なりきり妖夢一直線!   作:月日星夜(木端妖精)

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進まない


第二十七話 輝きの中で

 地面が爆ぜた。

 飛散する土の欠片を跳ね飛ばし、その中を突っ切って行く。

 雷鳴が轟くが如く、足に纏った雷がバチバチと音を鳴らし、地面を踏みしめるたび、強い反発を足に伝える。

 下半身に纏った妖力の鎧。薄い衣に似た半透明の壁。それを電気が這うと、ぴりぴりと肌を刺す痛みが這い回って、くすぐったいやら気持ち良いやらだ。

 ログハウスを背後にした森の中、前へ突進しつつ、めいっぱい身を捻って両手で持った刀を振りかぶる。あらかじめ伝わせてある炎の魔力が刀身に渦を巻き、ボオオ、と空気を燃やして待機する。流れる火の粉が、今か今かと待ちわびているみたいで、面白い。

 

「はあっ!」

 

 なら、解き放ってやろう。

 全力で振り抜けば、走る勢いも乗せて放たれた炎が、螺旋を描いて前方の木を焼き尽くし、薙ぎ倒した。

 振った刀の勢いのまま、地面すれすれに横回転して元の姿勢に戻った私は、ぐらりと倒れ行く木を前にして、地を蹴って飛んだ。

 バチリ。電気が弾ける。私の体も、弾かれるように空へと飛んでいく。

 上へ向かう力が尽きてしまう前に、体を丸め、膝を抱えて一回転。体勢を整え、左足は畳んだまま、右足を伸ばして勢いの全てを前に進む力に変える。そうすれば、後は流れるように、木へと飛び蹴りを当てる事ができる。

 

「よっ、と」

 

 スタンと着地すると同時に、ばらばらになった木片が雨のように降り注ぐ。体にかかった物を払っていると、後ろから近付いてくるものの気配がした。振り返れば、茶々丸さん。

 

「お疲れ様です。大分、障壁の展開にも慣れてきたようですね。……どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 コップを渡されて、その冷たさに目を細める。すぐに口をつけてごくごく飲むと、喉を通って胃に滑り落ちていく水の冷たさが、火照った体を冷ましてくれた。

 飲み終わると、茶々丸さんが手を差し出してきたのでコップを返し、代わりにタオルを受け取る。それで汗を拭きながら、

 

「あの人の教え方が良いんだと思います。……エバン、エヴァンゲリ、エヴァンジェリンさんの」

「……呼び(にく)いのでしたら、『お師匠様(マスター)』と」

 

 言い辛い名前につっかえながら言うと、茶々丸さんは私を見下ろしたまま数秒静止して、それから、そう勧めてきた。

 えと、エヴァさんは、お師匠様じゃないから、そうは呼べない。いや、確かにこうして技術を教えて貰ってはいるんだけど。

 でも、そう呼んで欲しいんだろうな。エヴァさんは会うたび、思い出したようにお師匠様と呼べって言うし。

 ……呼んだ方が良いんだろうか。

 

「ふん。私の教え方が良いのは当然だ」

「あ、マスター。おはようございます」

 

 タオルで首周りを拭きながら思案していると、眠たそうなエヴァさんがやってきた。こんな朝早くに起きてくるなんて珍しい。いつも、朝は寝てるのに。

 茶々丸さんにならって私も挨拶をすると、返事代わりに手を振られた。

 

「まー、私はほとんど何も教えてないんだけどな」

 

 そうだっただろうか。

 そういえば、確かに、魔法障壁――不可思議な透明の壁――の張り方を手解きされた後は、こうして刀を振って魔法を使って、実際に体を動かして障壁を使用した戦闘の感覚を身につけろと指示されただけだけど。

 でも、教えて貰っている事に変わりはない。それに、魔法障壁の張り方を教えて貰った時は、本当にわかりやすかった。言葉でもそうだけど、私を通して魔力を流して、実際に張ってみせてくれたし。

 

「そろそろ慣れる頃合いだろうし、次の段階に進む事にする。明日は学校も休みだ。放課後から明日まで時間をとる」

 

