……不安しかなかった。……いや、私も、お化け屋敷に手、挙げちゃったんだけど……だって、だって、黒板の文字を見てて、半霊が活躍できるかなって考えてたら、いきなり手を挙げてくださいなんだもの。頭の中にあった言葉が出てきたから、思わず……それで、下ろせずじまいで……。
私、おばけ、苦手なのに。
はあ、と吐き出した溜め息は、クラス中がわいた声の中に消えていった。