 準備をしておけ。

 そう言って、エヴァさんはあくびをしながら家の中に戻って行った。

 ……準備って、なんの準備だろう。

 内容を告げないまま去って行ったエヴァさんを追おうかと考えて、その前に、茶々丸さんを見上げてみる。困った時の茶々丸さんだ。

 

「……あ、はい。寝巻や、歯ブラシなどの生活用具……お泊りグッズの準備ですね」

「お泊りグッズ?」

 

 私の疑問を察した茶々丸さんが答えてくれるのに、さらに疑問を重ねると、生活用具とやらの数々を一つずつ挙げて教えてくれた。心の内にメモしておく。

 茶々丸さんに別れを告げて寮まで戻ってくると、一度シャワーを浴びて、それから、学校の準備をする。といっても、鞄を持つだけなんだけど。

 このかの部屋の前に立ち、チャイムを鳴らす。程なくして、エプロン姿のこのかが出迎えてくれた。

 

「おはよ、妖夢ちゃん。もうちょっとで朝ご飯できるから、奥で待ってて?」

「おはよう、このか。うん、待ってる。……おじゃまします」

 

 靴を脱いで、揃えて、と。キッチンから漂ってくる良い匂いを堪能しながら部屋の中に入ると、テーブルにお皿を並べる先生とアスナの姿を見つけて、挨拶する。……なんか、先生、凄く疲れてる?

 どうして疲れてるのか聞こうか聞くまいか悩みながら二人を手伝って食器を用意する。私が最後のお箸を置いていると、ちょうどできたみたいだ。

 いただきますをして、みんなでご飯をつっつく。前は時々だったけど、最近は毎日ご飯を一緒させて貰っている。

 みんなで食べるご飯はおいしい。誰が言ったのかは知らないけど、その通りだ。自分の部屋で一人で食べるより、こうしてみんなと食べる時の方が、おいしい気がする。

 ……いや、単に私がお料理下手なだけなのかもしれないけど。

 うん、少なくともこのかの方が上手だろう。ちらりとこのかを見ると、目が合ったので、おいしいよと感想を言っておく。本心だ。このかの作るご飯はおいしい。

 ……それに、このかがにこにこ笑ってるのを見ると安心するから、私、ここにいたいと思ってしまう。

 でもあんまり、頂いてばかりというのもいけないから、明日……は無理だとしても、明後日とかは、私が作ろう。

 朝食を終えると、少しの休憩の後、セツナを加えて登校する。もう走る事に疑問を感じなくなってきた。背中で跳ねる刀の感触にも慣れたものだ。

 一日を通しての授業も、最近はなんとかついていけるようになってきた。これも、このかのおかげ。お勉強は、正直あんまり好きではないけど、授業を受けたりするのは、嫌いじゃない。騒がしいのも嫌じゃないし、時折誰かと話すのも、気分転換になって良い。

 ここ数日、特に話すようになったのは席の近い人。横のエヴァさんや、前の千雨さんと、夕映とか。

 エヴァさんとは魔法の事、夕映とは先生や、時々魔法の事。千雨さんとは、他愛も無い雑談とか。

 最初に千雨さんが話しかけてきた時は凄く、こう、眉を寄せて顔を顰めた感じだったけど、ちょっと話すと、今度は凄く気の抜けたような顔になっていた。「案外フツーだな……」って言われたのを覚えている。……どういう意味だったんだろう。

 

 放課後、寮に帰ると、用意しておいた旅行鞄を持ってエヴァさんの家を目指す。家につくと、メイド姿の茶々丸さんが出迎えてくれた。鞄を預かるというので渡すと、一室に案内される。今日は私、ここで寝る事になるようだ。

 大きなベッドに腰掛けて待っていると、少しして、茶々丸さんに呼ばれたので、一階に行く。エヴァさんがお茶を飲んで待っていた。

 話を聞けば、私の修行は夕食の後、らしい。

 まだ夕食には早い。お茶を貰って、エヴァさんと向かい合って座り、静かな時間を過ごす。時折、ぽつりぽつりと話しかけられた。夕飯は何がいいかとか、そういうの。私は、何でもいいんだけど……そういう風に答えるのは、失礼なんだっけ? 晴子がそう言っていた気がする。

 ……じゃあ、カレー?

 言葉に出してみると、なんで疑問形なんだ、と呆れられた。でも、口にしてみると、そんな気がしてくる。

 私、カレー食べたい。

 傍で控えていた茶々丸さんが、では、今夜はカレーの王子さまでよろしいですか、とエヴァさんに聞いた。

 

「……? ああ、それでいいよ。うん、それにしてもなんだ」

 

 なんでわざわざ確認するんだ、みたいな反応。茶々丸さんの方を向いて許可を出したエヴァさんが私に向き直る時に、茶々丸さんがどこか残念そうにしていたのを見てしまって、凄く気になった。なんで、そんな顔……。

 

「お前には魔力が無いからな。やり辛くてかなわん」

 

 ……それは、初日に言われた言葉。

 エヴァさんが言うには、私には魔力が無いらしい。……言葉通り、そのまんま。

 だからなんだというのだろう。私には妖力と気があるし、魔力が無くても魔法は使える。白楼剣さえあれば、だけど。

 

「剣術を伸ばそうにも、私はそこら辺素人だからな。教えられる事は何もない」

 

 それは、嘘だ。素人なら、どうして私と同じ……セツナと同じ技が使えるのだろう。

 一昨日(おとつい)に「私から剣を習いたいかは、見て判断しろ」と言われて、実演したのを見たけど……素人とは、とても言えない感じだった。……あくまで感じなのは、それは私も、ちゃんと習った事なんてないからだ。私の剣って、何流なんだろう。魂魄流? 神鳴流?

 

「体術なら、お前、見るだけで覚えるだろ。教える必要が無い」

 

 というか、見てすぐ使えるようになるって、お前にはチートでも搭載されてるのか、と睨まれるのに、とりあえず謝っておく。ちーととかいうのの意味はわからないけど。……なんか、かわいい感じだな、ちーとって。

 と、私の疑問を察したのか、すすっと寄って来た茶々丸さんが私の耳に顔を寄せてきた。

 

「最近覚えたばかりの言葉を使いたかったようです」

 

 ……ちーとの意味は?

 なんだか明後日の方向な説明をして、茶々丸さんは元の位置に戻って行った。エヴァさんの後ろ。何か言いたそうなエヴァさんが、しかし溜め息を吐いて何も言わず、私に目を向ける。ちょいと湯呑みを押すと、反応した茶々丸さんが急須を取ってお茶を注ぎ足した。一口飲んで、エヴァさん。

 

「つまりお前が強くなるには、実戦を通して経験を積むのが一番手っ取り早い」

 

 ……じゃあ、今夜は茶々丸さんか、エヴァさんとやるのかな。

 そうしたら私、今度こそエヴァさんに勝ちたいのだけど。

 いや、今の実力では、勝てないのはわかってるけど……稽古という形式なら、勝ちを拾えるかもしれない。

 そこまでして手に入れる勝利に何の意味があるかといえば、うん。

 私、負けっぱなしは嫌だな、なんて。

 

「誰が相手か気になるんだろ? フフ、それは今夜のお楽しみ、だ」

 

 ……そういう言い方だと、二人以外の誰かの可能性もあるように聞こえるんだけど。

 でも、二人以外に心当たりはない。ここに来るのなんて、タカハタ……先生だったかが一度来たっきりだし。まさか、その先生でもあるまい。

 

 緩やかに時間は流れて、夕食。

 買い出しに行った茶々丸さんの帰りを待って、私も手伝うと言ってみたのだけど、一応客人扱いらしく、手伝わせてはもらえなかった。少しくらい何かしないと、ちょっと落ち着かない。

 でも。断られているのに無理矢理手伝うのはだめ。茶々丸さんを困らせる事になってしまう。じゃあどうすればいいかといえば、大人しく待っていればいいのだろう。

 夕食はもちろん、決まっていた通り、カレーだった。ただ、カレーの王子さまとかいうのじゃなくて、普通のやつだったけど。二段で構成されたルーを使うあれ。中辛。

 ……私、中辛、食べられないんだけど。

 でもそれを言うのは恥ずかしくて、サラダなんかからやっつけつつ、ちらちらと茶々丸さんに視線を送っていると、察して牛乳を持ってきてくれた。

 礼を言い、渡して貰おうとして、さっと腕を上げられるのに受け取ろうと伸ばした手が空を切る。

 え、なに……?

 なんのつもりかと思えば、茶々丸さんは自分の手で私のカレーに牛乳を入れ始めた。

 これくらいですか、と聞かれるのに、もうちょっと、と答えつつ、茶々丸さんの顔を覗き込む。

 ……何を考えているのかは、よくわからない。

 

「あ、それくらい……」

「はい。では、よく混ぜてお召し上がりください」

 

 茶々丸さんに言われたとおり、真っ白になったカレーを混ぜる。辛いの、消えろー。ついでに、念も飛ばしておく。

 ふと顔を上げれば、エヴァさんが私を見ていた。

 ……いや、私の横に立つ茶々丸さん……の、手にある牛乳を見ていた。

 その視線が右に左に動くのに茶々丸さんを見れば、ゆらゆら牛乳を揺らしている。……ああ、遊んでるの。

 よく見れば、エヴァさんの持っているスプーンというか、手自体ぷるぷる震えているし、きっとエヴァさんも辛いの駄目なんだろう。弱点発見。

 でも、それなら牛乳欲しいって言えばいいのに。

 あ、言えないの、私と同じ理由か。

 結局、エヴァさんは弱音を吐かずにカレーを完食した。しばらく涙目で固まっていたけど、食後の一服に出された湯呑みの中身が牛乳だと気づくと突っ伏して動かなくなった。

 そっと中身がお茶の湯呑みと取り換える茶々丸さんは、なんだか凄くいきいきとした表情をしていた。

 ……機械にいきいきとかあるのだろうか。

 

 エヴァさんがダウンしていた為――ついでにいえば、しばらくふてくされていた為――食休みを長くとって、歯を磨いたりお風呂に入ったりしてから、修行をする事になる。

 眠いな、なんて考えていると、エヴァさんにベッドに入るように言われたので、潜り込む。ふかふかで、凄く気持ちが良い。うー、だめ……すぐ寝ちゃいそうだ。

 でも、これから修行だから……起きてないと。

 傍に立つエヴァさんを見ている内に、段々意識が遠のいてくるのを押し止めようとして、でも、もう限界だ。せめて叩き起こしてくれれば良いのに……。

 

 

 体が、揺れていた。

 一定のリズムで、上下に、ふわふわ。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 心地の良い音。

 周りの景色がぶれるくらいに過ぎていく。まるで引き伸ばされた絵みたい。

 風が、絶えず私の髪を揺らしていた。強くはためくリボンやカチューシャが、ここが外である事を教えてくれている。

 

「後輩さん、お手並み拝見といきますえ~」

 

 突如、暗闇の向こうから現れた銀色が私へと閃いて、瞬間、抜刀した刀で弾き返していた。

 飛ぶように後退したそいつは、飛んでいく帽子を気にもせず、長短二本の刀を持った両手をぶらんと垂らして、楽しそうに私を見ていた。

 弧を描く口。細められた瞳。風になびく長めの髪。

 どれも、見覚えがある。

 

「どんどん行きますえー」

 

 言って、軽い声とは裏腹に鋭く踏み込んできた相手に、合わせるように刀を構えながら、ああ、と声を漏らす。

 今夜の相手は、月詠か。

 

 

「っ……!」

 

 素早く動く技術……瞬動というらしい技で懐に踏み込んできた白髪の少年の肘打ちを一歩下がって避ける。さらに踏み込んでの追撃は、流石に避けられない。胸を打つ衝撃。後ろに跳んでダメージを減らす。

 吹き飛ぶ私に、同じく飛んで追いすがる少年の詠唱を聞き流しながら、地を擦って急停止。白楼剣のリボンを解き、地面から足を離してふわり、浮くように後方へ逃れると、先程まで私がいた所に光線が放たれ、ついでのように地面からは岩が生える。その岩を、こちらの魔法で制御して打ち出すと、驚愕の声。射出された岩の槍を身を捻って躱した少年が着地し、その勢いのまま突っ込んでくるのに刀を合わせる。

 楼観剣の腹に拳が当たる瞬間、少しだけ引いて力を引き込み、向こうが腕を伸ばしきった瞬間に、その全てを返してやれば、腕を弾かれた少年は大きく体勢を崩す事になる。

 拳を弾いた勢いのまま半転、回し蹴りを放って復帰の予兆を潰した私は、もう一発とばかりに刀で斬りつけ、怯ませる。散った光の欠けらと桜色の光が幻想的で、戦闘の最中だというのに、綺麗だ、なんて思ってしまった。

 構えて、振る。

 振る。

 振る。振る。振る。

 もはやただの的の少年に幾度も刀を振り抜く。

 最後に、逆袈裟気味に斬り上げた刀の勢いのまま少年に背を向け、手の内でくるりと回して、ゆっくり納刀。チン、と音を鳴らせば、背後でバシャバシャと水の落ちる音がした。

 うん、おしまい。

 

 息を吐いて体の中に溜まった熱を吐き出していると、周りの景色が変わっていた。

 路地から、橋の上へ。光の無い薄暗闇の中、宙に浮くのは、吸血鬼エヴァンジェリン。

 ん、三回戦目。

 流石に疲れてきた体に気合を入れ、刀を抜き放つ。エヴァさんは、怒っているみたいだった。

 

「嬲り殺しにしてくれる」

 

 憤怒に塗れた声。

 恐ろしくて、震えてしまいそう……なんて。

 さて、どうやって勝とうかな。

 

 まずは空を飛ぼう、なんて悠長に考えていると、闇と氷の矢が降り注ぐのに、地を蹴って駆け出した。

 

 

 目が覚めると、窓から光が差し込んでいた。

 明るい。

 たぶん、朝?

 身を起こすと、眠気が体に残っているのか、重い。目を擦っていると、あくびが出た。

 口元を隠してふわー、とやっていると、扉が開いて、茶々丸さんが入ってくる。風呂桶のような物を抱えていた。

 …………。

 ……あ、私、寝ちゃってたんだ。

 というか、生きてる。

 ぺしゃんこに潰れたと思ったのに。

 夢で良かった。

 ぼーっとしていると、横に来た茶々丸さんが、棚の上に桶を置いて、浸されていた布を取り出し、ぎゅっと絞ってから、私の顔を拭いてくれた。

 うぷ、あ、えっと……?

 

「あまり動かない方が良いですよ。かなり体力を消耗しているはずです。今日は一日、ゆっくり休んでください」

 

 言われた意味がよくわからなくて、布が離れた際に首を傾げると、するりと服を肌蹴させられるのに小さく声を漏らす。ちょっと、恥ずかしい。

 私の羞恥心なんて気にしていないのか、茶々丸さんはそっと私の体を拭いてくれていた。

 それくらい、自分でできるんだけど。

 そう言おうとして、なんだか酷く疲れているのに気がついて、ゆらりと体が揺れる。背中に腕が回されて、支えられた。

 ああ、体力、消耗してるんだ、私。

 ……って、あの夢は、修行だったのか。

 納得していると、私の体を拭き終わった茶々丸さんが、ゆっくり私の体をベッドに倒し――いや、それくらいなら動けるんだけど――、布などを片付け始めた。

 

「ここに水差しを置いておきます。目が覚めた際、喉が乾いていたら、お飲みください。それから、妖夢さん。戦いを通して感じた事があれば、心に留めて、よく考える事、との事です」

 

 一息にそれだけ言った茶々丸さんは、一礼すると、部屋の外へ出て行ってしまった。

 感じた事、と言われても……私、夢見心地で剣を振っていただけだから、何がなんだかさっぱり。

 まあ、たぶん、考える事が強さにつながるのだろうから、一応探してはみるけど。

 ……というか、エヴァさん。だから今日が休日だと言ってたんだ。これすると、動けなくなるってわかっていたから。

 うーん、今日は、青いのと追いかけっこしたかったんだけど……まあ、仕方、ないか。

 

 本当に体が疲れているし、眠いしで、言われた通り今日は寝て過ごす事に決めた私は、首元まで布団をかぶって、目をつぶった。

 それにしても、このお布団、本当にふかふかだ。

 でも、家のお布団も負けてない、なんて変な事を考えていると、その内に眠気がやってきて、眠りに落ちていった。


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